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2035年1月17日 18:16
茶兎の自室
□山口 茶兎
(このまま終わっていいのかな)
人生には絶対にあきらめちゃいけない時っていうのがあると思う。
ここで短絡的にオッケーだったとしても長期的に見たら絶対に後悔する選択。
わかりやすく高校生で例えるのだとしたら、遊ぶか大学進学のために勉強をするか、といったところだろう。
でも、僕が今直面しているのは死に関するものだ。
今何かしらの手段で配信をしないと僕には確実に死が待ち構えている。
それを回避するには行動をするしかない。
だけど、何をすればいいのかわからない。
そんな堂々巡りをしている。
手で頭を掻きむしっても歯ぎしりをしたって何も変わらなかった。
もうどうせ何も変わらないんだったらせめておいしいものを食べてからにしよう。
白い部屋に行けば何でも好きなものを食べられるんだから。
その思い出数時間ぶりに自分の──正確に言えば自分の部屋が精密に再現された部屋を出る。
「サトっち!出て来てくれたんだね…!」
「花菜か…君配信は…?」
「そんなことより聞いて。伝えたいことがある。」
一気に距離を詰めてきて花菜は僕の顔を覗き込む。
「な、なんだい?」
「サトっち。今すぐに配信付けて。」
「いや、でも何も企画とか強みとかない状態で配信をつけたとしても…誰にも応援されないから。」
それはさっきまでずっと思っていたこと。国の予算も当てにできないのであれば僕は黙ってログアウトするしかない。
「待ってる人がいる。それは私たちの親だよ。」
「…親?」
「そう!私のところにも親が来てくれた。そして、サトっちの親御さんも来てくれたよ。『うちの子の配信はいつですか?』って」
そうか──父さん母さんが…
僕のことを人間だと信じて投げ銭を用意してくれているということ。
「だから、サトっち。まだあきらめちゃダメ。そうやって私たちのことを信じてくれる人がいる。最後の一秒まであきらめないで。」
その花菜の言葉は最初は僕に入ってこなかったが、言葉が進むにつれて入ってくるようになってきた。
「そうか…でも配信の内容が…」
「今、サトっちが感じてることでいいよ、すごい人間らしいじゃん!」
「僕が今感じていること?」
「そうだよ!なんで配信をやろうとしなかったの?」
「それは、現実と理想の差に悩まされたからで──」
「それだよ!」
また花菜か顔を近づけてくる。
ちょっと待て近い近い近い。
「その悩み。最高に人間臭いじゃん!だからそれを話すんだよ!」
確かにAIだったら引きこもるという選択はしない。僕は感情という人間の特権を使えばいいということか。
「…わかった。配信…してみるよ。テーマは雑談で。」
「その意気だよ!笑い話にできるくらいがちょうどいいって感覚でやりな!」
それじゃあ私も自分の配信があるから、と言って花菜は自室へと戻っていった。
(僕の人生、まだ捨てたもんじゃないな)
こうやって直接的に心配してくれる存在、そしてまだ僕のことを現実世界から見守っててくれる存在。
(すごくありがたい…その人たちのためにも負けちゃいけないんだ。)
僕は両手の拳を握りしめて自分の部屋に戻ることにした。
そして椅子に腰かけてProofを起動。
配信告知もなしに配信を開始することにした。




