緊急対応
YOH同窓会TIPS
ピッチャーの瑞樹の身体能力は中の上。
ストレートは100㎞も出ていない。
2035年1月17日 ノーアウト2,3塁
第三小学校 校庭
□木村 陽花里
愛聖のあたりはセンターオーバーだった。
本来であれば一塁の二文字あおいちゃんが還ってこれる打球だったが、3塁ベース上で転んでしまって得点とはならなかった。
マウンド上には瑞樹。その後ろには涼しい顔をしている愛聖がいた。
愛聖がAIかもしれない。
バッターボックスにたどり着いたものはいいが、私はうまく構えることが難しかった。
私の胸の中に何かどす黒いものが広がっていく感じがする。
それが、どんどん広がっていって身体をふるわせていく。
呼吸も浅くなる。
「木村…?大丈夫か?」
見かねた幸司郎が声をかけてくる。
「うん、大丈夫」
ただの考えすぎ、で片付けられたらどれだけよかったのだろう。
だけど、このゲームではクラスの3分の1がAIで敵キャラで、なんだったらそいつらは私たちを殺そうとして来ていて…
そう、普段通りの生活だったら私は愛聖がAIかもしれない、という考えを一蹴してケラケラと笑っていただろう。
だけど、状況が状況だけに私は笑うことが出来なかった。
『ボール』
その判定に私はハッと我に返る。
幸司郎のほうを見ると私からかなり近いところにミットがあった。
どうやら瑞樹のボールが滑ったか何かでだいぶ体に近いところにボールが来たらしい。
私は一回タイムをかけた。
バッターボックスの外に出て呼吸を整えようとする。
だけど、私が信用しようとしていた人がもしかしたら私のことを思っていなかった。なんだったら殺そうとしていたのではないかという推測に私は吐き気を覚える。
「誰を、信用すればいいの…?」
私は昨日、阿弥を失った。そして愛聖も敵かもしれない。
そうなると私は誰に頼って生きていけばいいんだろう。
急な孤独感に襲われる。
その負の感情が溜まりに溜まって何かが吹っ切れた時、私は自分の力を失ったことに気づいた。
視界がぐらつき急速に落ちていく。そして、身体の側面に衝撃を感じたことをどこか他人後ことのように感じながら、私の意識は遠のいていった。
◇
目が覚めるとそこには知らない天井があった。
薄暗い夕暮れの中、蛍光灯の光がまぶしい。
「ここは?」
ガバっと起き上がろうとしたら頭がふらついてベッドから落ちそうになる。
反射的に私は手をついて身体を支える。
ん?ベッド?
「駄目。まだ安静にしていて。」
横から声がしたのでそちらの方向を向くと落合 有栖がいた。
「落合さん。ここは…」
「第三小学校の保健室。あなた、試合中に倒れたの。」
そうか、私倒れたんだ…
そんなことを思い出しながら倒れる前の記憶をあさろうとする。
「そういえば…試合は?」
「コールドになったよ。人数が足りなかったから。」
「そうなんだ。」
いくら最終回で負けていたとはいえ、チームメイトのみんなには悪いことをしちゃったな。
「みんなに会わないと」
そう言いつつ、片足をベッドの外に出そうとした私はまたふらついてしまう。
今度は落合さんが助けに入ってくれた。
「まだ、本調子じゃないみたい。安静にしてて。私がみんなに意識が戻ったって連絡しておくから」
歩けないことは事実なのでここはお言葉に甘えることとする。
「それにしても急に倒れるなんて。何か悪いものでも食べたの?」
おそらくクラスのみんなに連絡を入れてくれているのだろう。ホログラム画面を操作しながら落合さんが話しかけてくる。
「え、いや…」
「まあ、完璧に管理されている食事だし、あり得ないよね。大方、今夜の投票で気がかりなことでもできたのでしょう。」
うっ…小学校の時から核心をついてくる話し方をしてきたけど、それは大人になっても変わらないんだな。
「落合さんは誰がAIか…身近な人がAIかも、って思わない?」
そこまで言うと、落合さんはホログラム操作をピタッとやめた。
「そうだね。大体見当はついてるかも。」




