プロの勘
YOH同窓会TIPS
渡辺は野球の啓発活動としてオフに野球教室を開くこともある
2035年1月17日 8回の裏 2-2 ノーアウト満塁
第三小学校 校庭
□伊藤 瑞樹
この回は1番の関から攻撃が始まる。
そろそろ点を取っておきたいし、今日の投票先の候補を絞っておきたい。
昨日とは異なり、模擬投票がなさそうだしな。
相手のピッチャーは平木でずっと一緒だ。
こっちのチームの田中みたいに炎上することもなければ、一文字やまあおのように何かを背負っているという様子もない。
ただ、ひたすらにコンスタントに投げ続けている。
関がバッターボックスに入る。
特にルーティンとかなくそのままバットを構える。
ふと俺は気になったことがあり、野球経験者でありネクストバッターサークルにいる幸司郎に声をかける。
「なあ、バッターのルーティンって何のためにあるんだ?」
「ん?ああ、ルーティンをやることによって自分の間合いを作るんだ。バッティング練習と同じルーティンをすることによって緊張を解く効果も期待できる。」
確かにプロ野球選手って何かしらのルーティンを打席に入る前、そして投球の間にやっているイメージはある。
「じゃあ関って人狼(AI)かどうか怪しいってことか?」
「それだけじゃ判断材料不足だな。関は見たところ野球に精通しているわけではない。でも逆に下半身の体重を乗せているだけ初心者抜けてるけどな。」
この野球では野球を知っているかどうか、理解しているかどうかが大きなカギを握るってところか。
ん?一番このクラスで野球に精通しているのって…
それが気になった俺はベンチの裏に行く。
お目当ての人物はすぐに見つかった。
ただちょっとお取込み中かな。また後でにしよう。
「ん?瑞樹か。どうした?」
渡辺がこっち側を向いていたので気づかれてしまった。
「ああ、悪い。別に急ぎってわけではないんだ。所等の後で構わない。」
俺が下の名前で呼ぶ数少ない男子のうちの1人。所等はこちらに気が付くとばつの悪い顔をした。
ちなみに下の名前で呼んでいるのは幸司郎と一緒の「松井」という苗字だからだ。
「と、いうわけだから協力頼むよ」
「…俺でいいんだな?」
「ああ、じゃっ!」
そうやって逃げるように所等はベンチへと帰っていく。
「それで、瑞樹…お前はどうしたんだ?」
「今回のお題。正直野球に精通している奴のほうが目利きにはいいだろうと思って、話を聞きに来たんだ。」
渡辺はそれを聞いて喜ぶと思ったのだが、反対に渋い顔をしている。
「お前、それは俺のことを人間だって信じているという意思表明でいいのか?」
確かに。迂闊だった。
ここで渡辺がAIだった場合は、AI側に有利な情報しか言わないだろう。
昨日はなんとか処刑は免れた渡辺だったが、実際のところクラスで渡辺がAIじゃないと話がまとまったわけではない。
「それを含めて…聞かせてほしい。」
「…わーったよ。」
そこから、渡辺は疑っているクラスメイトを教えてくれた。
そのクラスメイトを疑っている理由も。
「まずは関が怪しいと思ってる。あいつの身体能力から言えば『野球を習っていたら』あの動きは可能なのかもしれない。ただ、あいつは運動歴はバトミントンくらいだろ?
申し訳ないが、スポーツが異なりすぎて違和感しかない。
同じ理由で宇都宮もあり得る。初回に見せた守備での反射神経は野球をやっていないとなかなか身につかないものだ。」
そんなこんなで渡辺は8人の名前を列挙した。
それは本職の勘みたいのもはいってはいたが。
「その8人が怪しいということだな?」
「そうだね。うち6人はAIってことで間違えないと思う」
話に夢中になっていた俺と渡辺は第三者が途中から会話を聞いているのに気が付かなかったようだ。
そこには、ホログラム画面をONにした状態のやまゆりが立っていた。




