限界エースの降板
後攻チーム 8回表時点メンバー
1番(二)関
2番(捕)松井幸
3番(一)山口
4番(游)五百旗頭
5番(中)松井所
6番(指)伊藤
7番(三)橋本
8番(右)村上
9番(左)川本
投手 山田蒼
2035年1月17日 8回の表 2-2 ノーアウト満塁
第三小学校 校庭
□松井 幸司郎
「タイム、ターイム!」
この回3個目となるファーボールが決まった時、キャッチャーの俺はすかさずタイムをかけた。
マウンド上にいるひともじやまあおのところへ向かう。
その様子を見て内野陣も集まってきた。
両手を膝について、マウンド上で大きく肩で息をしている蒼。
明らかに投げすぎだっつーの。
だが、イライラすることに全自動で行われている選手交代システムはまだ蒼の交代を告げない。
先発の譲司と違ってまだ点を取られていないからだろう。
「おい!大丈夫か?」
「大丈夫…」
「それ大丈夫じゃない奴のセリフだぞ。もう志願して降板してもいいくらいだ。」
「そうだ、俺からしてみちゃあ十二分に一文字やまあおは投げているぞ」
ショートの悠斗も続けてくれる。
「でも、システムからの交代は宣言されてない、そうでしょ?」
「それもそうだけど、お前このままじゃ倒れるぞ…?」
俺からの警告におびえるどころか目の前の蒼はニヤッと笑って見せた。
あまり女子とかかわりがないからか俺はその笑顔に隠された意味をくみ取ることが出来ない。
「まだまだこれからだよ。」
と消え入るような、でも自身に満ちている不思議な声で蒼は返す。
蒼はスポーツ万能型だ。スポーツができる、と聞いたら普通だったらとにかく明るいキャラを思い浮かべることがほとんどだろう。
だけど、蒼は正反対であまり自分の意見を言うことがない。
それはチームに助っ人として参加しているから、というよりかは『自分で自分の意見を言う勇気がないから』という面のほうが大きいと感じている。
チームの中で自分が与えられた役割を文句を言わずに果たしていく。
そういうギャップが備わったやつだ。
だからこそ、目の前の明らかな降板拒否の姿勢に俺は違和感を感じていた。
「何がそんなにお前をマウンドにとどめるんだ…?」
とうに本人は限界を迎えているはず。そうしたら、降板だって視野に入れたっていいはず。
だけど、それをかたくなに拒否する蒼。
「私が私でいるために。そんな私のわがままだよ。」
「それだったらもう降板したっていいじゃないか。お前は十分にその役割を果たした。」
「そうだ、俺もそう思うぞ。」
俺と悠斗の言葉を聞いて蒼は天を見上げた。
「役割…果たせたのかな。あの子は…元気?」
ヤバい、何を言っているのかがわからない。早急に休ませたほうがいい。
そう思っていると蒼を除く内野陣全員の前にホログラム画面が映し出される。
『出席番号26番:山田 蒼を降板させますか? はい いいえ』
俺は迷わず『はい』を選択する。
他の悠斗なども続いたようだ。
すぐに結果が出る。
『選手の交代をお知らせします。山田 蒼が指名打者。指名打者の伊藤がピッチャー。
ピッチャー 伊藤 瑞樹。』
その宣告を聞いてもなおマウンド上で上を見上げる蒼。
そこには若干のほほえみが混じっていた。
慌てて走ってきた瑞樹にボールを渡して蒼は一歩一歩ベンチへと下がっていく。
その時に、「頑張ったよ、あおちゃん。」と聞こえたのは気のせいだろうか。




