本当になりたい姿
YOH同窓会TIPS
靑井が「あおちゃん」と呼ばれるのは、漢字に靑という色の名前が入っているから。
蒼の「いーちゃん」は残っている部分を取った形だ。
2035年1月17日 14:03
白い部屋
□山田 靑井
目を覚ましたら、涙がほほを伝っていくのが分かった。
目を腕で荒くこすりながら上体を起こす。
愛聖はどこだろう。
ただ、私はそこでなんとなく『Proof』を見てみる。
そこには、ピッチャーとして投げているいーちゃんの姿。
そのあと急に出てきた愛聖について野球について教えてもらった。
サイン交換のこと。
どうしても投げたい球がある。いーちゃんにそんな意思を感じると。
そのあとの球。
私はびっくりしてしまった。球がバッターのほうへ向かっていったからだ。
実際、私──のAIは避けようと、したが手元で大きく曲がりストライクとなった。
「なるほどね。」
どういう意味か分からない私は愛聖のほうを向く。
「彼女、あなたのこと、ちゃんとわかってるみたい。」
「どういうこと?」
「ほら、あなたたち『山田3人衆』って結構仲良しでしょ?特にWやまあおなんて。」
うわ、私たち『山田3人衆』って呼ばれてたんだ。
全員女の子なんだから、もう少しかわいいグループ名あっても良かったと思うんだけど。
そんなことを気にせずに愛聖は説明を続ける。
「だから、仲良しさんには優しい球を投げるはずなの。たとえ相手だったとしてもね。」
「優しい球?」
「んー、打ちやすい球って言ったほうがいいかも。とにかく今みたいにストライク取るために身体に近いコースに投げることはない、ってこと。」
「…ってことは、いー…蒼は私が配信者に割り当てられていることがわかっているってこと…?」
「そういうことだろうね。いやはや脱帽いたします。」
ははーお代官様ーと両手を仰々しく上げてから土下座をするポーズをしようする愛聖にやめてやめてと静止してもらう。
(あの夢はいーちゃんからの熱い意思だったのかな)
私たちはどこかで現実世界から隔離されて仮想世界に転生されている。
だけど電子の波に打ち勝っていーちゃんは会いに来てくれたってことだもんね。
(いーちゃんはスポーツを通じて自分が人間であることを証明しようとしている。でも私は…?)
(私にあるのは何?あるのは、アバターだけ。だけどそれだけじゃあ川本さんと一緒。
私にしかできないことって何?愛聖を救えるくらい、強烈なもの…)
その時私の中で電流が走った。
これってできるの?YOHが管理している中で。
電子の海で、おそらく数字を超えた何かが支配している世界で。
本当に愛聖を救いたいのなら。
やるしかない。AIに負けないためにはAIを使え。
「ねえ、愛聖。提案があるの」
ん?と優しく問いかけてくる愛聖。
「本当になりたい自分がいるんだとしたら、どんな自分?」
「え、何急に。」
「いいから。答えて。」
多少面食らったようにたじろいだ愛聖だが、真剣に考えてくれるようだ。
◇
□宇都宮 愛聖
(なりたい自分…)
私には臆病であったことがある。
それは社会のレールから外れてしまうことだ。
陽国民であれば、小学校・中学校に行く権利があるから大体がみんな行く。
そこからなんとなくで高校に行って、大半が大学へ進学する。
そして、大学を卒業したらなんとなく就職する。
そこに何か大義があるわけじゃなくて、周りが、過去の人が用意したそういうレールがあって。
そこを走っているのがものすごく快適だったからだ。
だから、私は1つ羨ましいと思っていた人がいる。
阿弥だ。
彼女は芸能界というレールの上から外れた人生を送っていた。
そこは、安定なんて言葉が似合わない獣道で。
でも、そんな中逆境に負けない姿にあこがれていた。
その勇ましさに感銘を受けていた。
だから、もし自分に勇気があるなら。
今から私がなりたいのは。
「アイドル。かな」
その言葉を目の前にいる靑井はしっかりとした目で聞いて頷いた。
この小説は、葉月 みそのさんに応援されています




