代打
YOH同窓会TIPS
所等は野球経験者というわけではない。小学校の時に放課後で遊んでいた程度である。
センターの作法はプロ野球を見て知っている。
2035年1月17日 5回の表 2-2
第三小学校 校庭
□山田 蒼
『守備を交代。レフト 山田 百合に代えて川本』
「か、かいほうだぁ」
力なく安堵に包まれた声が背後から聞こえてくる。
「よかったね、百合」
と百合のほうを見た瞬間に彼女は気絶していた。
そこまで限界まで追い込まれていたのか。
センターの所等にバックアップしてもらってたから百合はほとんど動いていなかったはずだけど。。。
普段、実際に身体を動かしていない上に、初めてのスポーツだったから気を張っていた、ってのもあるんだろうな。
といっても、まだお互いに20歳のはずなんだけど。
「2文字のやまあお、スタミナは大丈夫か?」
マウンドに向かおうとした私にそう話しかけてきたのはキャッチャーの幸司郎。
「大丈夫。そっちこそ足しびれたとかいうんじゃないよね?」
「…ギリギリ大丈夫だ。」
それを聞いてそのまま去ろうとしたら、、、
「なあ」
私はまだベンチにいる彼を振り向く。
「無理…すんなよ。」
私はにこっと笑ってそのままマウンドへ向かう。
(無理…か)
正直飛ばしすぎているところはあるな、、、と考えている。
体感では女子野球部に助っ人行ったときよりも疲れてるかもしれない。
…あの時は弾切れになったピッチャーのところに野手登板の形で投げただけなんだけどな。
私は投球練習をしながらレフトのほうを振り返る。
百合に代わって入った川本さんの様子を見るためだ。
(まあ、こっちもこっちで運動音痴だよね)
知ってた。小学校の時から運動はあまり得意じゃなかったはずだ。
腕をしならせるようにするんじゃなくて、砲丸投げのように押し出すピッチングスタイルは初心者特有のもの。
そこには人間らしさが詰まってる。
川本さんも人間なのかな。
あまり、仲がいいわけじゃないから彼女らしさというのがわからないけれど。
止めよう。また雑念で打たれたら困る。
『先攻チーム。バッター西園寺に代わりまして、山田 青井。バッターは山田 青井』
…。
先攻チームも勝負を仕掛けてきた。
そして代打は私がAI(人狼)だって確信している靑井。
内気な運動音痴の女の子を演じたって私の目はごまかせない。
最新のAIは感情を理解できるものだと聞く。
だから、人と同じような経験を積むことが可能なのだという。
だけど──
だけど、靑井の苦労はAIには絶対に経験できないものだから。
「絶対に抑える。」
ねえ、靑井。
今見てる?それとも配信中かな。
今からあなたのAIをねじ伏せて見せるよ。
◇
□山田 靑井
関さんの一件が片付いた私は投票者の様子が気になってProofを通じてもう一度カメラをオンにする。
そこにはピッチャーとしてまだ投げている蒼の姿があった。
バッターは
「私──」
何度見ても自分の人格をコピーされているのは慣れない。
これは投票者のみんなが私たち配信者を見るときも一緒だと思うけど。
蒼は何度か首を振っている。
こういうのなんだっけ。えーと。
「彼女にはよっぽど投げたい球があるみたいだね。」
──!?
気が付いたら愛聖がそこにいた。
「…どういうこと?」
野球をあまりわかっていない私。
ここは野球が生まれた国で普段生活している愛聖のほうが詳しいはずだ。
「今は、試合の短縮が求められているからあまりない光景なのだけど、今彼女とキャッチャーはサイン交換をしているの。」
「サイン交換?」
「野球には途中で起動が変わる変化球がある。それをキャッチャーは反射神経で捕っているわけじゃない。あらかじめ、どの球が来るかわかっているから捕ることができるの。
基本的にはキャッチャーから、『この球を投げよう』ってハンドサインを送る。
それにピッチャーが納得いくのであれば頷く。拒否すると首を横に振る。」
「拒否された場合は?」
「ピッチャーが納得いくまでこのやり取りが行われる。」
そのなか蒼が頷いて投げるフォームに入った。
そのボールはバッター当たるかと思った。
実際、私──のAIは避けようと、したが手元で大きく曲がりストライクとなった。
「なるほどね。」
どういう意味か分からない私は愛聖のほうを向く。
「彼女、あなたのこと、ちゃんとわかってるみたい。」




