古き良き友情
2035年1月17日 3回の表ノーアウト2塁
第三小学校 校庭
□山田 百合
「ほら、立てるか?」
所等くんが笑顔で右手をさし伸ばしてくれるのでありがたく体重を込めて起き上がらせてもらう。
「疲れすぎ、な」
そう言って立ち去ろうとする所等君を私は呼び止めた。
「ねえ」
「…何?」
「所等くんは人間だよね?」
その言葉に所等くんは笑顔を崩さない。
だけど目が笑ってなかった。
「…さあ、どうだろうな」
イエスともノーとも取れない発言にやや困惑する。
所等くんは今何をやってるんだっけ。
大学生、、、じゃなかった気がする。
あとでベンチに戻った時に聞いてみよう。
これだけ人当りが良い人がAIだったらなんとなく人類存亡の危機な気がする。
「おーい、大丈夫なのかー?」
ショートの五百旗頭君からの問いに両手で大きく丸を作って応対する。
蒼…頼むからあと3人三振で抑えて。
◇
「本当にもう無理、、、助けて、死ぬ。」
「…ちょっと大げさなんじゃない?」
あのあと本当に3者連続三振に取ってくれた蒼が上半身だけ横になってる私に声をかけてくる。
ペットボトルのスポーツドリンクを差し出されるが、拒否する。
しようと思ったけど、本当に死ぬぞと言われたので仕方なく上体を起こして飲む。
「がらだにじびばだるぅぅぅ」
いや、本当に体に染み渡るこの感覚。何年ぶりでしょうか。高校の体育の授業ぶりなのではないでしょうか。
「…何語?」
「ああ、意識が遠のいて、、、」
「起きて!」
右頬にシンプルなビンタを食らってなんとか意識を保つ。
ああ、神様。存在するとしたら私を交代させてください。
…これ仕切ってんの人工音声だった。
「ところで、さっきの靑井の話だけど」
その言葉を聞いて宙を舞いそうになっていた意識が一気に私に元へ還ってくる。
「あー、、、そうだ。でも打席は…」
「大丈夫、よっぽどのことがない限り回ってこない。」
もう一度状態を起こす気力なんてもうないので、チームメイトの声だけで判断を試みる。
うん、盛り上がっても盛り下がってもいない。
一番バッターが誰だか忘れたけど、まだ試合は動いていないんだな。
「そもそも私、あの子がVTuberやってるの知らなかったのだけど。ほら、なんか3人で会う時も職業をはぐらかしてたじゃん。」
「…それはね、あの子に秘密にしてほしいって言われてたから…ごめん」
「いや、謝られるほどのことでもないけど。なんか、意外だったんだよね。」
トリプル山田の中で私だけが二人と違う一中に進学してしまった。
だから、二中で靑井がどのようにふるまっていたのかはよく知らない。
だけど、前に蒼から靑井と一緒の高校に進学しなかった。ということだけは聞いている。
「ほら、顔を出していない配信者である以上、自分の職業を隠しがちなんだよ、VTuberって。
だけど、私とあの子の仲だから」
「あの子とはいつからの仲だったんだっけ?」
「…保育園の時かららしい」
「そりゃあ小学校でずっと一緒のクラスなだけな私は負けちゃうな。」
後ろのほうに座っているからグラウンドは見えない。
だけど、定期的にバットとボールがこすれる音が聞こえるからバッターはファウルを打ち続けてるんだろう。
「ねえ、百合。」
急に話しかけられた私は視線を動かして蒼の顔を見る。
まだ思い出話を続けるのかと思っていたが、彼女の顔は真剣そのものだった。
「人間だよね?」
その短い言葉には、今までの確信に満ち溢れていた声とは違う疑いの声。
「当たり前じゃん。私と蒼の仲だよ。見破れないわけないじゃん。」
「…『あおい』は『あおい』でも『一文字やまあお』のほうね」
そこまで彼女が言い終わってから私たちは一緒に笑いあう。
本当にこのクラスは、『あおい』って子が多いんだから。特に『やまだ あおい』が二人いるのは本当にややこしい。




