ピッチャー交代
YOH同窓会TIPS
この試合の審判、選手交代は全て自動音声によって通告なしに行われる。
2035年1月17日 2回の表ツーアウト
第三小学校 校庭
□山田 百合
転がってきた球をなんとか捕球して大きく手を振る悠斗に返す。
意外と全力でものを投げる動作って疲れるんだな。
よくプロ野球とかで「100球が交代の目安」って言われるのも分かる。
『後攻チーム 守備位置の交代をお知らせします。
ピッチャーの田中がライト。 ライトの山田 蒼がピッチャー。
ピッチャー 山田 蒼』
その言葉を聞いて譲司がマウンド上でやや怒りながらマウンドにボールを置くのが見える。
ライトに目をやると一文字のやまあおの方がマウンドへと駆けていく。
今朝は黒髪ロングで登校してきたのを今は後ろで縛ってポニーテールにしてる。
二文字のやまあお──靑井とは違って、蒼のほうは、人触りがいい。
これと言って得意なスポーツはないが、どのスポーツでも中の上の結果を出す。
おまけに習い事などを特に習っていなかったから、助っ人でいくつかのクラブチームに参加しているという話だ。
そういえば、Wやまあおは揃って二中に進学したんだったな。
私は一中に進学したし、中学校からあまり学校に行っていなかったものだから噂話、と言うものは流れてこなかった。
だけど、蒼は帰宅部でどこかの部活の大会ごとに助っ人として呼ばれていたらしい。
(本人は断れない性格だからなあ)
スポーツ万能選手特有のありふれた自信っていうオーラは感じられない。
どっちかというと図書室で本を読んでいる黒髪ロング女子というイメージの方が似合ってるかも。
「おーい!百合!キャッチボールするぞー!」
センターから所等くんの声。
そうだった。ピッチャー交代中も守備練習ってあるんだっけ。
ごめん、といいつつ所等くんから受け取った球を投げ返す。
もちろん、力は込めないで。
これ以上全力でやると死んでしまいます。
「おい、百合?やる気あんのかー?」
ハイ! タイリョク ガ ツヅク マデハ!
◇
□山田 蒼
「この時を待ってた。」
譲司がマウンドに置いたボールを拾い、縫い目を確認する。
目の前にはキャッチャーの幸司郎。
「持ち球を聞いていいか?」
「ストレート、カーブ、スライダー。」
「なんか悔しいけど基本的なものは持ってるんだな。」
その後2人の間でサインの交換を行う。
それが終わった去り際に幸司郎が声をかけてくる。
「…なあ」
「…何?」
「鈍感な俺でもわかるくらい、何か背負ってるみたいだけど、大丈夫か?」
「…最初はストレートを投げる。受けてから考えてみてね。」
私は笑って見せる。
幸司郎はまだ何か言いたげだったが、ポジションについてミットを構えた。
小さい時から物を投げることが多かった。
それは靑井に石をぶつけてきたやつに対して投げ返した石であったり、缶であったり。黒板消しでもあったりした。
彼女を守るために私が頑張って体を鍛えたりした。
そして、今は『モバイルYOH越しで見てくれているかもしれない靑井にこの投球をささげる』
私たちの絆は数字じゃ測れないんだよ。AIくん。
見た瞬間分かった。投票者の靑井は偽物だってね。
私の投球スタイルはシンプルだ。
セットポジションから足を上げてオーバースローで全力ストレートを投げこむ。
幸司郎は1ミリもミットを動かす必要がなかった。




