幕間1
───そうして、ボクは夢を見る。
ここの所、ずっと同じような夢を見る。
◇
『じゃん! 見てよ柚希! これ! 100点だよ100点! どうだ凄いか!』
明るい教室の真ん中。
ガヤガヤと五月蝿い周囲の声を遮るように、──其の少女はボクの前に来る。
『さぁ聞こうか、チミは何点だったんだね? コラ隠すな!』
───判らない。
『え? 別にボクも見せるとは言ってない? 勝手に見せてきただけ?
知りませ〜ん! いいから見せなさいよ! このままあんただけ見せないのは不公平ってもんでしょ』
───誰だ。
一体誰だと言うんだ。
『93点? やったー! 勝った〜! 私柚希に勝ったの初めてかも。
え? 100点とった時点で勝ち確だって気づくだろ? そうかもしれないけどいーの!』
◇
『ほらほらー! 元気だして。好きな人に振られたってだけで落ち込みすぎだよ?』
場面が変わった。
学校の屋上。
暮れた夕陽が射し込み、ちょっとだけ眩しい。
『え? 私だったら落ち込まないのかって? う〜ん。どうだろうねえ。まあ、落ち込むだろうね。ごめんって。謝るから裾引っ張らないでよ』
───夢の中なのに、口の中が気持ち悪い。
『よし分かった! じゃあこの私が、あんたにラーメンを奢ってあげよう。好きでしょ? ほら、行くよ』
……
───誰の夢であろうか。
或い、いつの夢で、何の夢だろうか。
何となく、自分の記憶なのだろうと思う節はある。
それでも、ボクにこんな記憶は無い。──そもそも、夢の中の彼女は、ボクの知る彼女とは遠くかけ離れている。
淡い色彩が、空虚な空間に押し広げられる。その中心にあった、訳の分からぬ情景。
───一体ボクは、何を見ていたのだろう。
目も、鼻も、口も。
耳も、眉も、頬も、前歯も、奥歯も、前髪も、肩にかかる寸前のショートヘアも、その黒髪も、瞳の中も、瞼も、華奢で小さな儚い躰も、右脚も、左脚も、膝も、その皿も、踵も、つま先も、右腕も、右手首も、右掌も、左腕も、左手首も、左掌も、指も、指一本一本にわたる指紋の細部まで。
その全てが、観柳斎ミラ其の人。
それなのに。
それだって言うのに、彼女は、
ボクの知らないカノジョでしかない。