神野家は今日も平和である〜嫁姑の戦いが激化しているのを旦那だけが知らない〜
こんにちは、僕は神野雅彦です。僕には奥さんがいますが、母さんも一緒に住んでいます。
世の中には嫁姑問題というのがあるようですが、嫁姑のよしこと母さんはとても仲が良いです。
今日も同僚に「お前のとこ(の嫁姑は)どーよ?」と聞かれたので「2人(嫁姑)はとても仲が良いよ」と答えたら羨ましがられました。
今日も定時まで仕事頑張るぞー!
■
よしことお義母さんは一通りの家事を終えて一息ついた。
よしこは急いで台所へ向かうとお茶を用意し始めたのである。お義母さんは疲れたようで座って休憩していた。
しばらくするとよしこがお義母さんの元へ戻ってきた。
よしこの手には湯呑みを持っていた。それをにこりとしてお義母さんへ渡す。
「お義母さん、(100度の熱々の)お茶をどうぞ」
「あら、私のことは気にしないで。よしこさん、どうぞ」
■
「ただいまー」
「ましゃひこ(雅彦)さん、おかえひなしゃい」
「よしこ、どうしたんだい?」
「ひょっと、お茶でやけどひしゃったの」
まったく、よしこはうっかり屋さんだなぁ。
雅彦は微笑ましく思った。
神野家は今日も平和である。
ーーーーーーーーーー
【日曜日】
ようやく念願の週末が来た。今日はよしこと母さんと買い物に出掛けるぞ。
車でショッピングセンターに行く予定なのだ。
各々支度を終わらせて車に乗り込んだ。
もちろん僕は運転席だ。そしてよしこは気を使って母さんを僕の横に乗せてくれる。
あぁ、嫁はなんて優しいんだ。
今日はよしこが水筒を持っている。その水筒を母さんに渡していた。
「お義母さん、お茶を持ってきました。どうぞ飲んでください」
「あら、ありがとう」
■
母さんは行きではお茶を飲まなかったが、帰りの車でようやく水筒に口をつけて飲み始めたのだ。
「ぶぇほっ! ごふっごぇっ!! げっふん、げっほぉ!」
「母さんちょっと大丈夫?」
「あら、大変! (ネットショッピングで買った真空二重構造の高い水筒で6時間たっても熱々ままになっている)お茶がまだ熱かったですか? 今、(かっちかちに固まっている)保冷剤出しますね!」
母さんもうっかりしてるんだな。それにしてもよしこはよく気が利くなぁと感心している雅彦であった。
神野家は今日も平和である。
ーーーーーーーー
【月曜日】
雅彦は会社で仕事をしていると、ふと思い出した。
そうだ、今日はよしこと母さんが出掛けるって言ってたな。本当に仲良しだなぁ。
よおし、今日も仕事頑張るぞー!
■
よしこは出掛ける支度が出来るとに台所へ行ってお茶を作った。湯呑みに入れるとお義母さんの元へと急いだ。
今日はこの前の失態を犯さないように2つ用意したのだ。
1つは普通のお茶だ。
そしてもう1つは100度の熱々のお茶だ。
お義母さんは多分はじめに勧めたお茶を断ってくるだろう。あらかじめ普通のお茶を勧めて、断られたところに熱々のを渡す。
そして私が飲めばお義母さんも飲むしかなくなるだろう⋯⋯ふふ⋯⋯
「お義母さん、(普通の)お茶をどうぞ」
「まぁ、よしこさんありがとう」
「へっ?」
お義母さんは(普通の)お茶を受け取ったのである。それを飲みながらこう言った。
「よしこさん、今日は急ぐから早く飲んで行きましょう」
■
「ただいまー」
「ましゃひこ(雅彦)さん、おかえひなしゃい」
「よしこ、もしかしてまたお茶でやけどしちゃったのかい?」
「ひょーなの」
まったく、よしこはうっかり屋さんだなぁ。
雅彦は微笑ましく思った。
神野家は今日も平和である。
ーーーーーーーーーー
【火曜日】
雅彦は会社のパソコンの目の前で大きなあくびをした。すると同僚が声をかけてきた。
「すごいあくびだな。寝不足か?」
「そうなんだ。レゴより小さいブロックのナノブロックってあるだろう? あれでランボルギーニを作ってたら3時になっちゃって慌てて寝たんだ」
寝不足でパソコンを打ち間違えないようにしなきゃ。
そういえば、あのナノブロック片付けて来たっけな?
ちゃんとしまったか忘れちゃったけど、よしこか母さんが片付けてくれるか。
今日はミスしないように頑張るぞー!
■
よしこは部屋の掃除を始めた。すると雅彦の私物が置いてある机の上がナノブロックだらけになっていた。
まぁ、昨日の夜にやにやしながら部屋に入っていったと思ったらまたナノブロックで遊んでたのね。しかも今回はランボルギーニだわ。
パーツはまだたくさん残っているわね。
よしこはナノブロックをかき集めるとリビングへと移動した。そしてダイニングテーブルの近くへいって撒いた。
現代の撒菱(ナノブロック)は痛いぞ⋯⋯ふふ⋯⋯
それに気が付かないお義母さんは一休みするのにリビングへと入ってきた。
それをちらりと見たよしこは平然と台所へ向かった。
「お義母さん、今お茶を淹れますので座っていてください」
「まぁ、ありがとう」
お義母さんはダイニングテーブルへと向かった。お義母さんはちらりと床を確認する。
床が綺麗なことを確認すると椅子に腰掛けた。
「ぎえっ! あっいたっ!! いだだーー!!」
「お義母さん、(床に何か仕掛けただろうと油断させて、椅子の上にナノブロックを置いたら、まんまと引っかかってめちゃくちゃ)痛がってますけど大丈夫ですか?」
■
「ただいまー」
「おかえり!」
「あれっ母さんは?」
「疲れて寝ちゃったみたいよ。布団に寝かせたから大丈夫よ」
俺の嫁は優しいな。
神野家は今日も平和である。
ーーーーーーーーーー
【水曜日】
雅彦は仕事が一段落すると、ふーと息を吐いて休憩した。
今日は母さんが風邪をひいていたみたいだ。夏なのに風邪を引くなんてかわいそうだな。でもよしこが看病してくれるって言ってたから安心だけど、母さんは大丈夫かなぁ?
今日は早く帰れるように頑張るぞー!
■
よしこはお義母さんを布団に寝かせていた。
「お義母さん、いくら夏だからって寒いのは大敵です! しっかり温かくして風邪を治しましょう」
お義母さんはぐったりと布団の上に横になっていた。それを見たよしこは押し入れの奥から冬に羽織るはんてんを取り出すとお義母さんに羽織らせた。
そしてお昼になるとお盆におかゆを乗せて待ってくるとお義母さんに声をかけた。
「お義母さん、調子はどうですか? 食欲がないかもしれませんが、(石焼ビビンバ用に買った石の器でぐっつぐつと煮えたぎっている)おかゆを作ったので、熱いうちに召し上がってください」
「よしこさん、ありがとう。いただきます。⋯⋯あっつ!! あふ! げへっ!! あづ!!」
■
「ただいまー」
「おかえり!」
雅彦は家の中が暖かい気がした。
「あれっエアコン壊れた? なんかちょっとあったかいね」
「(意図的に暖房30度にしているけどちゃんと動いているから)エアコンはちゃんと動いてるよ」
「そっか! それで母さんの調子はどうかな?」
「お昼はちゃんと食べてくれたよ。今日はもう寝ちゃったよ」
「そっか、看病ありがとね」
「へへっ」
雅彦はよしこの頭をなでなでした。
俺の嫁は可愛いな。
神野家は今日も平和である
ーーーーーーーーーー
【木曜日】
雅彦はちらちらとスマホに目がいってしまう。仕事中だというのに怠け者みたいだ。
しかし母さんが良くなったと思ったら、今度はよしこが風邪を引いてしまったようだ。
うーん、仕事にならないけど、ちゃんとやって早く帰るぞー!
■
よしこは布団の上に横たわっていた。
「よしこさん、昨日は看病ありがとう。少し暑かったから大変だったわ。夏だから熱中症にならないように気をつけて看病しますから、安心してね」
お義母さんはよしこにタオルケットを掛けて上げると、エアコンのをつけた。
「(冷房で、16度くらいでいいかしら?)これでよしっと」
しばらくするとよしこはガチガチと歯を鳴らした。
「あとで(冷凍に近いくらい冷たい)うどんを持ってきますから待っててね」
■
お義母さんは顔を上げるともう部屋の中が暗くなり始めていた。
「あらやだ。大変」
お義母さんは急いでお風呂を作り行った。
そして支度が出来るとよしこの眠っている部屋へと向かった。
「よしこさん、そろそろ起きて。大変だろうけど(熱々75度にした)お風呂が出来たから冷めないうちに入ってきなさい」
よしこは無理矢理風呂場に押し込められてしまった。
風呂場からはよしこの断末魔が響いた。
よしこが出て来て、すぐに雅彦が帰ってきた。
「ただいまー」
「あら、雅彦おかえり」
「あっ母さん、よしこの調子はどうだい? 今日は少し涼しいね。エアコンがよく動いているんだね」
「よしこさんはさっきお風呂から出て寝たところよ」
「よかったぁ」
母さんもよしこのことを気にしているみたいだ。うちは本当に仲が良くて良かったな。
神野家は今日も平和である。
ーーーーーーーーーー
【金曜日】
お昼過ぎに神野家のインターホンがなった。
風邪が治ったよしこは来客を確かめに行く。
「はぁーい、ちょっとお待ち下さいね」
ガチャッ、鍵を開けて玄関の扉を開けた。
するとスーツ姿の男性が立っていた。
「こんにちは。元気電力株式会社の渡辺と申します。今日は無料で分電盤のチェックが出来るのですが、やっても大丈夫ですか?」
「はぁ、分電盤?」
「ブレーカーボックスのことです」
「あっはいはい。中へどうぞ」
よしこは部屋の中へ男を上げた。
男は笑顔を張り付けてよしこについていった。
(しめしめ、警戒心のない主婦だな。今日はいくら稼げるか楽しみだな)
リビングへ入るとお義母さんもいた。よしこは急いで台所へ行ってお茶の準備をし始めた。その間男はお義母さんに話をし始めたのだ。
「最近、分電盤の老朽化が深刻になっていて⋯⋯ぺちゃくちゃ⋯⋯それを狙う悪質な業者もいたりして⋯⋯ぺちゃくちゃ⋯⋯」
するとよしこはお茶を持ってくると、男に湯呑みを渡した。
「(100度の熱々の)お茶をどうぞ」
「ありがとうございます! ⋯⋯あひっあちゃ⋯⋯ちょっと熱いですね」
「でも確認するなら急いで飲まないとでしょう?」
お義母さんは首を傾げている。
(なんて熱いお茶なんだ! だが怪しまれては大変だ。急いで飲むしかない)
男は顔を歪めながらちびちびと飲み始めた。時折舌を出しては深呼吸をしている。
なんとか飲み終わると、男は一目散に分電盤へと向かった。
何かをいろいろと調べている。そして雲行きが怪しいような顔をした。
「やっぱり、老朽化しているところがありますね。このまま放っておくと漏電の危険性にもつながります。これはサービスなのでちゃちゃっとやっちゃいますね」
「まぁ、助かりますわ」
(ははぁん、馬鹿なやつだ。変えても変えなくてもわからないところを変えて、ここは無料で行う。そしてブレーカーボックスを変えてふんだくるぞ、げへへ)
男はよしことお義母さんの方へ振り返ると笑顔でこう言った。
「今、工具と部品を持ってきますね」
男はリビングへと急いだ。
男は歩いている廊下の上に現代の撒菱が付いていることに気がついていない。
そして男はまんまとブロックを足で踏みつけた。
「がぁっ!! いっっだ!! いっあっーーーいてーー!!」
男はあまりの痛さに膝をついた。膝に変な感触があった。
それを見たお義母さんが声を上げた。
「あらやだ、私がさっき食べてたカレーが落ちてるわ」
男は慌てて手を見ると手と膝にカレーがついていた。
(こんのババアー! 何してくれるんじゃー!!)
よしこは慌てて洗面所へと男を連れてくる。
手は洗ったが膝のカレーは結構ついている。ちょっと染みて内側が冷たい気がする。
それを見たよしこがこう伝えた。
「カレーが結構膝についてしまってますね。そろそろ(75度の熱々の)お風呂が出来ますからズボンを端に置いておいてください。私が洗いますから」
「分かりました。お言葉に甘えてお風呂いただきますね」
(これで恩を着せて、あとで金巻き上げてやるからな!)
男は風呂に入ると叫び声を上げた。
男は慌てながら風呂から出たが、服がない。洗面所の外を伺うと近くでよしことお義母さんが話していた。
「よしこさん、スーツは手洗いは危ないわ。ちゃんとクリーニングは出さないといけないわ」
「そうですね。そしたらクリーニングに出しましょう。あの人にも伝えてきます」
こちらへ近づいてくるので男は慌てて風呂場へと戻った。
「すみません、スーツはクリーニングに出さないといけません。お詫びに謝罪金を払いたいんですが、現金だとまずいのでキャッシュカードはありますか? あっ、それだと怪しいですよね。ちゃんとした支店へ行ってやりましょう」
(俺たちが前にやっていた手口に似ているな。銀行の支店まで連れて行かれてお縄頂戴なんてことになったら大変だ!)
男はそれを聞いて慌てて窓から逃げたした。
■
「ただいまー」
「おかえり!」
「あれっスーツ? どうしたの?」
「えっ忘れ物なの」
「そんなうっかりさんもいるんだね」
雅彦はリビングに行くとテレビをつけた。
するとニュースがやっていた。
「えーこの辺で不審者が出たって。しかも全裸の男だって。怖いなぁ。よしこと母さんも気をつけてね」
「はーい」
神野家は今日も平和である
お読みいただきありがとうございます!
誤字・脱字がありましたらご連絡お願いします。