砂漠の檻
屋外 - 小国ナドラ領内砂漠 - 昼
緑のない砂漠の真ん中。半壊状態のxフレームが1機、不時着している。
コックピットは開かれている。スローは、強い日差しにさらされ、うなされている。
朦朧とする意識のなか、シトラが、かすかにみえる。
シトラ
スロー。
目を開けて。お願い。
私を…、ひとりにしないで。
スローは、目をひらく。誰もいない。
コードをかき分けて、コックピットから這い出る。
熱砂の上に落ちて、うなり声をあげる。
しばらくして、xフレームにもたれて、あたりを見渡す。
一面、砂漠の海が広がる。空は、スペースデブリの大きな筋がかかっている。
スローは、コックピットに戻り、応急キットと水を取り出す。ボトルを傾けて、傷に水をかける。負傷した箇所を手当てする。動きが鈍い。
一通り処置を終えると、水を一口含む。
機体を起動させる。視界がかすむ中、破損状況を確かめる。エンジンは動かず、レーダーも破損している。燃料はない。
通信は生きているが、応答しない。
スローは、コンソール画面をすみへ押しやって、外をみる。
砂の海の向こうに、人影がみえる。シトラが、こちらを見ている。彼女の背後から、航空艦が近づいてきている。
スロー
(左目を閉じて)
…機能。…オフ。
項垂れるスロー。意識が遠のく。航空艦のエンジン音が、近づいてくる。
室内 - 敵アジト - 昼
スロー、水をかぶって、目を覚ます。
土壁の牢の中に日差しが入りこみ、砂埃が舞っている。気管に入った水で、咳き込む。
鉄格子の中に、艦長オッサンがいる。仲間の男が、バケツを捨てた。
スローは、両腕を背後で拘束されている。
艦長オッサン
目ぇ、覚めたかい?
スローは、無言であたりを見回す。目の前に、艦長オッサンがしゃがんでいる。
牢の外に赤髪の女。隅のほうで、こちらを見ている。
艦長オッサン
なぁ。あんたに訊きたいことがあるんだ。
スロー、視点が定まらない。呼吸が荒い。
艦長オッサン
その前に、オレたちのことは、わかるよな?
スローは答えず、オルナへ視線を送る。
艦長オッサン
オレたちは、お前さんが護衛していた輸送艦を
襲撃した連中なんだが、
覚えているかい?
スロー
なんなんだ…。あんたら。
艦長オッサン
まぁ、そこは、どうでもいい。
スロー、うなだれる。
艦長オッサン
お前さんに訊きたいのは、
あの輸送艦の中身を知っているか、
ってことだ。
スローは、無言のまま項垂れている。
仲間の男
きかれたことに答えろ!
仲間の男が、スローの顔面を蹴り上げる。
艦長オッサン
おい! やめろ!
艦長オッサンは、男の胸倉をつかん牢の端へ追いやる。
艦長オッサン
この男は捕虜だ。そんな扱いはオレが許さん。
仲間の男
甘いこと言ってんじゃねぇよ!
仲間の男、艦長オッサンの手を払う。
仲間の男
あんたがそんなだから、
俺たちはいつまでも砂の中なんだよ!
艦長オッサン
なに?
仲間の男
結局、依頼もこなせず、
追いつめられてるじゃねぇか!
艦長オッサン
オレのやり方が気に入らねぇんだな。
2人顔を近づけ、一触即発。
オルナ
やめて。
言い争っている時間なんてない。
男は、舌打ちをして、鉄格子を蹴り飛ばして出ていく。
艦長オッサン
連中の口車に乗せられやがって。
オルナは、スローの顔の傷をみて、手錠をはずす。
艦長オッサン
おいおいおい!
何やってるんだ!
オルナ
手当てしないと。左目の義眼が壊れてるわ。
艦長オッサン
手錠は外すな!
暴れると面倒だぞ!
オルナは、黙々と治療をはじめる。
艦長オッサンは、かぶりを振って、牢の外で様子をうかがう。
オルナ
私たちは、あの輸送船の中身を知っているの。
スロー、彼女の言葉を聞いている。
オルナ
あれは、宇宙から地上を攻撃できる兵器を
輸送していた。
あなたは、それを知っていたの?
スロー
俺たちは、何も知らない。
知る必要もない。
オルナ
…ただ、命令に従うだけ?
応急処置が終わる。
オルナ
私たちは、機械じゃない。
従うだけの生き方は、不幸だわ。
スローは、オルナをみる。左義眼から映像が送られてこない。
オルナ
世界は、宇宙資源を巡って、また戦争になる。
私たちは、それを…、止めたい。
そのために、今、
少しでも多くの戦力が必要なの。
あなたの力も。
スロー
争いを起こしているのは、
あんたらじゃないか。
艦長オッサン
争いを起こさないための、必要な武力行使さ。
あれを見過ごせば、
国家間の緊張が加速していただろう。
スロー
…おかげで、仲間を失った。
艦長オッサンとオルナは、黙り込む。
艦長の頭蓋に電波を受信する。両目が薄っすらと光る。
艦長オッサン
どうした。
艦長オッサンは、話を聞きながら、時折、スローをみる。
艦長オッサン
わかった。
艦を動かせるようにしておいてくれ。
両目の光が消え、通信が終わる。
艦長オッサン
また連邦が、
兵器を打ち上げようとしているようだ。
オレたちは、そいつを止めに行く。
こちらの都合で申し訳ないが、
あんたをここに置いておくわけには、
いかなくてな。
我々と来てもらおう。
スローは、艦へ連行される。艦長オッサンが先を行き、スローを挟んで、オルナが後ろに続く。
洞窟の狭い通路を行く。時々、天井から砂が落ちる。
通路を抜けると、巨大な施設が現れる。そこに艦も収容されている。スローのxフレームもある。
スローは立ち止まって、自機をみる。整備士が集まって、取り囲んでいる。いくつものケーブルが取り付けられ、破壊された箇所は、修理されている。
オルナ
一応、動かせるけど、
パイロット本人じゃなきゃ、
システムを起動できなくて困っているの。
スロー
それで、俺の協力が必要、ってことか。
オルナ
兵器だけが必要なんじゃない。
オルナ、スローの前に立つ。
オルナ
私たちは、新しい世界のために闘っているの。
スロー
新しい世界?
オルナ
この美しい惑星は終わらせない。
私たちは皆、国境を越えて、
一つになれるはず。
欲望や憎しみを超えて、
世界を変えられるはず。
私たちには、その力がある。
きっと、あなたにも。
航空艦へ艦長オッサンが入っていく。
オルナ
ひとりでも多くの同志が必要なの。
あなたの力を貸してほしい。
スローは、xフレームをみる。アームに吊るされ、航空艦へ運ばれていく。