出撃
屋内 - 発艦場xフレーム内 - 昼
スローは、コックピット内で、待機している。機器類の光だけで、内部は暗い。スローの呼吸音。
ナルミヤから通信。
ナルミヤ
今、どういう状況ですかね?
スロー
連絡が入らないからな。
まるでわからないな。
ナルミヤの不安げな息づかいが聞こえる。
スロー
出撃したら、俺が前に出る。
ナルミヤは、援護を頼む。
ナルミヤ
…はい。
ナルミヤ、静かに深呼吸。
ナルミヤ
無人機の時と、まるで違いますね…。
少しの間。
スロー
どうして、志願したんだ?
ナルミヤ
…役に、たちたいと思ったんです。
スロー、彼女の言葉を聞いている。
ナルミヤ
最近は、
アンチドローンやジャミングのせいで、
無人機での戦闘も難しくなっています。
スロー
(皮肉っぽく、鼻で笑いながら)
そうだな。
そしてまた、有人機に回帰してる。
ナルミヤ
無人機とはいえ、
わたしもフレーム機体を操縦してきました。
有人機でも、十分戦える、って思ったんです。
スロー、彼女の言葉を聞いて、黙り込む。
艦内が揺れる。
戦術情報室の指揮官から通信。
指揮官
2人とも発艦準備はできているか?
スロー
BO・ワン。いつでも出られます。
ナルミヤ
BO・ツー。こちらも問題ありません。
指揮官
2機とも、ただちに発進してもらう。
航空艦ブラスト級がひとつ。距離10。
たった今、
R系フレーム(遠隔無人機)4機が発艦した。
指揮官の通信を聞きながら、スローは、誘導員のハンドサインの通りに、機体を動かす。
昇降機を使い、カタパルトへ向かう。
機体の近くにボディアーマーを装着したマーシャラーが待機する。黒いタクティカルヘルメットの後頭部に、とある島国のキャラクタープリント。ブラストディフレクターが、xフレーム背後に立つ。発艦口が開いて、青い空がみえる。
指揮官
目的は、輸送艦を無事に送り届けることだ。
一つの攻撃も許すな。
R系フレームを、優先して叩け。
スロー
BO・ワン。了解。
ナルミヤ
BO・ツー。了解。
指揮官
お前たちが頼りだ。
暴れて来い。
AIによる電子音声が航空管制を行う。スローの電子音声にシトラの声が、混じっている。
外に待機していたマーシャラーが、発進の合図を送る。そして、敬礼。
スローも敬礼を返し、機体の出力を上げる。
カタパルトが機体を加速させて、射出する。
xフレームは、航空艦から飛び出し、機体背後に、青いジェット噴射の光線。機微に動いて、上昇していく。
続けて、ナルミヤのxフレームも射出される。スロー機と同じルートで上昇していく。
屋外 - 連邦領内、戦闘域 - 昼
3隻の輸送艦は、速力を上げて、脱出を急いでいる。
敵R系フレーム4機が、輸送艦に急接近する。地上からの対空砲を簡単にかわして、散開する。
スローとナルミヤの機体と、敵4機が、輸送艦の周囲で、戦闘する。
無人機の敏捷な機動力で、スローたちへ攻撃を仕掛ける。
スローとナルミヤのxフレームは、両手に2つの銃火器をもって、応戦する。
ナルミヤ
こんな動きができるなんて!
スロー
惑わされるな!
無理に追うと、自機を見失うぞ!
敵味方入り乱れて戦闘。両者ともに、輸送艦を足場にして、自重落下を制御する。
敵艦と航空艦プロメテウスは、互いに射程範囲に入り、巨弾が飛び交う。
敵R系フレームは、輸送艦に着地の際、数発銃弾を当てて、離脱を繰り返す。輸送艦へのダメージが広がっていく。
スロー
このままじゃ、3隻とも落とされる…!
スロー、2機のR系フレームに追われる。
ナルミヤ
先輩! 輸送艦が!
輸送艦の1隻が、機関部をやられて、地上へ落ちる。次々と、艦から脱出艇が射出される。
スロー
ナルミヤ! 輸送艦から離れるな!
組み付こうとする敵を狙え!
ナルミヤ
了解!
スローは、敵2機からの被弾をもろともせず、数秒間、バーナー状態にする。
燃料計が、大きく目減りして、エンジン出力が、最大値を超える。
xフレームのエンジンから、青いジェット光線を放って、後方の2機を振り払い、ナルミヤが攻撃するR系フレームに狙いを定める。
スローは、銃火器で敵フレームへ攻撃を仕掛けて肉薄し、格闘武器をもって、コックピットを貫く。
敵R系フレームの中は機械仕掛けで、機能停止して、地上へ落ちていく。
ナルミヤ
1機しとめた…!
スロー
あと3機だ!
集中しろ!
ナルミヤ
了解!
スローがさらに1機を追いつめて、ナルミヤがとどめをさす。
ナルミヤ
1機撃墜!
スロー
輸送艦は、あと少しで高高度に達する。
そうなれば、R系フレームは攻撃できない。
それまで、持ちこたえるんだ!
ナルミヤ
はい!
スローは、残りの2機を追う。ナルミヤは、輸送艦に張り付いて、援護射撃を行う。
その時、敵艦から、新たなフレーム機体が発艦する。赤い装甲、銃火器と盾を持っている。
輸送艦目指して加速する。
ナルミヤ
BO・ワン! 新たな機影接近!
あれは…? R系じゃ、ない…?
スロー、2機のR系フレームと戦闘しながら、その姿をとらえる。
赤の機体は、一直線に輸送艦へ向かう。
ナルミヤが阻止しようと、輸送艦から飛び出して、トリガーを引く。
ナルミヤ
これ以上は、落とさせない!
スロー
ナルミヤ! それ以上前にでるな!
赤い機体は、シールドを前面に展開して、加速する。
銃弾がシールドによって阻まれる。
さらに加速する。シールドの裏には、近接武器の槍が仕込まれている。
スローは、2機のR系フレームに追われ、近づけない。
赤い機体の突撃に、ナルミヤの機体が貫かれる。
スロー
ナルミヤ!
ナルミヤ機、半壊状態で地上へ落ちる。ナルミヤの声が途中で途絶え、通信不能。
赤い機体はブーストで突進の勢いを増し、輸送艦に槍を突き立てる。
スローは、背後の敵機へ機体を向ける。ダメージを受けながら、銃弾を敵機に浴びせ、1機撃墜する。
2隻目の輸送艦が落ちる。敵R系フレームと赤い機体は、足場を求めて、自艦へ戻る。
最後の輸送艦は、高高度に達し、宇宙へ向けて、ロケット噴射する。
スローはそれを見届けて、戦艦プロメテウスに着地する。
敵艦は回頭し、この場からの撤退をみせる。
指揮官から、スローへ通信が入る。
指揮官
まだ戦えるか?
BO・ワン。
スローのコックピット内、残りわずかを示す燃料計。
スロー
あれを落とすには、十分です。
指揮官
あれを、逃がすわけにはいかない。
機関部を狙い、推進力を奪え。
スロー
了解。
敵艦が、戦闘域から離脱を開始する。
戦艦プロメテウスは、出力を上げる。主砲とミサイルが次々に火をふく。
敵艦は、チャフをばらまき、巧緻な操艦で、回避する。
距離が縮まると、スローのxフレームが、ジェット噴射をまとって、接近する。
敵艦の主砲が、巨弾を撃ちだす。接近を許さないように、ガトリング砲も火を噴く。
さらに、敵のR系フレームと赤い機体が飛び出してくる。
スロー
(赤い機体を見据えて)
お前だけは、落とす!
スロー、2機に挟撃され、敵艦から引き離される。
xフレームのコックピットは、被弾のために真っ赤な照明と、アラートが鳴り続ける。エネルギー残量もわずか。
スローの視界の端に、シトラが映る。
シトラ
スロー。お願い。
私に協力させて。
敵の行動予測から火器制御を行うわ。
今、分析したデータを———。
スロー
シトラ! 邪魔をするな!
シトラ
どうして?
どうして、信じてくれないの?
シトラ、スローの顔に優しくふれる。さらに抱きしめる。スローは、左目を閉じる。
Xフレームは、さらに被弾を重ねていく。自重で、高度も落ちてくる。
シトラ
スロー。
私を、みて。ちゃんとみて!
シトラの顔が崩れていく。スローの左目を、無理やり開けようとする。
スローは、声を上げる。振りほどくように暴れて、アラート音やエネルギー残量表示が消える。
シトラの姿が消える。コックピット内部は、機器の故障で火花が散る。
スロー
どうせ終わるなら、
1機でも多く、連れて行ってやる。
スロー、敵機の攻撃を避けながら、xフレームの通常装甲をパージする。
装甲を脱ぎ捨てたxフレームは、骸骨のような細い形状。近接武器のブレードをもって、軽捷な機動力で、接近する。
敵機目前で、左右に軌道を揺らし、ジェット噴射で、飛び上がる。
自機を回転させ、敵R系フレームを両断する。
さらに赤い機体へ肉薄し、頭と腕を切断。
赤い機体はたまらず後退し、コックピットを狙う最後の一撃を、かわす。
赤い機体のコックピットが、一部破壊され、赤髪の女の姿が見える。
スローのブレードが止まる。
スロー
有人機…!
敵艦の主砲が、スローのxフレームを捕らえ、撃ちぬいた。
スロー機は、制御不能に陥って、地上へ落ちる。
敵艦は赤い機体を回収するため、艦の速度をおとす。
その隙に航空艦プロメテウスは、主砲をうつ。巨弾の一つは、敵艦を擦過して、二弾目が命中。敵艦も推進力を失い、高度を落とす。