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王国じまい、はじめます!  作者: 七嶋璃
身替りの王太子妃
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ふたりで夕食を 二日目

たまに言葉をかわしながらレースを編んでいるマリアムとオリガを見ているうちに、セシリアはいつの間にかうつらうつらしてしまった。

ふっとセシリアが目を覚ましたときにはふたりは黙々とレースを編んでいた。

寝起きでぼんやりしているセシリアにマリアムがお茶を出してくれて、その後はセシリアも加わり三人でレースを編んだ。

日暮れまで部屋で過ごし、入浴を済ませる。体はまだ痛むが朝よりは大分ましになっている。

浴室から出て、昨日とは違うドレスを着せられる。ドレス自体は昨日と違っているが、夜用のドレスなので、袖がなく露出が多いことは変わらない。

昨日のものとは違い、胸元は詰まっているが背中が大きくあいている。昨日とあいている場所が違うが相変わらず落ち着かない。

「これ、大丈夫なの?ずいぶん背中があいているようだけど」背中があいていることはわかるが、どの位あいているかわからず、セシリアはマリアムにたずねた。

「よくお似合いですよ」マリアムがセシリアの髪を結い上げながら、答えになっていない答えを返す。

マリアムは仕上げに髪飾りをセシリアの髪に刺すと、合わせ鏡で頭の後ろ側をセシリアにも見せてくれた。しかし、鏡に映っているのは髪の毛ばかりでセシリアが気になっている背中はよく見えなかった。

「本当に変ではない?」

「大丈夫です。昨日のドレスは王太子殿下も気に入っていただけたようですが、今日のドレスもきっと気に入っていただけますよ」

「なんで知っているの?」

「各所にご挨拶に伺ったときに、少しお話をうかがいました」来たばかりで春宮(とうぐう)の召使いと世間話をするくらいには仲良くなっているマリアムは大したものだと思う。と同時にやはり見られているのだなとも思う。

オリガとマリアムに食堂の前室まで送り届けられる。そのまま食堂に入ろうとしたセシリアは、大きな姿見があることに気付いた。

姿見に自分を映し、背中を確認しようとする。左右に体を回転させながら、なんとか背中全体を見ようとするがなかなか思うように確認できない。

「まるで自分の尻尾を追いかけ回す子犬だな」

急に声をかけられてセシリアは扉のほうへ振り向いた。扉を入ってすぐのところにアレクが立っている。

「えっと、これは」

セシリアはアレクから背中が見えないように、向かい合う方向に向きを変えた。その間にもアレクはセシリアに近付いてくる。

「何かおかしなところがないか見ていたんです」

「おかしなところ?」

聞き返したアレクの目線がセシリアの顔からふっと外れた。何かに目を留めるとかすかに目を見開いた。それからセシリアにもわかるくらい大きく息を吸い込んで言った。

「別におかしなところはない」

「本当ですか」

「本当だ。……ただ給仕とはいえ他の人間の目に触れるのは口惜しいな」

アレクの言葉に、セシリアは振り返り姿見にしっかりと自分の後ろ姿が映っているのをみとめた。

「わっ」

セシリアが慌てて後ろを向く。そしてすぐに直接アレクに背中を向けているということに気付いて、背中に両手を置いてアレクへと向き直った。

「バタバタしているのも子犬のようで可愛らしいが、おかしなところなど何もないのだから堂々としていればいい」

アレクは左手でセシリアの手を取り、右手をセシリアの腰に添えた。ただのエスコートだとわかっていても、素肌が露出しているすぐ下の部分にアレクの手が置かれていて頬が熱くなる。

「王太子妃になれば良くも悪くも皆の注目を集める。はったりでもいいから堂々としていればいい」

「でも、私は」セシリアは言いかけて顔を上げた。

アレクと目が合う。アレクの瞳は、言葉とは裏腹に感情が揺らいでいるように思えた。セシリアは言うか言うまいか少し迷ったあと、口にした。

「私は神隠しにあった女です。皆になんと言われるか」

「お前は実際には神隠しにはあっていない、そうだろう」

「そうですが……」

「仮にあっていたとして、好きで神隠しにあったわけではないだろう。お前に非はない。神隠しにあった女が王太子妃なれないという決まりもない」

話しているうちにアレクの瞳に感じた感情の揺らぎは消えていた。

「俺の(きさき)については誰にも口を出させない」

ぐっとアレクの手に力がこもる。セシリアは少し怖いと思ったけれど、アレクから目が離せなかった。セシリアが固唾をのみ、それで我に返ったようにアレクの手から力が抜ける。

「すまない。食事にしよう」

アレクに導かれセシリアは食卓についた。昨日アレクが言った通り、セシリアのすぐ隣にアレクの席が設けられている。

給仕の目があるなか、夕食中の会話は今日あった出来事など他愛のないことに終始した。

先程セシリアが少し怖いと思ったアレクと違って、いつも通りのアレクだった。

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