どうしましょう
すみません。( ; ; )一部、主人公の語り口が変更、訂正しています。
「聖騎士様を、どうやってみつけたら良いの?」
私、アナスタシア・タンザナイトは、思わず言葉を漏らしてしまった。
自分で言うのもなんだが、魔法関係において、私が悩むことなど滅多にないのです。
なぜなら、大抵のことは、魔法でちゃちゃっとなんとかなってしまうので。
だけど、今回ばかりはどうにも出来そうにない。
聖女と間違え、聖騎士を召喚してしまった。それは良い。いえ、良くないですけど……とにかく探そうにも、聖騎士様がどんな顔なのかわからない。
私は必死になって記憶を探る。もちろん過去視の魔法も使ってみたけれど、妨害する何かがあるのか、過去視ができず、弾かれてしまう。
こんなことは初めてです。
さすが神に愛された方……。
背が高かったと思うんですけど……。あと、髪の色は黒かった。黒い服も着ていました。司祭様のお洋服とも騎士様のお洋服とも似ていたような気がするのだけど……不思議な形のお洋服だった気がします。
でもどれもこれも、“気がする”ばかりだわ!
半ばパニック状態に陥ってグルグルと考えを巡らせていると、物置のドアが2回ノックされた。
「アナスタシア様、そろそろお戻りくださいませ」
「ごめんなさい、今開けます」
侍女のミナの声に、慌てて結界を解いた。
「アナスタシア様、少し寒く……。……んまあっ‼︎ これは一体どういうことですの⁈」
粉々になった椅子を見て叫んだミナは、すぐに私が座り込んでいるのをみつけ、目を丸くした。
「アナスタシア様‼︎ 何をなさっているのです⁈」
慌てて走り寄ってくると、私の両手を優しく握る。あ、あたたかい。
自分の手が冷たくなっていることに気づいた私は、自分がずっと緊張していたのがわかりました。
「大丈夫ですか? どこか怪我でも?」
私は首を振り、慌てて立ち上がる。
「違うの。……私……」
5年前から私の侍女としてそばにいるミナは、兄姉たちとはまた違う、頼りになる存在であった。
思わず涙がこぼれそうになる。
が。
「……また悪戯をなさいましたね?」
あ、怒ってますね?
笑顔の裏の静かな怒りに、私の涙も引っ込んでしまった。
カイ国との国境近くの森に魔獣が出るようになったのは、半年ほど前から。最初は小さな異変だった。森から動物が消えたのだ。そして、調査に出向いた役人が、戻って来ない。
彼らの捜索に出た騎士団からの報告で、魔獣がいることがわかったのだ。
この国では、魔獣を鎮めることができる力を持つのは、王族のみとされている。それ故に、王族は、王族でいられるのだ。
ここ数百年ほど平和が続き、魔獣など存在していなかった。どうも森の奥にある聖なる封印が施されている祠の結界が切れたらしい。その封印を再び結ぶことができるのが、王族か、聖女達なのだ。
「愚かなことをしたものね」
私は、王太子妃の前で俯き、震えた。
王太子妃ペリドット様。
元は男爵令嬢ながら、王立アカデミーが誇る才媛で、王太子殿下の婚約者となってからは数々の改革を行い、政治家として才能を発揮している。陛下の代わりとして。
そんな彼女とこうしてすぐに会えるのも、侯爵家ゆえだ。タンザナイトに生まれて良かったわ……。
また、私にとっては、大好きな“あの方”の義理の姉であった。
「ペリドット妃殿下、この度はアナスタシアがとんでもないことをしでかし、言い訳のしようもございません」
父であるタンザナイト侯爵が言うと、ペリドット様は苦笑しながら
「そうですね。アナのしたことは、簡単に許されることではないわ」
と答えた。
ですよね。許されないですよね。はい。わかっています。
「でも、アナの気持ちもわからないでもないのです。オニキスのためだったのでしょう? もう3ヶ月も帰って来ないものね」
その通りだけれど。今思えば、だからと言ってして良いことではなかった。でもあの時の私は、なぜかそうしなければいけないような感情が湧いてきて……。
大好きなあの方、第二王子のオニキス殿下。彼にこれ以上危ないことをさせたくなくて……彼の力になりたくて、聖女を召喚しようと思いました。
私は同い年の彼が大好きでしたが、派閥の関係から、彼との婚約は望めなかった。この国一番の魔術師である私がオニキス殿下の婚約者になったら、パワーバランスが崩れてしまうのだ。また、オニキス殿下は昔から、政略結婚はしないと宣言している。王になるつもりなど全くない彼は、権力を身につけることで、兄と争いたくないのだ。
聡明なオニキス殿下は、穏やかな好青年である。ペリドット様には申し訳ないが、子供の私でもわかるほど少し、……問題のある王太子殿下とは違い、彼を次の王にと推す声もあったのだ。
オニキス殿下が封印のため森へ入って3ヶ月。魔を封じることができる王族だからか、最初の調査団のように失踪してしまうことはないけれど、手こずっているのは間違いなかった。
「侯爵、この件は私が預かります。そして、アナに解決してもらおうと思っています。アナは、筆頭魔術師候補。今後も問題が起きた時、解決できる力を身につけてほしいのです」
ペリドット様は微笑み、パチンと扇を閉じた。
「アリス。例の者とアナをひきあわせなさい。出来るだけ早い方が良いわね」
アリスと呼ばれた美貌の秘書官が、スッと一歩前に出る。
「……かしこまりました」
「アナの力をもってしても、聖騎士様の行方はわからないのでしょう?」
「はい。失せ物探しの魔術など試したのですが、全く痕跡が見当たらないのです」
お父様が答える。
「では、古典的な方法で行きましょう。ただ、聖女関連は民の心の拠り所でもあります。それを、気軽に呼び出してしまったことがバレたら、アナもただでは済まないかもしれない。それ故に、王宮の騎士団は動かしません。侯爵家の騎士達も最小限にとどめるように。かわりに、ある人物をアナに紹介します。その者と協力し、10日以内に聖騎士様を見つけるのです」
そういえば、10日後に近隣諸国の王族達を招く国際会議が王都で開催されるのだった。
私ったら、どうしてこんな大事な時期に、こんなことをしでかしてしまったのかしら?
我ながら馬鹿じゃないかと思います。でも、なんだか誰かに操られたように体が動いて……。
「それから、アナ」
急に名前を呼ばれ、私ははっと我に帰る。
「はい」
「これからあなたに会わせる人物は、権力とは無縁の者だと心得ておきなさい。もちろん侯爵家の者達もです」
これはどういうことなのだろう?
自分で言うのもなんだか、侯爵家の者も私も、傲慢な人間ではないと思うのだけれど?
疑問に思いながらも、私とお父様は
「かしこまりました」
と答えた。