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不思議の森でつかまえたい!  作者: 倉本たかみ
1/7

プロローグ

「ど……どうしましょう……」

 空っぽの部屋を見つめ、アナスタシアはただ茫然としているしかなかった。

 そこにあるのは、魔力の残滓と、消えかけた魔法陣。

 アナスタシアが、王宮図書館からこっそり借りてきた禁書に書かれた魔法陣だ。侯爵令嬢であり、王国の魔法使いを束ねる筆頭魔法使い候補のアナスタシアだからこそ、見ることが許された古書ではあったが、流石に持ち出しはまでは許されていなかった。それを持ち出して、挙句使用したはいいが、書き間違えた。

 もう一度言う。書き間違えたのだ。


 スターライト王国の中でも、魔法使いを輩出することが多い家系の、タンザナイト家。魔法使いは数が少なく、どの国でもとても貴重な存在だ。現侯爵夫妻には3人の子供がいる。長男のヘリオドール、長女のマリーゴールド、末の妹アナスタシア。3人とも、選ばれた優秀な者のみが通うことのできる、王立アカデミーに籍を置く優秀な子供達だ。

 中でも圧倒的な魔力を誇る末の娘、アナスタシア・タンザナイトは、いつでも注目の的だった。

 その魔法の実力だけで言うならば、王国だけではなく近隣諸国あわせても、彼女を超える者はいないとされている。

 しかし、彼女はそれだけで注目されているのではなかった。

 驚異的なほどの魔力量と強さとは裏腹に、まるで砂糖菓子で作られたような少女で、ふんわりとした緩やかなウエーブの水色の長い髪と、長いまつ毛に縁取られた月夜のような青紫の瞳と、透き通るような真っ白な肌の、華奢で儚げな美貌の持ち主なのだ。さらに声まで可愛いと評判で、16歳の末娘は家族からも領民からも魔法省の役人たちからも溺愛されていた。


 ただ残念なことに。

 生まれた時から恵まれた環境に育ち、才能や美貌にも恵まれたアナスタシアは、あまりにも……ドジっ子だった。

 アナスタシア・タンザナイト。

 誰もが微笑まずにはいられないほど、可愛すぎる美少女は、危なすぎるドジっ子として、いつでも周囲の注目の的であった。

 


「聖騎士様……だったわよね」

 聖女召喚のために描かれたそれは、残念なことに、大事な記号が一つ足りていなかった。

 聖女召喚ではなく、聖騎士召喚。

 アナスタシアは、聖女を呼ぶつもりが、聖騎士を呼んでしまったのだ。

 広大な侯爵家の庭の片隅にある、物置小屋。

 普段人の出入りが少ないそこは、普段からアナスタシアのお気に入りで、姉や兄と喧嘩した時など1人になりたい時に、よく来る、アナスタシアのお気に入りの場所だ。そのため、アナスタシアの侍女であるミナが、彼女専用の可愛い白い木製のチェアを置いてくれた。

 その椅子は、多分聖騎士が逃げる際に壊れてしまった。床に散らばる白い木片とリボンをみつめ、アナスタシアは少し泣きたくなる。

 魔法陣が発動し、一瞬ではあるが男性らしき姿が見えた瞬間、アナスタシアは魔力切れを起こしてしまった。そして意識を失っている間に、召喚された聖騎士は、魔法陣の持つ拘束力を凌駕するほどの力で、この部屋から逃げ出したらしい。

 らしい、というのは、見ていないからわからないのだ。

 基本的に、アナスタシアの強力な結界がはられているこの空間から、普通の人間が逃げるのは、無理だ。部屋から出ようとしても出られず、見えない何かに弾かれてしまう。

 けれど、聖女や聖騎士となれば別であっても不思議ではない。そもそも聖女や聖騎士は異世界人だと言う。きっと、アナスタシアとは全く違う、異次元の力を持つのだろう。

 だから心配性のミナが、アナスタシアの異変に気づかず、駆けつけて来ないのだろう。

 ミナは、アナスタシアに危険が迫ると、まるでどこかからずっと監視していたかのように現れる、優秀な侍女なのだ。そのミナが来ないと言うことは、この空間は未だ閉ざされた結界のままということなのだ。

 すなわち、アナスタシアにとっての安全地帯。

「とにかくこのままではいけないわ」

 聖騎士や聖女は神に愛された存在。蔑ろにできるわけがない。

 すぐに保護して差し上げなければ、とアナスタシアは思うのだが。

「聖騎士様がどんな人なのか、これっぽっちもわからない……」

 王国一の魔法使い。

 アナスタシア・タンザナイト。

 ガックリと項垂れて床に膝をつき、ドレスや両手が汚れるのも気にならないほどの絶望を味わっている彼女は、今、人生最大のピンチに陥っていた。


 

 


 

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