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性格極悪少女と死者の贈物

綺羅も悠も功一も。

聡も日向も静音も。

誰もが静寂の中で息をのんでいた。


日向はテーブルに長さ20cm直系10cmのカプセルの形をした暗号解除型ボックスを置いた。

黒崎玲が作ったものだ。


綺羅は熊の縫いぐるみに隠されていた球体を手にした。


功一は綺羅に

「その球体をはめ込めばいいのか?」

と聞いた。


綺羅はそれに

「ただ嵌めれば良いっていうものではない」

と告げた。


綺羅の手にしている球体には幾つもの線が掘られその線上にランダムに穴が開いている。

球体には他にローマ字が4つ書かれているだけであった。


NSEW…つまり東西南北だ。


聡は綺羅に

「そのどの線のどの穴に嵌めれば良いかということか」

と告げた。


綺羅は頷いた。


悠はそれに

「綺羅は分かっているのか?」

と聞いた。


綺羅は悠を見ると

「ああ、叔父がこれをくれる時に『森で出会う熊さんが拾ったものから始まる』と言った」

それは恐らく

「イヤリングだ」

と告げた。


静音が「ああ、あの…アレだよねぇ」と答えた。


日向は腕を組むと

「??訳が分からんが」

そう言う絵も無ければ形もないし

「イヤリングですらないが」

と告げた。


綺羅はそれに

「英語に直すんだ」

と言い

「White Shell Tiny Earringsだ」

と告げた。


功一はフムフムと紙に書き

「こういう場合は大抵頭文字を取っているな、ドラマでは」

WSTEだろ?

と呟き、目を見開いた。

「これくらいなら俺も分かる」

Westか?


綺羅はほぉと感心すると

「功一でも分かるのか」

と告げた。


功一は嫌そうに

「おいおい」

俺は名探偵になるんだ

「当然だろ」

ったく

とビシッと綺羅に突っ込む手真似をした。


それには全員が苦笑した。


悠は困ったように

「綺羅」

と名前を呼んでたしなめた。


綺羅は功一を見ると

「まあ、お前の言う通りだ」

と言い

「だが、西も幾つもの起点の穴がある」

答えはその中の一つ

と告げた。

「俺でも立花でも思いつく日付け」

それは神楽和則が亡くなった日だ


「母だと俺だけで立花には考えつかない」

だが神楽和則は調べるための起点だ

「必ずこうやって通る道だ」


だから彼の亡くなった…全てが始まった日にしたと思う。

恐らくその黄道の西。

陽の沈むところからだろう。


綺羅は球体を聡に手渡し

「神楽和則が亡くなったのは冬…だったな」

と呟いた。


聡は頷き

「ああ、12月3日だ」

と言い

「つまり春分秋分は真西に沈むが冬は西よりは少し北だ」

と呟いた。

「これか」


西と北の間にある点をボックスの半球の奥の針に射した。

そして、ふたを閉め

「ということは、6桁の暗号は」

と回し始めた。


綺羅は頷いて

「そうだ」

KAGURAだ

と告げた。


揃えると球体がそれぞれ回り始め一周すると止り地球部分の下が浮き、聡はそれを引き出した。


中には札の付いた鍵とメモが入っており、メモには暗証番号と契約者名が書かれていた。

貸金庫のものだと直ぐに誰もが判断できた。


綺羅は聡を見ると

「お前に任せる」

と告げた。


聡は頷き日向と静音を見ると

「行くぞ」

これで父を落とすことができるだろう

と告げた。


日向は聡の決意を理解すると敬礼し

「はっ!」

と答えた。


静音もまた敬礼した。


三人は札に書かれた東都銀行文京支店へ行くと貸金庫から数枚のDVDと小さなカセットと電話機と束になった書類を持って戻ってきたのである。


カセットには綺羅が聞いたことのない…だが深く綺羅と繋がっている黒崎悠里の声が入っていた。

黒崎悠里の最期の電話であり彼女が何故殺されることになったのかを解明するモノであった。


『ずっと忘れていれば良かったのに…君があの夜起きた時には君の父も俺の異父兄も義弟も全員死んでいた』

『私がこの手で殺したんだ』


…私の人生をこちらに導く切っ掛けとなった黒崎零里の血を根絶やしにすることと私が愛して止まない異父兄と決別する為に…


悠はそれを聞きながら涙を落とし、綺羅はただただジッとそれを見つめていた。

功一は悠と綺羅をそっと引き寄せ、包み込むように支えた。


火事で記憶を失っていた悠里が記憶を取り戻す切っ掛けとなったのが玲の調べた神楽和則の事件の真相でありそこへ行きついた共に入っていた書類であった。


それはまゆずみ勲が関わったコールドケースなどの事件を推理した正に『パーフェクトクライムの資料集』であった。


綺羅は目を細め

「あんたが俺に謝った理由がこれだったのか」

と小さく呟いた。


『気付いてしまったことで俺は君と悠の大切な母を奪うことになってしまった』


…だがな、謝る必要なんてなかったんだ…

「あんたのせいではなく」

…JDWの持つ魔性のせいだったんだからな…


聡はこの留守電を聞いた時の親友である黒崎玲の心を思い、唇を噛みしめた。

「玲…和則…すまない」

それから、ありがとう

「無駄にはしない」

そう呟くと日向と静音を見た。

「声紋分析をすれば立派な証拠になる」

それとこれを元にこれらのコールドケースを大々的に再捜査し必ず関係した全員に法の下で責任を取らせる


日向も静音を敬礼した。


聡は頷いて綺羅と悠と功一に頭を下げた。

「今回の件の協力を感謝する」

それから二人の母と叔父をこんなことに導いてしまって済まなかった


綺羅は首を振り

「あんたのせいじゃない」

それに

「あんたの今の父親に一つだけ救いがあるとすれば」

今のあんたを育てたことだと思う

と告げた。

「だから、あんたはこれまでの自分もこれからの自分も今の自分にも負い目を持つ必要はない」

ただあんたを育てた父親のケリはきっちりつけろ


聡は目を見開く穏やかに微笑み敬礼した。


『JDW』が襲撃事件を起こして一度は崩壊したがその中から芽生え始めた『JDW』の息の根を止める掃討劇がこの日のこの時から始まったのである。


パーフェクトクライムの資料集


まゆずみ勲は自室で逮捕に来た息子の聡とその配下の刑事たちを前に冷静に笑みを浮かべ

「そうか」

とだけ応えると抵抗するわけでなく逮捕された。


その際にこれまでコールドケースとされた事件と事故の関連書類と『JDW』の政財界のリストを隠すでもなく押収させたのである。


それで一気に全てが明るみに出て多くの政財界の人間が逮捕され権力で隠していた事件が白日の下に明らかになったのである。


聡は勲と取調室で対面すると

「俺は…貴方を尊敬していた」

事件を解決に導く信念と統率力は俺にはまがい物には見えなかった

と告げた。

「なのに、何故」

実の両親や家族を手に掛けてまでその道を


勲は静かに笑むと

「母が俺を誕生させたのはJDWを復活させるためだった。ただそれだけの為だった」

父は母の隠し持っていたリストの人脈で会社を大きくしたが一般会社でしかない

「公共の権力が必要だと母は俺に警察官のトップになるように勧め導いた」

俺は聡一が羨ましくも憎かった

「母に詰られようと見下げられようと己の正しいと思った道で笑って生きている異父兄が」

俺はそう言う風には生きられなかった

と告げた。

「だから聡一の息子のお前を助け…育てた」

同じ道に落とそうと思ってな


聡は勲を見つめ

「俺は立花の姓だが立花聡一の子供ではなく立花颯…そう黒崎颯の息子だ」

聡一叔父さんが戻ってくる前に立花の姓を継がせるために父は養子に入って結婚し俺を誕生させた

「ただ父たちや従弟の悠里や玲と似ていなかっただけだ」

と告げた。


勲は笑って

「ああ、お前が20歳くらいの時にそれを知った」

悠里と玲を助け育てていた箱嶋という養父が一枚の写真を持っていてな

「それを見た時にお前の出生が分った」

お前が黒崎茜と一色一颯の息子である颯の子供だとな

「お前は一色一颯にソックリだ」

と優しく微笑んだ。


それを聡の後ろで聞きながら日向は勲が本当は聡を同じ道に落とそうと思っていたのではないと感じていた。

もしそうであるなら…早々にJDWの引継ぎを行ったはずである。


だが、それをしていなかったのだ。


「この人は己を断罪させるために局長を育てたのかもしれない」

だからこそ

「正しいことを見極め己に不利益が生じることでも立ち向かうこの人になったんだろう」

そう思っていたのである。


そういう意味で皐月綺羅も言ったのだろうことが日向には分かった。


勲はゆっくりと俯き

「そう言えば、二人の養父を山中に埋めたが…その遺体も少し前に発見されたな」

今は良かったと思っている

と告げた。


聡は彼を見つめ

「貴方がこの道を進み続けたことが俺は残念でなりません」

誰でも過ちを犯してしまうことがある

「だがそれが過ちだと気付いた時に踏みとどまって踵を返すことが大切なんだと俺は思っている」

そう言って育ててくれたのは貴方なのに

と告げ、席を立つと

「ただ一つ…JDWの全容を示す書類を明らかにしてくれたことを感謝します」

JDWはもう復活することはありません

「安心してください、お父さん」

と取調室を後にした。


全てを自供し明らかにしたあと、まゆずみ勲が拘置所内で死んでいるのが見つかった。

自殺だったのか。

病死だったのか。

外傷はなく一杯の飲みかけの水だけが残されているだけであった。


死因は心筋梗塞であった。


それから暫くして綺羅の元に数枚のDVDが送られてきたのである。

送り主はJDWの事件を全て片付け警察庁刑事局長を退任した立花聡からであった。


住所は岩手県雫石町となっていた。

全ての片をつけ神楽進や一途、正義など神楽家の人々に報告をした後に東京を離れて移り住んだのだ。


綺羅は受け取り

「DVDか」

もう謎かけは沢山だぞ

と言いながらデッキにセットした。


悠は笑いながら

「綺羅、もう立花さんは警察官じゃないんだから」

と告げた。

「手紙にも雫石で農業をしながら親友と暮らしているって書いていたじゃないか」

しかしその親友が神在月さんなのが

「でも立花さんが父親であるまゆずみ勲の逮捕後に死んでもいいと思った時に電話をして止めたのが神在月さんだったんだ」


手紙には『親友である神在月直に「俺と玲は和則から生きる役を託された。そして玲からもお前と共に生きる役目を託された。だから生きようと思う」と言われ目が覚めた。世間が世の中が俺をどう言おうと関係ない。俺は俺の為に生きてくれる友と生きようと思う』と書かれていたのである。


綺羅はそれを読み微笑んだが、同封された写真を見て

「しかし作家だから仕方ないが…鍬を持って座り込んでいるとは」

情けない奴だ

「ただ、この写真から一つ謎が解けた」

と呟いた。

「あの時、神在月が病院で俺達が来ると連絡を受けたと言っていたが知らせたのはこいつだな」

箱嶋飛鶴だ


写真の片隅に笑って立っているのが写っていたのである。

「まあこの分だと農作業は立花だけの仕事になるな」

綺羅は呆れたようにそうぼやいた。


その時、DVDが回りテレビ画面に映像が映し出された。


そこには綺羅によく似た美しい女性が写っていた。

母親の黒崎悠里である。


「玲、元気にしてる?」

ビデオレターなんて驚いたでしょ?

「凄く素敵な知らせがあったので無理して買ってしまったの」


今日ね、とても最高の知らせがあるのよ

「私の中に悠の妹か弟がやってきてくれたの」

天使が降りてきてくれたのよ

「愛してるわ、マイスイートエンジェルよ」

悠と二人でマイスイートエンジェルズね

「勇仁さんと私の愛するエンジェル」


大切な天使よ


幸せそうに報告する母の姿である。

綺羅は目を見開くとじっと画面に見入った。


悠は微笑み綺羅を抱き寄せると

「綺羅のことだぞ」

今度、お父さんとも一緒に見ような

と告げた。


綺羅は目を潤ませ頷くと

「母は…俺の誕生を喜んでくれたんだな」

こんなにも

と微笑んだ。


DVDには綺羅の誕生を喜ぶ黒崎悠里の姿が流れていた。

その毎回届くビデオレターを玲は大切に保管していたのだ。


『君がいつか全ての謎を解いたら…そこにある全てをあげよう』


幸せな姉の姿を。

幸せな姉の心を。


君を愛する姉の記録を。


…全て君にあげよう、綺羅…


綺羅は零れていく涙を止めることなく潤む視界で微笑む母の姿を見つめ続けたのである。

この時、外では穏やかな日差しが町を照らし出していた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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