性格極悪少女と天球儀の在処
悠は心配しながら
「立花さん達は大丈夫かな」
と呟いた。
綺羅はさっぱり
「大丈夫だ」
と答えた。
功一は驚いて
「そんなあっさり」
両親すら殺した相手だぞ
と告げた。
綺羅は椅子に座り窓の外を見た。
外はまだ明るく街は光の中で活気にあふれていた。
綺羅はそれを眺めながら
「…俺はアイツらを信じている」
と告げた。
「きっと間違えたりはしないだろう」
その頃、三人の車はまゆずみ邸へと到着し静音を車に残して聡と日向が中へと足を踏み入れた。
何かあった時に静音が生き証人になるのだ。
聡は鍵を開けて周囲を見回しエントランスで立ち止まった。
日向はそれに
「局長?」
と呼びかけた。
聡は振り向くと
「おかしい」
と呟いたのだ。
「…人の気配がない」
日向は一瞬何を言っているのか分からなかった。
聡は二階への階段に向かいながら
「家政婦の浅野さんも料理人の牧田さんの気配もない」
と告げた。
「父もいないみたいだが」
誰もいないのは…変だ
まゆずみ邸には家政婦と料理人が常にいて部屋の清掃や何くれとなく仕事をしている。
もちろん、聡にしても勲にしても自室の掃除は自分でしている。
警察庁に勤める以上は人に知られてはならない極秘書類などもあるからである。
だがしかし。
人が居ないということはなかった。
聡も日向も警戒しながら階段を上り二階の倉庫の部屋へと入った。
そこにマスターキーがある。
聡の部屋の鍵は自分で持っているが勲の部屋の鍵はマスターキーのみなのだ。
ただ、その鍵を保管しているボックスは指紋認証式となっており聡と勲以外には開けられないようになっていた。
聡は手を付けてボックスを開けると中から勲の鍵を取り出した。
後戻りはできない。
いや、もう戻るつもりはない。
「ここでJDWの…父の凶行を止めなければ」
静寂が広がる広々としたまゆずみ邸の中を二人は歩き、勲の部屋に来ると扉を挟んでそれぞれ壁を背に戸を開けた。
日向が「私が先に」とそっと中へと入りシンッと静まり返った状態の部屋を見回した。
「大丈夫のようです」
聡は頷き中へ入ると
「探るぞ」
とそれぞれ手袋をして天球儀を探し始めた。
「前に一度見た時は…机のここに」
と机の上の本の形をしたボックスから鍵を取り出して引き出しを開けた。
が、そこには無かった。
「もしかしてと位置を変えたのかもしれないな」
そのまま全ての引き出しを探したがなかった。
その間、静音は車を止めてハラハラしながら周囲を車の中から伺っていたのである。
もし怪しい…いや勲と繋がりのある人物や勲自身が現れたら知らせなければならない。
「…こういう役も緊張しますねぇ」
その時、一台の車が見ていた屋敷の前のミラーに映ったのである。
「ま、さか」
しかし
静音は日向の携帯を鳴らした。
危険の知らせである。
その頃、聡と日向は懸命に天球儀を探していたのである。
日向は携帯が震えるのに
「…何者かが…館に来たようです」
と告げた。
聡は息を吐き出し
「…父の隠しそうに場所…」
どこだ
と言い、部屋を見回した。
机に本棚。
意外とさっぱりした部屋である。
窓側には下に棚がありそこは探ったがなかった。
その上には置時計と勇退記念の置物が置かれているだけである。
が、聡はハッとすると勇退記念を手にした。
少し大きめの正義の女神…法を司る女神の像である。
聡はそれをひっくり返した。
「ここに無ければ…」
日向も固唾を飲み込んだ。
静音は入ってきた車が後ろに止まると少し前に出した。
車からは勲が降り立ち、静音を見た。
静音は敬礼し
「申し訳ありません」
局長が書類を忘れたということで送迎を
と告げた。
勲はふっと口の端を上げると
「やはり…か」
と独り言のように敬礼を返して館の扉に手をかけた。
その時、扉が開き聡と日向が姿を見せた。
聡は勲を見ると
「お父さん、お帰りなさい」
と敬礼した。
勲は「ああ、書類を忘れるとは気が緩んでいるようだな」と言い
「気をつけなさい」
と敬礼して見送った。
聡は日向と車に乗り込み静音に
「出してくれ」
と告げた。
静音はアクセルを掛けると車を走らせた。
日向の服の中には天球儀があった。
三人は安堵の息を吐き出しながら国立図書館の新館別棟へと向かったのである。
そして、待っていた綺羅と合流したのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。