第009話「娘は令嬢から間者にクラスアップしていた(公爵視点)」
あれからしばらく泣いていたフレイヤは、涙を袖で拭いた。
それを確認してから私は本題について話し始めた。
「それじゃあ、フレイヤ。
これから起きることを共有させてくれ。
特にタイム嬢の冤罪に関わるものに関しては詳細も含めて教えてくれ」
「ええ、分かったわ」
そう言って、フレイヤが私たちにこれから七年間に起きることを語り始めた。
第二王子の暗殺をはじめとして、帝国との戦争、フレイヤの誘拐、国民の暴動、王女の誘拐と殺人、王の暗殺未遂、そしてタイム嬢の処刑とその直後に起きた過去に戻った言わば死に戻り現象。
それらの感想を一言で言えば、どんな妄想だ? それはだった。
「その顔を見れば言わんとしていることは分かるけど残念だけど全部私たちが経験したことよ」
「ああ、安心しろ。フレイヤが嘘をついていないことも分かっているし、話した内容に関しては疑っていない。
むしろ二人の最近の行動が第二王子の暗殺を阻止するためと考えれば、今までの行動も理解できる」
フレイヤの話はどれも十年に一度起きれば運が悪い程度の出来事にしか過ぎないため、一見すれば全てただの妄想に終わってしまう。
しかし、事件の詳細がどれも妄想の一言で済む内容ではなく、否が応でもその内容を信じざるを得ないのだ。
「それで、フレイヤは一体私たちにどんな協力をして欲しいの?
私たちもできる限り協力はするけど、正直に言わせてもらえば今現状では呪いバチがパーティーの中に侵入しないように注意する程度しか協力出来ないわ。
フレイヤが協力して欲しいのはこれじゃないでしょ?」
「ええ、私もそれ程度なら二人に協力は頼まなかった。
私が二人に協力して欲しいのは……これよ」
フライヤがポンと投げるように渡したいくつかの紙束。
そのうちの一つを手に取り、目を通す。
「なっ、これは!!」
「そう、タイム家が犯した罪の証拠よ。
これをリリーが二人に渡したと言うことにして欲しいの」
紙束に記載されていたのは武器、火薬だけならまだしも毒薬の購入履歴や国家反逆の計画書に始まり、賄賂やタイム家が自身の手でもみ消した過去の事件などの証拠が記載されており、それを見た瞬間、私は娘の言わんとすることを理解した。
「つまり、もし万が一冤罪で処刑されそうになった時に、フレイヤ……いや、この場合はリリー嬢か。
リリー嬢は私たちソウル家に両親の罪を告白して、その証拠を集めていたことを証明して欲しいのだな」
「ええ、その通り。
そうしてくれれば、少なくともリリーは国家反逆には関わっていないことが証明されるし、そうすれば多少の立場は悪くなっても処刑される最悪の運命だけは回避できるわ。
加えて言えば、将来の結婚相手の第一王子のために正しいことをしましたって後ろに付けて王に恩を売っておけば、公爵家と協力した事実と二人の仲を合わせれば、二人が結婚って言う未来もありえない話じゃなくなるわ」
「……なるほど、この証拠を集めるためにフレイヤはリリー嬢と入れ替わりを元に戻さなかったのだな」
「まあ、それだけじゃないけどそれも一部入っているわ。
ここじゃどうしても証拠は一部しか手に入らないからね」
確かに公爵と言えど確実な証拠がない限りは強制的に家の中を調査など出来ない。
ならば、その家の人間となって調査するというのが古くからの調査方法で、実際に我が家もメイドや執事として間者を送り、証拠集めをすることもある。
しかし……
「フレイヤ。よく一日でこれだけの書類を集められたな。
昨日までのフレイヤならこんなこと出来なかったはずなんだが、七年間の間に一体何があったんだ?」
量自体は少ないがそれでも確実に相手を逃げらせない証拠を的確に掴むと言う一流の間者の仕事をしていた自分の娘に若干旋律する。
「そりゃー、閉じ込められたときのために鉄の棒でカギを開けたりとか、暗殺者を見つけるために相手が隠れたり隠したりしそうな場所を見つけたりとか、相手に気づかれずに移動したりとか、その他諸々を王妃教育の自主勉強の一環で……ね。
こっそりお父様の間者の人を脅してー、これ以上は言えないな~」
誤魔化すかのような、そうでないような変なしゃべり方をしながら、不意に何もないはずのところに指を指すフレイヤ。
そこには一見すれば何もない場所だが、確かに重要な書類などを隠している場所であり、フレイヤの言葉の信頼性を高めさせた。
「フレイヤ、あなた間者を脅してって、そんなことしてたの?
正直、彼らに申し訳ないわ」
「仕方ないでしょ。流石に私の技術で貴族の隠し場所なんて知らなかったんだし、当時は二人もリリーのことは協力できなくて一人で行動するしかなくて、証拠集めるにはそうするしかなかったんだもの」
「言っていることは分かるが……何でこの子はお淑やかに生きられないんだ。
一体どこで育て方を間違えたんだ」
昔から令嬢らしからぬ娘だったが、気づかぬ間に王妃ではなく間者としてクラスチェンジしていた娘に思わず頭を抱えてしまう。
「まあ、とは言え、分かった。
冤罪の子を処刑させるわけにはいかないし、もしこの件について二人が何かしらの不利益になることが起きた際はこの証拠を使用して、二人を助けるよ」
「ありがとう。お父さんならそう言うと思ったよ」
そう言って、軽く頭を下げる娘に気にするなと言いながら私はその頭を軽く頭をぽんぽんと叩くのだった。
前準備がようやく終わったので、次からは一気に物語が進めたら良いなと思います。
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