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第007話「公爵にばれてしまった二人の令嬢」

■04月05日 午前:ジーク暗殺まであと二日


 公爵令嬢に私たち二人が入れ替わっていることがバレた後、部屋は一気に緊張した雰囲気が包まれていた。


「もう一度言うが、どうして二人は入れ替わっているんだい?」

「あー、えーと……」

「フレイヤ! 誤魔化さずに言いなさい!」

「はい、分かりました!! だからその鉄扇子で脅すのは止めてくださいマイマザー!!」


 誤魔化そうとした瞬間に夫人の手から出たパンと言う固そうな扇子を叩く音を聞くや否やすぐさま土下座するフレイヤ。

 その光景を前に深いところまで関わっていながら椅子に座っている私はかなりの気まずさと罪悪感を抱き、フレイヤの隣に立ち、同じく土下座をした。


「な、タイム嬢。君は悪くないのだから顔を上げなさい」

「いえ、ソウル公爵、公爵夫人。

 黙っていた以上は私も同罪なので私に説明させてください。

 申し訳ございません。実は昨日気づいたらフレイヤ様と体が入れ替わっていたのです。

 しかし、私もフレイヤ様も何で入れ替わったか分からないし、フレイヤ様の魔法を使っても元に戻せないから、取り合えずこのまま二人でそれぞれの振りをしようと決めて……その……」


 矢継ぎ早に言いつつもしかしたら二人をこの事件に巻き込むかもしれないと思った私は真実を少し隠しながら二人に必死に説明する。

 そんな私を前に少し考えを巡らせた公爵は話の内容を理解したのか深いため息を吐き、口を開いた。


「……なるほど。気づいたら急に体が入れ替わった……とそういう事だね。タイム嬢」

「はい」

「フレイヤ、だそうだが?

 何か弁解は?」

「あーはいはい、そうでーす。あーあ、バレちゃった。

 せっかく自由に伸び伸び過ごせると思った――――」

「フレイヤ!!」

「あ、はい、ごめんなさい!!」


 この人は本当に……

 私が精一杯考えた言葉を馬鹿にするかのようにもう隠せないと察した瞬間に、ぼりぼりと頭をかいてふざけた返事をしたフレイヤに私は呆れと軽い怒りを覚えつつも、同時に何とか公爵と夫人をだませたことに安堵と罪悪感を感じた。


「まあ、大体は状況は理解したよ。

 取り合えず一つ確認したいのだが、タイム嬢。

 もし君が望むのなら私が男爵に現状を説明して、家に帰らせることも可能なんだが、どうする?」

「えー、入れ替わりなんてそうそうないんだし私もう少しタイム家の令嬢として過ごし――――」

「フレイヤ? お父様は今、タイムのお嬢様に聞いているのです。少し黙りなさい」

「はーい。分かりましたよ」


 なんだか気の抜けるようなソウル一家の言葉に私の気も少し抜けてしまうが、一気に思考を元に戻す。

 確かに二人に説明すれば、フレイヤは自分の家に帰ることは出来る。

 だがしかし、誰があの事件に関わっているか分からない以上は、私が入れ替わっていることはそんな多くの人に知られない方が良いに決まっている。

 なので、国家反逆を企てていることを抜いても両親には知られるのは得策ではないため、私は更に深く頭を下げた。


「それでどうする? タイム嬢」

「あの、その、申し訳ないですが今はあまり家には帰りたくはないです。

 お父様は過去に私と同じくらいの女性に手を出していますし、私はただ娘だから手を出さないだけで、中身はともかくとして体はフレイヤ様の今の状況を知られて……その……」

「あ、ああ。そういう事か。それは確かにこちらとしても嫌だな」

「まあ、私もあんな脂ぎった手には触れたくないから私としても知られたくはないな~」


 私の言おうとしていることを悟ってくれたのか、もう言わなくていいとジェスチャーする公爵と気持ち悪いというかのようにゲーと何かを吐くかのような表情をフレイヤはした。


「はい、なので恥を承知でお願いしたいのですが、このことは内密にお願いします」


 そう言って、頭を深く下げる私の肩を公爵は軽くたたいた。


「分かった。それじゃあ、このことは君の両親含めてここ以外の人間には伝えないようにするよ。

 あと、タイム嬢。娘の代わりにこのことを話してくれてありがとう。助かったよ。

 うちの娘はこのように……その、あれでまともに話してくれなかっただろうから……」

「……それは、はい、十分に分かっています」


 何せこんな状況にも関わらず、飽きたのか寝そべってクッキーをボリボリ食べているような人ですもの。

 例え話をしようとしてもかなりの高確率ではぐらかすに決まっているし、そんな姿で弁明しても信じるなんてことはしないだろう。

……って、そう言えば。


「因みに何で私たちが入れ替わったのが分かったんですか?」


 そうだ。いくら不自然な言動があったとしても見た目は完全に入れ替わっている以上は、そう簡単に気づかないはずなのに、二人は一日と経たずに私たちの変化に気づいた。

 つまり、私たちが何処かで致命的な間違いを犯したのだ。

 ならば、今後の行動のためにもそのことは知りたいと思いながら公爵に質問すると公爵は、ああと軽く返事をした後フレイヤに手帳を出しなさいと出させた手帳のある一ページを私に見せた。


「まず私たちが疑問に思ったのが呪いバチのことについてだ。

 呪いバチは昨日説明したようにこの国では生息していないので、知らない人物が多い。

 だが、昨日も言ったように第二王子は呪いバチに一度刺されていて、次に刺されると死ぬことは確実だ。

 なら、万が一のことを考えてハチが現れた時にすぐに王子を離れさせられるように王子に一番近くに居る人物にそのことを話すのは当然だろ?

 つまり……」

「第二王子のジーク様の婚約者であるフレイヤ様がそのことを知らないのはおかしいとそう思ったのですね?」


「ああ、そういう事だ。

 加えて言うなら、この手帳に記されている筆跡はフレイヤの筆跡と同じだった。

 つまり、フレイヤは確実に呪いバチの名前を知っている。だが、目の前に居る子は呪いバチがどんな生物かは知らない。

 この時点で私は目の前に居るフレイヤが別人だと思っていた」

「えー、でもそれじゃあ私の中に居たのがリリーだと言うことは分からないじゃない?

 それについてはどう説明するのよ」


「……フレイヤ。お友達の前なのだからもう少し慎みを持ちなさいとあれほど……はぁ。

 フレイヤの言う通り、この時点では私はフレイヤの中に居るのがリリー嬢だと言うことは分からなかったし、場合によっては誘拐されたものの可能性もあったから、その準備も一応していた。

 だが、朝からタイム家からリリー嬢が来てそれをフレイヤが受け入れたと言うことを聞いてかつ部屋に入ってからしばらく経ってもまだ帰る気配が無いことから、リリー嬢とフレイヤの中身が魔法か何かによって入れ替わっていると言う可能性が浮かんだ。

 何せ、全くの赤の他人がその人の振りをしているのなら普通なら部屋に呼ばずにそのまま帰らせるからね。

 ちょうど娘の魔法ならそれが可能だったというのもあったけどね」

「な、なるほど」


 確かに言われてみるとそうだ。

 中身も記憶も完璧でも無いなら普通なら、寄せるのはそのことを知っている人だけでなるべくばれないように知らない人間は近くに寄せないはずだ。


「とは言っても、まだ可能性と言うだけだから後は勘だね。

 実は部屋に入った時もまだ確証はなかったが、あの後の二人の反応で確信して今こうなっているというわけだ」

「なるほどねー。まー、私もいきなり言われたから結構びっくりしちゃったからね。

 そりゃバレるか」

「はい、私も急に言われたのできっと顔に出てたと思います……」


 私たちの言葉に少し苦笑する公爵。


「まあ、実際結構分かりやすかったけどね。二人とも。

 ただ、こちらとしては誘拐の可能性が無かったことだけは確信できたから安心したけどね」

「それは……本当に申し訳ありませんでした」

「良いよ。良いよ。リリー嬢だって悪気があったわけじゃないんだろうし。

 さてと、それじゃあ二人の中身も分かったことだし、リリー嬢。すまないがしばらくフレイヤを借りても良いかな?」

「え? あの……すみませんが、まだ話したいことがあるのでもう少し後にしていただけると……」


 もう残り時間のことを考えれば出来れば事件のことについて話したいのだが……


「すまないね。ちょっと婚約パーティー関連でフレイヤしか見せられない書類関係があって、しかも至急見せないと危ないんだ」

「そうなんですか。

 それは仕方ないですね。分かりました。それまでここでゆっくり待っていても大丈夫でしょうか?」


「ああ、それはもちろん構わないよ。あともし何かあったらこのベルを鳴らしてくれ。鳴らせばメイドたちが来るから。

 さ、フレイヤ。こっちに来なさい」

「はーい。分かりました」


 そう言って、気怠そうな雰囲気を出しながらも扉へ進んだフレイヤを私は見送るのだった。


――――そして、そんな私を見送るリリーを尻目に公爵に着いていき、歩きなれた長い廊下を歩く。

 そして、その廊下の先にある公爵の部屋に着いた私は、ソファーに座った二人の反対側のソファーに座った。


「さてと、フレイヤ。即興でかなり困ったが、あんな感じで良かったのか?」

「はい、二人とも十分です。協力ありがとう」


 そう言って私は二人に対して微笑んだのだった。

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