第059話「身勝手な殺人犯の末路(バサナイト視点)」
二章も残り一話です。
楽しんでいただけたら幸いです。
■05月19日:事件解決から翌日
女帝が犯人と知られ、事件が全て解決した翌日。
帝国と王国の停戦協定は帝国側は女帝自身が自身の子を殺した罪を王国の公爵令嬢に押し付けようとしたことで、王国側は帝国の皇女を一人殺したことによって、結ばれず同時にこのような事件を起こしたとして帝国と王国側の両側はホテルの退去を命じられた。
それに対し、女帝は『こんな危険人物と同じ場所に居たら殺される。こっちから先に退去させてもらう』と叫び、腫れた顔を冷やしながらその日の夜にはさっさと自身の夫たちと一緒に自国へと帰宅し、国王たちも『今後の手続きがある』とのことで翌日の朝には国王は娘と一緒に自国へと帰宅した。
そんな女帝と皇配達とは反対に、その子供たちである皇子、皇女、そして私を含めた王国の残った人間は互いに協力して、このホテルで死んだ四人の遺体のエンバーミングと帝国へ送るための各種手配を帰宅の準備をしながら丸一日使って行った。
■05月20日 昼:事件解決から二日
そんな目が回るような一日が終わり、気づけば私たちは馬車に荷物を載せていた。
「さてと、これで荷物は全部だな。
忘れ物は無いか?」
「…………うん、無いよお父さん」
「はい、ありません」
「フレイヤ、かなり眠そうだけど大丈夫か?
昨日は教会への連絡や遺体の運送のための馬車のレンタルかなり頑張ってくれてたみたいだけど……」
「……ふぁぁ、別に大丈夫だよ。
そりゃ、眠いは眠いけど……短い間とは言え、レオン第一皇子とは遊んでもらったからこれくらいはしないと……ね……」
「フレイヤ、本当に大丈夫ですか?
先ほどから頭がカクカクしていますが……」
「大丈夫。大丈夫。
それにまだこれやんなきゃだしね」
「それは……国際裁判の手続き書ですか?」
「うん。そう。
今回私は帝国側。それも犯人である女帝に濡れ衣を着せかけられたでしょ?
だから、その裁判をするための手続き書作っているの」
「それはやはり、自身の身の潔白を証明するためですか?」
「一割はそれかな?」
「一割ですか? では残りの九割は?」
「……ふぁぁ、眠」
「本当に大丈夫ですか? フレイヤ。
別に急いで知りたいわけじゃ無いので後でも良いですよ」
「ああ、ごめんごめん、大丈夫大丈夫。
ん~、えーと、何の話だっけ……ああ、残りの九割の話か。
残り九割は再開する戦争の被害を少しでも少なくするためだよ。
もう帝国と王国との戦争は止められないし、多分、死に戻り前の三年間は戦争は終わらない。
だから、少しでもその被害を少なくするために裁判を起こすんだよ」
「戦争被害を減らしたい。
それは分かりますし、素晴らしい事だと思いますが、それと裁判の一体何が関係しているんですか?」
「普通は関係ないよ。
でも今回に関しては意外と関係大ありになるんだよね。
国際裁判は国同士の争いって言う立場から、基本的には中立的な別国の人間に裁判を行わせる。
そしてその判決内容、裁判内容については各国に知らされる。
もちろん、普通の国際裁判だったら、多少は気にはするけど大抵は自国に関係ないものだったら、どうなんだって言って終わるでしょ?
でも、今回は違う。
今回、女帝は公爵令嬢である私に殺人を起こした女帝自身がその罪を押し付けようとしたでしょ?
それはつまり、帝国側はその国のトップ自身が他国の重鎮に罪を擦り付ける可能性があること。
証拠を捏造して捏造した証拠を使って、帝国側に有利にことが運ぶように動く可能性があることを裁判を開くことで他国に周知させることが出来る。
そして、その情報を周辺国家は無視できない。
何故ならその情報は、例えばだけど帝国側に金が無くなった時に証拠を捏造して、他国から戦争資金を調達すると言う行動を帝国はする可能性があると言うことを知らせる情報だからだよ。
その一つの可能性だけで、周辺国家は帝国の一挙手一投足を血眼で見るようになるいや、そうならざるを得なくなる。
そして、周辺国家に見られる。それだけの行動だけで帝国はある程度行動が制限されて、戦線に投下される人間が少なくなり、結果的に被害を少なくできると私は推測しているわ。
だから、今回裁判を起こすの」
「なるほど、そう言う事ですか。
それなら是非とも成功させなければいけないですね。
因みに私に何か協力できることはありますか?」
「んー、基本的には今はないかな?
あったとしても裁判の証言に協力してもらう時だけだから、その時は協力してもらっても良い?」
「はい、もちろん、その時は協力させていただきます」
「ん、ありがとう。
と言う訳で、お父さん。申請書を集中して書きたいからこの馬車に乗るの、私とオズルの二人だけにして貰っても良い?
下手に気が散って誤字したくないし」
「ああ、ある程度は馬車は多めに用意しているし問題ないぞ」
「ん、ありがとう。
じゃあ、私、馬車に……ってえーと」
「第二皇子のパーヴェル・エンパイアです。
王国の皆様に最後の挨拶をしにまいりました」
お互いに退去する準備が出来て、最後の挨拶に来たのだろう。
突然、後ろに他の皇子たちを従わせながら現れた第二皇子は私たちに深く頭を下げる。
「今回は母、いえ、女帝のせいで多大なご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
また、亡くなった四人の遺体を帝国に連れていくための協力をしていただいて、ありがとうございました。
心より感謝いたします」
「いいえ、我々王国側こそ、国王が貴国の皇女を……その……申し訳ございませんでした」
「いいえ、お気になさらず、ソウル公爵。
元と言えば、女帝があのような愚行を起こさなければ起きなかったことなのですから……」
「そう言っていただけるとこちらとしても気が軽くなります。
ご気遣いありがとうございます」
そう言って、互いに頭を下げた第二皇子と公爵は互いに手を差し出す。
「次にもし会うとしたら戦場の場だと思いますが、ソウル公爵。貴方と貴方達の家族の健康とご健勝を私は祈っております」
「……はい、私も貴方達の健康とご健勝を祈っております」
そう言って、簡略的かつ形式的な挨拶を済ませた第二皇子と公爵は握手と軽く礼を済ませた二人は、そのまま一切互いを見ることなく、背を向けながら互いの馬車へと入り、それに倣うように私たちも互いに頭を下げて馬車へと入って行き、そして一台、また一台と自身の変える道へと進んでいった。
■05月20日 夜:事件解決から二日
ガタガタと揺れる馬車の中、外が完全に暗くなったことを確認した私は眼前に座る男へと視線を向けた。
「……さてと、そろそろ限界だし。
それじゃあ犯人に責任を果たしてもらいましょうか」
「やるのか?」
「ええ、もちろん。
あんなことをしでかしたんだから、犯人にはちゃんと責任は取ってもらわないといけないし、正直これが裁判させるよりも一番戦争被害を少なくする方法だからね。
戦争を止めたかったレオンのためにもやらないと」
「……そうか。
辛くはないか?」
「別に? 義父を殺してからもう何年、何十年も多くの人をこの手にかけているのだからもう数人増えても今更感あるし、それに冤罪を押し付けるのも慣れているしね。
辛いなんて言う資格もその気も私には無いよ」
「そうか。でも、本当に辛くなったら言えよ。
――――」
「その名前で言わないでって、何度も言っているでしょ。
でもまあ、ありがとう。その気持ちだけでも貰っておくわ。
じゃあ、早速だけど、行かせてもらうわね」
「ああ、いってらっしゃい」
「いってきます」
まるで家から出る私を見送るような一言を言った彼に軽く手を振り、返しの言葉を私は目を閉じ、自身の魔法を発動した。
■05月20日 深夜:事件解決から二日
「……痛っ!
……くそ、あの小娘め。痛くて眠ってもすぐ起きちゃうじゃない」
若干の熱気と湿気を帯びた馬車の中で目覚めた女帝は悪態を吐きながら目を覚ました。
あのホテルから逃げ出して丸二日。
全力で飛ばさせたおかげか、窓を開いた先には月夜に照らされている帝国が見えており、早ければ明日の昼頃には着くまで近づいていた。
「……帝国に着いたら覚えておきなさいよあのゴミ王国のクソガキめ。
私のありとあらゆる力を使って絶対に膝まずかさせてやるんだから」
ガリガリと爪を噛みながら、自身の隣で眠る夫たちを起こさないように注意しながら、寝覚めの悪さと顔に走る鈍痛を飛ばすかのようにワインを飲む。
「づっ、ぐぅ!!」
しかし、それだけではどうやら痛みを全部忘れるわけではないみたく、多少マシにこそなれど、その痛みで更に顔を歪ませた女帝はまるで八つ当たりするかのようにワインで机を思いっ切り叩いた。
「な、何だ!? 敵襲か!?
何だ。貴方か」
ガシャンと言う瓶が割れた音に反応して剣を手に目覚める女帝の夫たち、しかしそれが女帝によって起きたものだと分かった瞬間に、安堵し帯刀した刀をベッドに置くと囲むように彼らは割れた瓶を片手に持つ女帝に寄り添う。
「大丈夫か? まだ顔が痛むのか?」
「ええ、ずっとあれから痛くて痛くて、仕方ないの」
赤くはれた自身の顔を愛おしむかのように撫でる夫の手に触れながら、猫なで声のような甘い声色で夫たちに甘える女帝。
それはつい先日自身の子を三人も殺した人間とは思えない態度で私はそんな彼女の態度に思わず心の中で舌打ちをした。
「痛み止めの薬も効かないし、それどころか日に日に酷くなって――――」
ああ、もう本当に怒り以外の感情が湧かない。
何であんな下らない理由で、あの三人は殺されなければいけなかったんだ。
レオンなんて自分の子を抱きしめるどころか、顔すら見れずに……殺されたと言うのに……
「だから、お願い――――」
いや、もう我慢する必要なんてないか。
どうせこいつらは――――
「全員死ね」
殺すんだから。
「え?」
自分の口から出た死ねと言う言葉に驚く女帝と、その夫たち。
しかし、彼らは次の瞬間に、その意味を知った。
「う、ぶふっ!!」
「え、な、なに?」
突如として、夫の口から吐き出される大量の血を浴び、思わず素っ頓狂な表情を浮かべる女帝。
その手には先ほど自身が割れった瓶の切先、夫の喉に突き刺さっており、その手は真っ赤に染まっていた。
「血、血が……い、いやぁぁあああああ!!」
「お、おい、大丈夫か!?」
自身のした行動に思わず叫び声をあげる女帝と大丈夫かと女帝の手で喉を貫かれた男に他の夫たちが声をかける。
「いやぁぁああああ!!」
何が起きたのか分からず、更に叫び声しか上げる女帝。
しかし、そんな挙動とは裏腹にまるで熟練の暗殺者のように近くに居た男に頭と顎を持つとそのまま上下に頭を360度回転させた。
「は?」
帝国の王、それも女帝が身に着けられるとは思わないほど鮮やかなその手口は男に自身の身に何が起きたか分からせないままそのまま絶命に至らしめる。
そして、一度起きたことは二度あると言うように、自分の体が自分ではない他の者に操られているかのようにその馬車では暴力の嵐が包み込む。
机にあったナイフを持った手を茫然と空いた口に突っ込み、喉を通して背骨を貫通させる。
いち早く正気に戻り、自己防衛のために刀を抜こうとした瞬間、その刀を奪い、お返しと言うかのようにその刃で心臓を貫く。
外に出て馬車の外に居る従者に助けを求めようとした瞬間、がら空きだった脳天に銀の皿を叩き込み、痛みで地面に倒れるのを確認してから何度も何度も、完全に抵抗が無くなるその瞬間まで皿を頭に叩き込む。
そして最初の犠牲者が出てから数分後には綺麗な赤色で染まっていた馬車の中は別の赤色で染まったものとなっていた。
「な、なによ。
何が起きているのよ……」
自分の体で作った地獄絵図に呆然とする女帝。
そんな彼女の口を私は魔法を使って操作した。
「何って、あんたには帝国の犠牲を少しでも少なくするために、気が狂った馬鹿な女として永遠に表舞台から退場して欲しいために、こうして全員を殺したのよ」
「!?」
自分の口から、自分と同じ声で、なのに自分の意思で出していない言葉が漏れたことに女帝は驚愕し、反射的に自分の口を血にまみれた手で覆った。
しかし、そんな抵抗など無意味だと言うかのように口は更に動き出す。
「初めまして……かな? 私はバサナイト。
亡き友人のレオンの鎮魂のために、この戦争を終わらせに来た人間よ」
「バサナイト……って!!」
「ええ、貴方がレオンを殺した時に拾った手紙に書かれていたバサナイト本人よ」
「……何で……」
「ん? 何? もっとはっきり言いなさいよ。
口を操作しているって言っても貴方の発言の自由までは奪ってないはずよ」
「何で彼らを殺したのよ!!
彼らがお前に何を――――んぐっ」
叫ぶかのような怒りにまみれた言葉を放つ女帝。
しかしその言葉は途中で私自身の手によって制止させられた。
「発言の自由は奪っていないって言ったけど、好きな内容を発言して良いとは言ってないわよね。
言葉は慎重に選びなさい。貴方の命はもうまな板の鯉なんだから」
「づっ!」
「とは言え、まあ理由程度は話す義務はあるか。
さっきも言ったようにあなたにはもう表舞台から消えて欲しいのよ。
それも精神の壊れた史上最低の王の一人と言う名誉を一緒に歴史に刻みながらね」
「――――ッ!?」
「正直、迷っているのよ。
確かに国家裁判を使えば周辺他国は帝国を牽制するからある程度の抑止力になる。
でも、それだけだと困るのよ。
その抑止力はあくまで周辺他国が自国を護るために使うもの。王国や帝国に対して使われるものじゃないわ。
だから既に始まっている戦争を止めるほどではないし、第一、貴方は知らないと思うけど王国のクソッたれの王様は三年間はこの戦争を止める気はなかったのよ」
「!?」
「何でそうするかについては説明しても分からないと思うから飛ばすけど、あいつにとってはあなたが私に罪を押し付けるために犯罪を起こしたって言うのは棚から牡丹餅な話だったでしょうね。
だって、私が冤罪を証明できなかったら私を護るために戦争を継続、証明できたとしても停戦協定に参加した重鎮に冤罪をかけたって言う理由で戦争を継続できるもの。
まあ、要するにあなたは王国を陥れようと色々と行動していたように見えてただ、あいつに利用されていただけなのよ」
「――――ッ!!」
ぷるぷると怒りに震える女帝。
それもそうだろう。
帝国。その中でもこの女帝は王国を下に見る傾向がある。
そんな彼女が絞りに絞った行動すべてが、王国に一矢報いてやるどころか国王の手助けをしていたのだから。
そんなこと、ただでさえプライドの高い彼女には耐えることができないものだろう、加速度的に彼女の怒りはドンドン溜まっていく。
まあ、そんな怒り、私にとっては関係ないものだから当然無視するけどね。
「国王は戦争を三年間は続けたい。私は戦争を止めたい。
そんな相反する私たちの願いは一見すれば、達成不可能な内容に思われる。
けれどそれを達成する方法が一つだけあったのよ」
「――――ひとつだけ?」
「ええ、一つだけあるのよ。
まず前提として戦争は三年間は続いて、三年後に終戦したいと言うのがあの国王の願いよ。
そして、戦争と言うものは色々なルールを守ったうえで行われるもの。
例えば王国なら国王、帝国なら女帝のあなたが開戦宣言をしたり、戦地の指定、非戦闘地区の交渉をしたようにね。
そして、停戦協定も同じよ。様々な手続きを行ったうえで、停戦協定は結ばれる。
もちろん、協定に重大な違反が見られた場合にはそれを無視することは出来る。
例えば今回の停戦協定中にあなたが王国側に冤罪をかけたそれがまさにそれだわ。
だから、それを突っつけば違反があったとして停戦協定は破棄され、戦争は再開する。
けれど、それを実行するためにはあなたが重大な違反を証明する必要がある。
もちろん、魔導具を使えばそんなことは一瞬で分かるし、私たちにはそれを証明する大量の証拠がある。
だから、ソウル家がこれから起こす裁判とは別に、国王が個人で停戦違反の裁判を起こせばすぐに違反が成立して、戦争は再開する。
そして、あの国王はそれを狙っている」
「何が……言いたい」
「ここまで言って気づかない?
停戦を証明するには裁判を起こさないといけない。
なら……こういう思考に行き渡らない?
戦争を止めるには裁判を起こさせないことで戦争を一時的にとは言え止めることが出来る。
なら、違反者の女帝は生きている。
でも裁判を出来ないほど精神が錯乱して、異常な行動をしていることを証明すれば、裁判を遅らせるんじゃないかって」
「――――!!」
「もちろん、殺しても良いけれど、そうしたら死んだあなたの代わりに罪のない皇子か皇女が裁判に出席して、必要のない侮辱と好奇心の視線に晒された上で戦争再開されるでしょ?
そんなの可愛そうだし、私的には自分の尻は自分で拭うべきだと思っている。
だから、貴方が生きていて、そして誰がどう見ても裁判に出席出来て、その罪を証明できない状態にする。
それが今私がここに来た理由よ。
そして……ねえ、自分の子供だけじゃなく、さっきまで愛を囁いて、体を重ねた夫たちを全員自らの手で殺したあなたが正常な人間だと思われると思う?」
「や……止め……」
「ああ、もちろん安心して、万全を期するのが私のポリシーだから……あなたには生存維持行動しか出来い縛りをその魂に刻ませてあげるわ」
「……魂? って、お前魂を操れる魔法を使えるあの小娘。フレイヤ・ソウルか!?」
「半分正解。
ええ、私は確かにソウル家の人間よ。
でも、正式なソウル家の人間じゃない。外様の人間でしかないわ。
第一、最初からちゃんと言っているじゃない。
『私はバサナイト』って」
「……ソウル家の人間じゃない?」
「はぁ、理解が遅いわね。
だから言ったでしょ。私は――――」
そう言って、私は血に濡れた指先をガラスに触れさせると腕を左右に動かし――――
「私はバサナイトって」
その血文字を見た瞬間、女帝の体から恐怖に染まっていく。
「な……なんで……いや、どうやって……」
がくがくと震える女帝に溜息を一つ吐いた私は女帝の手の平を軽く刀で切った。
「さてと、長話もいい加減辛くなってきたし、じゃあ、永遠にさようなら。
何時か迎えに行ってあげるから、三年間生きた後、地獄に落ちなさい」
「いや、いや……」
そう言って、ゆっくりと女帝の右手でその頭に手を置いた私は――――
「魂縛り」
「いやぁぁあああああああ!!」
三年間、生きること以外の行動をせず、三年後死ぬ呪いを恐怖に駆られる女帝にかけるのだった。
そして、それから数日後、帝国にはあるニュースが国中に伝わった。
それは、女帝が三人の自子と夫全員を虐殺し、そして夫たちの血と死体に溢れた馬車の中で貪るようにパンや水を飲んでいた姿を見つけたと言う事だった。
加えて発見された時の彼女の様子は明らかにおかしく、一時は王国との裁判を避けるために気が狂った演技をしているのではないかと言う噂もあったが、食う寝る以外のことはせず、また何を話しても、どんな痛みを与えても何の反応もしないことから、恐らく子を殺すだけではなく自身の夫にすら手をかけたことで精神が崩壊したのではないかと言う結論に至った。
無論、最初は女帝は誰かにはめられたのではないかと言う噂も経ったが、王国のフレイヤ・ソウル公爵令嬢に自身の子を殺した罪を擦り付けようとしたと言う事実が広まったことで、その声は徐々に小さくなり、その噂が広まって、数日後には彼女に対する尊敬や畏敬の念は完全に消え去ってしまった。
もちろん、こうした状態になれば国際裁判に参加することは不可能と周辺他国から判断される。
こうして、帝国と王国は女帝が死ぬ三年後まで戦争状態ではあったが、一度も戦争をすることなく、三年後女帝は形容し難い苦悶に満ちた表情で死に、それと引き換えに新たな帝王となった第二皇子の手によって終戦したのだった。
■××××年×月××日:帝国との戦争から約三百年後
「……以上が王国と帝国との戦争です。
この後も帝国と王国との関係はそれほど改善はされませんでしたが、この事件から七年後に起きた当時のソウル家が王国から独立した後の大陸統一国家になるアースガルズ国の建国。
そして同年のアースガルズ国による王国の吸収に合わせて、帝国もアースガルズ国に吸収、多少のいざこざはありましたが、国がまとまったことを機に帝国と王国との確執は二つの国が消えることでなくなりました。
以上が三百年前に起きた事実です。
何か質問は?」
シーンと静まる教室。
その中で一人の思春期くらいの子供が小さく手を上げた。
「はい、何ですか?」
「帝国と王国の確執が消えたのは、処刑された虐殺令嬢が帝国と王国の重鎮を殺したからって何処かの本で見ましたんですけど……違うんですか?」
「ええ、その説は確かにありますね。
実際に当時の皇族たちの日記を見ても、この女帝に殺されたレオン第一皇子の努力の甲斐もあって少なくとも当時の皇族たちには他の帝国民と違って王国への憎しみはありませんでした。
特に第二皇子はその傾向が強く、虐殺令嬢の日記にも彼に対しては好感的な感想が記録にも残っています。
対して王国の平民は帝国に対しては平等に接していましたが、多くの貴族が帝国を蔑む言動を取っていたことが記録に残っておりました。
だから、言ってしまえば帝国と王国との確執は王国側はほぼ貴族が原因で起きていました。
そして、虐殺令嬢が殺した80万人の全員が人身売買、大量殺人犯など何かしらの罪を負っていた人物だけで、名前こそ虐殺令嬢と言われていますが、一部の歴史評論家の間では彼女が自らの命を犠牲にしてでも虐殺をしたからこそ、王国はアースガルズ国に吸収されるに値される国になったと言う話があります。
実際に殺された人物たちが行っていた汚職等を除けば当時の王国は周辺国家どころか大陸一の技術と能力を持っていて他国からすれば喉から手が出るほどの人材と技術のの宝庫でしたからね。
だから、ある意味では貴族を大量虐殺すると言う手段こそ悪かったですが、彼女も確執を消す一役を背負っていたとも言えますね。
っと、どうやら今日はここまでみたいですね。
では、せっかくですし、次の歴史の授業では後に虐殺令嬢と言われるまでに至った初代アースガルズ国の国王の娘のフレイヤ・ソウル公爵令嬢について話をしましょうか」
最後にバッドエンドに繋がりそうな一文を載せましたが、一応ハッピーエンドで終わる予定なので安心してください。
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