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第058話「怒りに飲まれる令嬢」

二章も残り二話です。

楽しんでいただけたら幸いです。

■05月18日 午後:レオン死亡から三日、ヴラドとグリューン死亡から一日経過


「これがこの事件の全てだけど何か反論はある?」

「…………」


 フレイヤの言葉に女帝はただ沈黙を貫いていたが、それは同時に自身が子殺しの母親だと言う何よりの証拠になったいた。

 だが、それは仕方が無いと言うものだろう。

 やっていないと言うことを証明するのが難しいように、やってしまったことをやっていないと反論することも難しいものだ。

 それが自身の犯した犯行の大半を解かれた上ならば尚更だ。

 もちろん、フレイヤの推理にも穴はたくさんある。

 例えば、服に毒を塗っていたのならそれに触れた他の人間がかぶれたりしたら、第二皇女に気づかれてご破算になっていたかもしれない可能性があったことや、銀の持ち手だって錆びて変色しただけの可能性もゼロではない。

 だが、それでも推理の大筋は恐らく間違えていないのだろう。

 女帝はただ何も言わずにただただ地面を俯き、そしてプルプルと震えていた体を突如として止めると――――


「はぁー、駄目だったか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()


 まるでゲームに敗けた子供のような深いため息と台詞を吐いた。


「――――」


 人を三人も殺したにも関わらず傲岸不遜のような態度に思わず私の思考は完全に停止してしまった。

 そして、それは他の人も同じで全員の表情は驚愕の一色に染まっていた。


「ええ、そうよ。

 多少は違うところもあるけど、私があの三人を殺して、そこのミルク臭い小娘に私の代わりに罪を償うと言う素晴らしい大義を与えようと、罪を擦り付けようとした。

 それがこの事件の全てよ」


 一切反省するかのない表情のまま女帝は更に口を開く。


「全く、魂約書なんて面倒くさいものを使って、邪魔さえされなければそこの小娘が無実の罪で面白そうな表情を浮かべながら狼狽えて、死罪になると思ったのに……まあ、でもどうでも良いか。

 いつも通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「同情してくれる?

 母さん、あんたまさか!!

 そんな理由で三人を殺したのか!?」

「仕方ないでしょ!!」


 第二皇子の激怒に似た非難の声を遮るかのような女帝の言葉が広間に響く。


「そこの時の魔法を与えられたゴミ令嬢はまだ時の魔法は使えないし、しかも屑の王国の馬鹿皇子の一人が殺されて混乱している()()()()()()()()()()()()って聞いたのに、蓋を開けてみれば何よ。

 大量の兵士が子供に殺されるだけじゃなく、王国にも碌な被害が出ていないなんて……

 そんなの、私が()()()()()()()()()!!

 私はね。女帝。帝国の頂点に位置する存在なのよ。

 なら尊敬されるのは当たり前、非難されるなんてあってはいけないのよ」

「……だから三人を殺したと?」


 怒気が篭ったフレイヤの言葉に女帝は更にヒステリックに話し始める。


「そうよ。そうすれば少なくとも私は可哀そうな女って言われるでしょ?

 私だって、本当はこんなことしたくはなかった。

 でも、そうしなければ私が気持ちよく過ごせないのよ。

 だから、だから――――三人には死んでもらったのよ」

「ふ、ふ、ふざけ……」

「フレイヤ、落ち着いてください。

 今ここで手を出したら、せっかく停戦しているこの戦争の止まり時を失ってしまいます。

 それに私たちは今、あなたの魂約書で帝国側に手をさせないです。

 だから、強く握り過ぎて血が出ているその手を緩めてください」

「……ご、ごめん。

 そ、そうだよね……少し落ちつ――――」

「何を言っているの?

 王国に罪を擦り付けられなくなった以上はこの停戦は終わりよ」

「へ?」


 怒りで我を見失いそうになっているフレイヤを止めようと背中を擦りながら説得する私を馬鹿にするかのような台詞が女帝から出た瞬間、私は思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。


「当たり前じゃない。

 私はこの停戦協定は王国に罪を擦り付けて大切な帝国民から同情を貰うために行ったのよ。

 それが出来ない以上は、これ以上ここに居る意味が無いじゃない」

「じゃあ、殺された三人は」

「貴方達のせいで無駄死にと言う事よ。

 本当に可哀そう……帝国のために、私のために死ねるって言う名誉を与えてあげたのにそんなことも果たせられないなんて」


 自分がその手で殺したとは思えないほどの台詞が川のように流れるその様相を見るたびに私の頭も徐々に沸騰していくのを感じる。

 ああ、もう貴族然とした態度とか、魂約書で帝国民を傷つけられないとか、戦争のこととかどうでも良い。


「どの口が……」


 この女を本気で殴りたい。

 そう思った私は握った拳を振り上げ、テーブルに叩きつけようとした瞬間。


「ふざけんじゃねえッ!!」

「ぶっ!!」


 隣に居るフレイヤから今まで聞いたこと無いような怒号と一緒に突然に一陣の風が起こり、女帝の体は()()()()()()()()()()でその背後の壁に叩きつけられた。


「うぐっ」


 恐らく歯が折れたのだろう。

 口から零れる血と一緒に白い何かが一緒に落ちる。

 しかし、そんなことを知らないかと言うかのようにフレイヤは女帝の襟首を掴むとそのまま背後の壁に押し付けた。


「レオンの……あいつらの……命をなんだと思っているんだ!!

 死ぬことに、殺されることに名誉何てあるわけないだろ!!」

「あ、ぐっ……あが、な、なぜ……」

「なぜ? 何が何故なんだ!!

 私は今、お前に殺された人たちの命を何だと思っているんだって聞いているんだ!!

 ちゃんと答えろ!!」

「あがっ!! ぐっ!!」


 再度、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ふざけるなよ……レオンは……自分の子供の顔も見ずに……」


 ガン、ガンと何度も何度も拳を叩きつけるフレイヤだが、女帝の顔が何倍にも膨れ上がるほど殴った後、その腹を蹴り飛ばす。


「だ、大丈夫か!?

 この王国の外道共が……これ以上、女帝に、俺たちの妻に手を出すな!!」


 あまりのフレイヤの形相に固まっていた私たちだが、流石にここまでされて固まる訳には行かないと判断したのだろう。

 女帝の皇配達は自身の剣を抜くとフレイヤにその切先を向けた。

 しかし――――


「馬鹿正直に自分の本名を魂約書に書いた貴方達が剣を抜いても何の脅しにならないわよ」

「な、ば、馬鹿な」


 フレイヤ自身が自身の指をその切先に触れさせた瞬間に、その剣はフレイヤを傷つけることを拒否するかのように弾け飛ぶと言うあり得ない光景が具現化した。


「別に馬鹿なことは何もない。

 フレイヤ公爵令嬢が説明したろ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」

「国王?」


 しかし、そんな光景が起きるのは当たり前と言うかのように机の上に置かれた先の尖ったペーパーナイフを手に取り、立ち上がった。


「帝国は知らないと思うがフレイヤ・ソウルと言う名前は、魂の魔法が使えると判明した際に、幼名から変更する際に慣習に使われる名前で、現に彼女は魂の魔法が使えることが判明した翌日の幼名のティア・ソウルからその名前に変わった。

 そして、魂約書とは本名をその契約書に書くことで初めて、効果を発揮する。

 ならば、こう考えられないか?

 魂約書に本名を書いたら効果が聞くと言うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、万が一の時に魂約書を使って自身の無罪を証明しつつ、相手を騙すことが出来ると」


 言われてみれば確かにそうだ。

 フレイヤは確かに国王との契約をした際に特定の言葉を禁止させた効力を見せてもらったが、それが本当にフレイヤの名前で書かれたかどうかについてまでは確認しなかった。

 それに、帝国との話し合いで出した時も指を折ってその効力を証明したが、流石に自分で指は折らないだろと言う先入観でそれが本当に自傷なのか魂約書の効果かどうかについてまでは確認しなかった。


「そして、その方法が有効ならばこう考えられないか?

 「O(オー)」を「0(ゼロ」)と言ったように名前を記載する際に形の似たものにわざと間違えれば偽装できると」


 そう言った瞬間、国王は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「国王!! 何を!?」

「ぐっ、あが、何で……」


 自分に何が起きたか分からないと言ったかのような表情を浮かべる第五皇女。

 しかし、その表情はペーパーナイフを抜き取った瞬間、白目へと変わりぴくぴくと動く。


「何でだと?

 わざわざ王国側が譲歩して停戦協定まで行ったにも関わらずこのような所業を行う国何て存在しない方が良いだろう。

 だから、私()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

「――――」

「恨むと言うなら女帝を恨め。

 そこの女が戦争をしないと言う言葉を言ったらもう少し結果は良いものに変わっていたかもしれなかったんだからな」


 あまりの衝撃の光景に誰もが呆然とするが、現実は呆然としたところで止まらず、国王に喉を貫かれた第五皇女の体は大量の血の池に沈みながら絶命するのだった。

 こうして帝国との停戦協定は失敗に終わったのだった。

因みに41話で魂約書の効果から三人逃れたと書かれていますが、それは本名と書いた名前が違うフレイヤとオズル、O(オー)を0(ゼロ)と記載したダヴィド・ブラッド(国王)がそれです。


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