第057話「第二と第三の事件 その二」
後編がようやくかけました。楽しんでいただけたら幸いです。
■05月18日 午後:レオン死亡から三日、ヴラドとグリューン死亡から一日経過
「グリューンが女帝と協力して、ヴラドを殺しただと?」
「はい。
グリューン第二皇女がヴラド第四皇子の殺人に協力した。
残念ながらそれが、私たちが調査した結論です」
「そんな……そんな訳ありえません!!
だって、グリューンは……殺されてたんですよ。
そんな人間が何で殺人に協力するんですか!!」
第一皇女の言うことはもっともだ。
普通に考えれば自分を殺そうとする人間に協力するなんてことは普通にはあり得ない。
だがしかし……
「被害者が加害者に協力する。確かにそれは普通に考えれば絶対にあり得ない出来事ね。
でも、それが言えるのはあくまで私たち全員がグリューン第二皇女が殺されたと言う確信と事実があるからで、そんな私たちとは正反対に第二皇女は協力した時点では自分が殺人対象に入っているかどうかは分からないと言う事実を忘れているから言えるのよ」
「――――ッ!!」
続く言葉を私の代わりに代弁してくれたフレイヤの言葉に反論が出来ず、第一皇女は唇を噛む。
「話を戻すわね。
まず、グリューン第二皇女の事件は毒殺されたであろう彼女の死体が全身が濡れたヴラド第四皇子の死体と並んでいたことから普通に考えれば第二皇女は第四皇子は両方とも殺されたうえで、安置されたと多くの人が推理するし、私も実際最初はその線で調査と推理をしていたわ。
だけど、それには一つ大きな矛盾点が存在するのよ」
「矛盾点?
それは彼女が協力者だと言うソウル嬢とリリーが言った第二皇女が協力者だと言うことを除いてか?」
レイの言葉に私は大きく頷く。
「はい、その通りです。
確かに被害者である第二皇女が犯人に協力すること。それ自体は確かに矛盾することと言えば矛盾します。
しかし、それ以上にこの殺人には大きな矛盾点が存在します。
それはグリューン第二皇女は毒殺。ヴラド第四皇子は溺死、もしくは絞殺と遺体から推察出来る殺人方法が異なることです」
「? 殺人方法が異なること? それの何が矛盾していることなんだ?
普通なら殺人方法が異なるなんて当たり前だろ?」
「はい、その通りです。
通常なら殺人方法が異なると言うことは何も矛盾しないことです。
しかし、第二皇女の殺人方法が毒殺と言う事実が、それを一気に矛盾させたものにします」
「? 尚更言っている意味が分からないんだが……」
全員が頭に?を浮かべる。
そんな全員の疑問を晴らすかのように、フレイヤは口を開いた。
「例えばだけど、全員ステーキを食べる際にナイフとフォークが目の前にあったらそれを使って食べるでしょ?」
「ナイフとフォークが使えない事情が無い限りは普通はそうだな」
「ええ、私も普通に考えれば、そう思うわ。じゃあ、これを殺人に置き換えて。
毒殺でも溺死、絞殺でもどっちでも良い。
殺人と言うステーキを2枚出されて、既に一枚食べ終えた後に一枚食べた時に使用した毒殺と言うナイフとフォークを使わずに、わざわざ食器棚まで行って溺死、もしくは絞殺と書かれたナイフとフォークを取る余裕はあると思う?」
「いや、普通はそのままナイフとフォークを使うな……って」
「気づいたみたいね。
そう。例え溺死だったとしても、毒殺だったとしても殺人を実行して、遺体を移動させるためには綿密な事前準備をした上での行動が必須になるし、それを行った場合、どうしても大量の時間が必要になる。
それが毒物を用意したうえで相手にそれを摂取させる場を作り、摂取させ、効果が現れるまで待つ必要のある毒殺も含めると尚更ね。
それを前提として考えると私たちが首吊りの様子を見て、部屋まで戻るまでの最短時間の約一時間の間。それが犯人が事件に使用できる時間になる。
そんな状況下で第二皇女を殺したうえで、あの真っ暗な部屋の中で遺体の安置方法をまで考えて行動しなければならない状況下で女帝一人が取れる行動も時間も限られているわ。
例え、それが首吊りが起きる前に一人目の殺人を完了させていたとしてもね。
と言うより、そんなギリギリの綱渡りをするくらいなら、例え同じ殺人方法になるのだとしても同タイミングで殺した方がよっぽど時間的余裕も、成功率も高くなる。
それをせずに二人が違う殺人方法で同じ部屋に同じタイミングで発見させた以上は、犯人は殺人完了と言うステーキを完食させるために協力者の存在は必須となる。それが第二皇――――」
「ちょっと待て。
協力者が必須。そのこと自体は分かった。
だが、それなら第三皇子も可能だし、そもそもその条件なら最初の事件のように皇配が協力したと言う可能性もあるだろ。
何で第二皇女だと言い切れるんだ?」
「一時間以内に全てを完了させなければいけない。
犯行前、犯行後で場を整えるためには協力者が必須。
そのことだけを考えれば確かに第三皇子、そしてそこに居る皇配たちが協力者の可能性はあるわ。
だけど、さっき言ったでしょ。
女帝は殺人の場を整えるために、一時間と言う短い時間で行動しなければならないって。
なら、この一時間を最大限有効活用するためには、何を合図に行動を開始するのが一番だと思う?」
「それは……第四皇子が首を吊られているのを確認して、全員がその場に行くために行動を開始した――――あっ!」
「気づいたようね」
フレイヤの言葉に少し荒い息をしながらも、第一皇子は言葉を紡ぐ。
「確認させてくれ。
確か、第四皇子が首を吊るされた様子を確認した経緯は、第二皇女の部屋から叫び声が上がって、その様子を見ようと、第二皇女の部屋に集まった全員がその窓から第四皇子が吊るされているような光景を見た。
これが第四皇子が吊るされた様子を確認した経緯だったよな」
「ええ、その通りよ。
そして、この行動が全ての答えになっていた。
何故なら――――」
「……第二皇女は第四皇子が吊るされたから叫んだのではなく……女帝に合図するために叫んだと言う事か」
第二皇子の言葉に私は大きく頷く。
「私もそう判断しているわ。
それに今思い返してみれば、第二皇女が叫んだのも私たちが第二皇女の部屋に行ってからしばらくしてからのもの、しかも首吊りが始まるのも私たち全員が外の様子を見始めてからで明らかにタイミングが良かった。
このことから考えるに恐らく女帝は第二皇女に私たち5階にいる人間全員が自分の部屋に来て第四皇子が居ないことを聞きに来たことを確認してから叫ぶように指示したんでしょうね。
何故ならそうすることによって、5階にいる人間はあの吊るされている人間は今行方不明の第四皇子だと誤解して、その救出に向かって、結果、5階にいる人間は女帝と第二皇女の二人だけになるからね。
まあ、それを実行するためには私たちが第四皇子が行方不明なことを知っていることを前提になっているけど、もし万が一私たちが第三皇子たちの様相を無視して居たとしても奇を衒って、女帝本人が心配そうな表情を浮かべながら第四皇子が居なくなったこととその探索に協力することをお願いすれば、結局は第二皇女のところにいくことになるから、結局は同じ結果になったと思うけどね。
とにかくこれらの証拠から第二皇女と女帝は協力者――――」
「そ、その証拠は!? そんなことをした証拠はあるの!?」
「あんた、まだ抵抗するの?」
女帝の必死な言葉に心底汚らわしいと思うような表情をフレイヤは浮かべる。
「当たり前でしょ!!
その推理は穴がある。
あなたのその推理はあくまで私とグリューン第二皇女が協力者である前提のはな――――」
「じゃあ、逆に聞くけどどうやって非協力者が第四皇子が吊るされていることを私たちに知らせるの?」
「――――ッ!」
苦々しい顔を私たちに見せる女帝。
しかし、私たちは女帝の口頭が少し上がっていることを見逃さなかった。
「腹の立つ顔を浮かべるわね。まあ、良いわ。
確かに一見すれば私たちの行動は証拠が無く全てが状況証拠だけでしかないものだと思われるけど、そもそもの大前提として、急いでも片道30分も離れている場所に吊るされている人間を見つけるなんてことなんてよく目を凝らさないと見えない。
つまり、それを見つけて私たちに伝えることが出来ている時点で彼女は事件に関わっていることを意味している。
でも、それはあくまで建前。この吊るしにはもっと別の意図。
第二皇女を犯人の協力者であると言う事実を隠すと言う意図があるのよ」
「は? 第二皇女が犯人の協力者じゃない?
それはさっきの話と矛盾しているだろ」
「ええ、私はさっき確かに30分も離れている場所に吊るされている人間なんて普通は見つけることは出来ない。だから、第二皇女は犯人の協力者だと言った。
けれどそれは、その吊るしている側も同じなのよ」
「――――あ」
フレイヤの言いたいことを理解したのか、全員が驚いたような表情を浮かべ、犯人である女帝たちは嫌なところを突かれたと唇を噛んでいた。
「この吊るしのトリックはあくまで往復1時間と言う時間を作って、その短い時間の間で犯行現場を整えたうえで第二皇女を殺すことが目的で行われている。
つまり、一分一秒も無駄に出来ないこの状態では、吊るす側も吊るし始めるタイミングを一秒も間違えることは出来ない。
そんな中でただの女性の叫び声。
これだけを合図で行動を開始することなんて不可能と言えるわ。
つまり、もう一手。女帝はそれを伝えるためにある行動をした」
「ある行動?」
「まあ、行動と言ってもそんな仰々しい物じゃないわ。
単純に狼煙を上げたのよ。第四皇子の部屋からね」
「狼煙? どういうことだ?」
「狼煙。まあ、要は煙によって遠くに居る人に情報を伝える一種の方法ね。
女帝はそれを使用して露天から外に居る協力者に今から吊るしを行うように指示を出した」
「いや、それは分かるがそもそも何かを燃やしたような痕跡は……」
「……ロープか。フレイヤ」
「流石お父さん。勘が良いね。
そう。狼煙は本来遠くまで見通せるように大量の炎と情報の種類を多くするために煙の色を変色させる物質など様々なものが必要になる。
でも、今回はあくまで少し遠くに居る人間に吊るしを開始する。その一点だけ伝えれば良いだけだから、炎の量も最低限で良いし、色についても考慮する必要が無い。
それに例え煙が他の人から見られる可能性があっても、外でかつわざわざ最上階を見上げない限り煙が見つかることはないし、ホテル内の人が見られる可能性があるのは吊るしが開始した後だから、確実にもう炎は消しているからその可能性はほぼ0になる。
加えてもしそれを見られたとしても場所はランプが無ければ何も見えない第四皇子の部屋の露天風呂。
ランプの火を灯そうとすぐに消火できるように露天で火を灯したらしたらボヤが出てしまったと幾らでも言い訳が出来るし、燃えカスが出ても同じ理由で言い訳が出来る。
女帝はそれを利用して、そうね……恐らく油と煙が出やすい素材を塗ったロープを巻いた棒に、火を着け、狼煙を出し、吊るしを開始したのを確認すると同時に、露天のお湯を使って消火した。
これが、恐らく女帝の行った方法よ。
じゃあ、何故ロープを使用して狼煙を作ったかについてだけど、全員思い出して、この事件では死体の首周りには必ず先端が燃やされているロープがあった。
もちろん、二人より以前に殺された第一皇子の事件で使われたロープは狼煙に使われたものではないから、第一皇子の事件でそれが使われたのは恐らく犯人は先端が燃えているロープを使用すると言う間違った固定概念を与えるために行われた物でしょうね。
けど、第二皇女と第四皇子で使用されたロープは誤情報を与えるためではなく、狼煙で使用したロープの残りを切断してその残りを使用したんでしょうね。
特に第四皇子のロープ。彼のロープが濡れていたのは死体が水に浸かっていたと言う情報を与えるためではなく、炎を消す際にどうしても濡れてしまうことに対しての対処でしょうね。
こうして犯人たちは本来、情報を共有できない状況下で情報共有を実現させ、女帝と協力者たちは第四皇子の遺体を吊るしたように見せかけた手法を完成させ、私たちを外に追い出すことに成功した。
となると、次に行うべきは第四皇子の遺体を現場に置く方法についてだけど、まずその大前提、第四皇子の殺人方法から言うわ。
オズル。あれを用意して」
「承知いたしました」
フレイヤの言葉に綺麗な礼をしたオズルは部屋を出て、恐らく廊下に置いておいたのであろう大きな旅行用のバックを前に出した。
「これは女帝の露天風呂にまるで隠すように置いてあったバッグだけど。
このバッグの大きさは第四皇子がすっぽりと入る程度の大きさになっていて、このようにその中には第四皇子のもの見られる銀髪が入っていた」
「……つまり、第四皇子はその中に入れられて何かしらの方法で殺されたと言う事か?」
「ええ、本来なら入ることのない髪の毛が入っていることから間違いなくね。
けれどこのバッグだけど確かに容量は大きいけど……このように後ろからランプの光を灯すだけでうっすらと光が漏れてしまう事から遮光性は低いことが分かる。
だから、普通に考えれば、この中に第四皇子を入れてもその光で体に症状が出てしまう。
けれども女帝は――――」
「……部屋にあった遮光カーテンでバッグを包んで光を閉ざしたことで対処したのか」
呟いた第三皇子の言葉にフレイヤは大きく頷いた。
「ええ、そしてそのまま遮光カーテンで包まれた第四皇子入りのバッグを持って、女帝はそのまま露天風呂へと向かった。
何で露天風呂か。その理由はもう分かるわよね?」
「ああ、ヴラドはその症状から外に出ることは出来ない。
だから、例え捜索をしても自分が死ぬ可能性のある露天風呂に居るなんて思考は辿り着かないし、万が一辿り着いてもそこまで深くは見ない。
だから、女帝は露天風呂にヴラドを置いて……そして……」
「露天風呂と言う状況から見て恐らくそのまま露天風呂に張っている温泉の中にバッグをそのまま入れたのでしょうね。
ただで光さえ漏れるほど隙間の多いバッグ。
露天風呂の中に入れればその中が水が満たされるのはそう短くないわ。
そして溺死は後遺症、その後の生存確率を無視すれば最大30分以内に蘇生活動すれば蘇生する可能性が微小に存在するけど逆に言えば30分以上経過すればもう助からない。
このことを考えれば、第四皇子は私たちが恐らく探索している最中にタイムリミットを超えて死亡したと思われるわ。
もちろん、抵抗はしたと思う。
その証拠にこのバッグの取っ手には大量の引っかき傷があって、その中には何かを削った痕跡があった。
これは後でこっそりと成分を確認したけど、露天で使用されている床の成分と殆ど同じだった。
もちろん、これくらいの激しい抵抗をした以上はバッグ自体も傷がついていてもおかしくはない。
けれど、このバッグを遮光カーテンで包んでいたと想定すればバッグは無傷になるし、恐らく取っ手が傷ついていたのはそこまで遮光カーテンで包んでしまうと移動の際に不便だからそこだけは残していたのでしょうね。
結果、取っ手にのみ引っかき傷が残ったと言う事よ。
これらの事実と推理。そして第四皇子の遺体は全裸でかつ、全身が濡れていたこと。首絞めなら本来出るはずの抵抗線がなかったこと。
この二点から私は第四皇子が殺されたのはそういう方法だと私は推理したわ」
「くそ……俺がもっと早く……女帝が犯人だと気付いていたら……」
大きな後悔を呟きながら、顔を両手で覆い隠す第三皇子。
それもそうだろう。
何故なら、第四皇子が殺された露天風呂。
その近くに長時間居たのは、彼でもし万が一にでも露天風呂に行っていれば今まさに死ぬであろう第三皇子を見つけられ、運が良ければ蘇生できた可能性があったからだ。
けれど、そう都合よく物事は進まず……弟を救えなかった兄はただひたすら後悔の念を呟き続けていた。
「こうして女帝は第四皇子を殺すことに成功した。
と、言いたいけれどこのトリックには一つ大きな穴がある」
「穴?」
「ええ、確かにこの方法を使えば第四皇子はほぼ確実に殺すことが出来る。
けれど、第四皇子を殺したとしてもずぶ濡れの第四皇子に対して、その遺体を回収、部屋の中に移動させて首に痕が出来る程度まで狼煙で使ったロープをしめるまでの間に体のどこかは必ず濡れてしまう。
そして、それは自身が第四皇子を殺したと言う致命的な証拠になりかねない。
このことから、女帝はもう一人の協力者である第二皇女にそれらを実行させた」
「まあ、一度でも協力したらその人物は最期まで使われるのは犯罪協力者の末路だからな。
そう考えるのが普通だろう」
国王の返答に対して、明らかな不快感に満ちた表情を浮かべるフレイヤだが、咳を一つした後話を続けた。
「この男が言ったように、私もそう判断して彼女の体に濡れた痕跡が無いかチェックしてみた。
けれど、その証拠は一切なかった。
このことから考えられるのは大きく分けて二つ。
一つは彼女はあくまで協力者であって犯行には関わっていない。
もう一つは、犯人が服自体に何かしらの仕掛けをしたからそれを隠すために濡れた服を着替えさせたかのどちらかの二つしかない。
そして、私は確実に後者だと判断した。
何故なら、私に冤罪を押し付けられない以上は誰かしらにその罪を押し付ける必要がある。
それなら第二皇女を殺した後に濡れた服をそのまま着させて、私が殺しましたと言う遺言を残せば簡単に第二皇女に罪を押し付けられる。
それをしなかった以上は第二皇女の服に何かしらの仕掛けをしたと判断したけど……そんなあからさまな証拠は残っていなかった。
これを残してね」
そう言ったフレイヤはバッグの中から持ち手が変色したスプーンを出した。
「それは一体なんだ?」
「これ? これは見ての通りただの銀のスプーンよ。持ち手が変色したね」
そう呟いてフレイヤは全員に見えるように自身のポケットからスプーンを取り出した。
「全員が知っているように私たち貴族はいつ、だれに毒を仕掛けられるか分からないから、毒味だけでじゃなくこの銀のスプーンを使用して毒が無いことを確認してから飲食をするようにしつけられている。
だから、普通ならスープなどが接触する飲み口にだけが変色するようになる。
つまり、このように持ち手の方が変色するなんてことはあり得ないのよ。
それこそ手袋や洋服に毒が仕込まれていない限りわね」
「――――洋服に毒!?」
「ええ、けれどその前にこの事件が起きた直後について話させてもらうわ。
まず、あの事件の後、私は第二皇女の遺体を検視した。
結果、彼女の体には異常なほど爛れていたりと、明らかに長期間毒を摂取させられていた形跡が見つかかった。
このことから、彼女の死因は長時間毒を摂取をされたことによる毒殺だと私は判断した。
けれど、その事実に対して私は頭を抱えてしまった。
何故なら、さっきも言ったように私たち全員、その習慣から毒に対しての警戒心は強く、第二皇女もそこは変わらないはず。
にも関わらず、そんな人物に対して長時間毒を摂取させられていた形跡があった。
加えて、第一皇子が殺された以上、全員が毒だけではなく殺人に関わるものなら大なり小なり警戒をする。そんな状況下で犯人は殺人方法に毒殺を選び、成功させた。
そんな矛盾が私にどうやって毒を摂取させたのかに頭を抱えさせた。
けれど、このスプーンを見つけた瞬間に、全てが解けた」
そう言って、フレイヤは全員に注目するようにと言うかのように取っ手が変色したスプーンを投げ捨てた。
「さっきも言ったように銀のスプーンが反応するのは通常は飲み口だけ。
持ち手が変色するなんてことは普通はあり得ない。
にも関わらず持ち手が変色したスプーンがあると言うことはスプーンを触れた際に手、もしくはその近くに毒を含んだものを着けた状態で食事をしていたと言うことになる。
そして、この事件では一人、長時間毒を摂取させられた痕跡がある女帝に協力した人物が毒殺されている。
ここまでの状況を考えれば、第二皇女の服、もしくは手袋には毒が付着されており、汗などで少しずつ
滲んだ毒を皮膚から摂取していたと簡単に推理できる。
恐らく期間的にはこの事件が起きるよりもずっと前。
馬車でこのホテルに移動してからずっと彼女はその方法で少しずつ肉体に毒を蓄積させたのでしょうね。
そして、時期を狙って彼女の毒が全身に回り始め、そのことについて第二皇女自身から相談されるまで待ってから女帝はそうね……恐らく解毒剤を渡すと言う名目で無理矢理協力者にしたってところかしら?
まあ、もちろん最初から毒殺することを決めていた以上はその解毒剤は逆の効果を起こすものだと思うけどね」
「なるほど。一理あるが、あまりにも博打過ぎないか?
彼女が相談しなければ意味が無いし、第一、症状が体に出るまで待つなんて、時間がかかり過ぎると思うんだが……」
「ええ、確かにその通りね。
普通にやれば、この方法はかなり時間がかかる。
でも、この停戦協定は話し合いが終わるまで終わらない。
つまり、時間なんて幾らでもあると言う事よ。
まあ、元々強い毒性で数日で症状が出ると見越していて実際に三日目に症状が出たけれども、理論上は数日でも、数週間でも、数年でも症状が出るのを待ってから行動するのは可能と言う事よ。
加えて言うのであれば万が一医者に自身の症状を見せようとしても、大抵その前に症状を確認する許可を取るために母親かつ女帝である彼女に声がかかる。
つまり、どちらにしても彼女は協力せざるを得ない状況に追い込まれて、結果、私たちを騙すために首吊り開始の合図を行い、全員が居なくなったことを確認してから第四皇子の部屋に行き、女帝の命令通りに濡れた第四皇子の死体を部屋まで運び、首にロープをかけて痕が出来るまで強く締めて殺人現場を作った。
その後はもう分かっているように女帝自身に毒付きの濡れた服を回収されて、代わりに無毒の服を着させられて、そのまま解毒剤と言う名の毒薬を渡され、毒殺され、その死を確認された後に首にロープを着けられて終わり。
これが、私たちが導き出したこの事件の全てだけど何か反論はある?」
「…………」
フレイヤの言葉に何も語らない女帝。
それは正にフレイヤの言った全てが正解だと暗に告げており、それと同時に自身が子殺しの母親だと言う何よりの証拠になったのだった。
長かった二章もあと三話で完結予定です。良かったら最後まで付き合ってください。




