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第055話「第一の事件」

ようやくここまで行きました。

楽しんでくれたら幸いです。

■05月18日 午後:レオン死亡から三日、ヴラドとグリューン死亡から一日経過


 帝国、王国の王族たちが集まっているにも関わらず、シーンと静まった談話室。

 その視線は全て、私とフレイヤに注がれており、そのあまりの鋭さに私の体は委縮してしまうが、数度の深呼吸と共に、その委縮を胃の中に押し込んだ。


「では、早速、この停戦協定の最中で起きた三人の人間が殺された事件。

 その全てを今から明らかにしてみます。

 初めに全ての始まりとなった第一皇子の事件から紐解かせていただきます。

 まずこの事件が起きたのは三日前の顔合わせの最中に起きました。

 その時、ここに居る全員が屋上におり、唯一いなかった従業員たちはこのホテルの従業員室か受付に居ました。

 その中で突如何かがぶつかった衝撃音が鳴り、それと同時に従業員のノエルさんが吊るされている第一皇子の足を見て叫び声をあげ、それに反応したフレイヤとソウル公爵が急いで屋上からすぐに53号室。

 つまり、第一皇子の部屋に入り、急いで救命活動をしました。

 しかし、その甲斐もなく第一皇子は亡くなりました。

 因みにその時の第一皇子についてですが、玄関の扉から第一皇子の首まで繋がるロープと先端が黒く焦げていた足から伸びる長いロープの計二本のロープ。そしてかなりの重量の鎧を着ていました」

「この状況から私は最初は犯人はこの足のロープを何かのトリックに使用したのではないかと思った。

 何故なら、ロープの先端は普通に考えれば、見れる光景は切断面だけで故意にしない限り黒く焦げるようなことにはならないから。

 だけど、その可能性はすぐに消えた。

 何故なら――――」


 そこまで言うと、憎々し気な表情を浮かべたフレイヤはその指を女帝へと向け――――


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がロープを使ったトリックの説明をしたからだ」

「――――はっ、何を言い出すかと思えばこの事件が起きた瞬間に私を犯人だと確信していた?

 一体何を証拠にそんなことを……馬鹿馬鹿しい。

 国際問題にも発展しかねない発言をこうも簡単に言うなんて、本当に王国の屑は――――」

「そこまで自分が犯人じゃないと言うのなら、一つ答えろ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それが答えられるのなら、さっきの言葉を否定してやるよ」

「――――ッ!!」


 馬鹿にするかのような。いや、実際に馬鹿にしている女帝の発言を潰すかのようにフレイヤは冷たい視線と声でその発言を無意味にする言葉を発した。


「お前ももう分かっていると思うが、生きている人間よりも全重量がその身に降りかかる死んでいる人間を運ぶ方がより労力を使う。

 それがかなりの重量を持っている鎧を着ていてかつ、大々的なトリックをするとしたら尚更だ。少しの移動でも少なくとも大人の男が二人が必要となる。

 実際に、私が救出した際も鎧を脱がせるために仰向けにさせるのにさえ、お父さんの協力が必要だったからね。

 つまり、この事件は最初から共犯者が居ること前提の事件だった。

 そして、その条件を満たせるのが王国側では私のお父さんと国王の二人だけなのに対して、帝国側は第二皇子と第三皇子……そして、女帝、あんたの夫たちと言う好条件が揃っている。

 このことを考えれば、女帝。お前しか――――」

「ま、待て! それならお前の父親と国王、もしくは第二と第三皇子の可能性が――――」


 更なる言い訳をしようと焦る女帝。

 そんな彼女の言葉を否定するかのように、フレイヤは一枚の紙を取り出した。

 そこには――――


『女帝第一皇配:17時45分

 パーヴェル(帝国第二皇子):17時55分

 アンナ(帝国第一皇女):17時55分

 ダヴィド(国王):18時00分

 ナターリア(帝国第三皇女):18時05分

 エリザヴェータ(帝国第四皇女):18時05分

 レイ(王国第一王子):18時10分

 ノウビリティー(王国第八王女):18時15分

 女帝第二皇配:18時15分

 女帝第三配:18時20分

 グリューン(帝国第二皇女):18時20分

 リーネ(帝国第四皇女):18時20分

 リリー:18時25分

 ニルド(公爵):18時25分

 スカジ(公爵夫人):18時25分

 アレクセイ(帝国第三皇子):18時30分

 ヴラド(帝国第四皇子):18時30分

 フレイヤ:18時35分

 女帝第四皇配:18時45分

 女帝第五皇配:18時45分

 エカテリーナ(女帝):18時45分』


 あの時の屋上に来たそれぞれ時間が記された。


「な、なによ。それが何か意味があるの?」

「これはお前がトリックを披露した時に私に見せたいつ、だれが屋上に来たのか記録されている紙だ。

 なあ、女帝。あんたこれを見て、何か気づかないか?」

「何か?」


 じーとその書類を見続ける帝国とこの事件に殆ど関わらなかった王国第八王女のノウビリティー。

 そんな面々の中で最初に気づいたのはノウビリティーだった。


「あ、()()()()()()()()()()()()()()1()8()()()()()()()

「――――ッ!!」


 ノウビリティーの発言に、一気に驚愕の声を漏らす帝国の面々。

 そんな彼ら彼女らを一瞥すらせず、フレイヤは更なる推理を続けた。


「自分の失敗をようやく悟ったか?

 あの時、気持ち良さそうに推理していた時にお前自身が言っていたよな。

 レオンが殺されたのは従業員に連絡し、顔見せが始まるまでの1()8()()1()5()()()()1()8()()4()5()()以降だって。

 そう。この発言をした瞬間に、この犯行を実行できる人物はお前しか居なくなった。

 これが私がさっきから言い続けているお前が犯人だと言う確信だ。

 つまり、お前は私に罪をなすりつけようとしたその言動は全て自分の首を絞める証拠でしかなかったと言うことだ」

「――――」


 まるで嬲るようなフレイヤの攻撃的な推理に脂汗をかき、ただ口をすぐむ女帝。

 そんな彼女だが、フレイヤの次の言葉を聞いた瞬間に、その顔は一気に先ほどまでの余裕綽々なものへと変わった。


「だけど、私のこの証拠はあくまで状況証拠に過ぎない。

 レオンの死体に繋がったロープに括り付けられた慎重に開かなければ大きな音が出る扉からどう出るか。

 そして、私たち全員があの屋上に居た状態でどうやって遠隔でレオンを吊るしたか。

 その方法が分からない限り、お前を追い詰めることは出来なかった。

 そのせいであの二人は――――」


 自分のせいで殺され、助けることが出来なかった二人のことを思いたし、自身の不甲斐なさを噛みしめるフレイヤ。

 そんな彼女の代わりにその続きを私が告げた。

 もちろん、彼女のうちに秘めた怒りも一緒に代弁するかのような口調で。


「そんな安堵するような顔をする余裕はないですよ。女帝。

 さっきフレイヤが言いましたよね。

 その方法が分からない限り、あなたを追い詰められなかった。

 そんな私たちが今、あなたを追い詰めているこの状況で、悟ってください」


 そう言って、私はフレイヤの出した先ほどの時間表を出した。


「貴方が犯人だと言う確信を得た私たちは次なる確証を得ようと、更なる推理を続けました。

 その際に、この時間表に先ほどとは別のもう一つ明らかな違和感を感じました。

 それが――――」


 そして、私は時間表の一番上の記載個所を指さした。


「他の皇配達とは違って、第一皇配。

 貴方だけが事件が起きるよりもはるか前に屋上に来ている事実です」

「――――ッ!!」

「最初は貴方だけが事件に関わっていないと言う証拠だと思っていた。

 何故なら女帝第一皇配。つまり、女帝の最初の夫である貴方は犠牲となった女帝の最初の子である第一皇子の父親が高いと言う可能性があったからです。

 だけど、その可能性は屋上にあったロープの傷で消えました。

 最初は貴方はロープを階下に居る犯人に渡して、このような形でレオン第一皇子を吊るした犯人を逃がした後に、そのロープを回収するために居るのかと思っていました」


挿絵(By みてみん)


 私が乱雑に書いた図を見る面々。

 そんな彼らの視線を浴びながら私は更に自身の台詞の続きを紡いだ。


「しかし、この推理はすぐに頓挫してしまいました。

 何故なら、屋上にはロープを下ろした傷があっても、壁に手足を着けたような傷が、柵を含めてなかったからです」

「はっ、なら私たちは犯人じゃないと言うことじゃ――――」

()()()()()()()()()()()()?」


 私の言葉に不味いと言う表情を浮かべる女帝。

 そんな彼女を責めるように私は更に私が導いた事実を告げる。


「鎧? 兄が着ていた鎧が何か関係があるのか?」

「ええ、まず第一にですが、何で皆さんはレオン第一皇子が鎧を着て吊るされいたことに疑問を抱かなかったのですか?」

「それは女帝が兄に命令した――――あ」

「はい、レオン第一皇子が鎧を着ていたことに疑問を抱かなかったのは事前に女帝からその旨を聞いていたからです。

 普通は気にはなるがそこまで疑問になるようなものではない言葉。

 しかし、これが犯人の口から出た言葉となると話は別です。

 そのことに気づいた私は第一皇子の鎧をじっくりと観察しました。

 その結果、胴周りに何を擦ったような跡がありました。

 気になるようなら、この推理が終わった後に実際に見てください。かなりくっきりと残っていますから」

「そ、それが犯人が脱出した何と関係しているのよ!!

 そもそもそれと屋上の傷が何と関係しているのよ!! 全く無関係じゃない!!」


 やはり、かなり痛いところを突かれているからだろうか。

 もう自分が犯人と言っているかのような焦りまみれの表情で女帝は早口に言い続ける。


「そうですね。一見するとこの二つの傷は無関係です。

 しかし、こう考えてみれば話は変わるんじゃないですか?」

「――――!!」


 そして、私が先ほどの絵に更なる修正をした瞬間に全員が息を飲んだ。


挿絵(By みてみん)


「このように足にあったロープを屋上に、逃げるためのロープを第一皇子の胴体に使えば、第一皇子のロープを滑車代わりにした簡易的なエレベーターが出来ます。

 もちろん、普通このようなことをすれば遺体に負荷がかかり、下手をすれば痕が残ってしまう。

 しかし、鎧を着ればいくら胴体に負荷がかかっても、その痕が残るのはあくまで鎧だけになる。

 加えてあくまで伸びるのは貴方の部屋と第一皇子の胴体だけなので、柵などに傷はつかず、何処から脱出したのか分からなくなるうえ、開けば大きな音が出て、かつ繋がった第一皇子の重さから、開閉が困難な扉から脱出する必要が無くなる。

 こうなることを分かっていたから、貴方は第一皇子に鎧を着させたんじゃないですか?」

「――――」

「沈黙は肯定と受け取らせていただきますね。

 確かにこの方法を使えば、基本的に犯人は部屋から脱出することは可能となる。

 しかし、その為には、一つ大きな問題があります。

 それは、この方法を取ることで柵には傷がつかないがロープを繋いだ先にはどうしても人一人分の重量が加わった痕と、縄を使った痕跡が残ってしまう事です。

 これは下手をすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 こうすることで、清掃に来た人以外は自身の部屋に入らないし、第一入ってきても、女帝自身が言わないように命令すれば、それが露見することはない。

 だから、私は昨夜フレイヤにこっそりとあなたの部屋に侵入してもらい、こっそりその痕跡を見つけていただくように、お願いして、フレイヤはそのお願いをきちんと果たしてくれました。

 玄関の扉。そこにくっきりと何かロープを使ったような痕跡があったそうです。

 このことから、貴方方はこの方法で脱出したと言うことが確定しました」

「――――」


 先ほどまでは、まだ信じたいと言う気持ちが残っていた自身の子たちの視線から軽蔑と怒り以外が無くなり、女帝とその皇配達は口に手を覆い、吐き気を抑える。


「そして、最後の謎。

 全員が屋上に居たあの状況でどうやってレオン第一皇子の足のロープを屋上から解いたかについてですが――――」

「ここから先は私が言うわ。

 あの日、女帝と皇配達は十五分遅れたり、顔合わせにも関わらず、女帝以外は頭を下げるだけで自己紹介すらしないとまるで目立つような言動をしていた。

 これは手品でよく使われるわざと目立つ行動をすることで、他に視線が行かないようにすることが出来る手法と全く同じよ。

 つまり、あの時の女帝と皇配達は屋上の柵の一か所だけにあるレオンの足まで伸びているロープを隠すために、あんなことをしていたと言う事で、私たちはその手にまんまと引っかかり、柵にあったロープには目もくれなかった。

 こうなれば、後は簡単。

 挨拶の際に、全員の視線が別の人に映るその瞬間に足でも手も良いから予め解きやすいように結んでおいたロープを解く。

 こうすることで、レオンの遺体を吊るすロープは首だけになり、自重の関係でまるで今その瞬間に吊るされたかのように遺体が出現する。

 これがお前がレオン第一皇子にしたトリックよ。

 何か弁明することがあるのなら言いなさい」

「――――」


 ここまで言われればもう言い逃れ出来ないと自身でも分かっているのだろう。

 女帝もその皇配達も何も言わずにただ地面だけを見ていたのだった。


「そう。何も言わないのね。

 じゃあ、引き続き――――お前が第二皇女と第四皇子にした外道な行為について、紐づかせてもらうわ」


 そうして、フレイヤは自身の胸の奥底に宿る怒りを一切隠さないまま、次の事件について話し始めるのだった。

本編に書いてある通り、36話で出て来た時間表の時点で犯人を絞ることは可能です。

因みに、同じく36話でも既に大人の男の人でもこのトリックを作るのは難しいと言うことを明言しており、そこでもかなり犯人を絞ることが可能です。


これらの情報からフレイヤは36話時点で犯人を確信していました。


長かった第二章ももう少しで終わる予定ですが、最後までよかったら付き合ってください。

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