第054話「公爵令嬢の苛立ち」
実際の推理は次話から始まりますので、もう少々お待ちください。
■05月18日 午後:レオン死亡から三日、ヴラドとグリューン死亡から一日経過
「それでいきなり私を犯人だなんて自分が何を言っているか分かっているのかしら?」
「ああ、分かっているよ。子殺し外道さん」
「……外道の限りを尽くしている王国の……それも小娘に言われるとこんなに腹が立つものなのね。
いえ、ここまで酷いと一周回って清々しいさえ感じるわ」
「それはどうもありがとう。
その清々しさを存分に味わってください」
「……クソガキが」
女帝はともかくとして、フレイヤ。相当イライラしているな。
まあ、第一皇子の事件から犯人が分かっているにも関わらず、その犯人から罪を押し付けられそうになったことを考えればその気持ちは分かるけど。
「一体何の騒ぎだ!!
って、そこの子供! 女帝の部屋で何をしている!!」
廊下に居た私たちにも聞こえるほどの二人の喧騒が他の全員にまで聞こえたのだろう。
駆けるように外に出た王国と帝国の面々は女帝の部屋にロープで外から侵入してかつ、女帝に対して指を指しているフレイヤを見た瞬間、怒号を彼女に浴びせた。
「何って、帝国の第一皇子、第四皇子、そして第二皇女を殺した犯人を指さしているのよ」
「……は? な、何だって?」
「だから、自分の子供を三人も殺した外道に罪を認めさせるために頑張って第一皇子の事件の脱出方法を再現したのよ」
「は? え?」
「フレイヤ。いきなりそんなことを言っても頭が混乱するだけですよ。
皆さん、今からここで起きった三つの殺人事件について全てを明らかにいたしますので、まずは面談室へ移動してください」
「……そうか。相分かった。レイ、ノウビリティー。行くぞ」
「分かりました」
「承知いたしました。お父様」
当たり前と言えば当たり前なのだが、自分たちにはほぼ影響のない王国の面々は颯爽と面談室に行く中、フレイヤの語った衝撃的な事実をまだ受け入れきれていない帝国の面々はあり得ないと言うかのような表情を浮かべながら、私たちを見る。
「では、私たちは先に面談室に向かっているので、皆さん、覚悟が出来次第、来てください。
フレイヤ、降りれますか? 降りれないなら手伝いますよ」
「自分で降りれるから平気だよー。気遣いありがとうリリー」
そういうや否や、人類の敵の黒い虫のように壁に手を付けたフレイヤはそのままカサカサとぼほ垂直の壁を登って行った。
そんなフレイヤに対して、少し気色悪さを感じながらも、私は未だに事実を受け入れきれていない彼らに背を向けようとした瞬間、私は肩を第二皇子に掴まれた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。面談室に行くことは分かった。
だが、本当なのか。
母……いや、女帝が兄を……レオン達を殺したと言うのは……」
「はい、その通りです。
先ほどもお伝えしましたが、その全てを面談室にて話しますので、覚悟が出来たら来てください。
ですが……その前に帝国側の皇子、皇女の皆さんに一つお詫びしなければならないことがあります」
「お詫び?」
「はい。
実は私たちは全員、第一皇子の事件が発生した時点で既に女帝が犯人だと言う確信を得ていました」
「なっ、じゃあ!!」
「……はい、なのでやろうと思えば第四皇子、第二皇女の事件を回避することは可能でした」
「じゃあ、何故――――」
「さっきリリーが言ったでしょ。
私たちが得たのはあくまで確信。確証じゃないわ。
つまり、証拠があるわけじゃ無いと言うこと。
それは同時に私たちが何を言っても犯人は幾らでも言い訳、逃げ道が出来ると言うことよ。
そんな状況で犯人を追い詰めたらどうなるか分かるでしょ?」
未だに外に居た私を迎えに来たのだろう。
先ほど屋上から消え、私の背後に突如として現れたフレイヤは私たちの会話の中に入る。
「だが、それでも……」
「じゃあ、こう言えば分かる?
曖昧な情報で女帝を追い詰めた結果、女帝がそれに難癖をつけてどちらかが完全に滅びるまで戦争が続くような状態が作られる可能性が出ても良いの?
そして、そうなった場合、どれだけ多くの人が犠牲になるか分かっているの?」
「そ、それは……」
それでも何か言いたいのか言い淀む第二皇子。
そんな彼の言動にフレイヤはギリギリと言う音を口の中から零すと、自分の心の中に溜めていた本音を吐露し始めた。
「私だって別に好きで殺人が起きるのを黙って見ていたんじゃない。
そもそも魂約書を使った時点で確実に王国側が被害が出ないのよ!!
そんなただ呆然と過ごすだけで貴方達が勝手に殺し合ってくれる安全なこの状況でこれ以上の被害を出さない、最悪な結末だけは回避したい。それ以外の理由で私たちがこの事件を捜査する理由なんてあると思う!?
少しはものを考えてから――――」
「フレイヤ」
相当心の中に溜まっているのだろうか。
フレイヤの止まらない暴言を前に私はこれ以上は言うなと暗に優しく伝えながら軽く彼女の肩を叩き、そんな私の言葉に答えるように数度の深呼吸をしたフレイヤは皇子に向けて深く頭を下げた。
「――――ごめんなさい。気が立っていたとは言え、少し言い過ぎました」
「いえ、こちらこそ……あなたがどんな気持ちで捜査してくださっていたかを考えずに無遠慮なことを言ってしまい……申し訳ございません。
事件と……そして、女帝のことで気が動転していたとは言え、もう少し考えて話すべきでした……」
「……いえ、こちらこそ、すみません。
少し頭を冷やしたら面談室に行くので、それまでには面談室に来ていただければ助かります。
では」
そう言うや否やフレイヤは踵を返し、そのまま何処かに消えて行ってしまった。
そして――――
「では、早速、私があの子たちを殺したと言う貴方達の馬鹿馬鹿しい推理を教えてもらおうかしら。
もちろん、間違っていたらどうなるか分かっているわよね?」
脅すように私たちに圧をかける女帝。
だが、私たちは大きく頷く。
「もちろん、その際は出来る限りの最大の誠意をお見せします。
では、まず第一の事件。レオン第一皇子が殺された事件について、話を説明させていただきます」
そして、私たちが導いたこの事件の推理を話し始めたのだった。
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