第053話「動かす快楽(犯人視点)」
■05月18日 早朝:レオン死亡から三日、ヴラドとグリューン死亡から一日経過
「ふぅ、今日も良い朝ね」
全開で開けた窓から流れる風で汗などでベトベトになりつつ、火照っている体を冷ませながら、小さく呟いた私は寝ている夫たちを跨ぎながら体を綺麗にするべく露天風呂へと向かった。
「はぁ、さっぱりした。
あら、みんな起きたの?」
「ああ、おはよう。――――」
「今日も良い朝だな。――――」
「昨夜も最高だったぞ。――――」
「――――、風呂に入っていたのか? ずっと探していたぞ」
「おはよう。――――。
全員で朝食の準備しておいたぞ。
俺たちはこの後風呂に入るが、――――はすぐ食べるか?
それとも俺たちを待ってから全員で食べるか?」
昨夜の汚れを諸々流し落とし、さっぱりした私が露天風呂から出るとそこには先ほどまで寝ていた夫たちは目が覚めたらしく、私に近づくと一人ずつ目覚めの抱擁とキスをしてくれた。
「みんな、朝食の準備ありがとう。
そうね……お腹は空いているけど、朝食を準備してくれたみんなへのお礼に今日も一緒に食べたいからみんながお風呂から出るのを待っているわ」
「分かった。それじゃあ、出来るだけ早く風呂を出ていくから、待っていてくれな」
「いいえ、折角の露天風呂なのだから、みんな、ゆっくり入って良いわよ。
空腹は最高のスパイスともいうし、何より愛しいみんなとのこれからの楽しい朝食の時間を想いながら待つ時間も私にとっては最高のスパイスになるんだから。
だから、そのスパイスをたくさんかけるためにみんなゆっくり入ってね」
そんな私の言葉に感動したのだろうか、私の右手を受け取ったみんなは、その甲にキスをすると一人ずつ風呂場へと向かった。
「ふぅ、さてとみんながお風呂に入っている間、暇だし新聞でも読もうかな?」
そう呟いた私は用意された朝食の前に座るとバスケットに大量に鎮座している小さなパンを摘みながらホテルが用意してくれた帝国の新聞を広げる。
「『帝国のスラム街に蔓延る闇』、『外道な王国に潜む悪魔の公爵令嬢』、『王国の仕業か。異常な不作による飢饉』……はぁ、つまらない記事ね。
でも、あの子たちが死んで一日経ったし……えーと、あのことの記事は……ああ、あったあった。
『第二皇女、第四皇子死去。鬼畜外道たちの陰謀か』――――」
『05月18日、レオン第一皇子に引き続き、外道な王国との屈辱的な停戦の話し合いの場でグリューン・エンパイア第二皇女とヴラド・エンパイア第四皇子がその尊い命を何者かによって奪われた。
特に第二皇女は長い間、毒に苦しめられながら殺されたらしく、そのお体は見るも無残なご様子とのことらしい。
しかし、レオン第一皇子に引き続きこのような事態になっているにも関わらず、非常識な王国は御三方の葬式はおろか今もなお、慰安室にすら置かれず事件現場にそのお体を放置され、侮辱の限りを尽くされているとのことで帝国民の怒りは留まることを知らず、様々な声が上がっている。
そんな中、女帝は「鬼畜な王国との戦争によって多くの素晴らしい帝国民の命が奪われた今、これ以上の犠牲を出さないために停戦は止める訳には行かず、そしてこの停戦は私だけではなく死んだ三人の悲願でもある。
ゆえに、我は歯をかみしめながらこの屈辱に耐え、三人の悲願を叶えるためにこの停戦協定を必ず、一日でも早く、定める。
だから、我が民たちよ。あと少しだけこの屈辱に耐えて欲しい」とのお言葉を我々にくださり、それを聞いた国民たちは――――』
「……ああ、良いわ。凄く良い。
私の一挙手一投足でこんなに多くの人が右往左往するなんて……最高!!」
湯冷めしたにも関わらず、再び露天に入ったのかと思うほど体が火照り、脳に心地の良い感覚が広がる。
「まさか誰も思いもしないでしょうね。
私があの三人を殺したなんて……」
そう呟いた瞬間、脳裏に浮かぶ三人の最期の顔。
『ノエ……ル……ごめん……お腹の子……を頼……』
『――――様。本当にこれを首に回して、この中に入れば良いんですか?』
『ありがとうございます。ありがとうございます。
助かりました。これで死ななくて済みます!!』
三者三様の最期の顔と言葉を思い出すたびに罪悪感を抱かないと言えば嘘になる。
でも、それ以上に……
「ああ、私は何て罪深くも、頭脳明晰な素晴らしい人間なんでしょう」
あれほど完璧なトリックで人を殺し、そして今もなお疑われていないと言う事実に私は自分の優秀さ、素晴らしさを全身で感じる。
「うーん、それにしても……これどうしようかな」
手持ち無沙汰に1メートル程度残っているレオンを殺した時に使用したロープを手で遊ぶ。
「予定ならあの三人を殺した後はゴミな王国のソウル家を一人殺すつもりだったのに、あの乳臭いクソガキのせいで殺せなくなっちゃったから余ったんだよな。
うーん、残った中で殺すならリーネ一択なんだけど、でもこれ以上殺してもつまらないんだよな~。
似たようなことを繰り返したら、周囲の反応も薄くなるだろうし……
ま、縄なんて自分の体に巻いておけばバレないだろうし、リーネも別に今すぐ殺す必要もないから、都合の良いトリックを浮かぶまでは生かしておけば良いか」
まるでおもちゃのように人の命を扱うことに再び罪悪感を感じながらも、同時に人の命を好き勝手出来る自分の優秀さに感じる心地よさを味わうのだった。
「さてと、今日も適当に返答しながら時間を過ごしましょうか」
その後、朝食を食べ終え、適度に夫たちと遊んだ私は今日の仕事をするべく、帝国と王国との停戦の話し合いの場に向かった。
「さて、女帝よ。今日も話し合いをしようか」
「ええ、そうね。もちろん、そちらが正式な謝罪をするまで私はあきらめないわよ」
階段を行う面談室にて、始まった停戦の話し合い。
そこには、話し合いのメインの国王と女帝を始めとして女帝の皇配達と帝国第二皇子などの何時ものメンバーと一緒に何故か、ソウル家の礼のクソガキとその友人とかゆうゴミ幼女が居た。
(何であいつらがここに居る?)
「彼女たちが気になるか? 何、気にするな。
彼女たちは今後国の中枢になる予定の人物で、今日はその見学に来てもらったのだ」
「そう。なら、私たちの邪魔にならないようにその王国のクソガキたちの面倒はちゃんとそちらで見なさいよ」
「ああ、分かった」
その返事を皮切りに始まる停戦の話し合い。
しかし、その停戦の話し合いはいつも通り上手くいかず、気づけば昼の休憩時間となっていた。
「時間か。では、昼休憩に入ろう。
再開は13時からで問題ないか?」
「ええ、構わないわ。
はぁ、ようやく王国たちの臭い息で満たされたこの部屋から出られるわ」
その言葉を呟き、立ち上がった女帝はそのまま扉から出ようとする。
その瞬間、不意に開いた扉からオズルと呼ばれている男児が入ってくる。
「危っぶないわね!!」
「女帝。失礼いたしました。
急いでいたもので」
「ちっ、入る時はノック位しなさい」
「はい、おっしゃる通りです。本当に申し訳ございませんでした。
申し訳ございません。謝罪はあとできちんと行わせていただきますので、ここは失礼いたします」
そう言うや否やすぐさま走り出し、ソウル家のクソガキのところへオズルは行った。
「なんだ。あの無礼なガキは……」
そう呟いた私は視線をあのオズルの方へと向けた。
すると、よほど焦っていたのだろう。
オズルが口から出した言葉は予想以上に大きかったのだろう。
「お嬢様。申し訳ございません。
第二皇女の露天風呂で見つかった布の切れ端と同じ柄のものはまだ見つかって――――」
「オズル、馬鹿!! 声が大きい!!」
「すいません。お嬢様!!」
「――――え」
今、オズルは何を言った?
その言葉の意味を理解した瞬間、滝のように噴き出す汗。
それは夫たちも同じようで私たちは廊下を出ると優雅な雰囲気を醸しながら、けれど内心では一秒でも早くあの鞄を捨てるために速足で部屋へと向かった。
(何であれが見つかった。まさかあの子が裏切った!?
確かにこれから殺されることを悟っていたら、その可能性はあるがあの子はそんな雰囲気は――――いいや、そんなことはどうでも良い。
一秒でも早く、あの鞄の処理を――――)
バンと壊しかねないほどの力で自室の扉を開いた私はそのまま、露天風呂へと向かい、今夜処分する予定だった鞄を手に取り、位置や誰かが触ったような跡が無いかを確認する。
「良かった。みんな、鞄はまだ見つかって――――」
そして、その心配がなくなった瞬間、不意に周囲が暗くなり――――
「やっぱりレオン達三人を殺した犯人はお前たちだったんだな。
帝国、現女帝……エカテリーナ・エンパイア!!」
まるで吸血鬼のように、露天の外から足にロープを括り付けて逆さまに吊られた状態で現れたフレイヤ・ソウルは私へ向けてその指先を向けており、吊るされているその姿は――――
私がレオンを殺した後、その部屋から脱出した姿に似ていたのだった。
予定より少し早くなりましたが、この話で犯人確定、次回から解答編が始まりますので楽しみにしてください。
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