第050話「公爵令嬢の弱点」
今回は2話同時に掲載いたします。もし良かったら51話も見て下しさい。
■05月17日 夜:レオン死亡から三日、ヴラドとグリューン死亡から半日経過
「はい、終わりました」
倒れたフレイヤの容態を診察し終えたマッドさんは、何かの紙にすらすらと記載すると私たちの方へ向き直った。
「それでフレイヤの容体は……」
「安心してくださいソウル公爵夫人。ただの心労から来た疲労みたいです。
まあ、ここ数日で三人もの人間が殺されてかつ、その死体を見てしまったからでしょうね。
一応精神安定剤と睡眠薬は出しますが、あくまで心の疲労に対して効果は少ないため気休め程度と思っていてください。
そのため、もしこの症状が続く場合は心療施設を使うなどしてください」
「そう……ですか……」
「申し訳ございません。
私の専門はあくまで体だけで、精神の治療となると専門外でして……」
「いえ、頭を下げないでください。
むしろ私たちの無理を聞いて、娘を診察してくださり、ありがとうございます」
「そう言ってくださると助かります。
それでは私は薬の準備をしますので、失礼いたします。
三時間後にまた私のところに来てください」
「はい、承りました。
重ね重ね、今回は本当にありがとうございました」
そう言って、深く頭を下げた公爵夫人にマッドさんは軽く手を振り、頭を下げると、診察道具をまとめて部屋を出るのだった。
「……ではフレイヤにゆっくり休んでもらうために、私は部屋を出させていただきますね」
「そうね。私たちも部屋をでましょうか」
「ああ、そうだな」
そう言うと、私と公爵、そして公爵夫人の三人はなるべく音を立てないように注意しながら部屋を出るとそのまま部屋の椅子に深く腰をかける。
「…………」
「…………」
「…………」
私が淹れた紅茶を無言で飲む私たち。
そんな静寂に包まれた部屋の静寂を壊したのは公爵だった。
「……なあタイム嬢」
「……はい、なんでしょうか。ソウル公爵」
「フレイヤがこうなった理由について、君は原因をしっているのか?」
「……いえ、知らないです」
「それは死に戻り前のことも含めてか?」
「はい、その通りです」
「……そうか。
つまり、今起きていることは私たちが原因の可能性が高いと言う事か」
「はい、その可能性は……高いです」
耳に届く前に消えてしまいそうな声で返答する。
「お二人も倒れる直前のフレイヤの呟きで気づいていたと思いますが、この戦争の開戦時期は全く同じですが、終戦は二年後でその間に今回のような停戦協定の話し合いは無く、今回のような事件もありませんでした。
とは言え、死に戻り前の当時の私はフレイヤとは距離を置かれていましたし、何よりレイの婚約者候補の一人と言う立場でしかなかったので秘密裏に停戦協定が行われていた可能性はあります。
しかし、今回の停戦の話し合いが起きたのはフレイヤがジーク様の死を偽装したことを秘密にする条件により戦争に参戦したことで大量に帝国兵が殺されたことが理由です。
つまり――――」
「死に戻り前ではあの三人は殺されなかったと言う事か?」
「はい。
当時の記憶があいまいなので、断言はできませんが死に戻り前の時間軸で第二皇女が殺されるのは敗戦によって起きた市民たちの暴動だったはずです。
他の二人の死亡時期もですが、この時期には生きていた可能性は高いです。
つまり、この三人が今の時期に殺されることは――――」
心臓が爆発するかのような鼓動と一緒に流れる大量の汗と、とめどなく流れる唾液に次の言葉を言うのを止めろと私に暗に伝える。
しかし、そんな停止の言葉を唾液と一緒に飲み込んだ私は口を開いた。
「私たちが死に戻りをし、運命を変えてしまったことが原因の可能性が高いです」
そして、第二皇女と第四皇子が殺された……いや、第一皇子のレオンさんが殺された時から頭の片隅で何となく察していた事実を口に出した。
「そうか……となるとフレイヤは……」
「はい、恐らく死体を見たことではなく、自分のせいであの三人が殺されたと言う事実にたどり着いて……それについて考えすぎて……それで……」
「倒れたと言う事か……確かにあの子は他の同年代、いや大人と比べてもかなり死体に慣れているし、人を殺す覚悟をするのも他の子と比べても異常なほど早い。
だが、それはただ事前に知っていれば、覚悟が出来ればそうなだけで……覚悟も何もない状態で突発的に自分のせいで他人が傷つくことや殺されたりしたと言う事実を知った際に、異常なほどダメージを負ってしまう子だ。
実際に物心つく前にセバスティアーナの事件を調べた際に、それに近いことを知って、今回のように吐いたり寝込んだりしたからな」
「そうだったんですか。
だから今回も……」
「ああ、恐らく自分たちが死に戻りをしたことで、戦争に参戦して帝国兵を虐殺したことならともかく、不意に自分が原因で三人が殺されたことに気づいて耐えきれなくなったんだろうな……
私たちもあの子にその特徴があることを知った時点である程度は情報規制をしたり、なるべく覚悟が出来ていることを察した時点で教えるようにしているが、こんなことが起こること自体が少ないからな。
どうしても全部が全部対処できるわけじゃ無いし、ただでさえあの子は俺たちよりも察しが良い。
だから今回みたいに忘れた頃に突然フレイヤが俺たちが気づくよりも前にその事実に気づいてそして倒れるなんてことは稀にあったし、今回もそれ関連だと思ったが……」
「今は状況が状況ですからね。
下手をしたら犯人に何かされたことで倒れた可能性も無いわけじゃ無いですからね」
私の言葉に公爵は大きく頷く。
「ああ、だからいくらその可能性が低いと分かっていても心配だったんだが……何も無くて良かったよ。
不幸中の幸いってやつだな」
「そうですね。そこは私も安心しました。
因みにフレイヤは今回みたいに倒れた場合はどれくらいで目が覚めるんですか?」
「……そうだな。早くて数時間。長くて三日くらいで目が覚めると思うよ」
「そうですか。分かりました。
では、今日からフレイヤが目覚めるまでの間は、私が二人の部屋で寝泊まりするので、公爵と夫人はそのままフレイヤの傍に居てあげてください」
「良いのか? それではタイム嬢が一人になってしまうが……」
「大丈夫ですよ。
魂約書の力で犯人と協力者は私に害を与えることは出来ないですし、こう見えて私も死に戻り前にある程度護身術習いましたら」
そう言って、気にしないでと手を振る私を見た二人は少し考えるような表情を取る。
「……分かった。ではお言葉に甘えてフレイヤが目を覚ますまでの間、部屋を借りさせてもらうよ」
そして、数秒の沈黙の後、軽く頭を下げながら返答するのだった。
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