第048話「思考を巡らせる公爵令嬢(フレイヤ視点)」
やっぱり推理シーンは楽しいけど難しいです。
楽しんで推理していただけたら幸いです。
■05月17日 午後:レオン死亡から二日半、ヴラドとグリューン死亡から半日経過
「おじゃましまーす」
王国と帝国同士の犯行現場の確認が完了し、全員が部屋から退出したことを確認した私はこっそりと針金で開けた扉から第四皇子と第二皇女の殺人現場へと入った。
「ちぇ、やっぱり部屋の中は真っ暗かー。
ランタン持ってきといて良かったー。
たららったら~。ランタンとマッチ―」
部屋の中に居たら誰でも聞こえるであろう大きな声で話をしながら私は火が着いたランタンを地面に置き、スキップしながら部屋の中央にある人型に膨らんでいるシーツの前まで進む。
「ふんふふん、ふふ~ん」
誰も居ない部屋の中、口笛を吹きながら手袋を着けた私は私のふざけた言動に反応する人がこの部屋の中に居ないことを確信すると、しゃがみ、両手を合わせて目を瞑った。
「ヴラド皇子、グリューン皇女。度重なる非礼をお詫びいたします。
貴方達がこんな目にあったにも関わらず、ふざけた態度で入室して、その後も不快な言動をして申し訳ございませんでした。
もし万が一、部屋に残っている人が居るとしたら誰が居るのか確認したくてあのような言動をしました。申し訳ございません」
私の魂の魔法が使えないこの状態では、二人が許しているかいや、それ以前にここに二人の魂が漂っているか分からないがそれでも私は二人の冥福を祈りながら言葉を続ける。
「正直、犯人には目星は着いて、やり方次第では貴方達の仇はすぐに取れます。
しかし、現状ではレオン第一皇子の件含めて、殺害方法と脱出方法がまだ分からないことが多く、まだ相手に逃げられる可能性があるのです。
なので、少しでも証拠を手に入れるためにこの部屋に来ました。
本当にご迷惑で気分を害するかもしれないですが、許してください」
そう言って、手を合わせながら深く頭を下げた私は数秒の黙祷を奉げた後、シーツで隠れた第四皇子の死体の全身の検視を始めた。
「やっぱり一番最初に目につくのはこれよね」
そう呟いた私は皇子の首にくくられている先端が焼け焦げているロープをそっと撫でた。
「皇女の首にも確かこれと同じ先端が焦げているロープがあったわね。
と言うことは、やはりこのロープを使って何かトリックを作った? ……いや、そう判断するのはまだ早いか。
犯人が自分が殺しましたと言う証明書の可能性もあるしね。
因みに絞められた跡は……あれ? 絞められた跡はあるのに抵抗線が無い」
基本的に人間は殺されそうになった時に反射的にそれから抵抗しようと何かしらの行動を行う。
有名なところでは、絞殺されそうになった時にそれから抵抗するために首筋に出来る数本の引っかき傷がまさにそれだ。
しかし、第四皇子の首には絞められた跡があるにも関わらず、絞められた圧迫痕以外は、真っ白な肌そのものだった。
「つまり、第四皇子は首を絞められた時に抵抗できない状態だっという事?
まあ、自分で現場まで行ったか、連れ去られたかまでは分からないけどもし連れ去られたとするなら第四皇子をこのホテルから殺人現場まで連れていくのにある程度は拘束していただろうし、今から殺すのにそれをわざわざ解くわけないから不思議でも無いか。
あれ? このホテルからあの殺人現場まで連れていく……
……確か第四皇子は吸血鬼病で長い間日の元に居られなかったはず。
そしてあのロープで吊るされた場所。あそこには日陰に出来る箇所は少なかった。
つまり、連れ去られたか自分で行ったかは分からないけど、あそこまで行ったと言うことは少なくとも何処かに日が当たった形跡が!! ああ……無いか。あったら何かの証拠になると思ったのに……
因みに下半身や背中……もないか。日焼けの跡のない真っ白い肌だ。
と言うことはなんだ? つまり犯人は、もしくは皇子は一切日の当たらない方法であの場所まで移動したと言うこと?
……まあ、不可能じゃないか。
かなり巨大なバックか、全身を隠す布が必要になったり移動方法を少し考えないといけないけど日の光が入らない入れ物なんて腐るほどあるし、最悪この部屋のカーテンから遮光布は作れるから、少なくともそれで移動することは可能と言えば可能だ。
でも、わざわざそんな面倒なことをする必要がある? そんなことするくらいならさっさと部屋の中で殺した方が楽だし証拠も残しづらいと思うんだけどな」
ブツブツと独り言を呟きながら、第四皇子の遺体を見続ける。
するとその時。
「ん? 手と服がちょっと湿ってる。
って、なんだこれ。明かりがランタンしかなかったのと手袋で気づくの遅くなったけど第四皇子の全身びしゃびしゃじゃない。
ん? びしゃびしゃ……髪とか一部ならともかく全身が……
つまり犯人は第四皇子が濡れるような何かをしたと言う事か?
確かにあの事件現場にはそれなりに広い川があった……つまり犯人は船を使って!!
いや、駄目だ。それだと無理だ。
近くに橋があるにもかかわらず、わざわざ子供とは言え人間一人が入るほどの荷物を持って川を移動そんなことをしたら明らかに変で目立つ。
これから殺人を犯す人間がそんな変なことをする訳がない。
第一、川の移動手段なんて日影が存在しないことが前提になる。
確かに屋根付きの小舟は見たことあるけど、それでもこんな真っ暗になるまでカーテンを使わないと生きていけない人間がそれに乗ったら耐えられるわけがないし、体にある程度の反応が出るはずだ。
いや、リュックか何かに入れたうえで乗せれば可能か? ……いや、可能だとしても結局屋根付きの船があったらその時点で目立つか。
となると、一番可能性があるとしたら何かのトリックを実行した結果、全身がびしょ濡れになったと言うこと? だとすれば体、特に口の中に何かしらの証拠が出ているはずだけど……うーん、目立った痕跡は無いか」
そう呟きながら私は少しだけ開いた第四皇子の口を更に大きく開かせ、念のために口内を確認する。
「歯は……うん、歯並び含めて綺麗ね。
それじゃあ、次は……歯と歯にの間に藻とか挟まっていたらそれが証拠になりそうだけどそれも無いか。
うーん、本当に何一つおかしなところが無い綺麗な死体だ……」
恐らくこれ以上探しても証拠らしいものは見つからないだろな。
そう判断した私はもう一つの死体へ近づきそのシーツをはがし、皇女の名前と同じ緑色のドレスを脱がした。
第四皇子と同じで先端が少し焦げたロープを首にくくられ、口からは軽く泡が吹いているが、整った顔立ちに、ふくよかな胸、すらっとした手足、白い首元。
私がもし男だったら劣情を抱きかねないほどの整った体の直肌を見た瞬間、私は先ほどまでの綺麗な第四皇子の死体とは正反対のその状態に息を飲んだ。
「……何これ。何をどうやったらこんな状態に出来るの?」
まず最初に目についたのはまるで焼けた鉄棒を着けたかのような赤とそれによって焦げたかのような黒く滲んだ巨大な痣、そして何とも言えない強烈な臭いだった。
「彼女、呪いか何かでもかけられていたの? ……いや、落ち着け。私、それは流石にあり得ない」
何故なら、犯人がもし呪いでこの魔法が使えない結界内にいる人間をこんな状態に出来るほどの魔法を使える人物だったのだとしたら、犯人の状況を考えれば真っ先にあの生きる価値のない国王がその標的にされる。
「まあ、私的にはその方が何億倍も嬉しいけど……いや待てよ」
私は先日、帝国と王国の両陣営に対して、互いに不殺、不傷の誓いを魂約書に記載した。
だとするなら、もしこの呪いの発動が魂約書の後に発動したものだとしたら、犯人は国王に対して魔法を使うことが出来ない。
つまり――――
「いや、この状態を見る限りはあり得ないか」
一か月ならともかくどんなに強力な呪いでも人間の肉体をたった数日でここまでの状態にすることは出来ない。
人間をこんな状況に出来るとしたら長期的かつ継続的に大量の毒を接種、もしくは肉体への暴力をしない限りは不可能だ。
「つまり、第二皇女は継続的に毒の接種か暴力を受けていたと言うこと?
確かにあの首吊りの際に異常な汗をかいていたけど……でもどうやって?」
ここに来る前ならともかく、レオンが殺されてからまだ数日しか経過していないことを考えると普通に犯行を行うとするのなら、犯人はこんな方法を取るとは考えられない。
何故なら一人でも死んだと言う事実は、全員に多かれ少なかれの警戒心を抱かせる。
そんな状況下で人間に暴行をしたり、毒を摂取させ続ける光景を少しでも見せれば、その瞬間に全員がその人物を犯人として疑うようになる。
そんなバカみたいな行動、犯人がする訳がない。
もちろんレオンの事件以前にその用意を完了していた場合も存在するが、その場合、どうしても彼女が死ぬタイミングがあまりにも良すぎることがその可能性を消してしまう。
まるで狙ったかのように第四皇子と一緒に第二皇女も毒死する。
そんな100個のサイコロの出目が全部同じだったみたいな確率の事象なんて、そうそう起きるはずがない。
つまり、犯人は何かトリックを使って、その運を引き寄せたと言う事か? それとも別の方法で短時間で第二皇女の肉体をこの状態になるまで損傷させたと言う事か?
「ああ、くそ……考えても今は証拠不足過ぎて分からないし、もう少し証拠を探してみるか」
そう呟いた私は検視を続けるが、それ以上の証拠は特に見つからずにそのまま検視は終わるのだった。
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