第047話「地獄絵図と第二、第三の死体」
これで二章でやるべきことは終わったので、ここから一気に話が進む予定です。
良かったら楽しんでください。
■05月17日 午前:レオン死亡から二日経過
「くそ、でもまだ間に合う!!」
「ふ、フレイヤ!? 何を!?」
視界の遥か先にある黒いてるてる坊主のような物体が完全に動かなくなる。
そんな衝撃的な光景を前に思わず全身が硬直していた私たちとは裏腹に、フレイヤは柵に足を乗せると私たちが制止の言葉を上げるよりも前にその身を五階から投げ出した。
「フレイヤ!!」
20メートルもの高さをその身一つで飛び降りたフレイヤ。
普通、いや良くて足に負傷を負うような行動をした彼女の安否を確かめるために、私はその体を乗り出して、視線を階下に向ける。
「リリー! さっきまで動いていたと言うことは、今急げばまだ助かる可能性がある!
私は先に向かうからリリーはマッドさんを呼んで!!」
しかし、そこには負傷どころか傷一つ着かず着地していたフレイヤが居た。
「それは分かってますが……でも、フレイヤ、あんな高さから飛び降りて――――」
「受け身を取ったから大丈夫!
それよりも、マッドさんのことよろしく!! 今は一刻一秒を争っている状況なんだから」
「わ、分かりました!」
私の返事を聞くや否やフレイヤは走りづらい靴をそのまま脱ぎ捨てると裸足で走り出した。
そして、そんなフレイヤの姿を見た私は踵を返し、そのままマッドさんを呼びに駆けるのだった。
マッドさんを呼び、簡潔に状況を伝えた私はそのままマッドさんと私たちに着いてきたレイやソウル公爵たちと共に先行しているフレイヤの元へと向った。
ホテルを出て、来た時に渡った橋を進むとそのまま幅の広い川伝いに進む私たち。
その速度は走りづらい靴で走っていることもあり、かなり遅いものだがそれでも全力で走り続ける。
そして、20分ほど走った後、私たちは川を渡ってショートカットしたのだろうずぶ濡れのフレイヤと未だに太い縄で吊るされている黒い袋の元へとたどり着いた……のだが。
「ふ、フレイヤ。な、なにをしているんだ?
何で救助活動をしていない!!」
フレイヤは一切救助活動をしておらず、何か考え事をしているかのように顎を触っているだけであった。
「私も救助活動しようとしたんだけど……お父さん。これを見て」
公爵の言葉に布の端に重しの石がついている黒い布をめくるフレイヤ。
するとそこにはヴラド第四皇子の体――――は一切なく、ただ空洞だけがあった。
「感触からして頭は恐らく布か綿が詰められているみたいだけど体には何も入ってなかったのよ」
「な!? 本当か!? フレイヤ! 確認させてくれ!!
本当だ。何も入っていない……もしかして、ただの誰かの悪戯? いや、第一皇子のことを考えると……」
「うん。あんな事件が起きた以上は、ただの悪戯なんてことはあり得ないと思う。
だけど……一体何のために?」
うーん。と唸り声を上げながら思考を巡らせるフレイヤ。
そんな中、私は不意に布を吊るしているロープの端にあるものを見つけた。
「フレイヤ。その布を吊るしているロープの端、焦げていませんか?」
「え? あ、本当だ。焦げている。しかもこの焦げ具合」
「はい、第一皇子の事件の時のロープと同じです」
「? どういう事だ……いや、何でこんなことをしている?
トリックで燃やした? いや、だとしたらここに死体が無いのは変だな……」
私の言葉に更に思考を巡らせるフレイヤ。
そんな悠長な行動を見せるフレイヤに痺れを切らしたのだろう。
「ちょっと待ってください!!
考えるのは後にしてください。それよりも今はヴラドの安否を確かめるほうが重要です!!
こんなことが起きたんです! 早くヴラドを見つけなければ――――」
そんな言葉を吐いたアレクセイの声が耳に入った瞬間、体内から一気に大量の魔力が抜けた感覚が走った。
瞬間。
『今日で王族とタイム家の血は我が義息と孫以外は絶え、そして我がソウル家が王国の全てを貰う』
『何故こんなことをする? そんな戯言を言えるからこんな結末になるのですよ』
本来なら国王と王妃のみが座ることが許される玉座に座りながら、私たちに向けて吐き捨てるように言葉を放つソウル公爵と夫人。
その二人が片手をあげ、その片手を一気に降ろすと同時に私の顔面に大量の血が当たり、王妃、レイを始めとした王族たちと両親の生首が転がり、その光景を見た数秒後、首から血が垂れている私の体を私が見続けると言う地獄絵図が視界に広がった。
「う、おえ!」
そんな地獄絵図に耐えきれなかった私は、視界が先ほどの黒い布とロープの光景に戻ると同時に喉にこみ上げる嘔吐感にそのまま従い、地面に先ほど食べたものを吐き出した。
「タイム嬢!! 大丈夫か!?」
いきなり吐き出した私に驚愕の表情を浮かべた公爵は、心配そうに私へ向けて手を伸ばす。
しかし、先ほどの地獄絵図を作り出した人物が伸ばした手に恐怖を抱かない訳がなく。
「止めて!! 触らないで!!」
「タイム嬢!? 何を!?」
反射的に私は公爵の手を弾いた。
瞬間、先ほどと全く同じ体から一気に大量の魔力が抜けた感覚が走った。
また先ほどの光景が見えるのかと体を強張らせる私。
しかし、そこに見えた光景は全く別であり――――そこには真っ暗な部屋の中心で首を絞められた全裸のヴラド皇子かと思われる男の子の死体と口から泡を吹きながら同じく首を絞められた第二皇女のグリューン・エンパイアの死体が転がっていたのだった。
「さっきから何なのこの光景……」
「タイム嬢。本当に大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
私の先ほどの言動に気を使ってくれたのだろう。
私から少し離れつつ、少し濡れたハンカチを私の背中を擦ってくれているレイに渡し、心配そうな声をかけてくれる公爵。
そんな公爵にまだ若干残っている恐怖を押しつぶした私は大丈夫と手を掲げると口元を拭い、息も絶え絶えになりつつ、口を開いた。
「全員、今すぐヴラド第四皇子の部屋に戻ってください。
先ほど魔法でヴラド皇子とグリューン皇女の死体を見ました」
「「「「「なっ!?」」」」」
私の言葉に全員の表情が驚愕の色に染まり、それと同時に全員が踵を返し、私の言葉が偽りであると祈りながら走り出した。
しかし、その祈りは虚しく終わり、ヴラド第四皇子の部屋に戻り、ランプで部屋の中を照らした私たちの視界には、先ほどの光景と全く同じ、二人の死体が部屋に横たわっていたのだった。
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