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第041話「陰で暗躍するもの(バサナイト視点)」

めちゃめちゃ更新が遅くなってすみません。

楽しんでもらえたら嬉しいです。

あと、10,000PV突破しました! ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございます!!

■05月16日 午前:レオン死亡から一日経過


 誰も居ない静寂に包まれたホテルの地下。

 その廊下を忍ぶように移動した二つの影は、面談室にかけられた鍵を針金で無理矢理開錠すると、するりと中に入った。

 昨日、来た時とほぼ変わらない面談室。

 その中で魔法が使えることを再度確認した二人は、出口の扉を机代わりに事前に用意しておいた魂約書に名前を記載するとそのまま魂約書を発動し、自身の魂に制約を刻むとそのまま面談室を出た。


 魔法と魔道具の発動を妨害する結界。

 その効果は一見すれば、完璧な結界に見えるが、この結界の効果はあくまで魔法の発動を妨害するだけだ。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことであると言うことだ。

 無論、ならばこの結界は無意味なのかと言うとそうでもなく、基本的に魔法は一度発動すれば完了ではなく魔法の効力を維持させるために、同じ魔法を何度も連続で発動し続けることで、魔法の効力を維持させているため、事前に魔法を発動してから結界内に入っても、最大一分程度経てば魔法は使えなくなる。

 つまり、極論すれば一分ではどんなに頑張っても到達できない範囲に居る限り、その人物は魔法の影響は受けないと言うことだ。


 しかし、何処にでも例外と言うものはあり、それはこの結界も例外ではなく例えば呪いのような()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ならば一切の制限なく魔法を使うことが出来る。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この魔法もまた、そうではないかと仮定した私はそれを検証するために『一度結界の範囲内に入った後、再度面談室に入るまでの間、後ろを振り向くことが出来ない』と言う魂約書を発動したうえで、結界の範囲内に再度入った。

 その結果――――


「どうだ? お前の予想は正しかったか? ――――。」

「ええ、念のために結界内に30分居たけど、それでも後ろを振り向けなかったから、多分魂約書の効力は結界内に入っていても、契約が失効されるか完遂されるまではその効力は続くはず。

 あと、その名前は呼ぶな」

「ごめん。バサナイトも……ああ、分かっている。そっちもやめろって言うんだろ? ――――」


 男の言葉に、もう一つの影は深く頷く。


「分かった気を付けるよ。――――。

 だが、そうか。結界内でも魂約書の効果は維持されるのか。

 じゃあ、次はその事実を国王とあの二人に伝えたうえで、この停戦協定に参加している全員をここに呼ばせる。

 そのうえで魂約書を結ばせて最悪でも王国側の人間の安全を完璧なものにさせるんだっけか? ――――」


 男の言葉に、再度影は深く頷く。


「だが、どんな契約にするつもりなんだ?

 下手にこちらに有利な内容にすれば、帝国、特に犯人の――――は魂約書を結ばないと思うぞ」

「そうだね」


 何せ魂約書とは、魂の魔法が使えるものだけが出来る魔法であり、魂の魔法の術者の魔力で作られた契約書に対象者自身が本名を記載したうえで発動することで、契約が解除されるまでの間、違約行為またはそれに準する行為を強制的に禁じることが出来るのだ。

 つまり、極論すれば犯人に『この事件の真実を包み隠さず話す』と言う契約を結ばせれば強制的にこの事件を解決できる。

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、そこまで直接的かつ相手に不利な内容をした場合は相手は高確率で拒否し、契約を結ばせることが出来ない。

 加えて、魂約書には契約に反する行為。もしくは遂行する意思のない行動をした場合、意識は契約を達成するまで失われ、肉体は契約を遂行するためだけに強制的に行動させられると言う特性がある。


 つまり、万が一犯人だと想定している人物が本当に犯人出なかった場合、事実を包み隠さず話すと言う達成不可能な契約を遂行させるために、意識も肉体の自由も奪われる。

 無論、運よく契約を遂行出来れば、意識も肉体の自由も戻る……がそうでなかった場合は言わずもがなと言うものだ。

 ゆえに、魂約書を使う際にはその条件をよく考える必要があり――――


「なるほど、つまりソウル公爵令嬢は『この停戦協定が終わり、互いの国に帰るまでの間、王国は我々を、我々は王国の人物を殺傷、もしくはそれに類する行為を全て禁じる』と言うこの魂約書を互いに結ばせることで、今後の互いの安全を保証させたいと言うことか?

 それが、我々含めたこの協定に参加している人物をここに集めた理由と言う事か?」

「ええ、その通りよ。

 もちろん、一人一人私が個別にやっても良かったけど、帝国側はその方が良かった?」


 意地悪そうな微笑みと口調で言ったその言葉に帝国側の人間が全員首を横に振る。

 それもそうだろう。何せこの契約は逆説的に言えば、例え契約を結んでいない人間が殺した人物が来ても、契約を結んでいた場合は抵抗すると言う下手をすれば相手を殺しかねない行動を禁じられると言う状況を容易に作り出すことが出来るからだ。

 よって、この契約を結ぶのは全員ほぼ同時でなくてはならず、だからこそ全員をこの面談室に呼んだと言う訳だ。


「因みに魂約書の強制力については、術者の私自身が『()()()()()()()()()』と言う魂約書を使う事で証明してみせたけど、これ以上証明をする必要はある?」


 脂汗を滲ませながら、まるで婚約指輪を見せつけるかのように掲げた左手の薬指。

 その指は普段よりも倍くらいに膨れ、逆方向に曲がっているだけでなくかなり強い力で折ったのか指全体が紫色に変色していると言う痛々しいものであり、その姿を見た帝国の皇族達は全員首を横に振る。


「いや、十分だ。

 いくら我々の帝国に莫大な被害を与えた強者と言えど、そこまで本気で指を折るなんてことは通常の精神では不可能だからな。

 その魂約書の強制力については信じよう。

 では、早速魂約書で互いの安全を保障させたいと思うが、その前に……そこの従業員。すまないが彼女の指の処置のために医師を呼んできてくれ」

「承知いたしました。アレクセイ第三皇子」


 そう言って、帝国の第三王子に命令された従業員は深く頭を下げながら、面談室を出ていくと十分もせずに医療スタッフのマッドを連れて面談室に戻ってきた。


「失礼します!! このマッド、第三皇子の呼び出しに応じて参上いたしました!!

 私の患者は何処ですか!?」


 シリアスな雰囲気をぶち壊すかのようなかなりのハイテンションで面談室へ入ってきたマッド。

 そんなマッドの姿に自分を含めた面談室に居る全員が苦笑を浮かべた。


「マッドさん。

 患者はあそこにいらっしゃるフレイヤ・ソウル様です」

「分かりました! では、早速治療をさせていただきます!!

 フレイヤ・ソウル様! お手を拝見させていただいてもよろしいでしょうか!?」

「う、うん。い……良いよ……はい。どうぞ」

「ありがとうございます! では、失礼します!!」


 ドン引きをしながらも手を差し出す患者の養豚場の豚を見るような視線など意に返さないと言うかのような満面の笑みを浮かべながら手……と言うか負傷した部分を見つめるマッド。


「ふむ。綺麗に折れて……いや、これは脱臼に近いものですね。これなら、治りも早いですな。

 しかし、この腫れ……いやこれは内出血か。内出血が随分と酷い。

 なら、添え木だけではなく患部を冷やす必要もあるな。

 では、治療は指の骨の位置を元に戻して……」


 しかし、その視線を負傷部に向けた瞬間、その表情は一気に真剣なものとなり、隣に置いてあった救急箱を開けると手際よく負傷部の治療を完了させた。


「フレイヤ・ソウル様。治療はこれで完了です。

 どうやら指は折れておらず、骨が外れていただけみたいだったので、骨の位置を元に戻させたうえで添え木をさせていただきました。

 なので、傷跡や後遺症は残らないと思いますし、連絡も早かったので一週間もあれば完治すると思います。

 しかし、内出血は酷かったみたいなので、今日一日はお風呂などには入らず、患部を冷やしながら、安静にしていておいてください」

「わ、分かりました……娘を治療してくださり、ありがとうございます」

「いえ、ソウル公爵夫人様。

 これが、私の仕事なので、お礼など要らないですよ。

 それに、これほど綺麗な負傷を治療すると言う経験は私にとって良い経験だったので、むしろこちらがお礼をしたいくらいです」

「…………」

「? 皆さま、どうしたんですか? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」


 いや、まあそりゃあさっきまでハイテンションで居た人物が治療を終えたら突然真面目かつ、丁寧な言動をしたら誰だってびっくりするだろう。

 とは言え、そのことについて説明をし、話を長引かせるのは良くないと思ったのだろう。

 第二皇子のパーヴェルは机を二度指で叩き、マッドの名前を呼ぶことで、彼の意識を自身に向けさせると、その口を開いた。


「マッド医師。治療は済んだのだろう?

 なら、呼び出しておいて悪いが早々に退出してもらってもいいだろうか?

 今は重要な話し合い中で、関係者以外はあまり聞いてほしくないのでな」

「そうでしたか。承知いたしました。パーヴェル様。

 では、皆様、失礼いたします」


 そう言って、深く礼をすると救急箱を持ちながらマッドは面談室を退出する。

 そんなマッドの姿を確認した女帝は溜息を一つ吐いた後、話を続けた。


「話を戻しましょう。

 確かにそこの小娘が言う通り魂約書を使えば、こちらは王国を、王国はこちらに手を出すことは出来ないでしょう。

 だがしかし、それは()()()()()()()()()()()()()の話でしょう?」

「それはそうだけど……女帝。あなたは何が言いたいの?」

「……侮辱とも取れるその発言は今は効かなかったことにしましょう。

 何、この紙に記載されているバサナイトと言う人物も呼んできて貰いましょうか。

 私たちも知らない人物と言うことは、そちらの国の人間なのでしょう?

 契約を結ぶのはその人物が来ることを前提とさせてもらいますよ」


 バンと叩きつけるかのように一枚の紙をテーブルの上に置く女帝。

 そこには昨日私がレオンに渡した紙がテーブルに置かれていた。


 まあ、レオンに渡したあの紙を誰かが回収している可能性はあったし、その記載内容を考えればここには居ない第三者がホテル内に存在し、その人物が誰かに害する可能性が存在する以上は魂約書の効力はともかくとして、契約内容の安全性の保障は出来ない。

 だから、普通に考えればここにいる全員に魂約書を書かせるには私がバサナイトだと言うことを明かさなければいけないが――――


「……バサナイト……バサナイト……か」

「フレイヤ? どうしたんですか?

 何か気になることでも?」

「うーん、ちょっと待って、考えたいことがあるから……」


 だが、そんなこと()()()()()()()()()()()


「……あ、もしかして。

 ねえ、そこの従業員。ちょっとペンと紙とマッチ、あと念のために灰皿を持ってきて」

「承知いたしました。フレイヤ公爵令嬢。

 今からご用意いたしますので、少々お待ちください」


 そんな一見すると意味不明な命令に対して、深々と頭を下げた従業員が部屋を出ること数分。

 部屋に戻った従業員は、その手に持ったペン、紙、マッチ、そして灰皿をテーブルの上に置いた。


「フレイヤ様。ご依頼されておりましたペン、紙、マッチ、そして灰皿をお持ちいたしました。

 どうぞ。ご自由にお使いください」

「ありがとう。それじゃあ早速……まずバサナイトのスペルは確かBasaniteだったよね。

 ここからえーと近い名前は……3、8、1……うーん、惜しいけど……いや違う。あ、もしかして」

「フレイヤ。どうしたの?

 何か分かったの?」

「お母さん。ちょっとごめん。もう少し待って、もう少しで分かるから」


 公爵夫人からの質問を遮るように右手を夫人へ向けて出しながら、左手でペンを走らせ続けながらブツブツと呟く。

 そして、ある程度紙に記載が終わると、大量にペンを走らせた紙に火をつけるとそのまま灰皿に燃えた紙を置くと口を開いた。


「ふぅ、疲れた」

「フレイヤ、何か分かったの?」

「うん。お母さん。

 バサナイトの正体が分かったかもしれない。

 結論から話すけど、()()()()()()()()()()()()()()がこの場に居ようと居まいとそちらに不利益は無いわ」

「女性? って、それよりもフレイヤ。バサナイトの正体が分かったのか!?」

「確信はまだ持てないけど、九割九分間違ってないと思うよ。お父さん。

 因みに私の推測が正しいのなら()()()()()()()()()()()()()()よ。

 まあ、そう言っても帝国の全員は都合の良い嘘だ。信じないって言うかもしれないけど……これなら信用してくれるでしょ?」


 そう言って、全員に見せつけるように出された魂約書には「これから3分間。嘘を吐かない」と「フレイヤ・ソウル」と書かれていた。


「もちろん、口封じのために私が殺される可能性がある以上は全部は話すことが出来ないけど、この二つの真実だけは話してあげるわ。

 バサナイトはレオンを殺していないし、他の帝国の皇子も殺すつもりはない。

 そして、もしバサナイトが殺人を起こすとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()だけよ」


 そう、私の正体を知った人間は必ずそこに行きつく。

 私が殺したいのはそこで私に向けていやらしい笑みを浮かべている国王と―――――だけで、レオンも他の皇子も殺すつもりが無いと言うことに。

 とは言え……


「フレイヤ様! どういう事ですか!?

 確かにそれが事実なら、帝国は安全ですが、それでは国王の安全は保障できないと言うことじゃないですか」


 まあ、そういう反応になるよな。

 何せ、先の台詞は誰がどう聞いても、国王が標的となっている宣言にしか聞こえないし、特に国王に対して並々ならぬ尊敬と貴族と純血主義の王国第八王女のノウビリティー・ブラッドが許容できるわけないよね。だが。


「ノウビリティー、落ち着け」

「国王、こんなこと落ち着け何て出来る訳――――」

「ノウビリティー、もう一度言う。落ち着け」

「――――っ」


 国王からの力強い宣言に、血が出かねないほどの力で唇を噛むノウビリティー。

 そんな彼女の様子など意に返さないと言うかのように、国王は話を続ける。


「フレイヤ・ソウル公爵令嬢。

 現国王、ダヴィド・ブラッドの命として、もう一度宣言してもらう。王国民であるならば嘘偽りなく答えろ。

 バサナイトと呼ばれる女性は今このホテルに居るのか?」

「さあ? そこまでは知らないけど手紙の件から考えると恐らく居ると思うわ」

「バサナイトの正体については本当に分かったのか?」

「分かったと言うより、私の推測が正しければって言う話よ。

 実際に顔を見たわけじゃ無いし、外れている可能性も、無いわけじゃ無いけど九割九分くらいは彼女が帝国生まれで、帝国の血が流れていることも合っていると思うわ」

「そうか。

 ならば、そのバサナイトはレオン第一皇子を殺した犯人なのか?」

「それはほぼノーと言えるわね。

 理由は第一皇子とバサナイトが仲が良かったって言うことを第一皇子個人から聞いているし、そもそもレオン第一皇子を殺す暇があるとしたら、その前にお前のことを殺すと思うわ」

「フレイヤ公爵令嬢!! 国王に対してお前なんて、無礼にも程が――――」

「ノウビリティー、俺は今、お前が意見を出すことも、マナーの講座を始める許可も出していない。

 俺は今、フレイヤ・ソウル公爵令嬢と話しているんだ。

 余計な指摘をするのなら、魂約書を使う直前まで外に待機させるぞ」

「――――っ、も、申し訳ございませんでした。国王」


 そう言って、怯えてか、怒りを抑えているか、その両方なのか全身をプルプルと震えながらノウビリティーは頭を下げる。

 そんな彼女など、どうでいいと言うかのように視線を戻した国王は話の続きを始める。


「それでは話を続ける。

 バサナイトは帝国に害をなす可能性はあるか?」

「うーん。

 レオン第一皇子との仲を考えるのなら、第一皇子を殺した犯人は復讐のために殺される可能性はあるけどそれ以外の人は殺される理由は無いから、害をなすとしたらお前を殺した後だわ」

「そうか。ならば、逆に言えば魂約書を書いたとしても、俺が殺されるまで帝国側には意味が無いと言う事か」

「そうね。バサナイトは帝国民である以上は、帝国側は魂約書を書いたとして反撃は出来るし、何なら王国側である私たちは帝国民であるバサナイトに反撃は出来ないからむしろこの状況になること自体が帝国の理になる可能性があるわ。

 だから、安全面と言う点では、圧倒的にこちらが不利だけど……どうする?

 私は、お前が殺される可能性が高くなるから喜んで契約したいんだけど」

「……ふむ。元々魂約書を使うことは王国側が提案したこと。

 ならば、俺が殺される可能性が上がる程度の不利益を被ることで、この安全が保障されるとしたら、安いものだな。

 分かった。では、王国側は、魂約書を使用することを許容するし、国王である俺がこういった以上、帝国側は魂約書を書くのを拒む理由はないな――――と言いたいところだが、そう言ったら、女帝はこう言うだろうな。

 『執事や世話人などここに居ない王国民がホテル内に居た場合、その人物も魂約書を書かない限りこっちの安全が保障されていない』と。

 ならば、フレイヤ・ソウル公爵令嬢。

 確かまだ先の嘘を吐かない効力がまだ効いているよな。

 再度正直に答えろ。公爵家が把握している王国民でこの部屋に居ない人間はあと何人いる?」

「一人よ」

「その人物は?」

「廊下に既に待機させている」

「ならば、呼べ」

「分かったわ」


 流れるような会話と呼べと言う命令を聞いた瞬間、手元にあるベルが音を鳴らすと、その数秒後、扉からノックが三回され、一人の人間が部屋に入った。


「失礼します。

 初めまして、オズルと申します。

 皆さん、よろしくお願いいたします」

「「「「「――――ッ!?」」」」」

「し、ジーク、お兄様!? し、死んだはずでは!?」


 顔を上げた瞬間にその顔に驚く帝国の面々と第八王女。

 そんな彼らを無視するかのように深い一礼をした後、公爵の後ろに立ったオズルは自分がジークの影武者であったことと、ジークが死んでお払い箱になった自分を不憫に思ったソウル家が見習い執事として、雇ってその研修も合わせて来たと言う嘘の設定を話すが……


「ほ、本当にお兄様ではな、無いんですか?」


 まあ、そういう反応になるよな。

 なにせ設定上はオズルと言う別人だが、中身は国王と王女の血を継いでいる本物の王国第二王子だからね。

 そりゃ誰でも、疑問に思うしそれが自身の妹なら尚更だ。


「とは言え、言うことで王国側はこれで全員だ。

 では、これ以上の反論が無ければ、このまま魂約書の記載を始めるぞ」

「え? あ、ああ。そ、そうね」


 矢継ぎ早に何かを言う前に話を進める国王。

 そう、これこそジークをオズルとして全員の前に出した理由だ。

 人間は基本的に何か想定外の事象が起きた時にどうしても思考の何割かがそれに割かれる。

 加えて、帝国は元々第二王子が殺されたと言う情報とそれによって起きる混乱を狙うと言う理由でこの戦争を始めた。

 だが、その理由の根底が崩れかねない原因が目の前に居た場合、責任を負う量が高い人間であればあるほど、それが本当なのかどうか。そしてもし、それが本当だった場合の言い訳などに思考を割かれる。


(それに何より帝国は、その理由で始めた戦争で莫大な損害を負ったしね。

 いくら皇族でも間違った情報で起こした戦争をして、損害を負いました。テヘ。

 何て言って許されることじゃない。下手をすれば暴動が起きるほどの不祥事だ)


 そして、重要な条件が記載された魂約書を書かせる場合、その思考を割かせることがどうしても必要になる。

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()()するからだ。

 それは――――


「では、これで全員記載したな。

 フレイヤ・ソウル公爵令嬢。確認をしたうえで、能力を発動しろ」

「分かったわ。えーと」


 視界を下に降ろす私。そこには、各々の名前が次のように書かれていた。


・エカテリーナ・エンパイア(EKATERINA・EMPIRE)

・パーヴェル・エンパイア(PAVEL・EMPIRE)

・アレクセイ・エンパイア(ALEXEI・EMPIRE)

・ヴラド・エンパイア(VLAD・EMPIRE)

・アンナ・ペトロヴナ(ANNA・PETROVNA)

・グリューン・エンパイア(GREEN・EMPIRE)

・ナターリア・アレクセーエヴナ(NATALIA・ALEKSEEVNA)

・エリザヴェータ・エンパイア(ELIZABETH・EMPIRE)

・リーネ・エンパイア(LEENE・EMPIRE)

・ダヴィド・ブラッド(DAVID・BL00D)

・レイ・ブラッド(RAY・BLOOD)

・ノウビリティー・ブラッド(NOBILITY・BLOOD)

・ニルド・ソウル(NILD・SOUL)

・スカジ・ソウル(SKATHI・SOUL)

・フレイヤ・ソウル(FREYA・SOUL)

・リリー・タイム(LILY・TIME)

・オズル(OZUL)


 やっぱり、()()()()()

 心の中で溜息交じりに呟くが、ここでそれを指摘することが出来ない。

 何故なら、こいつはこの事件では、一切悪事を働いていないしそれを証明する方法が無いし、何よりそれを指摘することで、犯人がそれを利用しかねないからだ。

 ゆえに――――


「確認終わったわ。全員問題ないわ。

 じゃあ、魂約書を発動するわね」


 悪用された事実を誰にも指摘されることなく発動される魂約書。

 その縛りは、()()()()()()()()、そこに記載された全ての人間の魂を縛り、仮初の安全を私たちに与えるのだった。

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