第038話「レオンの忘れ形見(ノエル視点)」
■05月15日 深夜:レオン死亡から数時間後
「レオン……なんで……私たちこれからどうすれば……」
レオンが吊るされている姿を目の当たりにして数時間、ベットに座りっていた私の涙は未だ流れ続けていた。
「う、うう……、これが夢なら早く覚めてよ」
そんなありもしないことを呟いた私は左手を彼の形見となってしまった婚約指輪ごと胸に抱き締めながら、彼との馴れ初めを思い出していた。
私のような平民が帝国の皇族。
それもほぼ次期帝王となる予定だった第一皇子のレオンと言う一生関わらないであろう彼と出会い、見染められたのは幸運としか言えなかった。
彼との出会いは数年前の他国との戦争であり、その時私は軍医として多くの人の傷を治療していた。
毎日多くの人が運ばれては死んでいく野戦病院の中で右往左往する毎日。
そんなある日、敵兵の魔法によって負傷したレオンが病院に運ばれてきた。
ただ負傷と言っても少しだけ手足が火傷したのと、体に軽い切り傷が出来た程度で他の兵士と見比べたら軽傷であり、通常であれば傷を消毒するかこんなことで病院に来るなと怒られるのが普通だ。
無論、それが原因で破傷風になり、死ぬと言うケースも無いわけではないが、それは特殊なケースであり、結局は運が悪かったで終わることだ。
しかし、相手が皇族とあれば話が違う。
どんな小さな可能性でも死ぬ可能性がある以上、戦場では蝶よりも花よりも大事に扱われるのが皇族と言うものだ。
加えて、当時のレオンはまだ未婚で、かつ世継ぎも無い大事な体と言う事もあり、どんな小さな傷でも病院に連れていけと命令された結果、軽傷なレオンが病院まで運ばれたのだ。
無論、小さな傷でも破傷風で死ぬと言うのはかなりのレアケースで、かつ疲労などで抵抗力が低下している場合が殆どだ。
なので、軽傷かつ戦場でも皇族として健康的な生活を送っていたレオンがそんなレアケースに引っかかるわけもなく、病院に運ばれて数時間後には他の重度の兵士たちの看護をし始めると言う皇族としてはあり得ないことをし始めるほど完治していたのだが、今度はそれが問題となった。
と言うのも、いくら皇族が自主的にやっていると言えど下手をすれば何かしらの破傷風以上の感染症をうつしかねない負傷兵の看護なんてさせるなんてことは許されないからだ。
しかし、だからと言って皇族相手に勝手な行動をするなと命令すると言う不敬罪に問われかねない行動も出来ない。
結果、私たちにとってレオンと言う存在は放置すれば感染症をうつされて私たちの首が物理的に飛び、かと言って注意すれば不敬罪として捕らえられかねないと言う迷惑そのものとなった。
とは言え、全てが全て問題になったわけでもなく、一応看護経験があったのか看護するレオンの手際は非常に良く、対応も完璧と言えるものであった。
そんなレオンを見た私はレオンに看護をしても良いが、必ず毎日朝昼晩に私に体調をチェックさせることを提案にした。
と言うのも、私の魔法は所謂鑑定に関する魔法で、物の価値を鑑定をするだけでなく人間に使えば簡単な経歴だけでなく、魔力を大量に使えば感染症を始めとした体調面も鑑定することが可能なものだからだ。
因みに私が体調面を鑑定するのは一日に三回が限界で、それ以上を行えば魔力切れで気絶してしまう。
しかしそれは逆に言えば、朝昼晩にレオンの体調を鑑定すれば、レオンが今どんな症状を引き起こしているか分かり、感染した初期なら幾らでも対応可能であり、問題が起きる可能性が低くなると言うことだ。
ゆえに、もし今後も看護をするのなら、私に毎日体調チェックをさせて欲しいと言う私の提案に対して、レオンが言ったのは……
『いや、俺の我儘で君に迷惑をかける訳にも、そんな貴重な魔法を俺のために使わせる訳には行かない。
君たち看護師たちの役に立つと思ってやっていたんだが……逆に迷惑をかけていたようだな。
今まで迷惑をかけて本当にすまない。今後は看護はしないで君たちの話をよく聞きながら、部屋でゆっくりと傷を癒しているよ』
そんな言葉と一緒に頭を下げると言う皇族としてあり得ない行動をするのだった。
それが私とレオンの馴れ初めであり、それから私はレオンの専属医だったと言うこともあり、毎日話をしたりするうちに意気投合した私たちはの関係は終戦後も続いた。
時折お忍びとしてやってきたレオンと遊んだり、手紙を交換し合ったり、好みの小説について話し合ったりする日々。
そんな日々を過ごすうちに最初は気の合う友人だった私は互いに意識し合うようになり、そして皇族であるレオンにプロポーズされると言う平民ならありえない幸福を私は得たのだが……
「レオン……何で……どうして……」
その幸せも彼の死と言う現実によって壊されてしまい、私に残っているのは彼に貰ったプロポーズの指輪と遺児となってしまったお腹の子供だけだった。
何度目か分からない彼を求める声を漏らす私。
そんな私の頭には彼への思いだけで敷き詰められており、それ以外は何も頭に入らなかった。
だからだろうか。
明かりもついていない私の部屋にこっそりと入ってきた人物が私の背後に立っていることに私は全く気付かなかった。
「レオ――――んぐっ!」
「騒ぐな。そのお腹の子ごと殺されたくないのならな」
声から性別を判定させないようにするためか、声色を高くしたり低くしたり何度も変えながら話す謎の人物に口を塞がれた私は次の瞬間に告げられた脅しの言葉に大人しく従う。
「よーし。良い子だ。
今から話をするが、視線はこのまま前を見たままにしろ。
私の都合で申し訳ないが、私の正体を知る人物をこれ以上増やしたくないんでね。
それを守ってくれるのなら口は放してやる。
分かったら指を一本、分からなかったら指を二本立てろ」
ゆっくりと指を一本立てる私。
そんな私の手を見た謎の人物はゆっくりと私の口から手を放した。
「脅して悪かったな。
私はバサナイト。
お前の夫であるレオンの古い友人だ。
死んだレオンのために、お前をここから脱出させるために来た」
流暢な帝国語を話すバサナイトだが、私はその名前に聞き覚えがあった。
「バサナイト……って、フレイヤ・ソウル様に手紙を渡したあの人ですか?」
「ああ、その人物で合っているんだが……残念ながらお前と雑談する時間はないから、単調直入に言うぞ。
今からこのホテルを出る準備を始めろ。
お嬢様の推理が正しければ、女帝はお前をレオンを殺した首謀者としてそのお腹の子ごと処刑する可能性がある」
バサナイトの言った衝撃的な言葉に私の体は一瞬びくっとする。
「私はともかくとして、この子もですか!?
待ってください。この子は女帝の孫でもあるのですよ!? そんな子を――――」
「雑談する時間はないと言ったぞ。
それに私はあくまでお嬢様のメッセンジャーに過ぎない。
その理由を知りたいのなら、逃げる準備をしたうえでこの場所に向かえ。
お嬢様がお前たちを脱出させる準備をしてくださっている」
そう言って、渡したのは一枚の簡易的な地図だった。
「お嬢様は何時までも待っているとおっしゃっていたが、女帝が何時お前を捕らえに来るかは分からない。
この意味は分かるよな?」
バサナイトの言葉に私はゆっくりと頷く。
いつ捕らえに来るか分からない。
それはつまり、今この瞬間にも私は捕まると言う事であり、一秒でも早く準備を終えなければいけないと言うことだ。
「話が早くて助かる。流石レオンが選んだ相手だけあるな。
それじゃあ、私はもう出るが私が部屋を出るまで絶対にこちらを振り向くなよ。
何度でもいうが、私の正体の知る人物は多くしたくないんでね」
再び頷く私。
そんな私の行動に満足したのかゆっくりとベッドから降りたバサナイトは次の瞬間に、走るかのように寝室から出て行ったのだった。
バサナイトが出て、再び一人になったせいだろうか、私の頭の中は再びレオンのことで敷き詰められる。
だがしかし、先ほどまでのように、レオンのことを思いだしたからと言って、泣いている暇はない。
何故なら――――
「レオン……この子は絶対私が護るから」
母親として、この子の命を守らなければいけないのだから。
そう呟きながら、私は静かな鼓動を伝えるお腹の子を撫でた私は、急いで逃走の準備を始めるのだった。
実はノエルの名前はレオンを逆文字にしたものですが気づいた人は居ましたでしょうか?
もし気づいていたのなら、ぜひ感想に書いてください。
※LEON⇒NOEL
因みにバサナイトも意味はあるので、もし分かった人は感想にぜひ書いてみてください。
※まだ先ですが、三章でバサナイトの意味は出す予定です。
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