第037話「推理する二人(フレイヤ視点)」
■05月15日 夜:レオン死亡から数時間後
レオンの部屋からロビーに戻った私は犯人があの部屋から出たヒントが無いかじっとパンフレットを見ながら、あの女帝の言葉を思い出していたのだが・・・・・・
「ちっ、はぁーダメだ。何も分からない」
そんな都合のいい情報は無く私は舌打ちしながらパンフレットを適当な机の上に投げ捨てると、少し不安げな顔をしたリリーが私の顔色を伺うように声をかけた。
「フレイヤにしては珍しく荒れていますね。
やっぱり、女帝に犯人扱いされたことを気にしているのですか?」
「まあね。
犯人が分かっている身としては犯人扱いされるのは流石に……ね……」
「え!? フレイヤは犯人が分かったんですか?」
「うーん。犯人が分かったんだけど……まぁ、誰も居ないし、良いか。
それに犯人が分かった方がリリーも対策できるだろうしね。
まず、レオンを殺すには――――」
そして、私は自分の推理を始めるだった。
「……このことから、レオンを殺した犯人は―――――しか居ないんだけど……」
「どうしたんですか?
私もフレイヤの話を聞く限りはそうだとしか、思わないのですが、何か問題があるんですか?」
「うーん。問題と言うか何というか……ぶっちゃけると、犯人は分かったんだけど、トリックの方が分からないんだよね。
確かにあの状況を作れる人物は限られている以上、犯人は―――――で間違いないと確信しているんだけどあの部屋からどう脱出するか。
それを解けない限りは、あの女帝の推理の二の舞になりそうだなんだよね。
はぁー、どうしよう……」
大きな溜息と一緒に私はぐったりと机の上に全体重を乗せる。
そう、例えあの状況を作れる人物は限られていても、それはただの状況証拠でしかない。
状況証拠でしかない以上はあの部屋から時間内に脱出した上で、あの屋上で好きなタイミングでレオンの死体をまるで今投げ捨てたかのように見せかけつつ吊るす方法を知らない限りは、何を言ってもただのこじつけとしか言われない可能性がある。
「でも、ヒントが無いわけじゃ無いことが唯一の救いなんだけどね」
「ヒントが無いわけじゃない? それってどういう事ですか?」
「あの女帝の推理を思い出してみて。
確かに付け入れる隙はあったし、ところどころ矛盾点があったでしょ?」
「言われてみれば確かにそうでしたね」
例えばロープを火で炙った際に都合よく火が燃え移らないうえで燃えて切れると言う都合の良いトリックを言っていたり、ただでさえ一分一秒を争う中であんな隣の部屋を行き来するような大げさなトリックを言っていたりと、その推理はところどころ無理のあるものだった。
「でも、あの女帝の推理、ただ聞くだけだとかなり信憑性の高い内容だって感じたでしょ?」
「そうですね。私もあの推理を聞いた時はその推理が本当じゃないかと感じてしまうほど女帝の推理はかなり良くできていました」
「うん。私もそれは感じていた。あの女帝の推理、即興にしてはあまりにも出来過ぎている。
まるで最初からこう言うって決めていたほどにね」
「……でも、それが普通じゃないんですか? 犯人は――――なんですよね?
だとしたら女帝の推理の中にはヒント何て無いんじゃないんですか?」
確かに、普通に考えれば犯人が分かるようなヒントをあの女帝が出すなんてありえないことだ。
だけど――――
「ねえ。リリー。
話変わるんだけどさ、死に戻り前のあなたが死刑になることが決まった後、独り身だった私とレイが婚約と結婚が決まったこと覚えている?」
「はい、覚えています……
あの時は……少しだけ取り乱しましたけど……貴族と王族の務めですから……納得していました……」
「実はさ。あの後、リリーに言いづらいことが起きたんだけどさ。
私、あなたが処刑される前日にもう子供を産んでいたのよね」
「え? 産んでいたって……それって……」
顔色が青くなるリリーに罪悪感を感じつつも私は更に口を開いた。
「うん。
ソウル家としても王家としても血を残す必要があって、私もそこは納得していたし理解もしていた。
でも、友達の好きな人と寝るなんてことも、あまつさえその人と子を作るなんてこと流石の私でもきつくて、婚約と結婚時にそれを条件にレイと婚約と結婚したんだけど……
でも、そんなことお父さんとお母さんは許してくれても、王族と他の貴族は許してくれなかったみたいで……
私とレイの婚約と結婚パーティーに二人とも媚薬を飲まされて……それで……気づいたら、裸で寝ていて、しかも三か月後には、つわりが来て……それから数か月後に陣痛が来て……」
「…………」
自分の右肩を強く握りながら、肩越しにリリーを見つめる私。
そこにはまるで絶望するかのような暗い顔をしたリリーが居て、その表情は完全に私の言葉を信じている表情だった。
それを確認した私は、深いため息を吐きながら、喉の奥底に込めていた真実を吐き出した。
「そんな気色悪い夢を見たのよね。昨日。
あー、気持ち悪い。未だに思い出すだけで鳥肌立つ!!」
「へ? 夢?
昨日の夢の話だったんですか? さっきの……」
「そうなんだよ! そんな私にとっては地獄でしかない夢を見たんだよ!
しかも聞いてよ。その夢の中でレイが私のことを抱きながら、リリーごめんって泣いているんだよ。
何あれ! 私前世でどんな悪行を重ねたらあんな気色悪い夢見せられるのよ!
出来るならもっとイケメンでダンディーな大人の男たちを侍らすような夢を見たかったわよ!
それなのに……何であんな夢なのよ! あー、本当に今思い出すだけで腹立つし、気持ち悪くなって……
やばい、言っていたら本当に気持ち悪くなってきた。トイレで一発ゲロしに行こうかな……」
真実と一緒にこみ上げる吐き気を口を抑えながら、何とか私は込み上げるものをジュースを使って下らせる。
一杯、二杯と次々とジュースを飲む。
そして、口元まで込み上げたものが完全に無くなると同時に私は視線をジュースから怒りの表情を浮かべたリリーに戻すと同時に、リリーの口から怒号が飛び上がった。
「フレイヤ……一体何の悪ふざけでそんなことを言うんですか!
今はあの女帝の推理の話をしていたんですよ!
それが何であんな悪趣味な話を……私がレイのことを――――」
「でも、信じたでしょ? 私の嘘の夢の話」
「――――ッ!」
リリーの言葉を遮りながら発した言葉に、リリーの顔は一瞬でハッとしたものに変わる。
「実はさっきの話ね。いくつか嘘と真実を合わせて置いたの。
例えば、リリーが処刑されることが決まったから私とレイが婚約、結婚したことが決まったこと。
婚約と結婚時に私はレイとは肉体関係を結ばないことを魂約書を使って結んだこと。
そして、お父さんとお母さんがそのことを許したことと、それを許さなかった王族と貴族が媚薬を私とレイに飲ませたこと。
これが真実で、他は全て噓だったのよ」
「え? それじゃあ、レイとフレイヤは……」
「婚約時に魂約書を使ってまで結婚する条件に肉体関係を永遠に結ばないことを条件にした以上、そんなこと不可能よ。
実際、媚薬で頭が朦朧としている中で、私をリリーと勘違いしたレイが私の体を抱こうと押し倒しかけた瞬間、互いに契約違反の罰を食らって、気絶したわよ。
だから安心しなさい。あなたの処刑時のフレイヤ・ソウルの体は間違いなく純潔で、誰とも肉体関係を結んでないわよ」
私の言葉にさっきまで怒りの表情だったリリーの顔は、いきなりほっとしたものになったが、次の瞬間、何かを悟ったかのような表情に変わる。
「もしかして、女帝の推理があんなに信憑性が高かったのって……」
「ええ、恐らくレオンを殺したあの場に居たのか、それとも実行犯である――――から直接聞いたかは分からないけど、あの推理の中に恐らく一つか二つ。
もしくはそれ以上の真実と嘘を織り交ぜたからこそ、あんなに信憑性が高かったはずよ」
「なるほど、だからフレイヤはその真実がどれなのか見分けるためにあんなにじっくりとパンフレットを見ていたのですよ」
「そう言うことなんだけど……はぁー。本当に何も分からなかったのよね」
そう言って、リリーが机の上に戻したパンフレットを再度パラパラとめくるが……
「やっぱり分からない……心理的なトリックだったら楽勝なんだけどこう言う物理的な推理は苦手なのよね。私」
「フレイヤ、物理的なトリックが苦手だったんですか。
何処かこういうもの含めてフレイヤはマナー以外は完璧だと思っていたのですが……」
「えへへへ。マナー以外は完璧何てそんな風に思っていてくれていたんだ」
「マナー以外の部分は普通の令嬢なら怒る事なんですが……
それにしても……心理的なトリック……心理的……フレイヤ。ちょっとパンフレットを貸してもらっても良いですか?」
「ん? 良いよ」
私の言葉をオウム返しのようにリリーは呟きながら、受け取ったパンフレットを読む。
「フレイヤ。私はフレイヤとは逆に心理的なトリックは苦手なので、フレイヤに代わりに推理していただきたいことがあるのですが、良いですか?」
「ん? 別に良いよ。何?」
「ありがとうございます。では早速ですが、女帝は何で誰でも否定が簡単に出来る推理をしたのでしょうか?」
「え? そんなの私に罪を被せるためか、事件を有耶無耶にするために……いや待てよ」
おかしい。女帝の行動は明らかに矛盾している。
「フレイヤも気づきましたか? そうです。女帝の行動は明らかにおかしいんです。
何処まで真実か分からないですが、普通、あれほど大掛かりなトリックをする以上、黙っていれば時間が稼げますし、何より時間を稼ぐことでより信憑性が高い証拠をあの部屋に仕込むことや重要な証拠を消すことが可能になるはずです。
例えばですが、滑車のようなものを部屋の何処かにおいて、フレイヤでも簡単にこの状況を作れることを作ったうえで、犯人はフレイヤだと宣言するみたいな感じで」
確かにそうだ。部屋の保全と言う観点から考えれば、部屋に入るのは難しいが女帝と言う権力を使えば幾らでも部屋に入り、目を盗んで何かをするのは簡単だ。
それなのに、女帝はその選択をせずにわざと嘘が入っているとは言え、自身の推理をした。
つまり、女帝にとって私が犯人になる可能性やより推理の難易度をより高くするよりも、何か別の目的があったと言うことか?
「それに実は私、あの部屋を出る際に見てしまったんです。
あんな状況にも関わらず、満面の笑みを浮かべていた女帝の顔を……」
「自分の推理を全面否定されたにも関わらず、笑みを浮かべていた!?
……え? だとすると……なんだ?
私を犯人にするよりも重要で……トリックを解かれなくするよりも重要で……え? え?」
リリーから伝えられた事実を聞いた私の頭はどんどんぐるぐると回っていく……が……
「まさかっ!」
「え? フレイヤ。どうしたんですか!?」
「ごめん。ちょっと今は言えない!
でも、私の推理が正しかったらあの人が危ない!!」
「え、ちょっと、フレイヤ!
待ってください! フレイヤ!!」
そう言って、立ち上がった私はリリーのことを無視して、ホテルを出て、暗闇の中へと消えていったのだった。
もしかしたら、更新頻度を高くするために、一話ごとの文字数を少なくするかもしれないですが、そうなったら温かい目でよろしくお願いします。
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