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第032話「変人医者マッド」

ようやく更新できましたー

皆さんお待たせしてすみませんでした

■05月15日 夕方:帝国との停戦協定初日


「荷物はこれで全部でしょうか?」

「えーと、少し待ってください。……はい、私の荷物はこれで全部です。ありがとうございます」

「私のほうもこれで全部です。ありがとうございます」


 これから行われる停戦協定の会場である高級ホテルの一室に馬車にあった荷物を全て持ってきてくれたホテルの従業員に頭を下げつつ、そのお礼に私とフレイヤは従業員に数枚のお金(チップ)を渡すと彼女は少しだけ嬉しそうな顔をしつつ、お金をポケットに入れた。


「リリー・タイム様、フレイヤ・ソウル様。

 17時から行われる予定の顔合わせまではまだ時間がありますが、これからしばらくの間お泊りになるお部屋と本施設の説明は必要でしょうか?」

「はい、私はぜひともお願いしたいのですが……フレイヤはどうしますか?

 疲れているのなら、私だけ行きますが」

「うーん。私は疲れたから数分だけ仮眠してようかな? 部屋と施設については後で教えて」

「分かりました。

 では、ゆっくり休んでください。おやすみなさい。フレイヤ」

「うん。お休み……すー、すー」


 大きな欠伸をしつつ、ホテルの寝室に入ったフレイヤはよほど疲れていたのだろう。部屋に入って数分で寝息を立てて眠ってしまった。

 そんなフレイヤに気を使ってくれたのだろうか、私の説明お願いしますと言う言葉に頷いた従業員は声を少しだけ落としつつ、説明を始めたのだった。


「それではリリー様。まずこのお部屋の説明をさせていただきます。

 皆様がこれから使用するこの客室は大きさは約50平米で、寝室、洋室、お手洗い、浴室で構成されています。

 浴室はシャワーだけでなく、この扉の先が露天となっており、この様に絶景とお風呂を楽しむことが出来ます」


 そう言って、浴室の入口とは反対側のドアを開けるとそこには広大な海の景色が視界一杯に広がった。

 鼻からひそかに伝わる磯の匂いとさざ波、そして一切の遮蔽物のないその絶景に馬車での日々で溜まった疲れが癒されるかのような感覚を味わうが……


「凄い綺麗な景色ですね。でも……その……」

「ご安心ください。いくら遮蔽物のない場所と言えど相当身を乗り出さない限り外からこちらの姿は見ることは出来ませんので」

「そうなんですか。安心しました。でも、空を飛ぶ魔法を使って覗くと言う方法も取れそうですが、その対策は……」

「そちらについてもご安心下さい。

 当ホテルは防犯も兼ねて地下の一部の部屋を除いて、広範囲に魔法と魔道具の発動を妨害する結界が組み込まれています。

 なので、例えば空を飛ぶ魔法を使ってもお客様が覗かれるような状況を作ることは実質不可能なのでご安心してこの景色を楽しんでください」

「そうなんですか。それが本当なら確かに安全ですね」


 などと呟いていたが、実のところ私はこの結界が本当に機能しているかについて疑問を感じていた。

 何故なら、先ほど魔導具にて色を変えた髪が元に戻っていないからだ。

 確かに魔法と魔導具の妨害をする結界の存在は私も知っている。

 だが、先ほどの従業員の話が本当なら結界の中ではこの髪の色を魔道具は上手く機能しないはずだ。

 しかし、実際は髪の色は金のままで、魔導具は正常に機能している。

 ……とすると、この結界はもしかしたら何か条件が満たされた場合は、魔法と魔導具が使えるのかもしれない。

 だとすると……


「……すみません。ちょっと本当に魔法が妨害されるか試してみても大丈夫ですか?」

「はい、もちろん。大丈夫です。

 あ、でも炎や風など周りに被害が出かねない魔法を使うのでしたら、ご遠慮していただきたいのですが……」

「そこは大丈夫です。私のは周りに被害は出ないので」

「そうですかではご満足のいくまでお試しください」

「ありがとうございます。では、失礼して、『止まれ』」


 呪文を唱えると同時に私は結界の効果を確認するためにペンに対して時を止める魔法を発動する。

 本来であれば、この魔法を使われた対象は時を止められ、ペンならば、手を離せばそのまま地面落ちずに、空中にとどまるはずだ。

 しかし、その効果は一切効かずペンは一切止まることなくそのまま地面に落ちた。


……うーん。どうやら、魔法自体の無効化は本当らしいですね。 

 もちろん、どこまで使用可能なのかは確認する必要あるが、それでも普通の方法では魔法も魔道具もこの屋敷では使うことは出来ないことは確かでしょう。


「確かに魔法は使えないみたいですね。

 確認させてくださりありがとうございまします」

「いえいえ、安全面含めてお客様には必ず一度は試していただいているのでお気になさらず。

 では、次に各お部屋の説明をさせていただきますね」


 そう言って、浴室から出た従業員はそのままドアについている「内鍵(サムターン)」のつまみを二つの指で掴んで回すと、私と一緒に部屋の外へ出た。

 広くところどころに豪華な壺が置いてある廊下に軽く目が散ってしまうが、そんな私とは対照的に従業員は説明を続けた。


「まず、当ホテルでは、基本的に、2、3、5階が全て客室で、各階に5室までのお部屋が用意されています。

 因みに、お二人がお休みとなるお部屋は52号室で、お隣の51号室がソウル公爵様と夫人様で、53号室は帝国第一皇子、54号室は第四皇子、55号室は第二皇女様のお部屋となっております」


……帝国の第一皇子の人か。

 確か、会場に着いた際に真っ先に私たちに挨拶してくださった人でしたよね。

 帝国の人にしてはこちらに対してかなり友好的な挨拶をしていたから、よく覚えている。

 対して、あと二人の第四皇子と第二皇女はまだあっていないが、まあ、恐らく今日の顔合わせで会うだろうし、その際に挨拶をしても遅くないだろう。

 そんなことを思いながら呆然と53号室以降の部屋を見ていた私だが、その考えは従業員が手渡しした鍵が触れた瞬間に霧散した。


「そして、こちらがお二人が使用する52号室の鍵でございます。

 念のために、鍵があっているかの確認をお願いいたします」

「はい、分かりました。

 少し待ってください……ちゃんと鍵もかかったようですし大丈夫そうですね」


 従業員から貰った鍵を回し、扉が閉まる音を確認した私はそのまま鍵をポケットの中に入れる。


「もし万が一鍵を失くしてしまった場合は、1階の受付か、従業員室にご連絡していただければスペアーキーをご用意いたしますので、失くしてしまった場合はそのようにお願いいたします」

「はい、分かりました。

 なるべく失くさない様に注意します」

「はい、そうしてください。

 では、次に4階についての説明をさせていただきます」


 私の軽いジョークに苦笑をした従業員はそのまま53号室の扉の反対側にある階段を下り、四階へと足を踏み入れた。


「先ほど話にありました従業員室はこの階段を下りた真正面。ちょうど53号室の直下の場所にございます。

 こちらでは、先ほどのスペアーキーだけではなく、夜食の注文やその他娯楽室の利用許可なども受け付けておりますので、気兼ねなくこちらのベルを鳴らして、ご利用ください」

「はい、分かりました」

「では、そのままこの4階の各部屋についてご説明させていただきます」


 そう言うと、従業員は従業員室の左隣の部屋を開ける。

 するとそこには、数台の豪華なベットに、、大量の薬だけではなく、メスや簡易な呼吸器など王国でも珍しいくらいに充実した設備が整っている医務室があった。


「担当のものはまだいらっしゃいませんが、こちらがこのホテルの医務室となります。

 夜間も対応していますので腹痛や頭痛などでもし何かありましたら、こちらを利用してください。

 では、当医療スタッフも留守みたいなので、次の部屋に――――」

「ふぅ、相変わらず彼の診察はいい刺激になるな」


 スタッフが居ないため、これ以上の説明は無いと医務室を出ようとする従業員だが、その足をまるで止めるかのように突如として白衣を着た高身長の男の人が部屋に入ってきた。

 恐らく先ほどまで仕事をしていたのだろう。少しだけ疲れたような表情を浮かべつつも何処か充足感を覚えているかのような表情を浮かべた男の人は私に気づくとそのまま私の方へ近づくと、そのまま右手を差し出してきた。


「初めましてお嬢ちゃん。

 私はこのホテルで医療スタッフをしているマッドと言うものだ。

 ここに来たと言うことは何処か調子が悪いのか? 見たところ何処も悪そうには見えないが……」

「あ、その、えーと、初めまして。

 マッドさん。私は別に何処か悪いんじゃなくてこのホテルの説明を受けに……」


 じっくりと観察するかのような目で見つけるマッドさんに私はしどろもどろになりつつ、医務室に入った理由を彼に伝えた。

 しかし、私の言葉は聞こえていないのであろうか、そんな私の言葉を意に返さないと言うかのように彼は私に向けた視線を更に強めるが、不意に何かに思いついたような表情を浮かべた彼は、私から視線を逸らすと同時に立ちあがりとそのまま背後の棚に向かい、薬瓶を手に取るとその中身を私の手に乗せた。


「あのマッドさん。これは何の薬ですか?」


 黒茶色の丸薬から漂う変なにおいに顔をしかめながら、マッドさんに尋ねると、彼はにこやかな顔を浮かべ、私の肩に手を置きながら口を開き――――


「視診してみたところ。恐らく長旅のせいだろうね。顔に疲労がたまっているのが見えた。

 まあ、普段ならこの程度は何もせずに帰すのだが、ここで出会ったのも何かの縁だし、せっかくだから()()()()()()()()()()()()()()と思ってね」

「へ?」


 私を混乱させる言葉を吐き出したのだった。


「ああ、もしかして副作用が気になるのかい?

 だとしたら安心したまえ、これはあくまで栄養剤で、一錠飲めば10時間は休まず動けるようになる素晴らしい薬だ。

 しかも、本来なら一錠で平民一か月分の収入が必要だが、今なら治験と言う形で、この薬がタダで飲めるのだからお得だぞ」

「ひっ、いっ、うっ」


 かなりの早口でまくし立てるマッドさんの行動に私は思わず後ずさむが、そんな私の様子を意に返さないと言うかのように彼は私への距離をどんどん詰めていく。


「まだ十人も飲んでいないが、皆その効果を絶賛してくれたこの薬をタダで飲めるのは貴重なんだぞ。

 さあ早く、早く」

「ひぃ、いっ……」


 こ、怖い。焦点のあっていないにも関わらず、私を見つめるその目が特に……


「さあさあさあっ!」

「あ、ああ……」


 そんな彼の言動にもう薬を飲んだ方が楽かなと思ったその時。


「マッドさん。彼女はこのホテルを利用してくださっているお客様です。

 これ以上あなたの知的好奇心を満たす行動はおやめくださいッ!」

「おごぁっ!」


 今までの丁寧な言動とは裏腹に一気にマッドさんに距離を詰めた従業員さんはその拳をマッドさんへ向けて放ち、その体をはるか先の壁へとぶつけた。

 ずるずると、壁にぶつけられ、潰れたトマトのように地面に落ちていくマッドさんの体に思わず呆然と立っていた私にその光景を作った従業員さんは私の手を掴んだ。


「タイム様! さあ、今のうちにここを出ますよ!」

「へ? あ? あの、彼は……」

「この程度、ここでは日常茶飯事なので、ご安心ください!」


 まるで叫ぶかのように私の腕を引っ張れた私はそのまま医務室の外へと連れていかれると走るかのように隣の従業員室の中に入れられた。

 従業員室はどうやら私たちの部屋と同じ構成のようだが、私たちの部屋とは違い数個の机や棚があり、まさに仕事場と言うのにふさわしい雰囲気が醸し出されていた。


「取り合えず、ここまで来れば大丈夫ですね。

 タイム様、先ほどは当ホテルのスタッフが大変失礼なことをして申し訳ございませんでした。

 彼は悪い人間ではないですし、腕も帝国で一、二を争うものなのですが、こと研究のことになるとああいうふうに暴走する傾向にありまして……

 お気を悪くされたら申しわけございません」

「あ、いえ、確かにびっくりしましたし、少し怖かったですが、そこまで害はなかったので、大丈夫です。

 むしろ助けてくださり、ありがとうございました」

「そうですか。

 そう言ってくださると私たちとしても安心いたします。

 それでは、このまま従業員室にいるのもなんですので、4階の最後の部屋の娯楽室をご案内させていただきます。こちらにどうぞ」


 そして、従業員を出てすぐ隣にある4階最後の部屋である、娯楽室に入った私の目に映ったものは、窓から見える広大で優雅な景色に合わせるようなチェス、ハザード、ボードゲーム、トランプのゲームと……


「私レイズするけど、そっちはどうする?

 もう清算出来るものなんて、ズボンとパンツしかなさそうだけど。

 まあ、流石に全裸は可哀そうだし、ズボン一着でズボンとパンツを一緒に賭けたことにしても良いよ」

「あ、ありがとうございます。お、「オールイン(ズボン)」で……お願いします」

「了解。まあ、フォールドしても良いけど、つまらないし、コールで。

 それじゃあ、はい、オープン。私はツーペア」

「同じくツーペアです。ただ……」

「キングと2だから、私の勝ちね。毎度あり」

「……毎度ありがとうございました」


 その景色を完全にぶち壊かのように、ジュースをジョッキで飲むフレイヤと言う名前の王国の幼女(中身の年齢的には17歳)とその幼女に身包みはがされ、パンツ一丁で正座している帝国第一皇子が居たのだった。

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