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第003話「第二王子暗殺事件と二人の誓い」

 ジーク・ブラッド。この国の第二王子の人生はわずか十歳という短いもので幕を降ろした。


 この国の王であるダヴィド・ブラッドには王妃と二人の愛人がおり、ジークは王妃の唯一の男児で次期国王の最大候補であった。

 と言うのも、国王のもう一人の優秀な男児である第一王子のレイ・ブラッドの生みの親は国王の愛人との子なのだが、彼女は貴族出身の王妃とは違い、平民出身だったからだ。


 とは言っても、実力主義のこの国では血よりも実力の良し悪しで次期国王が決まり、現に過去に平民が母親の国王が生まれた時もあった。

 しかし、基本的に自分の血に誇りを持っている貴族たちは実力よりも血の良し悪しで物事を図る家が多いため、現状は優秀な第一よりも貴族の血を持つ第二王子のほうが支援者が多く次期国王として一番近いと言われていた。


 そんな第二王子の未来だが、ある日突然すべてが終わった。


 それはソウル家と第二王子の婚約パーティー中に起きた。


 豪華絢爛なパーティーの中、当時第一王子の婚約者と言うことで、パーティーに参加していたタイム家は婚約祝いの贈り物として葡萄酒を献上した。

 下位男爵令嬢からとはいえ、腹違いの兄弟である第一王子の婚約者の家族から渡された献上品。

 それをその場で飲んで感想を言わないのは失礼に当たるということで、毒見を済ました第二王子は葡萄酒を飲んだ。

 それから約十数分後、第二王子は突然体をかきむしり始めた第二王子の体には徐々に赤く粒粒なものが浮かび上がり体が痒いと叫びはじめ、腹痛や嘔吐を繰り返した後、穏やかだった呼吸が変な音に変わり一時間と絶たずに婚約者であったフレイヤ・タイムの隣で死んだ。


 当時はタイム家が娘の婚約者である第一王子を国王にするためにワインに毒を盛ったとされたが、結局そんなものは発見されず、犯人もわからずに有耶無耶に終わった。

 しかし、これですべてが終わったわけではなく、むしろ第二王子が死んだことで全てが始まった。

 その事件を皮切りに隣国の帝国との戦争や、第一王子の婚約者候補たちの死など、タイム家にとって都合の良い事件や事象が次々と起きた。

 そして、こんなことが起きればタイム家を疑わない人間など存在せず、第一王子を国王にするために第二王子を毒殺し、他の全ての事件で裏で糸を引いていたとして、リリー・タイムを含むタイム家のすべての人間は処刑されたのだった。


「つまり、三日後に起きるジーク様の暗殺を止めれば、これから起きるすべてのことが起きずに済むって言うことですか?」

「うーん。どうだろ?

 確かに暗殺を止めれば、その後のことも起きないかもしれないけどでも、死に戻り前でも私は結局ジークが暗殺された理由は全く分からなかったもの。

 それに、こう言っちゃえば終わりだけど、その後に起きるすべての出来事はジークが暗殺されなければ実行されないと言う訳ではないから、偶然ジークが暗殺されたと同時に戦争や事件が起きたって可能性もないわけじゃないわ」


 言われてみれば、確かにそうだ。

 当時はあまりにもとんとん拍子に事件や戦争が起きたから不思議に思わなかったけど、偶然すべての事件が起きたと言う可能性も確かにある。


「と言うことは、私たちがまず行うこととしては、残り三日間で暗殺の手段と暗殺する動機がある人を特定した上で暗殺を阻止するということですね」

「まあ、その通りなんだけど……ね」


 少し気まずそうな顔をしたフレイヤは今まで見たことないような冷たい表情を浮かべた後、口を開いた。


「リリー、これからのことをする前にあなたはに一つ言わなければいけないわ。

 これからのことだけど何もしなければリリー、あなただけは絶対に死なないわ。

 それどころか、むしろ私の体にいる限りあなたは確実に生き残れる」

「…………」


「でも下手に動けば未来が変えられないどころか、あなたが狙われる可能性が高くなるわ。

 だから、もし殺される覚悟も地獄を見る覚悟も無いのならここで手を引いて、全てが解決するまでフレイヤ・ソウルとして生きなさい。

 そうしてくれるのなら全力であなたをこの事件に関わらせないようにするし、もし事件の途中で私が体を元に戻す方法を知っても体を戻さないわ」


 まるで突き放すような冷たい口調で話すフレイヤの言葉は全て正論で優しさに満ちていた。

 確かに、死に戻り直前までフレイヤが生きていた以上、記憶の通りのフレイヤの行動をすれば少なくとも私は処刑されない。

 それは、逆を言えば私が下手をすればまた処刑される可能性がある。それも今度はフレイヤの体でだ。


 そのことを理解した瞬間に、私は死に戻り直前のことを思い出した。


 周囲から投げられる石の痛み、周りの人の視線、暗く冷たい牢屋の景色、罪を吐くように強いられた拷問の数々。

 それらのことを思い出すたびに私の手のひらから冷たい汗が流れ、喉からここで手を引くと言う言葉がこぼれそうになる。

 しかし、その言葉はフレイヤの次の言葉で一気に変わった。


「それにもし、私が冤罪で処刑されるのだとしても、私は全てを受け入れるしあなたのことを一切恨まないとフレイヤ・ソウルの魂に誓――――」


 その言葉を聞いた瞬間、瞬間的に頭が熱くなった私は無駄に悟ったような表情を浮かべていた彼女の顔面に平手を当てた。

 茫然とするフレイヤの顔を見つめながら、怒りで震えた私はそのまま彼女へ向けて言葉をぶつけた。


「フレイヤ。あなたは私があなたが処刑されるときに恨まれないからと平然としていられる人間だと思っているのですか?

 それとも私をこの事件から遠ざけるためにわざと侮辱しているんですか?

……まあ、そんなのはもうどうでも良いです」


 もう、私の答えは決まっている。


「私は冤罪をかけられた理由も、多くの人が不幸になったそのわけも、この事件の全てを知るまで決して逃げない。

 あなたと一緒にこの事件を解決するために動くとリリー・タイムの魂に誓います」


 整然と一切の迷いなく吐いた私の誓い。

 その言葉に少しだけ腫れた頬を軽く撫でながら微笑んだフレイヤは立ち上がる。


「なら私もこれ以上何も言わないわ。

 リリー、あなたがそう言ってくれたように私もあなたが冤罪をかけられた理由も、多くの人が不幸になったそのわけも、この事件の全てを知るまで決して逃げないわ。

 あなたと一緒にこの事件を解決して、あの不幸な未来を変えるために動くと誓うわ。

 一緒に頑張りましょうリリー」

「はい、私のほうこそよろしくお願いいたします。フレイヤ」


 そう言って、目の前に出された手、その手を私は一切の躊躇なく握ったのだった。

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