第026話「国王と彼女(フレイヤ視点)」
「それでは……失礼いたします……」
退室を命じられたリリーを見送った私は、椅子を引くと目の前の男の許可も得ずに深く椅子に座り、ゴミを見るような目で眼前の男を見つめるとさっそく話を始めた。
「あんたの話を始める前にこれだけ答えろ。
私たちが入れ替わっていることに気づいたのはやっぱりジークの事件か? それとも予言書か?」
「その両方だ」
そう言って、私の言動に一切の眉も動かさずに、頷いたこの男は、そのまま懐から予言書と呼ばれている歴代の時の魔法の使い手が記載した将来この国に起きる重要事項を予言した古びた本を取り出した。
「この本には帝国との戦争のことは記載されていたが、ジークの暗殺事件については記載されていなかった。
にも関わらず、ジークは先日暗殺未遂事件に巻き込まれた。
当初は俺は暗殺未遂事件が起きた時は、暗殺未遂だから記載されていないと思っていた。
だが、主犯から聞いた暗殺方法からこの事件は事前に起きることを確信した上で、事件の詳細を知らなければ防げないと言うことが分かった」
確かにその通りだ。
事前に呪いバチの症状を再現でき、かつ死に至らないものを事前に用意し、そして症状が起きてしばらくした後に毒殺する方法を防ぐなど、事前に詳細含めて事件を知らなければ防げない
「このことから、最初は時の魔法の使い手であるタイム男爵令嬢が、魔法を使い、未来に起きることを予知した上で、事件を防いだのだと思っていた。
だが、事件の更なる詳細を知った際に、時の魔法を使い未来を見るだけではこの事件の詳細は把握できず、防ぐためにはジークの死因を知ったうえで、過去に戻り、その後事件を調査し、犯人含めて謎を解く以外には防ぐことが出来ないことが分かった。
これらのことを加味すると、浮かぶのはタイム男爵令嬢が自身の魔法を使って過去に戻りジークを未然に防いだと言うことだ。
ゆえに、今日はその事実を確認をさせるためにお前とタイム男爵令嬢を来させたのだ。
ここまでに何か反論はあるか?」
「いいえ、反論なんて無いわ。
確かに私たちはリリーの魔法によって未来から過去に来た。そこは変えようのない真実だから否定しないわ。
だけど、何で私とリリーが入れ替わったことに何で気づいた。
お前にこの入れ替わりのことを知らせるのはもっと先のリリーが予言書を書ける状態になった時と決めて、そこに関しては慎重に動いていたのに」
そんな私の言葉に答えるように眼前の男は予言書の表面を数度指先で叩く。
「いくら時の魔法で過去に戻れるとしてもそのためには例え対象が一人だとしても莫大な魔力が必要だ。
だが、タイム男爵令嬢にはそのような莫大な魔力は存在せず、現在それが可能な魔力を保有しているのはフレイヤ公爵令嬢の肉体だけだ。
そして、この予言書にはタイム男爵令嬢が将来お前の魔法によって体を入れ替わることが暗示されていることはお前も知っているはずだ」
「ええ、そうね。
だからこそ、あんたは私にあのクソみたいな契約を迫ったんだから」
私の言葉に眼前の男は呆れたと言うように深いため息を吐く。
「私からすれば、あの契約は王国の維持には必然なもので、お前の言うようなひどいものではないと思うのだが……まあ、いい。話を戻そう。
自身では過去に戻れないタイム男爵令嬢が過去に戻るためには、ソウル公爵令嬢の体とタイム男爵令嬢の体を入れ替えたうえで、魔法を発動しない限り過去に戻ることは出来ない。
しかし、逆に言えばお前が暴発でも、無意識でも、意識的にでも、魔法を使って体を入れ替えれば過去に戻れると言うことだ。
だとすれば重要なのは過去に戻るその理由だ。
ジークの暗殺を防ぐ? 違うな。タイム男爵令嬢とジークはほぼ赤の他人だ。そんな人間を救うために過去に戻る人間など居ない。
だとすれば、ありえるのはジークの事件でタイム男爵令嬢。もしくは男爵家自身が疑われ、男爵家……いや、タイム男爵令嬢が処刑される未来を防ぐためだな。
現に、男爵は裏でジークの暗殺を企てていたからな。
いくら時の魔法の使い手の親と言えど、そうなることはほぼ確実だろう。
そして、そうなった場合、お前はあの契約の都合でお前はタイム男爵令嬢を必ず救わなければならない。
そして、それを実行し、それが原因で過去に戻ったのだとしたら、お前は確実に二度と彼女を処刑させないために、体を自由に元に戻せることを伏せるはずだ。
何故なら、その行動自体が、タイム男爵令嬢を処刑させずに助ける確実なほうほうだからだ。
よって、俺は二人が入れ替わっていると確信した。
どうだ? 何か反論や質問はあるか?」
「……そうね。大枠はあっているけど、一つだけ訂正させて貰うわ。
私はあの契約を護るためにリリーを救ったんじゃない。私は私の意志で、リリーを救おうとしているだけだ!!」
バンと、机を思いっきり叩きながら、立ち上がり、私は思いっきり叫ぶ。
そうだ。私は決して義務的に、契約のためにリリーの冤罪事件を晴らそうとしているんじゃない。
私はリリーを……いや、親友を救いたいからこそ冤罪事件を晴らそうとしているだけだ。
そんな私の言葉に少し驚いた表情をした男だが、次の瞬間には興味深そうな瞳を浮かべる。
「ほお、お前がタイム家の人間を救いたいと言わせるなんて、よほど素晴らしい人間なのだな。
もう、あのことは良いのか?」
その呟きを聞いた瞬間に、私の脳は一気に燃えるほど、熱くなり、血がにじむほど拳を握りしめながら七年前のあの出来事を思い出した。
タイム家が実行し、眼前の男が裏で動いたことによって処刑された無実の彼女のことを。
自分に何が起きているのか分からずに、ただ呆然とうめき声をあげながら、処刑された彼女のことを。
そして、そんな彼女が処刑されるのを公爵夫人に抱きしめられながらただ見ることしか出来なかった自分のことを。
「言いわけ無いでしょ!! あのことは絶対に許さないし、許せない。
でも、私はリリーには返せない恩があるし、何よりあの事件にリリーは関係ない。
だから、私はリリーを恨んでいないし、助けたいと思ったの!
良いか。二度と言わないからちゃんと記憶しろ!
私はお前が死んでも、何が起きても絶対にあの七年前の事件を絶対に許さない。
だからこそ、私はあの契約をする際に全てが終わった後に、お前が毒杯を飲んで死ぬことを条件に加えたんだ!!」
ふーふーと、獣のような息をしながら、眼前の男に殺意の視線を浴びせる私。
しかし、そんな私の視線などどうでも良いと言うかのように、眼前の男は鼻で笑った後に、口を開いた。
「ああ、そうだったな。
分かった。ならば、二度とこのことは言わないと誓おう。
これで良いか?」
「……肝に銘じなさいよ。本当に次は無いわよ。
話はこれで終わりよね。
じゃあ、私、帰るから。
ここにずっといたら胸糞悪くなって暴れそうだから」
イライラしながら立ち上がった私は、男に背中を向けて一歩踏み出す。
しかし――――
「いや、本題はこれからだ。
王国現国王であるダヴィド・ブラッドが貴殿に命ずる。
お前はこれから起きる帝国との戦争開戦から三日間、北門の防衛を一人で行え」
「……本当、お前は私をムカつかせる天才ね」
その命令によって、私の帰宅は阻止されたのだった。
この話は下手するとネタバレになりかねないところが多いため、びくびくしながら書きました。
感想、評価があるとやる気につながるのでもしよかったらお願いします。




