第025話「ちょろい第一王子」
■04月30日 午後:帝国第一大戦が起きる予定まであと半日
あれから馬車に揺られること数時間。
ようやく王城に着いた私たちは体をほぐすと馬車の扉を開き、先にソウル公爵が馬車から降りる。
「リリー嬢。手を」
「はい、ソウル公爵。ありがとうございます」
「ふぅ、うーんやっと着いた。はー、疲れた」
「フレイヤ。もう少しお行儀よくしなさい」
「はーい」
そんな公爵の後に続くように、互いの真似をしながら私たちは馬車を下るとそのまま王城の中に入る。
「お待ちしておりました。フレイヤ様。リリー様
本日は急なお呼び出しに応じていただきありがとうございます」
すると、一人の老紳士の王の筆頭執事であるルーカンさんが私たちを待っていたと言うように、目の前に現れ、頭を深く下げる。
「いえ、王からの呼び出しならば、迷惑など……
それで、ルーカン卿。本日は王はどのような理由で呼び出したのですか?
まさか、ジーク様の件ですか?」
「ソウル公爵様。
申し訳ございませんが私も本日はどのような内容で呼び出したかについては主である王からも聞いていないため、返答することができませんので、王から直接お聞きしてください。
それでは、皆様。王は既にお待ちしておりますので、こちらへどうぞ」
そう言ったルーカンさんは、私たちを王の元へ案内するのだった。
「「「「「…………」」」」」
全員何も言わずに黙々と王城の広い廊下を歩く。
流石周辺国でもトップクラスに繫栄している王国の王城と言ったところだろう。
廊下は広いだけではなく、高級な皿を始めとして、絵画や豪華なシャンデリアなど、ただ歩くだけでそれが気になるほど豪華絢爛と言う文字が似合うものだった。
だからだろうか、まだ数回しかこの廊下を歩いたことしかない私の目はその豪華さに思わず目が左右に動いてしまい、そんな私を注意するようにフレイヤが私の脇腹を肘でつっつくと、小声で話しかけた。
(リリー、いくら何でもキョロキョロしすぎだよ。
将来の自分の家なんだから、むしろどーんと歩きなよ)
(将来って、私とレイはまだ婚約者候補でしかないし、そうなるとは限らないですよ)
(あー、はいはい。そう言うことにしておいてあげるから、全く、二人して婚約者候補何て言わないで、さっさと結婚してくれれば私も楽なのに……って、噂をすれば)
そんなことを呟いていたフレイヤは急に視線を廊下の少し先に居る鎧を着ていた人たちと、その中に居る銀髪の少年のレイ・ブラッドがおり、リリー・タイム……私の顔を見た瞬間に、こちらに向かってきた。
「リリー!?
久々だな。リリー!!」
……ただし、向かう先は私ではなく、私の体を使っているフレイヤに対してだが。
「レイ……様。
お久しぶりです。私も会えてうれしいです」
「レイ様なんて、仰々しいな。
いつも通り呼び捨てで良いよ」
「いえ、流石に周りの人がいるこのような場所で呼び捨ては……ちょっと……」
「あ、ああ、そうだったな。気が回らなくてすまない。
じゃあ、ちょっと話でも……」
「申し訳ございません。現在王との対談があるので、今は暇が無くて……」
私を真似をしたフレイヤの言葉に少しだけ表情が曇るレイ。
しかし、その表情は次の言葉で一気に逆の色に変わる。
「ただ、王との対談が終わった後なら、多少お時間が出来るので、その時に少しお時間を……いただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、喜んで」
「いえ、こちらこそ受け入れてくれてありがとうございます。
それでは、ソウル公爵を私たちの都合で待たせる訳には行かないので、レイ様失礼します。
この後のお話、楽しみにしております」
「ああ、俺も楽しみに待っているよ」
そう言って、スカートをつまんで頭を下げたフレイヤ、レイをそのまま通り過ぎ、そして彼が完全に居なくなるまで手を振ると――――
(ちょろすぎ。べた惚れじゃん。何でさっさと結婚しないのよ)
そんな小言を呟いたのを、私は顔を赤くしながら聞き漏らす振りをするのだった。
そして、王城を歩くこと十数分。
とある一室にたどり着くと、ルーカンさんはその扉の前に立つ。
「王はこの部屋で先に待っています。
フレイヤ様、リリー様は、扉が開いたら、その中央の椅子に自由にお座りください。
タイム公爵と夫人様は、話が終わるまでこちらの部屋で待機してください。
それでは、お二人とも、心の準備はよろしいでしょうか?」
「はい」
「ええ、大丈夫よ」
私たちの返答を聞いたルーカンさんは大きく頷くと、そのまま扉を開いた。
そこにはまるで外を思うような庭園のような木々や草花が生い茂る部屋であり、その先には紅茶を飲んでいる王が椅子に座っていた。
(行くわよ。リリー)
(はい、フレイヤ)
そう言って、私たちはゆっくりと王の前まで進むと、椅子の目の前で止まると深く深呼吸をして、心を奮い立たせる。
そして、スカートを掴んで頭を下げるフレイヤを目の端で捕らえた私は、腕を組んで――――
「お待たせして申し訳ございません。リリー・タイム只今参りました。
本日はこのような一男爵令嬢の私に対談と言う名誉な機会をいただき感謝いたします」
「はぁー、急に呼び出さないでよ。
私には気になる本を読むっていう重要な用事があったのに、何であんたとの対談を優先しないといけないのよ」
ああ、もう泣きたいし、背中の汗が凄い。
王に私たちが入れ替わっていることを知らせないためとはいえ、何で私がこんな役をしなければいけないのよ……
フレイヤ。お願いだから王にくらい礼儀正しい姿で対応してよ。
そんなことを思い、心の中で涙を流す私たちを王は冷たい視線で見つめると。
「そうか。なら、君はもう帰って本の続きを読んで良いぞ。
リリー・タイム男爵令嬢。
いくらソウル公爵令嬢の真似とは言え、無礼な君と話す必要は無いからな」
「ッ!」
「へ?」
私たちが入れ替わっていることを完全に理解していたと言うような表情で話しかけた国王に私は思わず
変な声を漏らしていた。
「な、なにを言っているのよ。
私は――――」
「なら、ソウル家の筆頭執事のセバスの姉であるセバスティアーナの出身は?
すぐに答えろ」
「……しゅ、出身? ……えーと、その……お、王国だったはず」
「間違えたと言うことは、やはり中身が変わっているんだな。
リリー・タイム。君に関しては今日はそれだけ確認したくて呼んだだけだ。
よって、このまま帰ってよい」
王の宣言と同時にその指は後ろの扉を刺し、言動両方とも私に変えれと王は言う。
「……いや、その……」
「二度も言わすな。このまま帰れ。リリー・タイム。
私に君と無駄話をする暇はない」
「……はい。承知いたしました。
ごめんなさい。フレイヤ。私……」
「良いよ。それにこっちこそ無理して私の真似させたのにこんなことになってごめん。
話は私がきれいにまとめておくから私を信じてお父さんたちとゆっくり話していて」
「はい、分かりました。それじゃあ、よろしくお願いいたします」
「ええ、よろしくされたわ」
そうして、扉までゆっくりと進んだ私は、最後に王とフレイヤに向けて頭を下げるとそのまま部屋から出るのだった。
もう添削していたら一話にするよりも二話にした方が良い事に気づいたので、9時にもう一話更新します。
感想、評価があるとやる気につながるのでもしよかったらお願いします。




