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第022話「第一の事件が終わって」

■04月14日 深夜:ジーク暗殺事件から7日後


 かつて宮廷医として平民の出身でありながら、富と名声を得ていたハロルドと言う人物は七日前の天国のような生活から逆になり、地獄のような日常を過ごしていた。

 日の出が昇る前にたたき起こされ、夜は日の出が出る直前まで拷問を受ける。

 その苛烈さは凄まじくたった七日の拷問にもかかわらず、肥えていた体は皮膚を焼かれ、肉を削がれた影響で骨まで見えるほどになり、名医と呼ばれていたその五指は全て根元まで叩き切られ、重い自分の体重を支えていた足は膝上から下が逆方向に向けられ、二度と戻らないまでに叩き折られていた。

 睡眠時間はこの七日で一時間を超えているかいないか程度で、自白剤も盛られたことで、数多の人間を救える脳みそももう満足に働かない。

 医者であった自分がもし、自分を診察したら生きていることが奇跡だと言えるくらいの状態だが、だが魔法や薬によって死ぬことは許されず、心臓の音はまるで何も起きていないと言うかのようにゆったりとした音を鳴らしていた。


 昔から好奇心が強い方だった。

 特に生物に対する好奇心はかなり強く、蟻が何で一列で進めるのかが気になり、そんなことをずっと考えながら一夜を過ごしたり、カエルやバッタが高く飛べるのに、かなり気になってしまうほど、自分は好奇心が強かった。


 そんな自分の好奇心が自分の人生の大半を支配するようになったのは、貧乏だった両親が買ってくれなかった生物図鑑を盗んだことから始まった。

 そこには色々な生物が何故このような行動を取れるかが緻密に書かれており、特に人間にはないその動物特有の能力の箇所にはかなり興味を引かれた。

 そんな生物図鑑だったが、人間との比較はあったが、逆に人間にはどのような能力があるのかは一切書かれておらず、また当時、そのような知識は特権階級や医師だけしか持つことが許されなかった。

 知りたいのに知ることが出来ない。

 その苦痛は凄まじく、自分は徐々に人間を見るたびに、その中身、その生態が気になるほど、人間と言う種族に興味を持った。


 だがしかし、ただの平民の自分では人間を知る知識を得ることは許されない。

 ならば、どうすると言う質問に対して、自分は十二の頃に人間についての知識を得る。ただそれだけのために、医師になると言う将来の道を選び、そして努力し、平民では初の宮廷医となった。


 だが、宮廷医となったことで、人間の知識を得た自分が最初に感じたのは、面白くない。

 ただ、それだけだった。

 そして、全く特別な能力も無ければ、知能が他の生物よりも高い程度しか特色のない人間と言う種族を知った自分ははそこで人生の目標を果たし、徐々に仕事に対してやる気が無くなり、宮廷医の地位も煩わしいものとなっていた。


 そんなもうそろそろ仕事をやめようかなと思っている時、俺は王城で、ある一言を聞いた。


『王族は特別。平民と比べたら種族から違っている』


 その一言で、自分の頭は王族がただの人間とどう違っているのかが知りたいと言う好奇心に支配された。

 幸い宮廷医と言う立場から比較的容易に王族に関われる立場にあったこともあり、日常の健康管理をはじめ、王族が眠る墓を掘り起こし、その死体と平民の死体を並べて、違いをチェックと言うこともやった。

 しかし、どこからどう見ても王族と平民の違いは分からず、自分はまたその好奇心によって眠れぬ日々を過ごした。

 そんな日々を過ごす中、自分はある日、一つの名案が浮かんだ。


 健康管理では表面上だけしか見れないし、そもそも死体は大半が腐っていて、ちゃんと中身が見えれないならば、死んだ直前の王族を解剖すれば良い。

 そうすれば、検死と言う名目で、自分の好奇心を満たせる。

 そう思った自分は死んだ直前の王族を用意するために、――――から聞かされた第二王子の呪いバチに刺されたことを聞き、その第二王子を殺す案を考え、実行し、そして今に至る。


 恐らく起床時間になったのだろう。

 カンカンと石の床を歩く音が、聞こえ、その音が自分の前で止まる。

 その音の方向を見ると……


「ああ、――――ですか。

 何ですか? また質問ですか?

 何度も言っているでしょ? ただの好奇心ですよ。好奇心。

 あなたが言った、王族は特別だって言葉が本当か試したかっただけですよ。

 記憶を操作された演技もしたのも、邪魔な公爵令嬢とその執事の記憶を操作した際の改ざんした内容の辻褄合わせと、容疑者から除外されるためにやっただけですよ。

 暗殺の方法もあなたが呪いバチに刺されたってことを聞いて、それであの方法を取っただけですよ。

 それ以上の理由なんて無いですよ」

「…………」


 一切何も言わずに、ただ自分を見下ろす人物は、自分の前に手紙を読めと言うように投げる。

 そこには、『第二王子、死亡。国民への連絡は三週間後にするため、それまでは死亡の件は箝口令を敷く』と書かれていた。


 第二王子が自分ではない誰かに殺されたことに驚いたが、今はそんなことはどうでもいい。

 今、自分がすべきことは!!


「第二王子が死亡したんですか!? お願いします! 検死をさせてください!

 いいえ、検死をさせろ!

 この国には自分以上に、適任は――――あが」


 好奇心と国益を満たすその言葉を眼前に人物に吐き出した俺は、次の瞬間、喉に剣を貫かれた。


「あが、あが、あが」


 貫かれた剣を抜かれると、大量の血と一緒に、喉から変な音が零れ、地面が血の色に染まっていく。

 そんな自分を見下ろしながら、眼前の人物は自分の部屋に入り、剣先で文字を書き、そして書き終わると同時に部屋を出て言った。

 そして残されたのは、かつて宮廷医と呼ばれたハロルドと言う人物の亡骸と、血で書かれた『穢れた平民の末路』と言う文字だけだった。


■04月15日 午前:ジーク暗殺事件から8日後


 私が目を覚まして、早三日。

 約一週間眠っていたリハビリを終えた私とフレイヤ宛に王族からのある手紙が送られた。

 そこには、拷問によって手に入れたハロルドの自白の調書と、救ったはずのジーク様とその犯人のハロルドの訃報が記載されていた。


「何で……こんなことに……」

「仕方ないよ。そう言うことだってあるよ」


 死に戻りと言う奇跡を以てしても救えなかったジーク様に、私は悔しさで涙を流し、フレイヤはそんな私の涙をハンカチで拭ってくれた。

 こんな状況なのだろう。普段なら私に悪態を吐くセバスさんも一切何も言わずに、私が机に置いていた手紙の封筒を片付け、代わりに紅茶を置く。


「ふ、フレイヤは、大丈夫なんですか?」

「? まあ、別に平気だよ。

 死ぬときは誰だって分からないんだし、そう言うことだってあるよ」


 本当に何も感じていないだろうその言葉に、冷たさを感じるが、一度目の前でジーク様を殺された上に、取引関係で婚約した程度の仲ならこれくらいが普通なのでしょうか?


「それにしても、これで黒幕との繋がりは完全に無くなっちゃたな……」

「やはりフレイヤも口封じされたと思うのですか?」

「うーん、まあね。

 これ以降の事件も全部ジークが暗殺されたことをきっかけに始まったし、黒幕が居ないって考えない方が難しいしね。

 因みにセバス、ハロルドを殺したのは誰? そこに書かれている?」

「……少々お待ちください。

 どうやら第八王女のノウビリティー・ブラッド様がハロルドを殺したみたいですね。

 因みに殺人については概ね認めているようです」


 簡易的にハロルドの死の内容を伝えたセバスさんはその内容が記載されている資料をフレイヤに渡し、フレイヤはそれを読み始める。


「うーん。第八王女が殺したうえに、壁に穢れた平民の末路って言う血文字か……

 王族としての権力も実績もほぼ無いし、選民思想持ちの彼女なら、国王と貴族の血を受け継いでいるジークを暗殺しようとした人間を殺した罪の擦り付け(スケープゴート)にちょうどいいけど……」

「それでも、王族に罪の擦り付けられるって、この国のかなり上の人じゃないと無理ですよね」

「まあね。最低でも国王に認められている辺境伯クラスの権限の人間じゃないと無理ね。

 まあ、本当に第八王女が黒幕の可能性……は、ありえないか。

 あの選民思想主義者が王と王妃の実子のジークの暗殺を許容するなんてありえないよね」

「そうですよね……ありえないですよね」


 椅子の背もたれに寄りかかりながらうーんと思考を巡らせるフレイヤと口元に手を置いて同じく思考を巡らせる私。


「もしかして、ジーク様を暗殺するのが始まりじゃなくて、ジーク様が暗殺されたから全てが始まったって可能性は?」

「その可能性はありえなくはないけど、違うんじゃない?

 帝国との第一大戦だって、ジークの死からわずか一か月も待たずに4月31日に宣戦布告と開戦をしてきたのよ?

 国民全員がジークが殺されたことで混乱している時を狙ったようなタイミングな上に、戦争の準備なんて、1か月で済むようなものじゃないわ。

 少なくとも一、二年前から準備していないとおかしいわよ」


 確かに、戦争を行うと言っても、武器の準備や兵士の食糧など様々なものの準備が必要だ。

 それを、わずか一か月で準備が完了すると言うのは、ほぼ無理ですよね。


「言われてみるとそうですね」

「加えて、帝国とこの国の戦力は相当な差があるのよ?

 死に戻り前はジークの死で指揮系統の人たちが混乱していたからかなり苦戦していたけど、それでも他国と比べたら少しだけ傷が深い程度で終わったもの。

 正直言って、このタイミング以外で弱い帝国がこっちに喧嘩売るようなことはしないわよ」

「そうですね。では、ジーク様が亡くなった今、このまま行けば……」

「そうね。少なくとも同じ4月31日に戦争は始まると思うわよ。

 でも、それは逆に言えば4月31日に戦争が起きれば、ほぼ黒幕が居ることは確定ってことかしらね。

 これだけタイミングをずらしたし、箝口令も敷かれた今でも、同じように戦争するってなったらもう裏で誰かがこの戦争が起きるように準備したとしか思えないわよ」


 タイミングをずらした? ってどういう事?

 フレイヤの不意に言った言葉に頭の中が満ちる中、フレイヤはジーク様が死んだことを記載された手紙を燃やした。


「ま、それまではこっちは何もアクション出来ないし、しばらくは静観しか出来ないかな?」


 本当にこちらからの行動は出来ないのだろう。のんきにうーんと言いながら大きく伸びをしたフレイヤは立ち上がる。


「さてと、セバス。

 そろそろ行くから今日分の食糧を準備しておいて」

「承知いたしました。お嬢様」


 深く礼をして、普段通りの高速の速さで部屋を出て言った。セバスさん。

 そんなセバスさんが居なくなるや否や箪笥から城下町用の公爵令嬢にしては安い服を用意し、着替え始めるフレイヤ。


「フレイヤ、今日分の食糧って何処に行くの?」

「え? そんなの決まっているじゃない。

 ジークのところよ」

「へ?」

「え?」


 死んだ人間の場所に行くと言うフレイヤの言葉を聞いて、素っ頓狂な声を思わず漏らしてしまう私。

 そのころ、ソウル公爵家領土のある農村では……


「はぁ、食料作るのって大変なんだな」

「そうですね。ジーク様」

「もう王子じゃないんだし、兄弟設定なんだから様付けも敬語もやめろ」

「あ、ああ、そうだな。ごめん」


 ツナギに鍬と言う完全な農民のジークと彼の従者だった男がその村で働いているのだった。


-第一部 第二王子暗殺事件 完-

第一部完了しました!


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