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第002話「七年間に起きること」

「さてと、こんなところかな?

 リリー、他に何か記載することはある?」


 そう言って、フレイヤは手帳に記載したこれから七年の間に起きることを私に見せ、私はそれを一つずつ確認した。


・王歴845年

 04月01日:ソウル家と第二王子の婚約発表(済)

 04月07日:第二王子の婚約パーティー+第二王子毒殺

 04月09日:第二王子国葬式

 04月15日:タイム家と第一王子の婚約の見送り

 04月31日:帝国第一大戦発生


・王歴847年

 08月31日:ソウル家襲撃事件発生+フレイヤ・ソウルの誘拐、身代金の要求

 09月25日:フレイヤ・ソウルの誘拐事件解決

 10月17日:誘拐事件の首謀者と間諜の処刑執行

 10月18日:帝国第一大戦終了

 11月10日:戦争の被害による暴動発生

 11月18日:暴動終了

 12月24日:タイム家と第一王子の婚約の正式発表


・王歴848年

 01月01日:第一王女一家誘拐殺人事件発生

 02月01日:第三王女一家誘拐殺人事件発生

 05月01日:第四王女一家誘拐殺人事件発生

 09月01日:第七王女一家誘拐殺人事件発生

 10月15日:第八王女誘拐未遂事件発生


・王歴850年

 12月08日:王女誘拐殺人事件の首謀者であるエリス教の聖女の逮捕


・王歴851年

 04月08日:聖女の死刑執行

 10月21日:国王暗殺未遂事件発生+すべての事件の首謀者としてタイム一家の逮捕

 12月31日:タイム一家の死刑確定+第一王子の婚約破棄


・王歴852年

 01月01日:ソウル家と第一王子の婚約と結婚の正式発表

 04月01日:タイム男爵夫人処刑執行

 09月21日:タイム夫人獄中死

 12月31日:リリー・タイムの処刑執行


「はい。ほとんど間違いないと思います。

 よくこれだけのこと日付含めて覚えていましたね。本当に凄いですよ」


「……別に凄くないよ。リリーの冤罪を晴らすためにこれらの事件のことは魂に焼き付く位に見てたからね。

 さすがに覚えるよ」

「……そうですか」

「……うん」


 気まずそうに首を縦に振りながら呟くフレイヤ。

 その顔から察するに、恐らく私を救うと誓ったにも関わらず、私を救えず処刑されたあの時を思い出しているのだろう。

 確かに、フレイヤは私を救うことは出来ず、罪を被され、処刑された。

 だからだろうか。


「フレイヤ!!」

「ふぐぅ!」


 私は気まずそうな顔をしているフレイヤの両頬を軽く押してその目をまっすぐ見る。


「フレイヤ。そんな顔しないでください。

 フレイヤ。あなたは私に対して負い目なんて何もないんですよ」

「でも……私はあなたを救うって、冤罪を晴らすって言ったのに、結局何も出来なくて」

「出来る出来ないの話じゃないですよ。

 あなた……ううん。あなたたちが私が冤罪だと信じていたことと、そのために手を尽くして頑張ってくれたこと。

 それを知れただけで、私は十分あなたたちに感謝しているんですよ。

 だって、もし誰も私を信じてくれないって思っていたらきっとあの最期の時、私怖くてきっとちゃんと立つことも出来ず、最後の最後に恥をかいてましたから。

 あなたたちは十分に私を救って、助けてくれました。

 だから気にしないでください。フレイヤ」


 そう言って、フレイヤに向けて笑顔を向けることで、ため息をついたフレイヤはようやく分かったかと言うかのように微笑む。


「分かった。それじゃあ、もうあの時のことについては何も言わないよ」

「ええ、そうしてください」


 そこまで言うと、今度はかなり大きなため息を吐いたフレイヤは髪の毛をクルクルと指先で弄り始めた。


「……それにしても、過去に戻ったことはともかくとして、何で私たちの体が入れ替わったんだろうね?」

「それは、私もずっと不思議に思っていました」


 私の質問にフレイヤは首を横に振る。

 この世に生きるすべての人間はその魂に刻まれた一種類の魔法が使える。

 例えば、私の魂には時の魔法が刻まれており、体内に存在する魔力を燃料に使うことで時間を止めたり加速したりなど、時間を操る魔法が使える。

 なので、私の貴族では少ない魔力では七年も前に戻ることは出来ないという問題をのぞけば、死の直後に過去に戻ること自体はできなくはない。

 出来なくはないのだが、その場合は過去に戻れるのは私だけで、ましてやフレイヤの体に戻るなんてことは起こりえない。


 だとすると……


「もしかして、フレイヤが魔法で何かしたんですか?」


 魂の魔法が使えるフレイヤへ投げた問いに彼女は分からないというかのようなポーズを取りつつ、深いため息を吐きながら口を開いた。


「リリーも知っていると思うけど、私の魔法は魂に関する能力で、他の人の魂を自分に入れたりその反対もできるよ。

 でも、他人の魔法を自由自在に使うことは出来ないし、そもそも……そうねえ、例えばだけど貯金箱の中のお金のように器を壊さない限りお金が取れないでしょ? それと同じように死ぬか殺されるかして、肉体っていう貯金箱が壊れない限り私の魔法は肉体に邪魔されて他人に干渉出来ないのよ。

 だから死んだリリーの魂と体を使って私が魔法を使っても、過去に戻るなんてことは出来ないし、序に言うと私とリリーで魂を入れ替えても、リリーの魔法で過去に戻れるのはリリーの魂だけで、私の体にリリーの魂が入るならともかく私の魂も入れ替わるなんてことは起きないわよ。

 まあ、要するに私たちが過去に戻ったことも、体が入れ替わったことも偶然としか言えないわね」


「……言われてみればそうですね。となると、私たちの体を元に戻す方法は」

「私としても、出来れば直ぐに入れ替わりたいんだけど、正直言って、どっちかが死ぬって言うナンセンスな方法しか今のところ無いわね。

 だって、このまま行けば……」

「そうですね。すみません。私のせいでこんなことになるなんて」


 そうだ。このまま過去の通りに物事が進めば、過去と同じでリリー・タイムは冤罪で処刑される。

 それも、今度は私ではなく、私の体の中に入っている本当に何も関係がないフレイヤがだ。

 そのためにも、一刻も早く、この体をフレイヤに返さないと。たとえそれで私が処刑されても。


「あー、そういうことね。言い方悪くてごめん。リリー。

 別に冤罪云々、処刑云々はどうせ解決するからどうでも良いのよ。

 それよりもさ、もしこのまま戻らなかったら、私、リリーが大好きな第一王子のレイと結婚して、リリーの体で初夜を過ごして、最悪子供まで産まなきゃいけないんだよ。

 そんなことになったらリリーに顔向けできないよ」


 まるで苦虫を嚙むかのように処刑されることよりも、私と気まずくなるほうが嫌だと本気で思っているリリーの表情。

 その顔に、彼女なりの優しさを存分に感じた私は思わずくすりと笑ってしまった。


「そうですね。私もあなたの婚約者のジーク様と結婚して初夜なんて嫌ですね。

 なので、なるべく早くに体を元に戻しましょう」

「そうだね。それに……さ、リリーにこう言うのは嫌なんだけれども……もう一つ嫌なことがあるんだけど言っても良い?」

「はい、大丈夫です。なんでも言ってください」


 一気に深刻な表情をするフレイヤの申し訳なさそうな表情に何を言うのだろうと唾を飲みながら頷く私を見たフレイヤはそのまま深刻な表情をしながら口を開いた。


「私のダイナマイトボディならともかく、まな板のリリーの体に入れ替わ……ごめん。やっぱりやめるわ」

「それもうほとんど答え言ってますね!!

 悪かったですね。成長が無い肉体で!!」

「凄い! リリー、何時の間に読心の魔術なんて手にしたの!?

 ごめんなさい。でもリリー。

 しょうがないのよ。やはり公爵令嬢としては夫を誘惑してたくさん子供を作って血を残さなきゃいけないから寸胴よりも……あ、ごめんなさい」

「……フレイヤ、もう半分わざとですよね」


 もう半分は本気だと思いますけど。


「あ、ごめん。分かった?

 なんか雰囲気が重かったしここら辺で空気変えようかなって思って」


 そう言って、さっきの失言のお返しだというかのようにリリーは紅茶を淹れ、私と自分の前にそれを置いた。


 ふわふわと湯気が立つカップ。それを少し見た私は、気分を落ち着かせるためにそれに口をつける。

 ああもう、心配した私が損しました。

 確かに昔から空気が悪くなったりするとこう言う空気の読めないを通り越して本当にこの人は公爵令嬢で、最も将来の王妃に最も近い人なのか? と思う発言をする人だったけど、まさかこんな時までするとは思いませんでした。

 と言うか、本当にこの人は将来、王妃としてちゃんと……出来そうなんですよね。

 普段の市民染みた口調とは反対に私たち以上に貴族としての誇りも、そのための言動もちゃんとしているから、きっと王妃になったとしても、国を悪いようにはしないでしょうね。


 などと、そんなことを思いながら二杯ほど紅茶を飲み終え、喉と気分を落ち着けた私をみて真剣な顔に戻ったフレイヤは続きをしましょと言うかのように手帳の一番上に記載してある一文を指さした。


「それじゃあ、さっそくだけど、これから3日後に行われる第二王子、ジーク・ブラッドの暗殺事件。

 これについて話し合いましょ」


 そう言って、私は私が冤罪で処刑された事件の全ての始まりである第二王子暗殺事件について話し始めたのだった。

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