第017話「公爵令嬢と第二王子の出会い(ジーク視点)」
変にネタバレにならないように気を付けて書いたら更新遅れました。すみません。
■04月06日 午前:ジーク暗殺まであと一日
俺の人生は一言で言えば、次期国王の兄の地位を盤石にするための踏み台の人生だった。
物心ついた時には既に父である王から『お前は兄が死んでも決して王にはなれない』と伝えられ、更に『だが、周囲はお前が次期国王だと思い、良い者も悪い者もお前の周りに集まり、中には優れた良い人間も居ればお前を堕落させ自分の思い通りに動く駒にしようとするものも現れるだろう。
ゆえに市井に下るその瞬間までお前は他者に次期国王であると誤解させた上で、使える人間、使えない人間を俺に報告し、次期国王である兄の王座を盤石なものとする礎となれ』と毎日のように言われ続けた。
当初はそうなんだと言うのんきな判断しかできず、毎日を普通に過ごしていた。
それが崩れ始めたのは、市井に下ると言えそれまでは王族なのだからと帝王学や経済学など王になるための勉強を始めた時からだ。
元々勉強が嫌じゃなかったと言うのもあったし、やれば褒められると言う環境もあったのだろう。
俺はわずか一週間で先に進めていた兄と同じ内容を習い始め、その次の週には兄よりも良い成績を納めるようになった。
無論、優しい兄はそのことに関して嫉妬するでもなく、むしろ俺を凄いなと褒めたり、俺も頑張らなきゃなと言ってくれた。
そんな日々を過ごしていると、やがて俺は家庭教師にあなたは秀才だ。流石は次期国王だと言われ始めた。
そして、それを皮切りに家庭教師にその事を言われてから一週間と経たずに国内の貴族たちは俺を次期国王の継承権第一位だと勝手に認識し始めた。
無論、俺は次の国王は兄だと言いたかったが、それは兄すら話すのを禁じられている機密事項なので、彼らの言葉を肯定も否定も出来ず、毎日次期国王、次期国王ともてはやされるこの現状を受け入れると言う口に出さない嘘を吐くしかなく、その罪悪感で他人に会うたびに胃が痛くなった。
そんな自分の行動が災いしたのか、日に日に周りには善悪問わず多くの人間が集まり、俺は毎日貴族たちの媚びへつらう顔を見ながら、嘘を吐くと言う地獄のような日々を過ごし、時には兄に地位を奪われる可能性があるから、兄を殺さないか? 何ていう提案をした貴族も現れたほどだ。
無論、俺はそんなことする気も無く、むしろ、ああ、これが父が言っていた俺を堕落させ、自分の思い通りの駒にしようとする人なんだなと父の予言のようなその言葉を思い出し、次の日にはそのことを王に密告した。
「よくやった。その貴族に対しては、調査を行い、事実の場合は国家反逆罪として、処刑する」
王のその言葉を聞いた瞬間、褒められたと言う喜びと、同時に自分の密告が原因で人を処刑させてしまったと言う罪悪感が胸を締め付け、何度もトイレで吐いてしまった。
そして、実際にその貴族は家族ぐるみで王族の暗殺を企てていたらしく、俺が報告して一週間と経たずに家族全員が絶望に満ちた瞳を浮かべながら処刑された。
しかし、その一人だけで話が終わるわけがなく、連日連夜、他人に自分は次期王だという言葉を否定せず、もてはやされては、俺には国王を暗殺、兄を暗殺、素晴らしい薬があるなど様々な貴族からの誘いを受け、そのたびに俺は処刑されると分かっていてなお王に密告し、罪悪感で心が締め付けられた。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
そんな日々は徐々に俺の心を蝕み始め、食事も喉に通らなくなり、何度も吐いては、自分は正しいと彼らの処刑される直前の絶望に満ちた瞳を思い出しては、無理矢理自分の心の傷を誤魔化す日々を過ごした。
そんなある日、俺の心はついに限界が訪れ、俺は産みの母親である王妃に、自分は市井に下るのだから自由にしてくれと王に言ってくれと頼んだ。
しかし、貴族の常識に満ちている王妃にとって、俺の言葉は甘えでしかなく。
『やがて市井に降るあなたが、王に言葉を聞けるだけでありがたく、あまつさえその内容が命令ならどんな手段を用いても達成しろ
どんなに辛い、きついと思っても、最後まで行動するのが王族としての務め。兄の王位継承後は自由に生きれるのだから今だけ我慢しろ』
その一言で終わらせられてしまった。
ならば王の愛人で自分の乳母に頼もうとしたが、いくら王妃と同じほど寵愛を受けているとしても、市井出身の彼女には王の命令に逆らうことは出来ないと言われ、俺は再び他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間を消す手伝いをする日々に戻された。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
他人に嘘をつき、もてはやされ、密告し、そしてその人間が消される。
そんな毎日が過ぎ、処刑されると言う言葉に罪悪感が無くなった時、俺は王城の近くに流れている川辺に座っている一人の少女を見た。
その子は自分と同じくらいの年で整った顔立ちに透き通るような黒い髪を流し抱えた紙袋を抱え、中に入っているパンを食べていた。
恐らく、貴族の子であろう綺麗な服装をしている彼女は、パンを美味しそうに食べていた。
一つ、二つ、三つ……十と、ありえないほど大量に……まるでスポーツのようなすさまじい速さで……
「うげぇ、喉に詰まった!!」
そして、十五を食べている途中で突然貴族の令嬢らしくない声と共に胸を叩き始めた彼女に俺はそんな勢いで大量に食べているなら当たり前だろと心の中でツッコんだ俺は、溜息を吐きながら水筒を彼女に渡そうと歩を進めた。
「み、水……ここにある!」
しかし、その一歩を進めた瞬間に、彼女は土下座のような体制の突如取り始め、そのまま顔を川に突っ込んでそのまま水を飲み始めるのだった。
「んぐっ、んぐっ、んぐっ、ぷはー、あー危なかった」
ごくごくと喉を鳴らした彼女は喉のつっかえが無くなり、落ち着いたのだろうか。
濡れた顔を服の袖で拭いながら、川から顔を外した彼女の顔はかなり清々しいものだった。
「うーん……意外と川の水美味しいな。
もっと飲も」
それだけでも、もう貴族の令嬢らしくないにも関わらず、恥も外聞もなく再び顔を川に突っ込んでお代わりを始めた彼女の姿に俺は思わず少しだけ笑ってしまった。
「……そこに誰かいるの?」
その声が聞こえてしまったのだろう。
少し面倒くさそうな表情を浮かべつつこっちを見つめる彼女に、このまま居ない振りは効かないなと思った俺は苦笑いを浮かべ、頭を掻くと言う無害な人間のアピールをしながら姿を現した。
「あ、ああ、すまない。
普段はここに居ない人が居たから気になっていただけで、別に悪気があって覗いていたわけじゃ無いんだ。」
「ふーん。そっか」
そう言って、もう俺には興味が無いと言うかのように再び少女はパンを頬張り始める。
自分が第二王子だと言うことを伝えていないと言うこともあるが、自分を見て一切興味が無い彼女に珍しさを感じつつも、彼女には一切声をかけずに、何も考えずに彼女の後ろで呆然と流れる川を見つめていた。
「ずっと立ってるのは辛いでしょ?
座れば?」
そんな俺のことが気になったのであろう。
不意にこちらに振り向いた彼女は自分の手を地面に向けてペンペンと叩いて、座るように促す。
「ああ、後ろに立っていたら気になるよな。
すまない。失礼するよ」
そんな彼女の気づかいに礼を言いながら俺は彼女から少し離れたところに座った。
「…………」
「…………」
互いに何も語らずに俺は川を眺め、彼女はひたすらパンを食べる。
そんな変な状態にも関わらず、俺は何処か心が安らぐような感覚を抱いた。
それは恐らく今まで俺が会ってきた人間は老若男女問わず誰もが会った瞬間に第二王子であり、次期国王である俺に少しでも覚えてもらおうと干渉するものばかりで、そんな人間関係に疲れていたからだと今なら分かる。
だからだろうか、俺に干渉もせずに隣に居てくれる彼女との過ごす時間は何もなくても俺にとって癒されるものであり安らげる時間だった。
「ふぅ、ご馳走様。
あー、食った食った」
しかし、そんな安らげる時間はあっという間に過ぎ、手に持っていた紙袋をくしゃくしゃに丸めた彼女はそれをそのままポッケに入れると立ち上がり大きく伸びをする。
「えーと、確か第二王子のジークだったか? 私の食事を邪魔しないでくれてありがとうね。
おかげでゆっくりパンを味わえたよ」
「……気づいていたのか?」
「そりゃ、私一応貴族だから名前くらいは親から聞かされたし、遠目だけどパーティーで貴方の顔見たことあるもの。
そりゃ、気づくよ」
「……じゃあ、何で君は俺に迫ってこなかったんだ?」
確かに彼女の高価な服装から俺は彼女は貴族だと思っていたが、俺との仲を良くする気がないその言動から彼女は俺のことを知らない子だと思っていた。
だが、現実は違い彼女は俺が王族だと気づいていながら全く興味のない言動をとっていたことを知ったからだろうか、俺は思わずそんな質問をしてしまった。
そんな俺に少し驚いた表情を浮かべた彼女はその歳に似合わない大人のような表情を浮かべ、微笑むとーーー
「私、王族大嫌いなんだもの。
全員、一人残らず惨めにのたれ死んで欲しいくらいにね。
そんな相手に迫るわけないじゃない」
そんな不忠の極みのような言葉を彼女は殺意をこめながら吐き捨て、その言葉に一切の嘘が無いことを体に感じた俺は思わず彼女に恐怖してしまった。
これが俺と俺の婚約者であるフレイヤとの出会いであった。
出会い頭から死んで欲しいと直に言われると言う恐らく世界のどの王族も経験したことがないだろう最悪な出会いをした俺たちだが、何の因果か数年後には互いの家の都合で婚約者となり、仲もあくまで体感だが、そんなに悪くない状態で、今なお過ごしている。
そして、何でこんなことを今になって思い出したかと言うと……
「むぐ、むしゃ、むぐ。うま、うめ」
「フレイヤ。口の周りケチャップで凄いことになってるぞ。
拭いてやるからこっちむけ」
「ん? 本当? ありがとう。ジーク」
「はぁ、別に誰も奪わないからもう少しゆっくり食べろよ」
それは恐らく、その当時を再現するかのような大量の食べ物を両脇に抱えたフレイヤと港町で色気のないデートをしているからだろうな。
因みにあんな不敬の極みみたいな言動は国王に報告されなかったのかと言う疑問があるかもしれないですが、一言一句ジークは報告してます。
しかし、後々でも語られていますが、フレイヤはセバスの姉関連で国王を脅せる情報を持っているため、国王はフレイヤに逆らえないと言う設定があり、これが理由で不問にされています。
※この事実はフレイヤと国王しか知らないうえに他人に知られると執事含めたソウル公爵家全員が敵に回りかねないレベル事実です。
※国王を脅せる情報は実は現時点でもかなり分かりづらいですが、推測は出来るレベルの伏線はありますし、事件にはほぼほぼ関係ないので分かった方は感想欄に好きに記載して大丈夫です。
感想、評価があるとやる気につながるのでもしよかったらお願いします。