第016話「近づく真実(フレイヤ視点)」
ジャスト20話で犯人が分かるように頑張ります!!
「本日はここでお休みください。もし何かあった際はベルを使ってお呼びください」
「分かりました。ありがとうございます」
あれから外がもう暗いため、パーティー会場の使用されていない部屋で休むことを決めた私は眠っているリリーをベッドに休ませ、護衛を配置すると公爵、公爵夫人、セバスが居る部屋に向かった。
そこには両手を縛られ、護衛に押さえつけられているセバスとそんなセバスを冷たい目線で見下ろす公爵と公爵夫人が居た。
「セバスさん。あなた主を置いて一体今まで何をしていたの? 答えてください」
「はっ、タイムの奴に質問に何で――――」
「なら、私の質問なら聞くと言うことだな。
お前は屋敷に戻るまでの間今まで何をしていたのだ? 答えろ」
「……分かりました。では、話します」
そうして憎々しげな顔を私に向けながら呟いたセバスは屋敷に戻るまでのことを話し始めた。
どうやらセバスは宮廷医のハロルドに書類の提出をし向かい、パーティー当日の薬棚の整理をしていたハロルドに書類を提出した後、屋敷に戻り、一人で戻ったことから突如拘束されここまで連れてこられたらしい。
まあ、そりゃいくら信頼のおける執事と言えど、主である私やリリーを置いて一人で帰ったと言ったら誘拐などの犯罪の手助けをしたと思われても仕方ないか。
現にリリーがしばらくの間行方不明になっていたんだし。
「それで、セバスがハロルドさんに書類を提出したその証明は?」
「それは……私の方がいたします。
確かにセバス様は夕方に私の方に書類を提出いたしました。
それがこちらです」
リリーの体調を調べ終え、その報告をするために部屋の端で立っていたハロルドは、小太りな体を揺らして私たちの前に立つと書類の束を提出した。
それを公爵の後ろから覗き見るとそこには公爵の領土で働いている医師たちが作ったカルテがそこにあった。
「確認させていただきます。……これは確かにセバスに今日頼んだ書類ですが……セバス。これは午前中に提出したと報告を受けたはずだが?」
「? 私はそのような報告はしていないですが……」
「ハロルド様。すみませんがもう一度確認させていただきますが、本当にセバスさんは夕方にこちらの書類を提出したのですか?」
「え? あ、確か……そうだったはずで……あれ? 外は……夕暮れだったはずですが……あれ?」
話を続けるたびに徐々に顔から脂汗が流れ、顔色が青くなり、目が泳ぎ出すハロルド。
一見すると怪しい事この上ないが、セバスのこの状態を考えるに……
「ハロルド様。ご事情は分かりました。ご協力ありがとうございます。ゆっくり休んでください。
あと護衛の方々もセバスさんを離していただいて結構ですが、念のために他の空室で監視だけはしておいてください」
「おい、何でお前が私の処遇を命令――――」
「セバス。現状のリリー嬢の言葉は公爵家からの言葉と思いなさい。
確かにお前を許していた私も悪いし、その原因も理解しているが今のお前の行動は目に余る。
監視ついでの反省と思って、しばらく頭を冷やせ」
「分かりました。旦那様、奥様。お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ございませんでした。
失礼します」
立ちあがり、公爵と夫人に向けて深く頭を下げたセバスはそのまま護衛達に肩を捕まれながら、大人しく部屋を離れ、それに合わせるようにハロルドも一緒に部屋を出て、部屋には私と公爵と夫人の三人だけになった。
「お父さん、お母さん。セバスは特に変わってなかったけどハロルドさんの様子を見るに多分……」
「ああ、恐らく記憶の魔法を使われたな」
「ええ、私もそう思うわ」
記憶の魔法はその名の通り自他の記憶に干渉出来る魔法なので、一見すれば相手の記憶を操作出来るかなり強力な力に見える。
しかし、実在する記憶の上に存在しない記憶を何重にも重ねることで、記憶を改ざんすると言う魔法で、完全には記憶を証拠することは出来ない。
そのため上書きされた記憶に関することを刺激されると実在する記憶の方が徐々に鮮明になり始め、どちらかが本物の記憶か分からなくなり、あのように混乱し始め、最悪廃人となる恐ろしい魔法だ。
「となるとリリーの方も何があったか聞くことは出来ないか」
「ああ、そうだな。過去に無理に聞いて頭が混乱しすぎて廃人になったと言うケースもあったからな。
出来る限り無理に聞くのはやめた方がいいだろうな」
「そうよね。でもどうしてリリーとセバスとハロルドさんは記憶を弄られたんだろう?」
「理由はいろいろ考えられるけど……単純に考えれば何か誰かにとって都合の悪いことを知られたからでしょうか?
少なくとも何が事実だったかのかを分からなくさせることにはこれほど強力な魔法はないですから。あなたはどう思う?」
「私も大体同じだな。今日のパーティー会場への来訪は突発的なものだったし、改ざんも午前中の記憶を午後に置き換えるだけと言う他人がすぐに魔法を使ったことが知られるお粗末なものだったからな。
上位の魔法使いならもっと分からない記憶にして、隠したり、刺激させないようにするんじゃないか?」
公爵も夫人も私と同じ考えか。
確かに記憶の魔法を使って改ざんしたにしては内容があまりにも杜撰すぎる。
現にハロルドはすぐに記憶の混乱が始まって、私たちに魔法を使ったことがすぐに分かったし。
それに記憶の魔法は一見すれば記憶が分からなくなると言う特性を持っているが、それは逆に言えばその魔法が使われたことが知られた瞬間に、最初に言っていた記憶が嘘だと分かってしまうと言うことだ。
つまり、やはりあのハロルドの話は今日の午前中にあった話と言う事で間違いないだろう。
「ハロルド、セバス、リリー……あの三人は一体何をしていた?
セバスとハロルドの台詞とあの反応から、午前中に書類を提出したのは間違いじゃない。
それに私たちを待っていたセバスが何の理由もなく離れるわけもないし、それにもしセバスとリリーがハロルドとすれ違っても会釈するだけでそんなに重要なことを聞くはずがない。
となると……」
今回、リリーたちが魔法を使われた原因はリリーが何かしたことが起因の可能性が高い。
でも、だとすると一体リリーは何をした?
いくら私が故意に情報を隠しているとは言え、リリーが現状出来ることは少ない。
そんなリリーがすることとしたら……呪いバチが会場に居ないかの確認? いや、その可能性は低い。
今日の事件の再現で私とリリーは互いに呪いバチでの犯行が難しいことが分かった。
そのことを理解したうえで呪いバチのことを考えて、徒労に終わる可能性があることをするのはありえないだろう。
だとすると、当日ジークが呪いバチに刺されて殺されるから、倒れたらすぐに対処するようにお願いいたした?
いや、確かに死に戻り前もジークが倒れた際にその介抱をしたのはハロルドだった。
しかし、現状助かる手段もない上に居ない可能性の高い呪いバチの対処をお願いするなんて、再現の時にリリーが言った呪いバチの症状を再現する毒でも見つけない限……り……は……
「まさか……そんなこと本当に出来るの?」
待て、何で私は最初から出来ないって決めつけていたの? 確かに空想染みていて、ありえないことだとは思うが、可能性は0じゃない!!
そして、もしリリーも同じ結論に達したとするなら、まずそれが本当に存在するかの確認をするはずで、そのためにセバスを使ったとするならば!!
「お父さん! 今すぐに王室図書館に連れていって!」
「王室図書館にか? それは別に構わないが、閉館時間が過ぎているから入るのはきついと思うが……」
「ふっ、王宮図書館程度の鍵なんて死に戻り前に経験した鍵開け技術で一発よ。
現に死に戻り前は毎日のように図書館に入って、重要書類を盗んできたしね」
「フレイヤ。普通に鍵開けは犯罪だから……公爵権限を使っていつでも自由に使わせるからこれ以降は止めてくれ……」
「娘がどんどん公爵嬢からかけ離れていく……」
頭を抱えて天井を見上げる公爵と悩むような夫人を無視して、私は二人と一緒に図書館へと向かった。
夜道の中、馬車の揺れも無視して全力で図書館へと向かった私たちが王室図書館に着くとその入り口には待っていたかのようにランプを片手に持つ司書がいた。
私たちを確認した司書は図書館の扉を開け、そのまま流れるように受付の中に入り、私たちを図書館の中に受け入れた。
「ソウル公爵。王室のそれも公的施設にこのような無理矢理な命令をされると困るのですが」
「すまないな。今回はかなり緊急なものですぐに確認しないと大事件が起きないとも限らないんだ。
多めに見てくれ」
「分かっていますよ。謝礼も多めにいただきましたし、第二王子のジーク様からの許可も出ていたので、今回だけは多めに見ます。
それで、今回はどのようなご用件で?」
「用件は今日の午後にセバスがここで何かを借りたはずなんだが、その履歴があるかどうかだけ確認したいんだ。
特にカルテなど医療系に関するものを」
「? あまり意味が分かりませんが、分かりました。確認いたしますので、少々お待ちください」
私たちに軽く頭を下げた司書は恐らく今日の図書館の借りた人の履歴が書かれた分厚い本を指でなぞり始めた。
「はい、ありました。
全部カルテですね。場所はカルテ保管書の一番奥の右端の港区の医者からのカルテで、合計50枚借りていますね」
「港区のカルテですか?
他の地区のカルテを借りた形跡は無いんですか?」
「そうですね。はい、他の地区はありません」
「なるほど……因みに返却は?」
「今日借りたものなので、返却は無いですね」
これでほぼ確定したな。
そう判断した私は、隣に居る公爵に目でもう大丈夫と伝える。
「それで他に何か御用はありますか?」
「いや、これで大丈夫だ。ありがとう。
あと、これは今回の礼とは別のものだ。納めておいてくれ」
「それでは遠慮なくいただきます。
あと、お金をもらっておいてなんですが、今回のようなことはこれだけにしておいてくださいね」
「ああ、善処するよ」
「では、皆様は先に外へ出てください。
私の方は片づけしてから外に出るので」
「分かりました。
司書様。今回は本当にありがとうございました」
私たちが軽く頭を下げると、司書は同じように深く頭を下げ、それを確認した私は速足で馬車の方へ向かい、馬車の椅子に深く座ると今までの考えを頭の中でまとめていた。
「どうだ? 図書館で何か分かったか?」
「うん。最初は信じられなかったけど、ここまで情報が集まればもう否定はできないわね。
どこの誰だか知らないけど、呪いバチの症状を再現できる毒か何かの作り方を知った人間が居る。
それも港区に」
「呪いバチの症状を再現する?
フレイヤの言う事を否定する訳じゃないけど本当にそんなことありえるのかしら?」
「ああ、私も同じ考えだ。
呪いバチの症状を再現だなんていくら何でも空想染みているぞ」
「私も初めはそう思っていた。
例えありえるとしても、それは貿易で使っている港区の荷台か何かに呪いバチが入っていてそれが原因だと思って考えからは外していた」
「なら……」
「でも今回重要なのは港区でもなんでもないのよ。
今回一番重要なのはカルテを借りたセバスがまだカルテを返していないことと恐らくその命令をしたリリーが狙われたと言う事実なのよ」
「二人が狙われた事実?」
私の言葉に少し頭を巡らせる公爵と夫人だが、すぐにその顔は分かったと言うものに変わった。
「そうか。あの真面目なセバスがいくら暇とは言え、無断で離れるのはフレイヤ……いや、今はリリー嬢だな。
リリー嬢がフレイヤの真似をして、動かさない以外はありえない。
そしてそのリリー嬢が依頼する内容は確実に今は呪いバチ関連のことしかありえない」
「そしてその二人が魔法によって記憶を改善させられたことから、二人が犯人にとって余計な事実。
呪いバチの症状を再現する方法があることを知られた可能性が高いと言う事ね!」
二人の言葉に私は大きく頷く。
「ええ、加えて言うならカルテには、その症状が起きた人の前後の行動が書かれてある可能性があるから、リリーは恐らくその先のこと。
犯人の正体まではいかなくても、犯行の方法まで気づいた可能性もあるわ。」
「その可能性も確かにあるわね。でも、今のリリー嬢に話は……」
「うん。今はリリーにその話をすると、魔法の影響で混乱することが確実だわ。
でも、今まで一切見えなかったジーク暗殺事件の容貌がようやく見え始めた。
残り時間はもう少ないけど、ジークは絶対に殺させないし、リリーを冤罪で処刑される未来は絶対に回避してみせるわ」
暗い窓辺に映る星空を見上げながら私は再び決意を口にこぼすのだった。
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