第013話「第二王子ジークと公爵令嬢(フレイヤ視点)」
序盤だけリリー視点で書きましたので、ご注意ください。
「誰かと思ったら、フレイヤ。お前も来ていたのか」
ジーク様のその言葉を聞いた瞬間に私が思ったのはまずいの一言だった。
何故なら私とフレイヤが交友を始めたのは帝国との戦争が行われた時がきっかけであり、その時には既にジーク様は亡くなっており、私はジーク様とフレイヤが一体どのような会話、言動をしていたか一切知らないのだ。
「…………」
「フレイヤ? どうした? 銅像の真似でもしているのか?」
ゆえに、一挙手一投足がジーク様に私とフレイヤが入れ替わっていることが分かりかねないことを感じた私の体は完全に硬直し、そんな私を訝し気にジーク様は私を見る。
「ジーク様。申し訳ございません。
フレイヤ様は……その……先ほどたくさん食べ物を食べてしまって……その……あの……
なので、出来ればお手洗いに……流石のフレイヤ様も殿方にそのようなことを言うのは……」
「あ、ああ、そうなのか。フレイヤ。すまなかった。
彼女の対応は俺がするから、しばらくの間、ゆっくりとするがいい」
「え、ええ、ありがとう。それじゃあ、失礼するわ!!」
全く、フレイヤ。何もできなかった私に助け舟を出してくれたのは良いけど、もっと良い手を考えて欲しかった。
そんなことを考えながら、ジーク様に軽く頭を下げた私は顔が真っ赤になっているのを感じながら、お手洗いに向けて走るのだった。
「…………」
全速力でトイレへ向かって走るリリー。
そんな彼女が部屋から完全に居なくなるのを確認すると、私は目の前の男に視線を向けた。
「はぁ、全くリリーをいじめるのも大概にしてよね。ジーク」
「あははは、まあ、流石に彼女にこのことを知られる訳にはいかないからね」
そう言って、ジークがひらひらと手で仰ぐのは出発する前にこっそり公爵に頼んだジーク宛の手紙だった。
「それを読んで、あの態度って言うことはあの内容を信じたってことね。
……あんな荒唐無稽なこと信じるなんてあなた頭大丈夫?」
「送った本人が言うセリフか? それ。
まあ、信じれる信じれないのどちらかで言えば後者だったけど、でも先の彼女の言動で確信したからな。
フレイヤならトイレごときに口ごもるなんてことはないし、そもそもいくら参加者の娘とはいえ、知り合いでも無い二人がこの場に一緒に居るのは不自然だからな。
と言うより、そう判断させるためにさっきの台詞を選んだんだろ?」
「まあね。それよりも、信じたって言ったけど、今の心境は? 大丈夫?」
そう言って、私はグラスに水を注ぎ、それをジークへと渡す。
ジークには公爵に言った内容とほぼ同じ内容を手紙に書くことで、情報を共有した。
それは単純に、ジークに自分が狙われている自覚とそれに対する警戒心を上げるためのものだ。
しかしそれは同時に自分はこれから殺されると言う恐怖を植え付けることと同義で、恐怖や怒りで取り乱してもおかしくない行動だ。
「正直言うと、怖い半分、暗殺者に負けたくない半分だな。
それに王族に生まれた以上、暗殺される覚悟はしていたし、むしろ何時やるか分かるし、逆に言えばあと一日半は何があっても平気だと分かる分気が楽だな」
しかし、そんなこと関係ないと言うかのように軽く私のグラスを受け取ったジークはそれを一気に飲み干した。
「それにしても公爵を使って、タイム嬢に内緒に渡したってことは……」
「ええ、これから話すあなたの暗殺を阻止する作戦はリリーには絶対に内緒にして欲しいの。
結構過激だし、死にはしなくても下手すれば多くの人が怪我しかねない内容だから、もしリリーが聞いたら、優しい彼女のことだからきっと罪悪感を感じかねないから」
「あははは、何だ。それなら俺には迷惑をかけても、罪悪感を感じさせても構わないって言うのかよ」
お代わりと言うかのように空いたグラスの飲み口を私の方に向けたジークに私は水の入ったピッチャーを投げ渡し、それを受け取ったジークは更にもう一杯の水を飲む。
「ええ、この作戦は犯人を見つけられない代わりに、確実に暗殺を阻止できる作戦だからね。
現状やれることはやっているけど、まだ完全じゃない以上はあなたが死ぬ可能性は0じゃない。
だから、もし死にたく無いのならあなたにはこの作戦で迷惑と罪悪感を全力で感じてもらうわ」
「あははは、死にたくないなら作戦をしろなんて言われたらこっちとしても拒否は出来ないな。
分かった。それじゃあ、その作戦を伝えてくれ」
「分かったわ。まあ、作戦云々言っても内容自体は簡単よ。
作戦は単純明快。パーティー当日。お父さんがジークの近くに来た時が作戦開始の合図で、それと同時に私がこのパーティー会場を放火する。以上よ」
「…………は?」
私の短い作戦の内容に彼は思わず素っ頓狂な声を漏らすのだった。
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