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第012話「現場で事件の再現をする二人」

「では、お嬢様。

 これから旦那様の代わりに不肖セバスがパーティー会場まで案内させていただきますがよろしいでしょうか?」

「あー、そのことなんだけど。

 ごめんセバス。ちょっと、私とリリーで調べたいことがあるから、出来ればセバスはここで待っていて欲しいんだけど」


 私の言葉に少し不満そうな顔を浮かべたセバスさんだが、一瞬で顔を元に戻すと、私に向けて頭を下げた。


「お嬢様がそう言うのなら私に断る理由はありません。

 ですが、良いのですか? このゴミムシは……」

「ええ、タイム家の人間だと言うことでしょ?

 あなたがタイム家に悪感情を抱いているのは知っているけど、彼女はあなたの姉とは関係ない人間よ。

 だから、安心してここで待っていなさい」


 ああ、やっぱり、フレイヤの真似をしているとはいえ、こんな風に自分に都合の良い言葉を言うのは罪悪感を感じちゃうな。


「承知いたしました。お嬢様。

 ですが、もし何かあった際には大声をあげてください。

 その時は全力を持って私がお嬢様の元へ駆けつけます」


 だが、フレイヤの真似は上手くいったのか、セバスさんは再び深く頭を下げ、私……いや、フレイヤに向けて誓いを立てた。


「分かったわ。何かあった時はすぐに声を上げるようにするわ。

 さ、それじゃあ、行きましょうか。リリー」

「はい、行きましょう。フレイヤ様」


 そう言って、私とフレイヤは、セバスさんを置いてパーティー会場に向けて歩を進めた。

 そして、歩くこと十数分。


「はぁー、胃が痛かった」

「うふふ、お疲れ様。リリー」


 パーティー会場に着くと同時に私は大きなため息を吐いた。


「フレイヤ。あなた、すごく楽しそうな表情しているけど、少しは助けてくださいよ。

 あの場所の中、どれだけ辛かったか」

「あははは、ごめんごめん。

 でも、リリーだって分かるでしょ? 何で私があんなことしたのか」

「それは……まあ……そうですけど」


「自分の家の人間を言うのは正直言ってあまりいい気分はしないけど、リリーを冤罪で殺す。この一点に関してはセバスは動機がはっきりしているし、証拠を捏造、隠蔽することも冤罪を晴らそうとしていた私たちに近い人間と言うことで比較的に容易だわ。

 そんな人間に対して変に行動して、私たちが入れ替わっていることを知られるのはさけないといけないわ」

「それは、つまり……フレイヤはセバスさんのことを……」

「ええ、疑っているわ」

「…………」


 フレイヤが言っていることは分かるけど、でも、二人が疑うと言うのはなんか嫌だな。

 そんなことを思っていた私の表情を何となく察したのか、フレイヤは少し気まずそうな苦笑いを浮かべた。


「リリー、そんな顔しないでよ。

 確かに私はセバスを疑っているけど、それはセバスのためでもあるのよ」

「え? それはどういう事ですか?」

「例えばだけど、リリーの冤罪が晴れた場合、次に犯人として捕まるのは誰だと思う?」

「それは……私を冤罪にかけて殺そうとするほどの殺意を持っていて、その動機もあるセバスさんですよね?」

「ええ、そうね。そうなった場合、私たちソウル家はセバスが犯人ではないと言う証拠が必要になる。

 でも、そうなったときに人柄云々で、違うと言う言葉よりも、たとえ証拠が無くても以前から調べた結果、セバスが犯人じゃないと言う言葉ではその重みは全く違うでしょ?」

「言われてみれば、そうですね。

 つまりフレイヤはセバスさんを犯人じゃないと信じていたために、セバスさんを疑って調査していたと言う事ですね」


 私の言葉にフレイヤは正解と言うかのように、指を慣らして私に指先を指した。


「そういう事。さてと、時間も惜しいし、セバスの話はここまでにして、ジークの調査でもしましょうか」

「はい、分かりました」


 そして、私とフレイヤはセバスさんの話をそこで打ち止め、パーティー会場の調査を始めたのだった。


「じゃあ、まずはあの日の再現から始めましょうか。

 ジークはパーティーの当日。この場所で椅子に座っていて、私はその隣の椅子に座っていた」


 そう言ってフレイヤは、その日の真似をするかのように、椅子に座って広いパーティー会場を一瞥する。


「パーティーが始まって十数分後、父がジーク様のところに挨拶に行き、葡萄酒を献上しました」

「それを受け取ったジークは、葡萄酒を毒見係に渡して、毒見係はそれを飲んだ」


 近くにあったグラスに水を入れた私は、それを軽く飲んだ後に、フレイヤにグラスを渡した。


「そして、毒見係が飲んでしばらく待って、何も異常が無かったことを確認してからジークは葡萄酒を飲んだ」

「それからしばらくの間は何も無かったけど、飲んでから十数分後、ジーク様は体を搔き始め、その少し後に、赤い粒粒が浮かぶと体が痒いと叫び出した」

「うぎゃぁぁぁああああああ!! 痒いぃぃぃいいいいい!!」


 急に叫び声をあげたフレイヤは、地べたに体を倒すと、のたうち回りながら体を搔き始めた。

 それは、確かにあの日の再現に近いのだが……


「フレイヤ……ここはただの再現だからそこまでやる必要はないですよ」

「それもそうね」


 私のツッコミで、急に冷静になったフレイヤは体を掻くのをやめ、地べたに寝転がるだけにした。


「それからしばらくして、宮廷医がやってきて、ジーク様の容態を確認した。

 でも、ジーク様はただ痒いと言うだけで、それからしばらくして、腹痛や嘔吐を繰り返し始めました」

「おヴ――――」

「再現しなくて良いから! 仮にも公爵令嬢がそんな真似しないでください!!」

「はい」


 全く、ただでさえ床に寝転んでいるだけでも公爵令嬢としてありえないのに、嘔吐や腹痛の真似なんてするなんて、油断の一つも出来ないですね。


「その後、宮廷医の治療の甲斐もなく、ジーク様は十数分後に死亡してしまった。

 こんな感じですかね?」

「そうだね。ねえ、リリーちょっと再現したうえで、何か気づいたことある?」

「気づいたことですか……やはり、症状的には呪いバチが怪しいですよね」

「そうだね。症状的には呪いバチが怪しいと思うんだけど……」


 あれ? なんかフレイヤが何か言い淀んでいる。


「どうしたの? フレイヤ。

 何か変なところでもあった?」

「変なところと言うか単純な疑問と言うか……

 人が多いパーティー会場でハチの羽音って、そんなに気づかないものなのかな?」

「言われてみればそうですね。

 呪いバチを見たことないので何とも言えないですし、パーティーはピアノや人の声などで結構音がしているから、何とも言えないですが、ハチの羽音って結構大きな音しますよね。

 それを呪いバチに刺されたことのあるジーク様がそれに気づかないなんてことあるんでしょうか?

 服の中にハチを入れても外に出した瞬間に周囲はハチの羽音に気づくでしょうし……消音の魔法を使ったとかですか?」


 私の言葉にフレイヤは首を横に振る。


「いや、理論上は出来なくないけど、リリーだって意識外の存在に魔法を使うのは難しいでしょ?

 最初は上手くいっても、ずっと豆と同じくらいの大きさの呪いハチの位置を把握しながら魔法を使うなんてそんな芸当出来る人間が居るとしたら、それは宮廷の魔法使いくらいだよ」

「そうですね。となるとやはりこの犯行が可能なのは症状が出るまでの間、呪いバチを刺すなんてことが出来るのは常にジーク様の隣に居た毒見係の彼なのですが……」


 言い淀む私に対して、フレイヤは首を縦に振った。


「リリーもやっぱり、なにかしっくりしないんでしょ?」

「はい、確かに毒見係のあの人には緩いとはいえやる動機もチャンスもあります。

 ですが……少し前にも話題に出ましたけど、テイムの魔法を持っていない人間が、自分が刺される可能性を考慮してまで呪いバチを暗殺手段に使うでしょうか?」

「まあ、私だったら使わないね。

 私だったらもっと簡単に例えばグラスの取っ手に毒を塗っておいて、その後にパンを食べさせて殺すよ」


「そうですね。となると……ありえない方法ですが、誰かが呪いバチの呪いを再現できる毒か何かを作ってジーク様に盛ったとかでしょうか?」

「うーん。それこそ難しいんじゃない? そんなこと出来る人間が居たらそれはもう天才の領域だよ」

「……はい、私も言っててきついと思ってました」


 でも、そうなると本格的に差す手が無くなってしまった。


 うーんと唸るだけでただ時間を過ごす私たち。


「誰かと思ったら、フレイヤ。お前も来ていたのか」


 そんな中、突然響く男の声に反射的に振り返った私たちの視線の先に居たのは、これから一日半後に死ぬかもしれないジーク様だった。

感想、評価があるとやる気につながるのでもしよかったらお願いします。


またもし良かったら11話完結で短いので、『吸血鬼殺しの吸血姫と最強吸血鬼ハンターは共に生きる~最強吸血鬼ハンターが死ぬまで共に生きた吸血姫は最期に本当の願いを叶える~』も読んでみてください。

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