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第010話「公爵令嬢と第二王子が婚約した訳」

「フレイヤ大丈夫でしょうか?」


 そんなことを呟きながら、何度目かの紅茶を私は飲む。

 書類のチェックにしては結構時間がかかっていることから、恐らくあのことを二人に無理矢理話されているのだろう。

 無論、いくら公爵と言えど、実娘に対して拷問なんて出来ないだろうし、多少のことはバレても決定的なことはばれないだろう。


 それに死に戻り前もこの事件に殆ど関わらず、私の冤罪も晴らそうと頑張ってくれた公爵を巻き込みたくはないし、フレイヤもそこは理解しているだろう。

 何人もの人間が死んだこの事件。それに関わるのはこの事件の当事者の私たち二人だけで良い。

 だからフレイヤ頑張ってください。

 両手を合わせて私は神様に祈り、そして――――


「リリー、ごめん。事件のこと話しちゃった」


 私の祈りは無意味に散ったのだった。


「それじゃあ、七年間のことは……」

「ああ、第二王子の暗殺からリリー嬢の暗殺まで全部教えてもらった」


 私の祈りを返してフレイヤ!!

 机に体重を預け、プルプルと震える私。

 そんな私の背中を撫でながら、フレイヤはテーブルの空いた箇所に座り、紅茶を飲む。


「何だか嘆いているけどさ、リリー。

 実は最初から二人には協力してもらう予定だったんだよ」

「え? そうだったんですか?」

「ええ、正直に言わせてもらうけど、私個人云々は抜きにして、実はソウル家と王家の継承権が高い人間との結婚は想定されていなかったのよ」

「え、そうだったんですか?」


 私の言葉にフレイヤは大きく首を振る。


「ええ、この国の建国に大きく関わっているソウル家。

 その権力は強大で、実際にこの国の資金の大半をソウル家が保有しているわ。

 その人間が国の中枢。それも国王クラスと家族になると、その権力はもう一国家と同等になるのよ。

 さて、リリー、クイズの時間です。

 ここに国を手に入れたい人物がいます。

 しかし、城の警備は厳重で中々突破できないでいます。

 そんな城から少し離れたところに国王と結婚して、国を操る財力、権力を持ったソウル家があります。

 もちろん、城の警備は城と比べたら低いけど、それでも中々の練度の兵士がいます。

 どうやったらこの人物は国を手に入れられるでしょうか?」


「へ? ソウル家に真っ向から向かって倒すとかですか?」

「ぶー、負け戦を進んでやる兵士も、兵隊も居ないでしょ?

 実際にやったらどうなるかは分からないけど、少なくとも現実的じゃないわね」


「となると……ソウル家は国の中核に居るとしたら、何時かは城に向かうから、その時を狙う……でしょうか?」

「残念。

 確かに闇討ちの可能性は無いわけじゃないけど、それはあくまで正確な時間、移動ルートを知らないと出来ない芸当だし、突然ソウル家が来ましたって言っても、その準備をしている間に逃げられるわ」


「じゃあ、平民の誰かを誘拐して、おびき出すとかでしょうか?

 そうすれば、出なければソウル家の評判は落ちますし、出れば出た人間を暗殺することは可能ですよね?」

「惜しい。確かに評判を落とせても、暗殺出来ても、国はダメージを負うわ。

 でもそれは、あくまで数日で修復可能な範囲で致命傷にはならないわ。

 それじゃあ、ヒントね。向上することを無視すること前提だけど、国を維持するのに最低限必要なのは、権力でも人望でもなく財力よ」


 財力が国を維持させるのに必要?

 つまり、国を手に入れるには財力を奪うと言うことだから……


「もしかして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「正解! リリーちゃんには花丸をあげましょう」


 そう言って、フレイヤは私に花形のクッキーを私の口にくわえさせた。


「さっきも言ったけど、既にソウル家は国の資金の大半を保有しているわ。

 つまり、ソウル家の没落は国の大半の資金が無くなると言うことと同じなのよ。

 そんなソウル家から財産を奪って、国の維持能力を減らしたうえで戦争をすれば、勝っても負けても国を奪うことは出来るわ。

 だから、ソウル家は定期的に金を払って、資金の独占をしないようにしているのよ。

 実際に、例の婚約パーティーもソウル家が大半を払って、他の貴族に金を回したしね」


 そうか、言われてみればいくら私がレイの婚約者候補と言えど、男爵の私たちタイム家が王族の婚約パーティーに参加できる訳が無い。

 王族の婚約パーティーで、場所も広かったからそんなに不思議でもなかったが、血税が使われている以上は、行けても準侯爵が上限だろう。

 そんな私たちタイム家が婚約パーティーに参加できたのはソウル家がお金の大半を払って、参加者の人数を多くしたのが理由か。


「そんなソウル家が、王になる人物と結婚すればどうなるか。

 答えは簡単よ。

 権力も財力もあるソウル家からそれらを奪えば国を手に入れられると思う輩が出てくると言うことよ。

 だから、フレイヤには王の継承権がある人物とは結婚して欲しくなかったのよ」

「なるほど」


 公爵夫人の言葉に思わず、私は納得してしまった。

 確かに強さと言うのは場合によっては弱点になり、加えてソウル家の場合、それがそのまま国の弱点になる。

 だから、第二王子のジークが死んで王になることが決まったレイとは結婚して欲しくなかったのは……って。


「すみません。

 それじゃあ、何で第二王子のジーク様とフレイヤは婚約したんですか?

 現状を考えれば、ジーク様は今王の地位に一番近い人物ですよね」


「ああ、それはだね。えーと……」

「簡単よ。ジークは成人すると同時に()()()()()()することが決まっているからよ」

「へ?」


 どういえばいいか悩んでいた公爵を無視するかのように、突然爆発宣言したフレイヤに私は思わず一瞬頭が止まってしまった。


「フレイヤ! それは機密事項だろ!!」

「えー、別に良いじゃん。

 どうせ後々分かることだし、それに今は候補だけど、正直言ってリリーは一度は第一王子の婚約者になったのよ?

 なら、さっさと教えたほうがいいじゃない」

「ひ、婚約者って……」


 確かに一時的にレイとの婚約者になったことはあったけど……


「はぁ、まあ知られてしまったからには仕方ない。

 リリー嬢。すまないが、このことはまだソウル家、ジーク様、王と、王妃にしかまだ知らされていないから、これからのことを含めて王籍離脱のことは他言無用でお願いするよ」

「あ、は、はい」


「それでさっきの話だが、第二王子のジーク様は生まれた瞬間から王籍から離脱することが決まっていたんだ。

 理由は単純で、私たちのケースと似て権力の分散だな。

 王妃様の実家は、主に政治に関わっている侯爵家で、我々ソウル家ほどではないが財力もそれなりにあるんだ。

 もちろん、王妃様が結婚したときはそれほどではなかったが、その後徐々に政治に関わる人物が増えて、今は政治でかなりの力を手に入れている。

 そんな人物の血族であるジーク様が王になった場合、その侯爵家の力が更に強くなり、政治を独占する可能性が出たんだ。

 だから、平民の子である第一王子のレイ様が生まれた瞬間、彼が王になることが決まった。

 しかし、それからしばらくして、貴族で王妃の子である第二王子のジーク様が生まれた」

「でも、ジークが王になると侯爵家が国を支配できかねないほどの権力が手に入る可能性が出たのよ。

 だから、ジークは成人になると同時に王籍から離脱することが決まった。

 でも、そうすると今度は離脱先に迷うことになったのよ。

 平民にする訳にはいかない。でも、逆に変な貴族に嫁がせるわけにもいかない。

 その結果、年が同じでかつ侯爵家で、男児のいないソウル家の私に白羽の矢が立ったのよ」


「なるほど、そういう事だったんですね」


 つまり……


「お二人は、私たちにとってある意味最も信頼できる存在と言うことですね?」

「まあね。それに権力や貴族との繋がり含めて私たち以上に力があるの。

 だから、私は最初からできれば二人とは協力して欲しいと思ってたのよね。

 まあ、それに万が一事件に巻き込まれても家族だからそんなに罪悪感も感じないしね」

「……フレイヤ。それは両親に言うセリフじゃないですよ」

「良いんだ。リリー嬢。もう慣れた」


 そう言いつつも少し頭を抱える公爵と夫人に私はご愁傷さまですと、心の中で手を合わせる。

 しかし、そんな私の心を無視するかのように、机から飛び降りたフレイヤは、大きく伸びをして欠伸をする。


「と、言うわけで、二人にはさっそくお願いしたいことがあるんだけど良い?」

「ああ、良いぞ」

「それじゃあ、二日後に行われるパーティーの会場に私たち二人を連れて行って貰ってもいい?」

「ああ、分かった。

 それじゃあ、馬車の準備をするから、二人も準備をしておいてくれ」

「はい、分かりました。

 ありがとうございます」


 公爵に軽く礼をする私。

 そんな私の頭を軽く撫でた公爵はそのまま部屋を出た。


 そんな公爵を見ながら、私は思わず手が温かかったなと思うのだった。

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