2020大晦日特別編
2020年12月31日-
いつもならば多くのヒーロー達が集まる『定食 英雄亭』だが、その日は入り口に『本日 貸し切り』の札が掛けられていた。
店内には感染症があーだ、密がこーだと騒がしい世の中に反抗するように多くの人々が集まっており、天井には『ジョニー杉本作品忘年会』と書かれた垂れ幕が掲げられていた。
「はい、では僭越ながら・・・」
片手にグラスを持った一人の人物が前に出る。
『怪盗ナイトオウル』シリーズの主人公・怪盗ナイトオウルである。
「・・・2020年、お疲れ様でした!来年も頑張っていきましょう!カンパ~イ!!」
『カンパーイ!!』
ナイトオウルが音頭を取り、ジョニー杉本キャラによる忘年会が和やかに開始されたのだった。
「・・・ハァ~」
和気あいあいとした空気の漂う忘年会にあって、『ヒーローヴァース ~ヒーローが大勢いる世界で日本初のオールスターヒーローチーム『JGH』ができるまで~』の氷山リクは、烏龍茶を飲みながら深いため息を漏らしていた。
「あれ?」
そのリクの様子に気づいたのは、『幻想冒険譚アーベントイアー』のトモノリ・ヨシザワだった。
「リク君、どうしたのさ?せっかくの忘年会なのにそんなにしょげたりして?」
「・・・」
トモノリに答える事なく、リクは烏龍茶を啜る。
「いやさぁ~・・・俺んとこの更新、6月以来止まったまんまで年越しちまうからさぁ~。憂鬱っつうか、複雑っつうかさぁ・・・ハァ」
烏龍茶をちびちびと飲みながらリクはため息を漏らしたのだった。
「・・・」
憂鬱気味なリクに対して、トモノリは怪訝な視線を向ける。
「・・・それちょっと贅沢じゃない?確かに更新は止まってるかもしれないけど、その代わり、オリーブドラブ先生の作品にコラボ出演できたじゃない?おあいこじゃないの?」
「いや、確かにそうだけどよぉ・・・『それはそれ、これはこれ』なんだよ。そりゃあ、他の作者さんの作品にコラボ出演できたのは嬉しいけど、やっぱり俺としては、『本編』で活躍したいんだよ、『本編』で」
トモノリの意見に愚痴をこぼしながら、リクは鶏の唐揚げを頬張る。
外はサクッと揚がって、中は肉汁がジュワっと溢れ出す・・・最高に美味い唐揚げだった。
「そりゃあまぁ、オリーブドラブ先生には感謝してるぜ?他の作者のキャラである俺をコラボキャラに選んでくれて、しかもカッコ良く書いてくれたんだからさ・・・」
「・・・だったら愚痴愚痴言う事ないじゃない?僕のとこなんて、更新止まって一年だよ?一年?それに比べたらまだ百倍マシじゃないの」
「そりゃあそうだけど・・・」
リクはまだ少し釈然としない様子で2個目の唐揚げに箸を伸ばし・・・そこへトモノリが小皿を差し出した。
「僕にも一個ちょうだい」
「・・・あいよ」
リクは差し出されたトモノリの小皿に唐揚げを乗せたのだった。
☆☆☆
「いいよねぇ~優助君はさぁ~!ちゃんとお話が進んでさぁ~!!」
「は、ハァ・・・」
一方、同じく『ヒーローヴァース』の出向井文弥は『チャンピオン・オブ・モンスターズ』の芹沢優助に管を巻いていた。
「僕だってさぁー!これでも正義のヒーローなのに、初登場からして凄くカッコ悪くてさぁー!その上、話の更新も止まったまんまだしさぁー!」
「そ、そうだね・・・」
顔を赤くしながら愚痴をこぼす文弥に、優助もたじたじである。
「優助君は良いよねー!ちゃんとお話の更新がされて、しかもなんか優しいお姉さんに助けられて、カッコいいシーンも描写されてさぁー!!僕なんて今のところこれっぽっちもカッコいいシーン無いのにぃ-!!同じ高校生なのになんでこんなに違うのかなー!?」
「は、ハハハ・・・」
もはや、優助は乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「・・・ねぇ文弥君、そのくらいにしときなさいよ」
そこへ『怪盗ナイトオウル』の土方サイミ警視が助け船を出してきた。
「なんですかぁ~土方さん!?あなた、今年デビューした新人の癖に、先輩に意見する気ですかぁ~!?」
相手が年上の、それも警察官だというのに、文弥は臆することなく管を巻きだした。
その顔は赤く染まり、目はトロンとして、口調はなんだか呂律が回っていなかった。
「・・・ハァ」
土方警視は疲れたようなため息を漏らすと・・・文弥の頭に軽くチョップをした。
「あ」
すると、文弥はそのままテーブルにばったりと倒れこんでしまった。
「えっ!?ちょ、ちょっと、文弥君!?大丈夫!?」
突然倒れた文弥に優助は、慌てて文弥の体を揺すったが、文弥は全く反応を返さなかった。
「ひ、土方さんあなた・・・文弥君に何を・・・」
「心配いらないわよ」
慌てふためく優助に対し、土方警視は冷静そのものだった。
「zzz~」
「・・・?」
その時である。
文弥からイビキが聞こえてきたのだ。
見れば、文弥は顔を赤くしながら気持ち良さそうに眠っていたのである。
土方警視は文弥の飲んでいたグラスを持つと、中身の液体の匂いを嗅いで顔をしかめた。
「やっぱり・・・これ、烏龍茶じゃなくてウーロンハイだわ」
「えっ」
「全く・・・未成年が警官がいる場所で飲酒なんてするんじゃないわよ。ま、今回は初犯だから手錠はかけないで上げるわ」
土方警視はそのまま優助と文弥から離れる。
「う~ん、むにゃむにゃ・・・」
「・・・」
優助は酔い潰れて気持ち良さそうに眠っている文弥の横で、静かに料理を食べるのだった。
☆☆☆
「・・・」モグモグ
「ねぇX-4th、少し食べ過ぎじゃない?」
黙々と料理を食べる『X-サイボーグ』のX-4th/アルベルト・エミヤに、同じX-サイボーグの仲間であるX-9th/朱雀キョウジが苦笑いを浮かべる。
「ひはたはいはろう?ほっひはひはらく・・・」
「・・・ゴメン、口の中の物飲み込んでから喋って」
キョウジから注意され、X-4thは口の中の物を無理やり烏龍茶で流し込んだ。
「・・・こっちはX-2ndの葬式と皆の回想が終わるまでしばらく出番が無いからな。食べられる時に食べておかないとな」
「は、ハァ・・・」
黙々と食事を続けるX-4thに、キョウジは苦笑いを浮かべるしかなかった。
☆☆☆
「だからさぁ、人気を取るにはもう少しサービスシーンというか、お色気シーンを入れるべきなんだよ!」
店の一角では各作品の女性陣が固まっており、『チャンピオン・オブ・モンスターズ』の山根 笑子が持論を語っていた。
「ル○ン三世もタ○ムボ○ンも、お色気サービスシーンがあるからこそあんなに人気があるんだしさ!ボク達も読者に向けたサービスシーンをやれば、人気がうなぎ登りなんだよ!」
「そ、そうなのかなぁ?」
「う~ん・・・」
笑子の語る持論に『ヒーローヴァース』の蓬つかさと『アーベントイアー』のアンネ・ド・メリュジューヌは苦笑いを浮かべている。
「言いたい事は分かるんだけど・・・」
「あんまり私達向けじゃないわね」
『X-サイボーグ』のX-3rd/アンリエッタ・アルヌールも同じく苦笑いを浮かべており、『怪盗ナイトオウル』の新命ゆうかも乗り気ではなさそうだった。
「何?不満でもあるのぉー?」
「不満というかなんというか・・・」
つかさは苦笑いを浮かべながら笑子から視線を反らす。
そこへ、アンネとアンリエッタが助け船を出した。
「メタ発言になりますけど、『小説家になろう』のルール的に、あまり露骨な性的描写はちょっと・・・」
「運営さんに目をつけられたら、作者さんのアカウントが削除されちゃうもの」
「ふん、玉無しどもめ!」
「当たり前でしょ?女なんだから」
女性陣は女性陣で、楽しそうであった。
☆☆☆
さて、楽しい忘年会が続く英雄亭に対して、その外では・・・
「ギャオォォォ!」
「グガアァァァ!」
「キュピィ!」
「ガウワァ!」
「ナァ~マァ~」
『タヌキの逆襲』のラクドマル、『チャンピオン・オブ・モンスターズ』のティアマト、リトルファルラ、フェンリル、ナマグラン等の怪獣キャラ達が怪獣用のおでんの鍋を囲んでいたのだ。
『皆さ~ん、そろそろ食べられますよ~』
『ピィ~』
「餅巾着がおすすめじゃぞ~」
怪獣達の足下では、『ヒーローヴァース』のブレイブスターとライトニングバード、『アーベントイアー』の意思持つ帽子のフート爺がいた。
「ギャオォォォ!」
「グガアァァァ!!」
怪獣達は専用の箸を器用に使っておでんを食べ始める。
中々に豪快でシュールな光景だった。
「ふぅ~・・・しかしじゃなぁ」
怪獣達が巨大サイズのおでんを食べる横で、フート爺はため息を漏らした。
「・・・ドでかいサイズのコイツらが店の外にいるのは分かるが・・・なんで普通サイズのわしらまで外なんじゃ?人外差別ではないか?」
『仕方ありませんよ。人外キャラの中で私達だけ会場に入ってたら、それこそ不公平ですもの』
『ピィ!』
「そりゃあお前らは普段から外におるから文句はないかもしれんがなぁ・・・」
未だに納得のいかないフート爺は、ぐちぐちと不満をこぼしたのだった。
そこへ、遠くからゴーン、ゴーンという除夜の鐘の音が聞こえてきた・・・。
いかがでしたでしょうか?
今年も一年、応援ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
では良いお年を。