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灯火を掲げて  作者: ポップなトウモロコシ
1/1

アクマ様



真っ暗な教室の中、浮かび上がるように灯る一点の光。

机の上に置かれたランタンを囲んで、四人の男女が座っていた。



「ホントにやんのかよ。俺はてっきり冗談だと思ってたんだが」


「まあ良いんじゃねぇの、好きにやらせれば」



口々に愚痴を言うのは、青髪の青木 翔(あおき しょう)、茶髪の芥川 輝(あくたがわ かぐや)



「あぁ?良いだろ、ちょっとした前座だよ」



反論を唱えたのは、赤髪の明石 一(あかし はじめ)だ。今回の「こっくりさん擬き」の言い出しっぺだった。

高一の夏休み真っ只中。窓の外から蝉の声が痛いほどに聞こえてくる。

金田は、この蒸し暑さと煩さに負け、普段からつるむ青木と芥川、そして百江 結菜(ももえ ゆいな)の三人を、退屈しのぎに呼び出したのだ。



「前座って?」


「『アクマ様』って言う都市伝説さ。何でも願いを叶えてくれるらしい」


「へえ?ずいぶん張り合いの無え都市伝説だな」


「それだけじゃねえ。」


「なに?」


「『アクマ様』───アレは願いを叶える引き換えに、呼び出したものに試練を課すんだそうだ」


「試練?」


「ああ。内容は俺も知らない───が」


「が?」


「その試練をクリア出来なかった者は、アクマ様を気軽に呼び出した(バツ)を受けるんだそうだ」


「なんだそれ…趣味悪いな…」



青木が顔をしかめた。

明石自身も言伝に聞いただけの話だが、今からやる儀式をすれば、その『アクマ様』とやらを呼び出せるらしい。



「それで、これが前座って事はまだなんかあんのか?」


「この後、肝試しすんだよ」


「え、聞いてないけど」



桃江が、横から驚いた素振りで口を挟む。



「言ってねえもん」


「うっそー…私革靴で来たんだけど」


「そこは抜かり無く。ちゃーんとお前らの分のシューズ持ってきたから。お前らなら制服で来るだろうと思ってたしな」



長い夏休みで暇を持て余していた明石にとって、この突発的な集まりは特別なモノで、それだけに準備も万全だった。



「てか、なんで俺らのサイズ知ってんだよ…」


「そりゃ普段から一緒にいりゃあ、なんとなく分かるだろ」


「そう言うもんかね…」



青木と芥川は顔を見合わせる。

何かと冷めた目線を持つこの二人は、明石とつるんではいるが、基本的に一歩引いて物事を見る癖があった。



「まあとにかく、始めようぜ。どうせすぐに終わるしよ」


「そうだねー。とっととやっちゃおうよ」


「んで?必要なものはあるのか?」


「もちろん。五円玉に五十音表、そして手鏡。必要なのは確かこれだけだ」



明石はリュックからそれらを取りだし、机の上に広げた。

五十音表は手書き、手鏡は姉がかつて使っていた古い物だ。



「それで?まず何をすれば良いんだ」


「んー、ちょっと待ってな…」


「お前、今スマホで調べんのかよ…」


「手際悪いなあ」


「うっせーな、ちょっと待てって」



明石は煩わしそうに顔をしかめて、スマホを凝視し始める。

桃江は先程からずっと、会話そっちのけで窓の外を見つめている。特に話すことが無いときはボーッとしていたい。そんな思考の持ち主である。


待つこと二分ほど。



「よし、わかった。完璧に覚えた」


「嘘つけよ」


「ちょっと言ってみ?」


「ん?なんだよ青木、お前もしかして怖いのか?」


「念のためだよ。」


「へえー、お前こう言うの信じるタイプだったんだな」


「なんだって良いだろ。ほら、早く言ってみろって」


「へいへい…っと」



明石はムードメーカーであり、かつ四人の纏め役でもあるが、あまり信用は無かった。寧ろ青木と芥川が明石の手綱を握る形で四人の制御をしている節がある。



「えーっと…まずは五十音表に五円玉を置いて…」


「五十音表のどこにだ?」


「上の方に手鏡を置いて、その隣に置くんだったな、確か」


「そうか」


「んで次に…そうだ、手鏡を三回閉じるんだったな」


「おう」


「それで、最後にこう唱えるんだ。えーっと…えっと…あ、そうだ、『アクマさまアクマさま、どうぞお越しください。あでのかわしにおてにせて』だな」


「え?お前、今なんて……」



青木が怪訝な表情をした直後だった。



「キャアーーッ!!!」


「!?どうした、モモ!!」


「あ、あれ…!!」



桃江が指差した先───窓の向こう側には、ボウと浮かび上がる一人分のヒトカゲが佇んでいた。



「な………ッッ」


「明石!まだやるなって言っただろうが!!」


「俺はまだやってねえよ!!」


「じゃあなんで───ッッ!?」



絶句する桃江と芥川。

その横で青木が明石に掴み掛かろうとした瞬間、ガラッと大きな音を起てて、教室の窓が開け放たれた。



「ち、畜生……!!」


「逃げるぞ、モモ、アカ!!」



そこに居たのは、黒髪黒眼の少女。明石達と同じ制服に身を包み、しかして無機質なその表情は、その場にいる全員を恐怖に包んだ。

青木が近くの箒を手に取り、芥川が教室のドアに手を掛けた。


しかし。



「────あなた……黒瀬さん……よね?」


「結菜、お前……!?」



桃江だけが、その得たいの知れない相手の名を口にした。

明石は思わず桃江に呼び掛けたが、彼女の目は警戒の色を帯びていなかった。


───コイツは、安全なのか……


明石も桃江のその様子を見て、静かに「黒瀬」に対する警戒を解く。



「黒瀬って……」


「ああ……そう言えば居たな…」



そんな明石の横で、青木と芥川は思い出したかのようにその名を口にしていた。

明石も二人に釣られる様に、その人物像をぼんやりと思い出し始めた。


黒瀬 零(くろせ れい)。黒髪黒眼、身長約150cmの細身の少女。

物静かで、いつも教室の隅で本を読んでいて、誰かと喋っている所を見たことが無い。そんな子だった。



「それで……黒瀬はなんでこんなところに?」


「そ、そう言えばそうだな。お前、何しにここに来たんだ?」


「…………」



明石と青木の質問に対し、黒瀬は俯いて沈黙で返答した。

桃江を除く三人が、沈黙を前にゴクリと唾を飲んだ。



「…………」


「おい、聞いてんのか?」


「寄せ明石、お前は語調が強い」


「なんだよそれ、俺は別にそんな意味で───」


「ねえ黒瀬さん、何か用事が有って来たの?探し物?」


「……これを…」


「ん?なんだそりゃ?ノートか?」



黒瀬が差し出したのは、青い表紙のルーズリーフだった。



「何が書いてあるんだ?」


「人の勝手に見ちゃ悪いよ」


「あぁそっか、悪い悪い」



中身を覗こうとする明石と、それを制止する桃江。

明石は謝りながら黒瀬の方を確認する。



「…ううん…別に、良いよ…」



黒瀬は特に意に介した様子も無く、緩やかに首を降った。

それにホッとする明石だが、やはり彼女の出現には引っ掛かる部分があった。

何せこの集まりは明石が突発的に起こしたモノであり、示し合わせでもしない限り、黒瀬がエンカウントする確率は限りなく低い筈。

しかも黒瀬が来た理由は「ノートの回収」。今は夏休み半ば、8/11日。黒瀬はもっと早く来ていてもおかしく無いのだ。



「……まあ、今は良いか」


「ん?どうした」


「いや、なんでもねえよ。それよりアレの続きしようぜ」



細かい事は後にして、本題に戻ろう───



「あー……もう良くね?肝試し行こうぜ」


「は!?」


「そうだね~。黒瀬さんの登場で、みんな驚いてたし」


「おいおい……マジで言ってんのかよ…」



──まさかの、青木と桃江の唐突な裏切り。

出鼻を挫きに挫きまくられた明石は、それはそれは意気消沈した。膝をガクッと折り、地面に両手を突く。

しかし、そんな様子の明石に、ポンと手を置く者が居た。



「なんだよ芥が…ってうおぉぉっ!?」


「…………」



肩越しにその顔を見た明石は、思わず飛び退いた。その手は芥川でも青木でもなく、先ほど会ったばかりの黒瀬のものだったからだ。



「……あ、あー、えっと……ありがとう?」


「……もう、完成してる」


「え?何が」


「アクマさまが」


「え?え?ちょっ……今、なんて?」



黒瀬の口から飛び出た単語。

ついさっき、明石も口にした単語。

今会ったばかりの黒瀬には、知る由も無い単語。


名も無き、畏怖すべき存在の名前。


なぜ、彼女が。

その名を知っているのか。

何が完成したのか。



「完成してる。───さまの儀式が」


「な……それ、どういう……」



聞き間違えではなかった。

彼女の口からは、やはり「───さま」の名前が出た。

そして、「儀式」と聞いて思い当たる節は一つしか無い。



「……まさか───」



いや、そんな筈は無い。

()()()()()、非現実的でありえない。


分かってる。この想像はあくまで幻想。

アクマ様なんて存在しない。じゃなきゃ……そうでなきゃ……



「おい……明石、アレ……」


「……ウソ、でしょ…」



そうでなきゃ…………()()()()()()を───



「おい黒瀬…なんだありゃ…」



あの()()()()を、説明できる筈が無い……



「アレはあなたが呼び出した存在───」


「な……に……」



赤黒い筋肉の塊に、そこから伸びる六本の触腕。

そしてその先に三本の爪が生え、突き立てられた壁や床は深い爪痕が刻まれる。



「───アクマ様」



その形容しがたい外見。

名状しがたい存在。



「それが、奴の名前」



いつの間にか居たソレは、その目の無い眼で、明石達を静かに見据えていた。







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