プロローグ
電球は、闇を照らしてくれる光。
夜、一人だと思っていても電球はあなたと共にいます。
そんな彼らと恋をする
そんなお話
プロローグ
なにか懐かしい声が聞こえたような気がする。
どうやら私は眠っているらしい、まぶたを閉じて目の裏の暗闇を見ていた。
懐かしい声の主を確認すべく、私はけだるいやけに思いまぶたを開けた。
だけど目を開けた先は予想した明るさではなくまた暗闇が続いていた。
厳密に言うと暗いけど、私の手ははっきりと確認できる現実ではありえない世界だ。
「…ここ、どこだろう。」
この暗い場所…黒い世界で私は眠っていたようだ。
遠くを見つめても、黒ばかり続く世界。
普通ならば恐怖を感じるところであるが、私は子供の頃たくさん遊んだ公園を久しぶりに見に来たような、とても懐かしい穏やかな気分だった。
「…いい天気だ。もう少し寝ても大丈夫だよね。」
私の体しか確認できない黒の世界に、天気もクソもないのだけれど。そう言って眠らなければこの黒い世界に飲み込まれてしまいそうだったから。
「おい、いつまで寝てる気だ?牧野はな。」
どこからか男の人の声がした。
眠いのでそのまま眠り続けることにした。
「…は~な~。オレの声きこえてるよな?」
怒りを含んだ声色に変わる。
目を閉じていてもわかる。この人絶対今笑いながら怒ってる。
後が怖そうなのでしょうがなく私は目をあけることにした。
「最初から素直に起きろよ。まったく…はなのそういうとこ昔から変わらないよな。」
イケメンの顔が、寝ている私の真上からのぞきこんでいた。
その男の人は浮世離れした執事服をすらりを着こなし、どこで売っているのか分からない奇妙なシルクハットをオシャレにかぶっていた。
帽子には百合の花が咲いており、日にちが記入された紙が安全ピンでとめられていた。
そんな、浮世離れした服に身を包んだ彼の瞳は、友と再開したような暖かい目を私に向けていた。
だが寝る。
ちょっと!!はな?!と焦る声が頭上からきこえるが、知らない人の呼びかけには反応しちゃいけないって誰かが言ってたし。
「オレの担当するアリスは二度寝する寝ぎたない娘に育ってしまったのか~お兄ちゃんは悲しいぞ!はなー!」
「…あの、どうして私の名前を知っているんですか?」
私は、仰向けに寝ていた体を起こし、黒の世界で謎のイケメンに話しかける。
私はこの人と初対面だ。
そんな温かい目で見られる覚えはなかったし、寝ぎたないなんて言われる筋合いもなかった。
「は?」
「え?」
先ほどの暖かい目は消え去り、大きく見開かれ「うそだろ」とショックを伝えてきている。
…そんな目をされても、覚えていないものは覚えてない。
「マジかよ…オレのこと忘れちまったの?昔はあんなに忘れないとか、将来お兄ちゃんのお嫁さんになるとかいってたのに!!ひっでー!!」
「…いや、初対面ですけど、たぶん、お嫁さんになるとは言ってないと思いますよ。」
「オレの細かく刻んでチャーハンに入れた嘘を見破りやがった!!まるで、にんじん嫌いの子供のごとく、目ざとくにんじん発見しやがる!!」
何言ってんだ。この人…。
「…ひっでーやつなので、名前も覚えてないんですが、名前をきいても?」
「…おれぇ?オレは…そうだな…ぼうし屋ってことでいいよ。はなに自力で思いだしてもらわないと意味ないし。」
「は…はぁそうですか。」
やっぱりこの人の中では私と昔会ってるみたいだ…。こんなイケメンに会ってたらそうそう忘れないと思うんだけどな。
相当落ち込んでいるみたいで、首が横にだらーんと傾いている。そんなことをしても、帽子は落ちない。深くかぶっていないはずなのにどうなってるんだあの帽子。
そんな風に身に覚えのない罪悪感から逃避していたところ、
「違う!」
「何がです?」
もうこれ以上わけの分からないことを言わないといいなぁ。
「今日は、はなに伝えに来たんだ。」
「お知らせ?!…ですか」
「きっと はなが昔から望んでいたことだ。ようやくこの時が来たといったところか。」
「昔から望んでいたこと?」
「そう、大きな変化がおこるぞ。」
大きな変化…その言葉の響きに何故か私は恐怖した。
「変わるのこわい…もしまた失敗したら。また、私の世界が壊れてしまったら!」
「大丈夫だ」
おびえた子供を安心させるかのような、愛情深い声でぼうし屋さんは言った。
「大丈夫、オレは見守ってるから、安心して羽ばたいてきな。いいな。」
頭を優しくなでられた。
とても心地いい…。
ぼうし屋さんが私の頭をなでるたびに、その浮世離れした服のすそから懐かしい香りがこちらの鼻をかすめる。
私は他人には弱いところをみせない、なぜなら弱いところを見せるのはとても危険だから。でもこの人に弱みを見せても決して攻撃してこないと確信している自分がいる。
「ほら!もう大丈夫だな!!それより、はやく起きないと乗り過ごすぞ!」
しばらく、私が落ち着くまで頭をなでていたぼうし屋さんは、急に学校に行く妹を起こす兄のような口調になり、先ほどから頭をなでていた距離からさらに近く距離を縮めてきた。
な…なんだろう…嫌な予感しかしないのだけれど。
先ほどの安心の気持ちとは打って変わって、危険を感じ背中に嫌な汗が流れる。
「な…何言ってるんですか?私もう起きてるじゃないですか!」
「いいや、アリスはまだ寝てるさ!だってここで起きてオレと会話しているのだからね。」
意味がわからない。
「はな!動くな」
そう言った声の主の手は、現在私の頭の上ではなく、顔面を鷲掴みしている。
私、男性に顔を鷲掴みされたのなんてはじめてだよ。
「いや!絶対何か痛いことがおこる…ような気がする」
先ほどから危機しか感じていない私は暴れる。
「ちょ!あばれるな!!タイミングがはかれないだろ」
なんのタイミングだ!!
「大丈夫。痛いのは一瞬だ」
「注射する時みたいな言い方やめて!!!」
この兄きどりのぼうし屋さんは、イカレタほうの帽子屋だったみたいだ。
「おっし!今だ!!」
私の抵抗もむなしく、ぼうし屋さんは私の顔面を鷲掴みしていたその手を、あろうことか地面に叩きつけた。
ゴン。
鈍い音が、自分の後頭部から聞こえる。
これ、頭蓋骨われたわ。やっぱりこの人イカレてたんだ…。と頭部に痛みをじんじん感じながら、私は今日3度目の眠りについた。
ガタン ガタン キキキー
金属のこすれる音がみみにつく。
「次の停車は、三鷹三鷹~。お降りのさいは足下にお気をつけのうえ…」
私は頭部に痛みを感じながら目を覚ました。
「ーっ痛い。」
じんじんと後頭部が痛んだ。どうやら私は電車内で寝ていて先ほどの電車進路の曲がりで大きく揺れ、重力にしたがい私の頭は後ろの窓に勢いよくあたってしまったらしい。
そして、その音の大きさは驚きと心配そうに見つめる乗客の目でなんとなく察しがついた。
は…はずかしい…。
羞恥に床に目線を落としながら、座り直していると疑問が浮かぶ。
「なんで私電車なんかに…あ、そうか。」
私はこの春から進学のために田舎から東京にでてきた女子高生(仮)だった!
今は学校が春休み。
寮へ引っ越しや新しい環境に慣れるために、少しはやめに引っ越ししようって事で寮に向かって電車に乗ってるんだった。
昨日はドキドキして眠れなかったのと、ようやく電車の座席に座れた心地よさで居眠りしちゃったみたい。
「ん?…今、三鷹って言わなかった?」
電車の窓からみた景色がだんだん遅くなっていく。
「まもなく三鷹、三鷹お出口は…」
「あ…危なかった~。あとちょっと起きるのが遅かったら、確実に乗り過ごしてたよ。乗り過ごさなかったのは、私の第六感がさえていたおかげね!」
じんじんする後頭部をなでながら、新しい生活に胸を躍らせた。
私はこれから東京で寮生活をして、女子高生になります!!!!