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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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アウェイ

 華は、壇上からユリウスを見下ろしている。


 彼は今のところ、決して自分の意見を華に押し付けず、控えめにしている。


 やりにくい相手だ。いつまでそうしてくれているだろう?でも、どこかで強く主張してくるだろうことは予想できる。何かしら自分にとって必要なポイントを曲げることなく。そう華は思った。


 彼には何かしら、信念、使命感といったようなものがあると思われた。そうでなければ、こんなところまでわざわざ足を運ばない。


 涼しい顔をしている相手を前に、腹の探りあいをするのは骨が折れる。どこを決着点にするか、何をもって自分の勝利条件とするか、難しい。相手は総主教。自分のような小娘が正面からぶつかっていって、簡単に勝てる相手とは思えない。


 そこでふと、華は考えた。ユリウスも、似たようなことを考えているのかもしれない。


 彼もまた、華のことを手探りで探っているのだ。彼は彼で、やりにくいと思っているに違いない。何しろ華の契約者は、魔物や幻獣の主ともいうべき存在。見かけは人化しているが、人ではない。人の理が通用しない相手だ。


 華はユリウスが、ゾルタンに厳しく何かを言い渡していた場面を覚えている。あの時は言葉がわからなかったから、何を話していたのかはわからない。しかし、仮にも領主であるゾルタン相手に叱りつけていた。だから、ユリウスが決して大人しいタイプではないことはわかる。


 だいたい彼は、養子先の奥方にカーデュエルの森で幻獣を得てこいと言われて、それをやってのけた人間だ。魔物の森に行けと言われて、怖気づいて逃亡したり、死んでしまうこともなかった。彼なりに何か勝算でもあったのか、奥方に念書を書かせてから出かけるような、そんなしたたかさを持つ男だ。


 そういう人だからこそ、カーデュエルに乗り込んできた。出るべき所は、強く出てくるはずだ。今は多分、子供が騒ぎを起こしたせいで、本来言いたかったことを言えないでいるだけ…。


 小憎らしいほどさらさらと肩を流れる白銀の髪。紫水晶のような目。


 華が若い女の子らしく、浮ついたところがある人間だったら、ユリウスは優しい言葉をかけるだけでよかった。あるいは、ここカーデュエルで、厄介者のような存在になっているのであれば、手を差し伸べ、ここよりよい生活、環境を用意できると言うだけで、ここから連れだせた。


 しかし、華はここにいて、ちっとも困っていない。おまけに複雑な家庭だったせいか、イケメンには心をひかれるよりも先に、顔をしかめて身構えてしまう。


 ユリウス側からしたら、どうしてこんなことになっているのか、と言いたいだろう。華は、本来つくはずの後見役よりも、ここでずっと手厚く大事に守られてさえいる。その暮らしぶりも、決して悪くない。『はじまりの王』の為に用意されたものを使用しているため、ドラクール領にいる時よりよほど豪勢といえる。そういったことで華を釣り上げたり、説得することはユリウスにはできない。


 それでなくとも、ここでの人間関係は良好そうに見えたであろう。そういう意味では、子供が騒ぎたてたことも、華にとって相手に対するよい牽制材料になった。ここには、毒や暗殺といった物騒な危険もまるでない。むしろ周囲は過保護なくらい華を守っており、ユリウスがここで華の機嫌を損ねたら、間違いなく追い出される。それどころか、消されるかもしれない。


 ふむふむ、相手の立場になって考えてみれば、あちらのほうが自分よりもずっとやり難いじゃないか。完全アウェイなわけだし…。ユリウスからしたら、新たな魔境王が召喚されて以来ずっと、誤算続きなのだ。


 そこまで考えたところで華は、相手がこれから持って来るであろう問題を、とりあえず放り投げておくことにした。ユリウスから踏み込んでこない限り、こちらからは一切、聞かない。あちらの都合など、知ったことではない。そう、知ったことじゃないのだ。


 そう結論づけると、華の切り替えは早い。そこで早速、さっきから一番気になっている案件、子供の薬草採取に関わる問題に取り掛かることにした。これは、華が誘拐されそうだったこともあるが、自分が世話になっているカーデュエル全体にも関係することだ。


 華はユリウスを無視し、ナーガラージャの方を向く。


「ナーガは病気の親の為に、森に薬草を採りにきた子供を助けてあげたかったんだよね。」


「む、そうだ。だが、ずいぶん昔ことだ。幼く儚い者が、森の危険を承知で薬草を採りにきたのだ。我は哀れと思った。だから許した。」


「そうだね。病気の親御さんの為に、一生懸命頑張っている子供なら応援したくなるよね。でも、ナーガのその優しい気持ちが踏みにじられているとしたら、どうする?」


「む、さっきの話だな。」


 華は頷く。一番に確かめなくてはならないことは、この土地の主であるナーガラージャがどうしたいかだ。華はまず、そのことを確認することにした。


「今、森に入ってくる子供は、ほとんどお金を稼ぐために薬草採りをしているみたいだね。そのおかげで、村は現金収入があって潤っているみたいだし。でも、それだけでなく、森に子供が自由に出入りできることを知った悪い奴が、子供を王都で誘拐しているみたい。集めた子供を奴隷のように使って森で薬草を採らせ、荒稼ぎしているんだと思う。つまり、ここの薬草は彼らにとって、かなり宝の山みたい。しばらくの間、ナーガはずっと眠っていたのでしょう?だから、ナーガにはいちいち子供達の様子をチェックしている暇もなかった。それで、ナーガはどうしたい?ここはナーガの土地だもの。どうしたらいいと思う?」


 ナーガラージャの答えはまっすぐだった。


「我は子供を傷つけたくはない。だが、悪者は懲らしめるべきだ。勝手に我の土地のものを持ち出しておったのだ。我には懲らしめる権利がある。」


「私もそう思う。悪いやつは捕まえて、罪をつぐなわさせるべきだと思うし、働かされていた子供は元の場所にもどしてあげるか、身寄りがないなら孤児院とか、そういうところで保護してもらったほうがいいと思う。」


「うむ。では、懲らしめにいくか。」


 ナーガラージャが自信満々の表情で言うので、華は驚いた。


「え?もしかして、誰がやったかわかるの?」


「わからぬ。だが、我が出て行って、警告ぐらいはできるぞ。我の偉大なる姿を見せれば、相手もきっと改心するかもしれぬ。」


 なんだ、てっきり犯人がわかるかと思ったけれど、違うのか。でも、出て行って警告するって、それってつまり、本来の姿で村の近くに登場し、相手を威嚇するってことだよね…。


「ちょっと待って。それはよくない。」


「む、そうなのか?」


 確かにナーガラージャが出張って行けば、脅しの意味では効果覿面だろう。だが、彼は人間からすると驚異の存在だ。在り方の次元が違う。下手をすると、驚異が脅威に変わりかねない。そうなった時、人が何をしでかすかわからない。最悪、ナーガラージャを敵認定することだってあり得る。そうなってしまったら、人も魔物も傷つくことになる。


 それに、さらった子供を働かせている連中の大元は、きっと別の場所であぐらをかいているに違いない。子供を使い捨てても平気な連中だ。そのような人間が、簡単に宝の山を逃すわけがない。子供が傷つこうがおかまいなしで、森に侵入させることをやめるとは思えない。


「いっそのこと、鎖国をしてしまったらどうかな?」






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