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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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招待

「む、華はそれでいいのか?あれは、華に酷いことをした連中の仲間ではないのか?」


 ああ、そう思ったから来たことも知らせず、追い出そうとしていたのか。


 ナーガラージャは、華が死にかけていた時に記憶を覗き、華の身に起こったことを全て知っている。だから、総主教と一度顔を合わせていることを知っていたのだ。その頃の華は、言葉が理解できない上に混乱していて、周囲の人は全て、わけのわからない理不尽なあちら側だった。だから、そんな気持ちが彼に伝わっていたのだろう。


「心配かけてごめん、ナーガ。でもね、そんな風に隠したりしなくても大丈夫だよ。会いたくなかったら、はっきり嫌だって言うから。」


 ナーガラージャは、少し気まずそうにぽつりと応えた。


「うむ。我も隠していて、すまなかった。」


 華は、ことさら明るい声を出した。


「私、教会でクリシュナに助けてもらった。その契約者である総主教が、どんな人なのか私はよく知らない。敵か味方かもわからない。だからこそ、一度会って話をしたほうがいいと思う。総主教は、人の世界での権力者だから、味方になってくれるのなら、それにこしたことはないでしょ?私、あのクリシュナが、嫌な人と契約するとは思えないんだよ。ナーガラージャが大雪を降らせるだけで、その人に魔物達をけしかけなかったのは、クリシュナがいたからでしょ?本気で相手を排除しようと思ったら、ナーガはいくらでもやれるもの。」


「む、我は…。」


「それに、私も知りたいことがいっぱいあるし、わざわざ向こうから出向いてくれたのなら、ちょうどいい機会かもしれない。だってここは、ナーガラージャの土地だから、私には味方がいっぱいいる。相手がおかしなことをするようだったら、今度こそ本当に追い出せばいい。」


「わかった。」


 するとナーガラージャは短い返事の後、片手をあげ、割れた雲海をかき分ける仕草をした。彼の腕の一振りで、あれほど周囲を埋め尽くしていたぶ厚い雲が消えて行く。どんよりとした雲の海は、瞬く間に消え失せ、代わりに地面を覆う、辺り一面の真っ白な銀世界が光を反射する。一番高い山には雪がないのに、周辺の低い山々には雪があるという、変てこな風景が眼下に広がった。


「準備をはじめるがよい。」


 ナーガラージャの言葉に、ジェイドが動きだす。


 華は、眩しい光に目をすがめ、手でさえぎるようにして言った。


「うーん、眩しい。サングラスが必要かも。」


「む、サングラス?」


 華は、ナーガラージャにサングラスの説明をしながら神殿の中へと戻る。


 その間に、ジェイドが他のシンロクに指示を出し、総主教を迎える準備がはじめられた。この神殿には、たとえこの山の魔物であろうと、許可なく入ることはできない。そのため、ナーガラージャの許しを受けている者の迎えが必要なのだった。


 総主教との面会は、神殿内の美しい大広間、華が勝手に『万華鏡の間』と呼んでいるところで行うことになった。話し合いをするのだから、華は書斎でよいと思っていたのだが、ナーガラージャもジェイドもそれを許さなかった。


「華様は王なのでございます。それに、契約者である主様は、ここカーデュエルの森と山の主。彼らは主様の許しもなく、勝手に森に入り込み、勝手に謁見を求めている者達です。身の程をわきまえさせなくてはなりません。対等に座しての面会など、ありえません。」


 書斎でお茶でも飲みながらと思っていた華に、ジェイドはそう言った。それでなくとも、カノッサの屈辱ばりに雪で閉じ込められていたのだ。相手に対し、厳し過ぎないかと華は思ったが、逆にジェイドから魔物社会のヒエラルヒーをこんこんと説かれるはめになった。


 それだけでなく、ふさわしい権威ある様子でなくてはならない、とわざわざ着替えさせられた。魔法を練習するために動きやすい格好をしていた華は、ジェイドの作ったレースとフリルだらけのゴスロリ服に着替えさせられることになった。


 おまけに、ナーガラージャの金ぴかコレクションの中から、ちびナーガラージャ用に小さく縮小された宝石のついた金の王冠を持ち出してきた。それを頭の上にちょこんと斜めにのせ、リボンを通してヘアバンドのようにしてつけられた。格好だけは、どこかの王女様のようだ。


 スカートを膨らませるために、ギャザーをたくさん寄せたパニエをはかせられ、上に着ているワンピースもレースだらけ。はっきり言って、重い。小さな身体に布の固まりをまとっているのだから、当然といえば当然なのだが、ここまで重いものだとは思っていなかった。お洒落をするには、体力もいるのだな、と華は思い知った。


 広間に整えられた華の席は、祭壇のある、少し高くなったところに設けられた。そこに椅子が二脚きり、おいてある。椅子に座るのは、華とナーガラージャのみ。華の肩の上に、おチビのナーガラージャものる。昨今は、そこがおチビの定位置だ。ジェイドをはじめとしたシンロク達は、後ろに立って控える。


 やってくる側の席は、最初から用意されていない。招かれざる客に出す席はないということだ。一段低くなった所で、相手を立たせたまま話をさせるつもりなのだろう。


 これでは面会ではなく、完全に謁見だよなぁ…。


 親にも見捨てられた貧乏人の小娘が、何の因果か、格好だけはまるで王女様のようだ。それが、王の真似ごとをして偉そうに上座に座り、高い所から見下ろす…。未だかつて背負ったことのない役どころ。華には気の重い席だ。


 でも、と華は思う。なんて恵まれているのだろう。こんなことで頭悩ませているなんて。


 食べさせてもらっているだけで、充分ありがたいのに、皆でよってたかって甘やかしてくれる。過保護すぎるくらい過保護で、怖いくらいだ。今まで華をここまで甘やかして、世話を焼いてくれる人は誰もいなかった。


 おまけに、華のことを思い、ちゃんと忠告もしてくれる。家族って、こんな感じなのかなぁ。華はそんなことも考えてしまう。


 血は繋がっていたはずなのに、父は父たりえず、母は、母でなくなった。家族のはずなのに、家族でなくなった。


 そういえば、これからここにやって来る総主教は孤児院出身だ。早くから才覚を示し、前総主教の養子になった人だ。華が最初に彼を見て感じたのは、美しい男、だった。言葉が全くわからない時だった為、中身がどのような人かはわからなかった。


 だが、その印象だけで相手を見るのは危険だ。高位の者の養子になっただけでなく、幻獣まで得て総主教の座にのぼりつめた男が、ただきれいなだけの男であるはずがない。華は、自分の父のことがあったせいか、きれいな男に対しては警戒心があった。


 少し憂鬱そうな顔をしている華と違い、ナーガラージャの方はゆったりと構えている。そのあたりは、さすがにカーデュエルの主といったところだ。彼が誰かに頭を下げたり、人に仕えてへりくだるような様子は想像できない。かなり世間知らずかもしれないが、まっすぐで裏表がない。


「む、来たな。」


 ナーガラージャがそう言うので、入口のほうを華は見たが、そんな様子はない。


「どこ?」


「神殿の前にいる。今、入って来る。」


 この神殿自体がナーガラージャの懐の中なのだろう。彼には手に取るように気配がわかるようだ。


 彼の言った通り、それから間もなく、入口の扉が開いた。扉が自動で開いたことに驚いたのか、はたまた神殿内の広間にあふれる万華鏡のような光の洪水に驚いたのか、そこに立っている人間は、一度足を止めた。


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