魔法の練習
住む所、食べ物、着替えが確保でき、衣食住が充実した華は、次に魔法の練習を行うことにした。
王のためのブック、『はじまりの王』のブックを持ってこなかった華は、カーデュエルに帰る為に転移の魔法を使って以来、魔法を使ってはいない。
あの時は、ブックを使用しての杖なし、詠唱なしの魔法だった。そういったものがなくても魔法を発動することができることがわかったし、自分が魔法を使えるようになっていることも理解したが、実際、ブックなしで魔法を発動できるかは、まだあやしい。
「皆さまの協力のおかげをもちまして、無事、こちらで生活できるようになりました。ありがとうございます。というわけで、これからのことなのですが、私は、ナーガとジェイドを師匠にして、魔法が使えるよう、学んでいきたいと思います。お願いしてもよろしいでしょうか。」
華が『琥珀の間』と勝手に名付けた食堂で、朝食を食べ終えたところで宣言すると、ジェイドは華の後ろでパチパチ拍手をし、ナーガラージャは首をかしげた。
「華、シショーとはなんだ?」
「師匠?師匠は先生のことだよ。いろんなことを知っている物知りで、他の人に教えてあげられるエライ人のこと。」
「む、そうか。では、我は師匠だな。」
「うん。ご指導、よろしくお願いします。」
そのようなやりとりがあり、現在、三人は外に出てきている。
裁縫スキルのあがったジェイドは、華のためにいつのまにか羽毛の入ったコートを作ってくれていた。一日中、華の側にいて、あれこれ華の世話をしてくれているのに、いったいいつそんな時間があったのか不思議だ。神殿のあるところは高い山の上のため、気温は当然低く、風も強い。外を気軽に散歩できるよう、わざわざ作ってくれたのだった。
それを見たナーガラージャは『そうか、そんなに華は寒さを感じていたのか。』と言って、その場で寒さと風を防ぐ魔法を一時的にかけてくれた。なるほど、そのような魔法もあるのか、と華は感心した。それを覚えれば、暑い時も寒い時も、影響を受けずに活動できる。
おかげで寒さも風も感じなくなったのはよかったのだが、今度はコートを着ていることが暑く感じるようになってしまった。何の羽毛を使っているのかは知らないが、とても暖かくて軽い着心地のコートだった為、動きまわると逆に暑くなってしまうのだ。
そこで華は、さっき着たばかりのコートを脱いで、ジェイドに預けることになってしまった。多少、多少なのだが、ジェイドの顔がひきつっているような気がしないでもない。
空気を読まないナーガラージャは、全く気にした様子もなく、いつも通り、自分は華の為に良いことをしてやった、という表情である。両方の顔をつぶすことなく付き合うのは、とても大変そうだ。
そんなこともありつつ、華の魔法特訓がはじまった。
「うむ、まずは一番簡単なやつからだな。これができれば、他のこともおいおい出来るようになる。それではまず、ここからあちらの方向に向かって、バビューン、と力をこめてみるがよい。」
魔法を教えてやる、と言って最初にナーガラージャに言われた言葉がこれだった。当然のことながら、華には全くこれっぽっちもわかる気がしない説明だ。バビューンって、なんだ?
「主様、バビューン、では華様にはわからないですよ。もっとわかりやすく教えてさしあげないと。」
華が首をかしげていたせいだろう。ナーガラージャに向かって言いにくいことを、ジェイドが代わりにズバリ、言ってくれた。
「む、バビューン、はバビューン、なのだ。」
「ですからその、バビューン、が何かわからないと言っているのです。」
二人は華をそっちのけで、言い争いはじめた。
華は、そっと二人の側を離れ、考えた。ナーガラージャの言う、バビューン、という感覚が何かはわからない。けれど、教会でクリシュナに会った時も、似たようなことを言っていた。手を出して、ドバッと、とか何とか。
そこで華は、身体の前に両手を突き出してみた。目の前に広がるのは、見渡す限りの雲海だ。今日は天気が悪いのか、下界の様子は一面、厚い雲にさえぎられて見えない。なんだか仙人にでもなった気分だ。
あっちに向かって、ドバッ、とね。身体の中をナーガラージャの魔力が通っているのは、わかってるんだから、ブックを使った時みたいにすれば、できるはずだ。
ええと、ドバッ、と?
ズバババババババーーーーーーーーーッ!!!!
突然、凄まじい勢いでレーザービームのように眩しい光が華の両手から発射された。その光は太い丸太ほどの太さのまま、一直線に目の前の雲海に向かって一線を引き、モーゼが海を割ったように雲を割り、下界の様子を華の目に映す。
え…。
え……。
え………?
えええええ~~~~~~~!!?
華は、油をさし忘れた上に、壊れてしまったロボットのようにカクカクとした動きで、口をぽかんと開けたまま、後ろを振り向く。
「よしよし、上手にできたな。これならば、華に害を加えた連中も、こらしめることができるな。うむ。」
「さすが華様、お上手です。」
背後でナーガラージャが満足そうな声を出し、ジェイドが拍手していた。
え、何言ってるの?
ま、まずい。これ、絶対、やばい。
できる。うん、確かに、できた。できたけど、やばい。
やばいでしょ、これは。
やっつけたい人だけでなく、世界も滅びそうだよね、コレ。あれだよ、最終兵器的何かなやつだよ。もし、この力に溺れ、思うままにふるったなら、ナーガラージャが言う通り、復讐だってできる。でも、ちょっと一発放っただけで、この世界が終ってしまうようでは困る。これじゃ、一方的なジェノサイドだ。
「うむ、やはり、シショーがよいから、華の覚えもよいのだ。うむ。」
だめだ、師匠の教え方がおおざっぱすぎて、力の加減がよくわからない。一体どうやったら、もっと小さな攻撃ができるんだ。いや、攻撃目的でやろうとしているわけじゃないけど。
確かに、運動神経のよくない華は、大きな力を放ったほうが当たる確率は上がるかもしれない。けれども、それでは関係ないものを巻き込んだり傷つけたりする恐れがある。それではだめだ。
もっと繊細にコントロールしないといけない。正確に的に当てるようにイメージして。そんな方法を自分で考えよう。それができないと、他の魔法も使えそうにない。ナーガラージャも、これが一番簡単なものだと言っていた。このままずっと、バーン、とかドーンとかやってたら、とてもじゃないが、華は駆逐される側になってしまいそうだ。冗談じゃない。
確かに、やられたことはやり返してやりたいとは思う。やられっ放しでいいとも思わない。けれど、相手の命まで奪いたいわけではない。周囲に二度とそんな気を起こさせないような力や、自分や大切な人の安全を守るための力は欲しいとは思う。それだけだ。
もともとこの力は、自分のものじゃない。無限龍、ナーガラージャのものだ。華は契約し、彼に守られ、その力を使うことを許されているだけだ。それがなければ華は、ただの魔力を全く持たない弱い生き物なのだ。小賢しい知恵を持っているだけがせいぜいの、ただの子供にすぎない。
華は、割れた雲海を見つめる。
下界は、どういうわけか一面真っ白、銀世界だ。いつのまに、森や山に雪が降ったのだろう?季節は冬だったのだろうか?ついこの間、華が森に捨てられた時には、そんな気配は全く感じなかった。ここに日本のような四季があるのかどうか、華は気になった。
「ねえ、雪が積もっているみたいなんだけど、いつのまにこんな風になったの?」
「!!!」
ん、あれ?ナーガラージャの様子がおかしい。今、明らかに目をそらした。おまけに、あさっての方向を見ている。わかりやすいぐらい挙動不審な人になっている。いったいどういうこと?




