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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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針と魔法

 あれからジェイドが糸もどきをどこからか入手してくれて、華とジェイドは着替えを作りはじめた。孤児院で着ていた服は見本にするため、ジェイドが魔法で洗って乾かし、広げて研究されている。


 当座の着替えとして、華はシンロクの着ている着物風の上着を着て、腰のところを紐でくくってすごしている。上着なので、華が着ると少し短いワンピースくらいの丈になる。大人用のサイズなので、肩上げをしたり、袖丈もギャザーを寄せて調節した。間に合わせの着替えではあったが、さすがに孤児院のものと違って生地がよい。絹のようにすべすべしていて、なかなか快適だ。


 快適…、なのだが。なぜかこの衣装、いつのまにか襟元にレースが半襟のようにはさみこまれた状態で華に着つけられ、和ロリ風になっている。ジェイドの仕業だ。


 先ほど華は見た。目にもとまらぬ早業で、ジェイドが王の衣装についていたレース飾りを手で引きちぎっていたのを。だが、どうもあれは、力任せにやっているわけではなさそうだ。魔法を使っているのだろう。それもそうだ。鋏も使わずこんなにきれいに外せるわけがない。


 靴は、ナーガラージャがサイズを小さくする魔法をかけてくれた。歩くとカポカポいう穴の開いたブーツは、すでにはいていない。王の為に作られた柔らかい革の室内履きをはいている。ブーツも同じように小さくしてもらった。


 この、小さくする魔法で、衣類も同じように小さくできないのかと思ったが、彼にとって布は、柔らかくてとてもやりにくいのだそうだ。今までそういうことをしたことがなく、ある程度固さがあるものは加工しやすいが、柔らかで崩れそうなものを加工するのは大変らしい。試しに少しやってみてもらったところ、左右がそろわなかったり、線が曲がったり、布が破れたりで、散々だった。繊細な魔法を使うには、かなり練習が必要そうだ。


 でも、全くできないわけではないということがわかった。ここには、とても美しい衣装がたくさん秘蔵されている。華は魔法が使えるようになったら、そういった物を加工することにも挑戦したな、と密かに思った。


 着替えを作っている間、ナーガラージャは暇そうだった。暇ならば、別のことをすればいいようなものなのだが、華とジェイドのやっていることがとても気になるらしく、側を離れようとしない。手を出そうとして、思い切りジェイドに手を打ち払われたりしていた。


「む、そなた、主に向かって何をする。そなたは我の眷族であろうが。」


 彼が抗議すると、ジェイドはにっこり笑ってこう切り返してきた。


「何をおっしゃいます。私は今、華様の専属使用人です。だから、私の主人は華様でございますよ。そのようにしてくださったのは、主様ではありませんか。」


「むぅ。」


 そんな風に言われてしまったら、彼には何も言えない。邪険にされてはいたが、ナーガラージャが暇にあかして華達の運針の様子を研究し、針を動かす魔法を編み出すと、ジェイドは手のひらを返したように、彼を誉めたたえたはじめた。


「さすが主様です。このような魔法を生み出すとは。なんて素敵なのでしょう。これで、華様の衣装作りが楽になります。これからもこの調子で、どんどん華様の役に立ってくださいね。」


「うむ、まかせておくがよい。」


 え、それでいいの?


 そう華は思ったが、ジェイドはうれしそうだし、ナーガラージャも満足そうにしているので、指摘はしなかった。ジェイドは元々、華を助ける為に、百年眠っていた彼を叩き起こした上、寝起きで不機嫌な彼に、森で拾ってきたコイン一枚で彼を働かせた、いわばツワモノである。ナーガラージャとの間に眷族としての主従関係があるとはいえ、口でジェイドに勝てるわけがない。華にとっては誠に頼れるお姉様だ。


 針を魔法で操るという、ナーガラージャの編み出した魔法には、とても助けられた。家事は、必要に迫られてやってはいたが、華は裁縫に慣れているわけではない。ミシンのように縫えるようになった針は、本当にありがたい。とはいうものの、華にまだ魔法らしい魔法は使えない。その魔法を使うのは、もっぱらジェイドだ。


「我の鱗で作った針であるせいか、我の魔法で動かしやすいのだ。」


 ナーガラージャはそう説明してくれた。なるほど、親和性があるということか。ということは、王都に飛ばされた時、あんなに簡単に結界が壊れてしまったのは、そのせいだったのかも、と華は思った。


 ジェイドが、魔法でスイスイ針を動かしていくのを見ながら、華は孤児院にいたケイトの話を思い出していた。エミル領の職人が、魔法で刺繍をするという話のことだ。同じようなやり方をしているかどうかは、話を聞いただけなのでわからない。聞いた時はまさかと思ったが、こんな風に魔法を使うのなら、あり得ない話ではないな、と思える。


 そんなこんなで、華は無事、お着替え一式の衣装持ちになった。ナーガラージャの開発した魔法だったが、ジェイドはそれをすぐに会得してしまったので、当初の予想よりもずっと早く、着替えが用意できたのだ。素材は間違いなく最高級品。簡単な形でも、良いものに仕上がった。この世界の流行とはかけ離れているかもしれないが、それで華は充分満足していた。


 ところが、華がはじめたことは、それでおさまらなかった。


「良い衣装が用意できて、良かったです。これからは、私が衣装を作らせていただきますね。」


 意外だったのは、ジェイドがすっかり衣装作りにはまってしまったことだった。華は、着替えられるものがあるのなら、それでいい、といった感じで適当に作りはじめたのだが、ジェイドは違った。これからは自分でなんとかしようと思っていたのだが、ジェイドがやる気を見せたので、全てまかせることにした。


 ジェイドは、華が孤児院から着てきたワンピースの形を研究し、新たに似た形のワンピースを作りはじめた。出来上がってきたものを見せられ、華は愕然とする。


 それは、王の為に作られた服を解体して作り直したものだったのだが、全く違う仕上がりになっていた。元の刺繍を上手く綺麗に見せるように布を裁断し、新たに別の服から外したレースまで足された、それはもう、豪華なお嬢様仕様のワンピースになっていたのだ。


「もっとレースが必要ですわね。今度、主様にレースを作るための魔法を作ってもらいましょう。あの方、暇ですから、華様のためならいくらでも作ってくれるはずです。ホホ、私、様々な糸を集めましたの。これから、色もつけるのですよ。それを使って、華様の為にレースが沢山ついた衣装をご用意いたしますね。」


 それは、何というゴスロリですか…。


 オホホホ、という上品なジェイドの笑い声を聞きながら、そうつっこみたくなるほど、ジェイドの腕はどんどん上がっていく。魔物って何?幻獣って何?と問いたくなるほどの器用さだ。どうしてこうなった…。


 針仕事をしながら、王都の人が着ている制服や服装の違いを話したのがいけなかったのか。貴族のドレスのことや、お城で働いていた人のこと、持ち物の話を詳しく説明させられたのは、この時のためだったのか。


 しばらくすると、いつのまにかジェイドの衣装が、どこぞのお屋敷のメイドさん風になっていた。すでに一人だけ、他のシンロク達と一線を画している。なぜだ…。



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