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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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山の上

 ジェイドに給仕されながら朝食を食べると、華はさっそく神殿内を探検することにした。どこにどのような場所があるか把握し、建物内を転移で移動できるよう、練習するつもりだ。


 幸い、ナーガラージャには、どの部屋に入ってもかまわないし、あるものをどのように使ってもいいと言われている。食べることに関しては、何の心配もいらないことがすでにわかっている。あとは、着替えや使用する部屋を充実させたい。贅沢をするつもりはないが、華は孤児院でもらったワンピースとエプロン以外の衣服を持っていないため、何か代用できるものを見つけなければならなかった。


「さて、どこから見ればいいかな?」


 建物内を探検するのだ。食堂も寝室も、内装は素晴らしかった。きっと他の場所も凝った作りをしているに違いない。華は、わくわくしていた。


「む、では表のほうから見るか。」


 ナーガラージャは華の返事も聞かぬまま、いつのまにか魔法を使っていた。気がついたら華達三人は、すでに外だった。ナーガラージャが転移の魔法を使ったのだ。


「ナーガ、魔法を使うなら一言断ってから、に、して…。」


 文句を言うつもりだった華の言葉は、途中で途切れた。言葉にならなかった。華の目の前には、絶景が広がっていたのだ。


 そこは、高い山のてっぺんだった。華がいる山の周辺ぐるりにも、高さのある山は、うねうねと連なっていた。が、ここは特別だった。一つだけ図抜けて際立った高さと、特徴的な形を持っていた。


 例えるなら、とんがり山。


 子供が一筆で山の絵を描けば、きっとこんな形になるであろう、極端なフォルム。人が簡単に登れるような山ではない。少し行った先は、断崖絶壁になっている。


 無限龍であるナーガラージャや、鹿に似たシンロクのようなものでなくては、ここに出入りすることはできない。この場所にたどり着けるものは、力強い翼を持つものか、頑強な脚力を持つものに限られる。華は、あまり他の魔物をここで見ない理由がわかった気がした。


 連なる山脈の周りは、見渡す限り木々の緑が広がっている。そこは、カーデュエルの森だ。人が住んでいるような建物は全く見えない。この深い大森林地帯全てが、ナーガラージャの土地であり、魔物達の領域なのだ。


 華は、地道に歩いてナーガラージャの所へ帰ることを最初に放棄していたが、それで正解だと思った。この小さな身体では、この断崖絶壁を登ることはおろか、この山にたどり着けたかどうかもあやしい。


 そんな山の上に、石造りの壮麗な神殿が建っている。山のてっぺんは、はるか雲の上に存在する。その威容は、まさに天空の神殿だ。


 華は驚いた。この神殿が、ここまで大きな建物とは思っていなかったのだ。『はじまりの王』ゲオルギウスが持ってきて置いていった。そう聞いていたので、勝手にただの別荘のようなものを想像していたが、全く違った。規模が違いすぎるのだ。


 しかも、その巨大な神殿が、このような場所に建っている。標高の高い所だけあって、ここは風が強い。絶壁を吹き上げてくる感がある。ピュー、という音が耳を刺すように飛び込んでくるのだ。当然のことながら、寒い。ずっとここにいたら、凍え死にしそうだ。


 迂闊に外に出て、ふらふらしない方がいいかも。風にあおられて、真っ逆様に転落してしまいそうだ、と華は思った。


「ここって、こんなに高い所にあったんだね。建物の中がすごく快適だったから、全然気づかなかった。こんなに寒かったんだね。風の音も、全然聞こえなかったし。」


 華は、冷えてきた身体を少しでも温めるため、自分の身体を抱き締めるようにしながら腕をゴシゴシさする。


「建物内は、我の魔力の内だ。」


 なるほど。それで、この唸るような風の音が聞こえなかったのか。建物内の温度も一定に保たれていたので、寒さも全くといっていいほど、感じることがなかった。ナーガラージャの魔力は、底が知れない。


 神殿は、かなり昔に作られているはずだ。彼の魔力がなければ、ここは、とっくに朽ちていただろう。長い年月と気候の厳しさは、建物を風化させる元だ。


 華はふと、最初にクラーラに転移させられた場所のことを思い出した。あの、打ち捨てられた、遺跡だ。壊れた石の柱がごろごろしており、鳥居のようなものがついた転移陣があった。ここにナーガラージャがいなかったら、あんな風に壊れ、ここも廃墟のようになっていたことだろう。あの場所もまた、『はじまりの王』が作った所なのかもしれない。どうして捨てられてしまったのかはわからないが、そんな気がした。




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